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2部 1章
謎の男
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魔物の群れがラリアスの街に目掛けて襲ってくる。
その数は少なく見ても200以上……普段であれば問題のない数である。だが、今の私は魔力が底を尽きている……その上バトーネもない……そしてディータもまだ多少は魔力が残っているようだけど大技を使うほどは残っていないようだ……となると、こちらの戦力は冒険者ギルドの皆と、兵士達だ……だが、今この場にいる冒険者たちを合わせても40人か50人ほどしかいない。
魔物がランクFやランクEの魔物であれば問題ないのだけれど、ぱっと見ても、ランクCのハイオークやランクBのオークキングやライカンスロープもいる。
ランクAのグリフォンやキメラはクオン達が相手をしてくれているため、大丈夫だろうけど、問題はオークキングやライカンスロープである。ここにいる冒険者や兵士でまともに戦えるのはギルドマスターとクルードくらいかな?
二人にオークキングとライカンスロープを任せたとして残りの魔物はどうする?
――――――――駄目だ、抑えきれない。
このままじゃ、魔物が街へと侵入してしまう……。
「ねえ、クルード」
「はは、オークキングを瞬殺しろってんなら無理だぜ?」
「そこをなんとかっ」
「やれるならやってやりてぇけどよ……いや、アンタの相棒なら出来るんだろうが……すまねぇ」
「……ううん、こっちこそ無理言ってごめん」
だよね……なんとかできる未来が見えない……でも、やるしかないか、諦めるなんて出来ないしね!
「よぉーし、だったら、私が全員ぶん殴って倒すよ!」
「無茶をしないの、ほら、待ちなさい……闇の力よ」
「……ほえ?」
ディータが私の体に何か魔法をかけてくれる。
ディータの手が私に触れると、体から力があふれるような感覚があった。
「これって、強化の魔法?」
「そうよ、闇雷纏程の効果はないけど、少しはマシになるでしょう」
「ありがとう、こんな魔法があったんだね」
「まあね、とはいえ、そうそう使う場面はないでしょうけど」
あ、そっか、よく考えてみれば私のパーティは全員、自分で自分を強化できる。
効果の低いこの魔法を使う場面ってなかったんだね。
とはいえ、今は助かるよ……これなら、素手でもランクDくらいの魔物なら倒せそうだ。
「来るわよ」
「うん!」
オークキング達はまだ、後ろにいる……まずは敵の前衛、ダイアーウルフやウェアウルフ、オークウォリアー達である。
「お前ら、気合を入れろ!」
「「「おおおおおおお!!」」」
冒険者や兵士の人達がギルドマスターの掛け声に応える。
その声に負けじと、魔物たちも雄たけびを上げた。
私は、ウォリアーの斧を躱し、右の拳を顔面に叩き込む……が。
ウォリアーは大してダメージを喰らっていないのか、それに怯まず、斧を再び私に振るった。
わっと、危ない危ない……うーん、上手く体重を乗せられない……お父さんやエリンシアみたいに、殴って敵をを吹き飛ばすとは行かないようだ……どうしよう。
ランクCのウォリアー相手に苦戦をしそうだぞ……。
そして、私がウォリアー一匹に手こずっているうちにどんどんと魔物が街へと向かっていく……どうしよう。
「闇の刃!」
私を通り過ぎていった魔物数匹を、ディータが闇の刃で細切れにした。
「ヤバいわね……もう、魔力が……ええい、こんな戦い方好きじゃないけどっ!闇雷纏!」
ディータは体を強化すると、万力の力を込めて、魔物を殴り始める。
……魔物相手に素手で殴りかかる闇の女神……うん、貴重なものを見た気がするよ……そして、殴りかかるディータの顔はまるでお父さんのように生き生きとしていた……本当に好きじゃないんだろうか……あの戦い方……。
っとと……私の横をウォリアーの斧が掠める……ディータに見とれている場合ではない。このままじゃ、ウォリアーにも勝てないよ……武器があればまだ体重を乗せて威力を上げることも出来るのに……素手だとどうしたら威力が乗るのか分からないよ……バトーネを使った動きなら………ん、待てよ?
私は思いついたことを試してみようとする。
再び振るわれたオークウォリアーの斧を寸でのところで躱すと、そのまま、自分がバトーネを持っているかのように動く、バトーネを持った棒術の動きをコンパクトにし、インパクトのある場所を自分の手の位置にする……そうすれば、棒術の動きで武器がなくても威力を出せるんじゃないか?と思ったのだ。
―――――――結果。
「ガウ!?」
「いける!」
私の一撃をお腹に受けて、ウォリアーが怯む。
ダメージが入ったのだ、よし、これなら、戦える!
バトーネの時のように一撃で倒すというわけにはいかないが、それでもダメージを与えられるのだ。
とはいえ、私がウォリアーと戦えるようになったというだけでは戦況は好転しない、ギルドマスターが敵のライカンスロープと戦い始め、クルードとシルネアがオークキングと対峙する。この時点でこっちの戦力は半減である。唯一、敵をペースよく倒せるディータであるが、それでも200以上の魔物を一人で倒すのは不可能であった。
そして………。
「やべぇ!!」
最悪なことに、クルードとシルネアが対峙していたオークキングが、二人を掻い潜り、街へと向かう。
他のランクの低い冒険者がオークキングを抑えられるわけもなく、近くにいた冒険者をなぎ倒しながらも他のハイオークと合流し、そのまま街の方へと走り始めたのだ。
駄目だ、あいつを街に行かせちゃいけない!
オークキングがクルード達を引き離し、街へと走り始めたのに気付いた私は、目の前のウォリアーを蹴り飛ばし、オークキングの前へと先回りをする。
「カモメ!」
ディータが叫ぶ声が聞こえる、私はオークキングの前へと立ちはだかると、拳を構えた。
いやぁ……勝てる気がしないね。
「………闇雷纏」
魔力が回復していることを祈って、強化の魔法を使ってみるが……発動しない。
やっぱり駄目か……魔力は自然に回復するものの、戦いながらではその回復量も微々たるものである。
闇の魔法が使えるほどには回復していなかった。
オークキングは私に近づくと、まるで目の前に邪魔なゴミがあるかのように、煩わしそうにする。
それに応えたのか、周りにいたハイオークが私に向って斧を振り上げてきた。
その斧を私は躱す、一匹のハイオークの斧を躱すと、次のハイオークの攻撃がくる、だが、それも躱す。躱して躱して躱して躱しまくる……。というより、躱すしかできない。
攻撃の手段がないのだ、何が拳の鬼の娘だ……結局私はか弱くかわいい女の子でしかないのだ、お父さんのように敵を殴り飛ばすなんて出来やしない……なので、せめても嫌がらせだけでもしてやろう、ずーーーーーーっとよけ続けて時間を無駄に使わせてやる。
「べろべろば~、アンタたちの攻撃なんてあたらないよーっだ!」
左手で眼の下を引っ張り、舌を出して、オークたちを揶揄う。
私に敵意を抱かせることで、街に行かせず、時間を稼ぐためである。
時間さえ稼げば、クオンやエリンシアがグリフォンたちを倒して、こちらに来てくれる……それが狙いだ………だったのだが……あれ?
オークキングが、吠えると、ハイオーク達は私を無視して、街へと向かい始めた。
ちょっとちょっと、いくら何でも無視はひどくない!?べろべろば~とかやったんだよ、ただ恥ずかしいだけじゃん!?
っていうか、本気でヤバい、ここを抜かれたら街に………え?
私が慌てて、街の方を見ると、街の入り口から一人の男がこちらに向かって歩いてきていた。
いけない、街の人が出てきちゃた?あのままじゃ、オークキング達にやられてしまう。
「駄目、逃げて!」
「………問題ない、俺は冒険者だ」
男は、懐から何やら筒状の物を取り出すと、そこに火をつけた。
……あれって確か、爆弾とかいうものだっけ。
男はそれをハイオークの方へ投げると、ハイオークの手前で、大爆発を起こした。
うわ、結構すごい威力………今のでハイオークが一匹吹っ飛んだよ。
爆発に驚き、オークキング達が進行を止める、その隙に私はまた、回り込み、街から出てきた男の所へと行った。
「冒険者なの?」
「肯定だ、俺は冒険者だ」
「なぜ今頃来たの?って疑問はあるけど、助かったよ」
ギルドにいた冒険者や、街にいた冒険者はギルドマスターが連れてきていると思ったけど、たまたま行き違いになったとかかな……でもあの爆弾は頼りになる……クオン達が来るまでの時間稼ぎが出来そうだ。
少し、勝機が見えてきたかもね。
「君はここで待っていろ、あれは俺が倒そう」
「倒すってキングを?……あなたランクは?」
この街にはクルード以外Cランクがいないはずである、ということはこの人はDランクくらいかな?まあ、ランクを上げるのに時間がかかる以上、Dランクでも強い人はいるのかもしれないけど、それならギルドマスターとかが知っていそうだし、声をかけそびれるという子は無いと思うんだけど……。
「ランクは『まだ』ない」
「………へ?」
そう言うと男は、爆弾を手に、キングへと走り出す。
――――――――――って、ちょっと待って、ランクがまだないって……それって……冒険者『志望』ってことじゃないのもしかして!?
だから、ギルドマスターから声かからなかったんだ!?
だって、それ冒険者じゃないよ!?冒険者になろうと思っている人ってことだよ!?
私が、そう心の中でツッコミを入れているうちに、男はすでにキングの目の前へと走りこんでいた……って、爆弾は投げないの!?
あれは遠距離から投げてダメージを与えるものだと思ったんだけど……。
私が困惑していると、男は、キングの目の前に来たとたん、飛び掛かる、まるで殴り掛かるかのように、右手には爆弾を握りしめて、そして、その右手をキングに向かって振り下ろしたのだ。
――――――――爆弾握ったまま殴り掛かるの!?
男の拳が、キングに届く……いや、これは?
男の拳はキングの顔面に炸裂したわけではない……男はキングの口の中に手を突っ込んでいた。
爆弾を握りしめていた方の手をだ……。
――――――――――あれ、あの人の狙いってもしかして……。いやいや、それはないか。
私はもしかしたら、爆弾をキングの体内で爆発させようとしているのかなと思ったが、さすがにそれは無いか、だって、あそこで爆発したら、あの人自身も爆発に巻き込まれ……。
―――――――――大爆発
……………嘘、でしょ?
男がキングの口に腕を突っ込むと、男の持っていた爆弾が大爆発を起こした、周りにいたハイオーク諸共………爆弾を持っていた男も諸共……キングは木端微塵に弾け飛んだのだ。
そして、あの男も……。
キングの四肢があたりに散らばり、光の粒子となって消えていく。
そして、男の体や頭部もばらばらとなっていた……。
「嘘………街を救うために、あの人……自爆をしたの?」
確かにこれで、オークキングは倒せた……けど、あの人の爆弾があればクオン達が来るまで時間を稼げたかもしれないのに、あの人、死なずに済んだかもしれないのに……せめて、相談くらい……。
「肯定だ、これが一番確実に敵を倒せると判断した」
「………ふえ?」
先ほどの男の声が聞こえる……そんな馬鹿な、だって、彼の体はバラバラになっていて、あれで生きているはずがない……空耳?それとも目の前に彼の頭部らしきものが転がっているから?彼がしゃべったように聞こえたのかな?……って、そんなわけないか。
「肯定だと言った、街を救うためには直接敵の体内で爆発させるのが一番確実だと思った……だから、実行した」
「…………」
また聞こえた……いや、目の前の彼の頭がしっかりと口を動かし、こちらの眼を向けてしゃべっているように見える……頭だけの状態で……。
「ん、どうした?」
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
私はあまりの出来事に、悲鳴を上げるのだった。
その数は少なく見ても200以上……普段であれば問題のない数である。だが、今の私は魔力が底を尽きている……その上バトーネもない……そしてディータもまだ多少は魔力が残っているようだけど大技を使うほどは残っていないようだ……となると、こちらの戦力は冒険者ギルドの皆と、兵士達だ……だが、今この場にいる冒険者たちを合わせても40人か50人ほどしかいない。
魔物がランクFやランクEの魔物であれば問題ないのだけれど、ぱっと見ても、ランクCのハイオークやランクBのオークキングやライカンスロープもいる。
ランクAのグリフォンやキメラはクオン達が相手をしてくれているため、大丈夫だろうけど、問題はオークキングやライカンスロープである。ここにいる冒険者や兵士でまともに戦えるのはギルドマスターとクルードくらいかな?
二人にオークキングとライカンスロープを任せたとして残りの魔物はどうする?
――――――――駄目だ、抑えきれない。
このままじゃ、魔物が街へと侵入してしまう……。
「ねえ、クルード」
「はは、オークキングを瞬殺しろってんなら無理だぜ?」
「そこをなんとかっ」
「やれるならやってやりてぇけどよ……いや、アンタの相棒なら出来るんだろうが……すまねぇ」
「……ううん、こっちこそ無理言ってごめん」
だよね……なんとかできる未来が見えない……でも、やるしかないか、諦めるなんて出来ないしね!
「よぉーし、だったら、私が全員ぶん殴って倒すよ!」
「無茶をしないの、ほら、待ちなさい……闇の力よ」
「……ほえ?」
ディータが私の体に何か魔法をかけてくれる。
ディータの手が私に触れると、体から力があふれるような感覚があった。
「これって、強化の魔法?」
「そうよ、闇雷纏程の効果はないけど、少しはマシになるでしょう」
「ありがとう、こんな魔法があったんだね」
「まあね、とはいえ、そうそう使う場面はないでしょうけど」
あ、そっか、よく考えてみれば私のパーティは全員、自分で自分を強化できる。
効果の低いこの魔法を使う場面ってなかったんだね。
とはいえ、今は助かるよ……これなら、素手でもランクDくらいの魔物なら倒せそうだ。
「来るわよ」
「うん!」
オークキング達はまだ、後ろにいる……まずは敵の前衛、ダイアーウルフやウェアウルフ、オークウォリアー達である。
「お前ら、気合を入れろ!」
「「「おおおおおおお!!」」」
冒険者や兵士の人達がギルドマスターの掛け声に応える。
その声に負けじと、魔物たちも雄たけびを上げた。
私は、ウォリアーの斧を躱し、右の拳を顔面に叩き込む……が。
ウォリアーは大してダメージを喰らっていないのか、それに怯まず、斧を再び私に振るった。
わっと、危ない危ない……うーん、上手く体重を乗せられない……お父さんやエリンシアみたいに、殴って敵をを吹き飛ばすとは行かないようだ……どうしよう。
ランクCのウォリアー相手に苦戦をしそうだぞ……。
そして、私がウォリアー一匹に手こずっているうちにどんどんと魔物が街へと向かっていく……どうしよう。
「闇の刃!」
私を通り過ぎていった魔物数匹を、ディータが闇の刃で細切れにした。
「ヤバいわね……もう、魔力が……ええい、こんな戦い方好きじゃないけどっ!闇雷纏!」
ディータは体を強化すると、万力の力を込めて、魔物を殴り始める。
……魔物相手に素手で殴りかかる闇の女神……うん、貴重なものを見た気がするよ……そして、殴りかかるディータの顔はまるでお父さんのように生き生きとしていた……本当に好きじゃないんだろうか……あの戦い方……。
っとと……私の横をウォリアーの斧が掠める……ディータに見とれている場合ではない。このままじゃ、ウォリアーにも勝てないよ……武器があればまだ体重を乗せて威力を上げることも出来るのに……素手だとどうしたら威力が乗るのか分からないよ……バトーネを使った動きなら………ん、待てよ?
私は思いついたことを試してみようとする。
再び振るわれたオークウォリアーの斧を寸でのところで躱すと、そのまま、自分がバトーネを持っているかのように動く、バトーネを持った棒術の動きをコンパクトにし、インパクトのある場所を自分の手の位置にする……そうすれば、棒術の動きで武器がなくても威力を出せるんじゃないか?と思ったのだ。
―――――――結果。
「ガウ!?」
「いける!」
私の一撃をお腹に受けて、ウォリアーが怯む。
ダメージが入ったのだ、よし、これなら、戦える!
バトーネの時のように一撃で倒すというわけにはいかないが、それでもダメージを与えられるのだ。
とはいえ、私がウォリアーと戦えるようになったというだけでは戦況は好転しない、ギルドマスターが敵のライカンスロープと戦い始め、クルードとシルネアがオークキングと対峙する。この時点でこっちの戦力は半減である。唯一、敵をペースよく倒せるディータであるが、それでも200以上の魔物を一人で倒すのは不可能であった。
そして………。
「やべぇ!!」
最悪なことに、クルードとシルネアが対峙していたオークキングが、二人を掻い潜り、街へと向かう。
他のランクの低い冒険者がオークキングを抑えられるわけもなく、近くにいた冒険者をなぎ倒しながらも他のハイオークと合流し、そのまま街の方へと走り始めたのだ。
駄目だ、あいつを街に行かせちゃいけない!
オークキングがクルード達を引き離し、街へと走り始めたのに気付いた私は、目の前のウォリアーを蹴り飛ばし、オークキングの前へと先回りをする。
「カモメ!」
ディータが叫ぶ声が聞こえる、私はオークキングの前へと立ちはだかると、拳を構えた。
いやぁ……勝てる気がしないね。
「………闇雷纏」
魔力が回復していることを祈って、強化の魔法を使ってみるが……発動しない。
やっぱり駄目か……魔力は自然に回復するものの、戦いながらではその回復量も微々たるものである。
闇の魔法が使えるほどには回復していなかった。
オークキングは私に近づくと、まるで目の前に邪魔なゴミがあるかのように、煩わしそうにする。
それに応えたのか、周りにいたハイオークが私に向って斧を振り上げてきた。
その斧を私は躱す、一匹のハイオークの斧を躱すと、次のハイオークの攻撃がくる、だが、それも躱す。躱して躱して躱して躱しまくる……。というより、躱すしかできない。
攻撃の手段がないのだ、何が拳の鬼の娘だ……結局私はか弱くかわいい女の子でしかないのだ、お父さんのように敵を殴り飛ばすなんて出来やしない……なので、せめても嫌がらせだけでもしてやろう、ずーーーーーーっとよけ続けて時間を無駄に使わせてやる。
「べろべろば~、アンタたちの攻撃なんてあたらないよーっだ!」
左手で眼の下を引っ張り、舌を出して、オークたちを揶揄う。
私に敵意を抱かせることで、街に行かせず、時間を稼ぐためである。
時間さえ稼げば、クオンやエリンシアがグリフォンたちを倒して、こちらに来てくれる……それが狙いだ………だったのだが……あれ?
オークキングが、吠えると、ハイオーク達は私を無視して、街へと向かい始めた。
ちょっとちょっと、いくら何でも無視はひどくない!?べろべろば~とかやったんだよ、ただ恥ずかしいだけじゃん!?
っていうか、本気でヤバい、ここを抜かれたら街に………え?
私が慌てて、街の方を見ると、街の入り口から一人の男がこちらに向かって歩いてきていた。
いけない、街の人が出てきちゃた?あのままじゃ、オークキング達にやられてしまう。
「駄目、逃げて!」
「………問題ない、俺は冒険者だ」
男は、懐から何やら筒状の物を取り出すと、そこに火をつけた。
……あれって確か、爆弾とかいうものだっけ。
男はそれをハイオークの方へ投げると、ハイオークの手前で、大爆発を起こした。
うわ、結構すごい威力………今のでハイオークが一匹吹っ飛んだよ。
爆発に驚き、オークキング達が進行を止める、その隙に私はまた、回り込み、街から出てきた男の所へと行った。
「冒険者なの?」
「肯定だ、俺は冒険者だ」
「なぜ今頃来たの?って疑問はあるけど、助かったよ」
ギルドにいた冒険者や、街にいた冒険者はギルドマスターが連れてきていると思ったけど、たまたま行き違いになったとかかな……でもあの爆弾は頼りになる……クオン達が来るまでの時間稼ぎが出来そうだ。
少し、勝機が見えてきたかもね。
「君はここで待っていろ、あれは俺が倒そう」
「倒すってキングを?……あなたランクは?」
この街にはクルード以外Cランクがいないはずである、ということはこの人はDランクくらいかな?まあ、ランクを上げるのに時間がかかる以上、Dランクでも強い人はいるのかもしれないけど、それならギルドマスターとかが知っていそうだし、声をかけそびれるという子は無いと思うんだけど……。
「ランクは『まだ』ない」
「………へ?」
そう言うと男は、爆弾を手に、キングへと走り出す。
――――――――――って、ちょっと待って、ランクがまだないって……それって……冒険者『志望』ってことじゃないのもしかして!?
だから、ギルドマスターから声かからなかったんだ!?
だって、それ冒険者じゃないよ!?冒険者になろうと思っている人ってことだよ!?
私が、そう心の中でツッコミを入れているうちに、男はすでにキングの目の前へと走りこんでいた……って、爆弾は投げないの!?
あれは遠距離から投げてダメージを与えるものだと思ったんだけど……。
私が困惑していると、男は、キングの目の前に来たとたん、飛び掛かる、まるで殴り掛かるかのように、右手には爆弾を握りしめて、そして、その右手をキングに向かって振り下ろしたのだ。
――――――――爆弾握ったまま殴り掛かるの!?
男の拳が、キングに届く……いや、これは?
男の拳はキングの顔面に炸裂したわけではない……男はキングの口の中に手を突っ込んでいた。
爆弾を握りしめていた方の手をだ……。
――――――――――あれ、あの人の狙いってもしかして……。いやいや、それはないか。
私はもしかしたら、爆弾をキングの体内で爆発させようとしているのかなと思ったが、さすがにそれは無いか、だって、あそこで爆発したら、あの人自身も爆発に巻き込まれ……。
―――――――――大爆発
……………嘘、でしょ?
男がキングの口に腕を突っ込むと、男の持っていた爆弾が大爆発を起こした、周りにいたハイオーク諸共………爆弾を持っていた男も諸共……キングは木端微塵に弾け飛んだのだ。
そして、あの男も……。
キングの四肢があたりに散らばり、光の粒子となって消えていく。
そして、男の体や頭部もばらばらとなっていた……。
「嘘………街を救うために、あの人……自爆をしたの?」
確かにこれで、オークキングは倒せた……けど、あの人の爆弾があればクオン達が来るまで時間を稼げたかもしれないのに、あの人、死なずに済んだかもしれないのに……せめて、相談くらい……。
「肯定だ、これが一番確実に敵を倒せると判断した」
「………ふえ?」
先ほどの男の声が聞こえる……そんな馬鹿な、だって、彼の体はバラバラになっていて、あれで生きているはずがない……空耳?それとも目の前に彼の頭部らしきものが転がっているから?彼がしゃべったように聞こえたのかな?……って、そんなわけないか。
「肯定だと言った、街を救うためには直接敵の体内で爆発させるのが一番確実だと思った……だから、実行した」
「…………」
また聞こえた……いや、目の前の彼の頭がしっかりと口を動かし、こちらの眼を向けてしゃべっているように見える……頭だけの状態で……。
「ん、どうした?」
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
私はあまりの出来事に、悲鳴を上げるのだった。
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