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2部 2章

連携

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「エリンシア!そっち行ったよ!」
「お任せくださいですわ!」


 クオンとレンを掻い潜って、ダイアーウルフが一匹、エリンシアの方へ駆ける。
 灰色の物体がとても素早く動き、みるみるとエリンシアとの距離を縮めていった。
 普通の冒険者であれば、慌ててしまい、相手のスピードに惑わされてしまうところであるが、さすがはエリンシア、見事に素早い動きで迫りくるダイアーウルフに照準を合わせている。
 ………後は、引き金を引くだけでダイアーウルフをしとめられると思ったその時、ダイアーウルフとエリンシアの間に人影が割り込んできた。


「危ない!」


 新しくメンバーに入ったレンである。
 レンはエリンシアを助けようと、その体を使い、ダイアーウルフの牙を止める。
 ダイアーウルフは目の前に入った邪魔な男にその牙を深々と差し込んだ。


「ちょ、レンさん!?」


 深々と牙の刺さった部分から血が流れる。
 普通に考えれば見るからに重症なのだが……。


「俺の血は上手いか、犬畜生……ならこれはデザートだ」


 そう言うと、レンはポケットからスイッチのようなものを取り出し、そのボタンを押した。
 すると、レンの服から無数の刃が飛び出してくる。
 まるでハリネズミのように身を守るための刃とでも言わんばかりの状態へとなった……身は護れてないけど。

 どうやら、あれは身を守るための物ではなく、自分の体にとりついた敵を倒すための武器の様だ……噛みつかれる前に使えばいいのに……。

 無数の刃にその身を貫かれたダイアーウルフは魔石へと姿を変えた。


「ふう、危なかったが無事討伐完了だ」
「無事じゃありませんわよ!!!」


 一仕事終えたと、とてもいい顔で汗を拭いたレンにエリンシアのハリセンが炸裂する。
 彼が昨日、私たちのパーティに入ってから、まだそれほど時間が経っていないが、エリンシアのハリセンが炸裂する光景はすでに見慣れたものである。

 
「何をする」
「何をするはこちらのセリフですわ!いきなり前に飛び出して、危うく魔導銃で撃ってしまうところでしたわよ!」
「そうか」
「そうか……じゃ、ありませんわ!ワタクシちゃんと伝えましたわよね!ワタクシは魔導銃と拳法が使えると!」
「肯定だ、エリンシアは魔導銃と拳を使った戦いが得意だと言った」
「だったらなぜ、ワタクシとダイアーウルフの間に入ったんですの!」
「確かに、君なら問題なくダイアーウルフを倒せたかもしれん、だが、もしもということがある。そのもしもで仲間を失うくらいならスキルで元に戻る俺がダメージを受けたほうが良いと愚策した」
「うぐっ」


 おお、エリンシアが言葉に詰まったよ……いやぁ、レンは良い人なんだよね、基本的に……今の言ってることも間違ってはいないんだけど……、それじゃあ、エリンシアを信用してないことになっちゃうじゃないかなぁ……。っと、ここは一応パーティのリーダーである私がちゃんと言わないとね!


「あのね、レン……」
「レン、君の考えは間違っていない、いや、仲間を思いやる気持ちはとてもいいと思うよ、でも、仲間を信用するということも覚えたほうがいいと思う」


 私が言おうとしたことをクオンが言ってくれる……うん、そうそう。
 まあ、でもレンは私たちのパーティに入ったばっかりでまだ私たちの実力がよくわかってないだろうから、仕方ないのかもね……よし、パーティのリーダーらしくここはフォローをしておこう。


「うん、でも……」
「そうね、でもまぁ、まだ私たちのパーティに入ったばかりで私たちの実力も分からないだろうから、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないけどね……でも、目の前で傷つかれる姿を見るエリンシアの気持ちも考えてあげなさい」


 そうそう……それが言いたかった……ぐすん。


「なるほど……すまない、エリンシア。俺の考えが足らなかったようだ」
「い、いいですわよ……もう……次は気を付けてくださいまし……それよりカモメさんレンさんに回復を」
「あ、うん、了解」
「いや、俺はスキルで自然と治るから回復は必要ない」
「目の前で血をダラダラと流されてはこちらの気が休まりませんの……いいから治してもらいなさいませ」


 超再生のスキルと言っても傷が大きければ治るまでに時間がかかるようで、未だ肩から血が流れ続けているのだ……さすがにこの光景は痛々しい。

 なので私は治癒の魔法をレンに掛けてあげた。


「すまない、手間を掛けた……」
「良いんだよ、これくらい……でも、あんまり無茶な戦い方したら駄目だよ、今回の依頼はダイアーウルフの討伐だけなんだから、無傷で終わらせられるようにならないと」
「了解した……しかし、君たちは強いな……驚かされた」
「あはは、ありがとう……でも、レンだって十分強いよ」


 Bランクのキングを自分がバラバラになりながらとはいえ、レンは倒している。
 少なくともこの街では上位の強さになるだろう。
 その上、超再生のスキルで早々死ぬことはないのだ、私たちの冒険に連れて行って、彼が死んでしまうという可能性はかなり低いと言える。

 

「ところで、ずっと見ていたんだけど、レンは武器は持たないのかい?」


 クオンが私も疑問に思っていたことを口にする。
 確かに彼は自爆用の爆弾とか服に仕込んだ色々なもので戦っているのだが、メインの武器と言える物がないように思えた……。


「否定だ、俺は武器を持っている、爆弾に始まり、この服全てが俺の武器だ」


 いや、まあ、そう答えるよね。


「確かにその服の仕掛けや、爆弾には驚かされるけど、何も自分が傷つくのを前提にしなくてもいいんじゃないかな?」
「どういうことだ?」
「簡単に言えば、貴方は自分のスキルに頼りすぎているということよ」
「む……?」
「解りませんの?そのスキル頼って戦ってばかりじゃ、強くなれませんわよ?」
「今の君を一瞬で肉片も残さず倒せる相手に出会ったとき、今の戦い方じゃ成す術が無くなってしまうだろう?」


 うんうん、そうだよね。
 後の先?って言えばいいのかな、レンの戦い方は敵の攻撃をあえて受けて、油断しているところに仕掛けた武器で命を奪う戦い方なのだ。
 だけどこれは、あくまで彼の天啓スキルで生きていられる攻撃でなければならない、そして、レンの攻撃で倒せる相手でもなくてはならないのだ。


「なるほど、それはその通りだ……だが、どうしたらいい?」
「爆弾の種類を増やして見たらどうだい?いろいろ工夫すれば戦い方も増やせると思うだけど」
「例えばどんなものだろうか?」
「ナイフに爆弾を仕込んで敵に投げて爆発させるとか、普通に投げる爆弾でもいいと思う」
「なるほど……検討してみる」


 レンって結構素直なんだよね、クオン達のアドバイスをちゃんと聞く。
 それに、無茶な戦い方をするときは決まって誰かを守ろうとするときなんだよね……最初は結構な問題児を任されたかもなんて思ったけど、根は優しくて真面目な人みたいで良かったよ。


「それじゃ、今日は帰って、レンの武器に使えそうなものを探しにいこっか」
「ええ、そうですわね」
「すまない、助かる」


 こうして、今日の討伐の依頼を終えた私達は、ラリアスへと帰還した。
 ラリアスに戻り、ギルドへと入ると、ミオンが私達を見て、声をかけてくる。


「あ、カモメさん、丁度良かったです」
「うん?ミオンどうしたの?」
「実は新領主様から、皆様に館に来てもらいたいと連絡がありまして」


 新領主ってアンリエッタの事だよね?なんだろ?
 そう言えば、邪鬼を倒した後、まだ会ってなかった……っていっても、領主様にただの冒険者が会うなんてことは滅多にないことなんだろうけど……なんかしでかしたかな……私。


「うーん、なんだろう……とりあえず、行ってみるかな……ごめんレン、武器探しの前に一度領主の館に行ってもいいかな?」
「肯定だ、そちらの方が優先されるべきだろう。俺の武器はその後でいい」
「ありがと……じゃあ、ミオン私達はちょっとアンリエッタの所に行ってくるよ」
「はい、かしこまりました」


 ということで、私達は領主、アンリエッタの所へと向かうのだった。
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