上 下
290 / 361
2部 1章

謎の男

しおりを挟む
 魔物の群れがラリアスの街に目掛けて襲ってくる。
 その数は少なく見ても200以上……普段であれば問題のない数である。だが、今の私は魔力が底を尽きている……その上バトーネもない……そしてディータもまだ多少は魔力が残っているようだけど大技を使うほどは残っていないようだ……となると、こちらの戦力は冒険者ギルドの皆と、兵士達だ……だが、今この場にいる冒険者たちを合わせても40人か50人ほどしかいない。

 魔物がランクFやランクEの魔物であれば問題ないのだけれど、ぱっと見ても、ランクCのハイオークやランクBのオークキングやライカンスロープもいる。

 ランクAのグリフォンやキメラはクオン達が相手をしてくれているため、大丈夫だろうけど、問題はオークキングやライカンスロープである。ここにいる冒険者や兵士でまともに戦えるのはギルドマスターとクルードくらいかな?


 二人にオークキングとライカンスロープを任せたとして残りの魔物はどうする?
 ――――――――駄目だ、抑えきれない。
 このままじゃ、魔物が街へと侵入してしまう……。


「ねえ、クルード」
「はは、オークキングを瞬殺しろってんなら無理だぜ?」
「そこをなんとかっ」
「やれるならやってやりてぇけどよ……いや、アンタの相棒なら出来るんだろうが……すまねぇ」
「……ううん、こっちこそ無理言ってごめん」


 だよね……なんとかできる未来が見えない……でも、やるしかないか、諦めるなんて出来ないしね!


「よぉーし、だったら、私が全員ぶん殴って倒すよ!」
「無茶をしないの、ほら、待ちなさい……闇の力よ」
「……ほえ?」


 ディータが私の体に何か魔法をかけてくれる。
 ディータの手が私に触れると、体から力があふれるような感覚があった。


「これって、強化の魔法?」
「そうよ、闇雷纏シュベルクレシェント程の効果はないけど、少しはマシになるでしょう」
「ありがとう、こんな魔法があったんだね」
「まあね、とはいえ、そうそう使う場面はないでしょうけど」


 あ、そっか、よく考えてみれば私のパーティは全員、自分で自分を強化できる。
 効果の低いこの魔法を使う場面ってなかったんだね。
 
 とはいえ、今は助かるよ……これなら、素手でもランクDくらいの魔物なら倒せそうだ。


「来るわよ」
「うん!」


 オークキング達はまだ、後ろにいる……まずは敵の前衛、ダイアーウルフやウェアウルフ、オークウォリアー達である。

 
「お前ら、気合を入れろ!」
「「「おおおおおおお!!」」」


 冒険者や兵士の人達がギルドマスターの掛け声に応える。
 その声に負けじと、魔物たちも雄たけびを上げた。

 私は、ウォリアーの斧を躱し、右の拳を顔面に叩き込む……が。
 ウォリアーは大してダメージを喰らっていないのか、それに怯まず、斧を再び私に振るった。

 わっと、危ない危ない……うーん、上手く体重を乗せられない……お父さんやエリンシアみたいに、殴って敵をを吹き飛ばすとは行かないようだ……どうしよう。
 ランクCのウォリアー相手に苦戦をしそうだぞ……。


 そして、私がウォリアー一匹に手こずっているうちにどんどんと魔物が街へと向かっていく……どうしよう。


闇の刃オプスラミナ!」


 私を通り過ぎていった魔物数匹を、ディータが闇の刃で細切れにした。


「ヤバいわね……もう、魔力が……ええい、こんな戦い方好きじゃないけどっ!闇雷纏シュベルクレシェント!」


 ディータは体を強化すると、万力の力を込めて、魔物を殴り始める。
 ……魔物相手に素手で殴りかかる闇の女神……うん、貴重なものを見た気がするよ……そして、殴りかかるディータの顔はまるでお父さんのように生き生きとしていた……本当に好きじゃないんだろうか……あの戦い方……。


 っとと……私の横をウォリアーの斧が掠める……ディータに見とれている場合ではない。このままじゃ、ウォリアーにも勝てないよ……武器があればまだ体重を乗せて威力を上げることも出来るのに……素手だとどうしたら威力が乗るのか分からないよ……バトーネを使った動きなら………ん、待てよ?

 私は思いついたことを試してみようとする。


 再び振るわれたオークウォリアーの斧を寸でのところで躱すと、そのまま、自分がバトーネを持っているかのように動く、バトーネを持った棒術の動きをコンパクトにし、インパクトのある場所を自分の手の位置にする……そうすれば、棒術の動きで武器がなくても威力を出せるんじゃないか?と思ったのだ。

 ―――――――結果。


「ガウ!?」
「いける!」


 私の一撃をお腹に受けて、ウォリアーが怯む。
 ダメージが入ったのだ、よし、これなら、戦える!

 バトーネの時のように一撃で倒すというわけにはいかないが、それでもダメージを与えられるのだ。
 とはいえ、私がウォリアーと戦えるようになったというだけでは戦況は好転しない、ギルドマスターが敵のライカンスロープと戦い始め、クルードとシルネアがオークキングと対峙する。この時点でこっちの戦力は半減である。唯一、敵をペースよく倒せるディータであるが、それでも200以上の魔物を一人で倒すのは不可能であった。

 そして………。


「やべぇ!!」


 最悪なことに、クルードとシルネアが対峙していたオークキングが、二人を掻い潜り、街へと向かう。
 他のランクの低い冒険者がオークキングを抑えられるわけもなく、近くにいた冒険者をなぎ倒しながらも他のハイオークと合流し、そのまま街の方へと走り始めたのだ。


 駄目だ、あいつを街に行かせちゃいけない!
 オークキングがクルード達を引き離し、街へと走り始めたのに気付いた私は、目の前のウォリアーを蹴り飛ばし、オークキングの前へと先回りをする。


「カモメ!」


 ディータが叫ぶ声が聞こえる、私はオークキングの前へと立ちはだかると、拳を構えた。
 いやぁ……勝てる気がしないね。
 

「………闇雷纏シュベルクレシェント


 魔力が回復していることを祈って、強化の魔法を使ってみるが……発動しない。
 やっぱり駄目か……魔力は自然に回復するものの、戦いながらではその回復量も微々たるものである。
 闇の魔法が使えるほどには回復していなかった。

 オークキングは私に近づくと、まるで目の前に邪魔なゴミがあるかのように、煩わしそうにする。
 それに応えたのか、周りにいたハイオークが私に向って斧を振り上げてきた。
 その斧を私は躱す、一匹のハイオークの斧を躱すと、次のハイオークの攻撃がくる、だが、それも躱す。躱して躱して躱して躱しまくる……。というより、躱すしかできない。

 攻撃の手段がないのだ、何が拳の鬼の娘だ……結局私はか弱くかわいい女の子でしかないのだ、お父さんのように敵を殴り飛ばすなんて出来やしない……なので、せめても嫌がらせだけでもしてやろう、ずーーーーーーっとよけ続けて時間を無駄に使わせてやる。


「べろべろば~、アンタたちの攻撃なんてあたらないよーっだ!」


 左手で眼の下を引っ張り、舌を出して、オークたちを揶揄う。
 私に敵意を抱かせることで、街に行かせず、時間を稼ぐためである。
 時間さえ稼げば、クオンやエリンシアがグリフォンたちを倒して、こちらに来てくれる……それが狙いだ………だったのだが……あれ?


 オークキングが、吠えると、ハイオーク達は私を無視して、街へと向かい始めた。
 ちょっとちょっと、いくら何でも無視はひどくない!?べろべろば~とかやったんだよ、ただ恥ずかしいだけじゃん!?

 っていうか、本気でヤバい、ここを抜かれたら街に………え?

 私が慌てて、街の方を見ると、街の入り口から一人の男がこちらに向かって歩いてきていた。
 いけない、街の人が出てきちゃた?あのままじゃ、オークキング達にやられてしまう。


「駄目、逃げて!」
「………問題ない、俺は冒険者だ」


 男は、懐から何やら筒状の物を取り出すと、そこに火をつけた。
 ……あれって確か、爆弾とかいうものだっけ。

 男はそれをハイオークの方へ投げると、ハイオークの手前で、大爆発を起こした。

 うわ、結構すごい威力………今のでハイオークが一匹吹っ飛んだよ。
 爆発に驚き、オークキング達が進行を止める、その隙に私はまた、回り込み、街から出てきた男の所へと行った。


「冒険者なの?」
「肯定だ、俺は冒険者だ」
「なぜ今頃来たの?って疑問はあるけど、助かったよ」


 ギルドにいた冒険者や、街にいた冒険者はギルドマスターが連れてきていると思ったけど、たまたま行き違いになったとかかな……でもあの爆弾は頼りになる……クオン達が来るまでの時間稼ぎが出来そうだ。
 
 少し、勝機が見えてきたかもね。


「君はここで待っていろ、あれは俺が倒そう」
「倒すってキングを?……あなたランクは?」


 この街にはクルード以外Cランクがいないはずである、ということはこの人はDランクくらいかな?まあ、ランクを上げるのに時間がかかる以上、Dランクでも強い人はいるのかもしれないけど、それならギルドマスターとかが知っていそうだし、声をかけそびれるという子は無いと思うんだけど……。


「ランクは『まだ』ない」
「………へ?」


 そう言うと男は、爆弾を手に、キングへと走り出す。

 ――――――――――って、ちょっと待って、ランクがまだないって……それって……冒険者『志望』ってことじゃないのもしかして!?
 だから、ギルドマスターから声かからなかったんだ!?
 だって、それ冒険者じゃないよ!?冒険者になろうと思っている人ってことだよ!?
 
 私が、そう心の中でツッコミを入れているうちに、男はすでにキングの目の前へと走りこんでいた……って、爆弾は投げないの!?
 あれは遠距離から投げてダメージを与えるものだと思ったんだけど……。

 私が困惑していると、男は、キングの目の前に来たとたん、飛び掛かる、まるで殴り掛かるかのように、右手には爆弾を握りしめて、そして、その右手をキングに向かって振り下ろしたのだ。

 ――――――――爆弾握ったまま殴り掛かるの!?

 
 男の拳が、キングに届く……いや、これは?
 男の拳はキングの顔面に炸裂したわけではない……男はキングの口の中に手を突っ込んでいた。
 爆弾を握りしめていた方の手をだ……。

――――――――――あれ、あの人の狙いってもしかして……。いやいや、それはないか。

 私はもしかしたら、爆弾をキングの体内で爆発させようとしているのかなと思ったが、さすがにそれは無いか、だって、あそこで爆発したら、あの人自身も爆発に巻き込まれ……。



―――――――――大爆発



 ……………嘘、でしょ?
 男がキングの口に腕を突っ込むと、男の持っていた爆弾が大爆発を起こした、周りにいたハイオーク諸共………爆弾を持っていた男も諸共……キングは木端微塵に弾け飛んだのだ。
 そして、あの男も……。
 キングの四肢があたりに散らばり、光の粒子となって消えていく。
 そして、男の体や頭部もばらばらとなっていた……。



「嘘………街を救うために、あの人……自爆をしたの?」


 確かにこれで、オークキングは倒せた……けど、あの人の爆弾があればクオン達が来るまで時間を稼げたかもしれないのに、あの人、死なずに済んだかもしれないのに……せめて、相談くらい……。


「肯定だ、これが一番確実に敵を倒せると判断した」
「………ふえ?」


 先ほどの男の声が聞こえる……そんな馬鹿な、だって、彼の体はバラバラになっていて、あれで生きているはずがない……空耳?それとも目の前に彼の頭部らしきものが転がっているから?彼がしゃべったように聞こえたのかな?……って、そんなわけないか。


「肯定だと言った、街を救うためには直接敵の体内で爆発させるのが一番確実だと思った……だから、実行した」
「…………」


 また聞こえた……いや、目の前の彼の頭がしっかりと口を動かし、こちらの眼を向けてしゃべっているように見える……頭だけの状態で……。


「ん、どうした?」
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 私はあまりの出来事に、悲鳴を上げるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

婚約者に犯されて身籠り、妹に陥れられて婚約破棄後に国外追放されました。“神人”であるお腹の子が復讐しますが、いいですね?

サイコちゃん
ファンタジー
公爵令嬢アリアは不義の子を身籠った事を切欠に、ヴント国を追放される。しかも、それが冤罪だったと判明した後も、加害者である第一王子イェールと妹ウィリアは不誠実な謝罪を繰り返し、果てはアリアを罵倒する。その行為が、ヴント国を破滅に導くとも知らずに―― ※昨年、別アカウントにて削除した『お腹の子「後になってから謝っても遅いよ?」』を手直しして再投稿したものです。

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...