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2部 1章

強敵

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 私の合成魔法は間違いなく直撃した……これなら。


「やるじゃねぇか……」


 倒せていない……でも、ダメージは通っている。
 その証拠に、邪鬼の身体には炎に焼かれた跡と、風で切り刻まれた傷がついていた。
 

「なら、もう一発!」
「おせぇ!!」


 邪鬼が私との間合いを詰める。
 やば、間に合わない!

 私に向かって放たれる戦鎌は私の首を見事に捉えている。
 反応が遅れた私はそれを躱すことは出来ない……まずい……やられるっ。
 そう思った瞬間、敵の戦鎌は金属音と共にその動きを止めた。


「ちっ」
「お喰らいやがりなさいですわ!聖滅弾セイクリッドブリッツ!」
「おっとっ」
「クオン、エリンシア!」


 私への攻撃を防いだのはクオンであった。
 私と邪鬼の間に入り、鎌を剣で受け止めてくれたのだ。
 そして、動きの止まったところにエリンシアの魔弾が襲い掛かるも邪鬼は後ろに飛びのきそれを躱した。


「良い連携だぜ……やりにくいなぁ」
「あら、一人忘れてるわよ?」
「何っ!?」
闇魔滅砲イビルスレイヤー!!」
「ぐおおおお!?」


 飛びのいた邪鬼の背後に忍び寄ったディータが、闇の魔法を放つ。
 不意を突かれ、防ぐことも出来ず、邪鬼はディータの闇の魔法の直撃を受けた。


「ぐっ……この辺境にここまで出来る奴らがいるなんてな……辺境は弱い奴ばかりだと聞いてたんだがよ……」


 ディータの闇の魔法の直撃を受けても、まだ立ち上がる邪鬼……。
 だが、確実に追いつめている。


「悪いわね、昨日ここにやってきたのよ……貴方の運が悪かったんじゃない?」
「マジかよ……そりゃあツイてねぇぜ……」
「ここで滅びてもらいますわよ!」
「ははは、そいつは断るぜ……まだまだ、喰い足りねぇんでな!」
「なっ!?」



 邪鬼は戦鎌を振るうと自分の周りい土煙を発生させた。
 そして、土煙が消える頃にはすでにもう邪鬼の姿は無くなっていたのだった。


「逃げるの!!」
「ああ、逃げさせてもらうぜ、お前さん達の相手は面倒そうだからなぁ……それにこっちにもまだやることがあるんでね……ここで全力を出すわけにはいかねぇんだよ……わりいな」
「待ちなさい!」


 私の声は虚しく響くだけで、それ以降、邪鬼の声は聞こえてこなかった。
 邪鬼……人族の天敵と言われている存在……その力は確かに危険である。
 私達、4人がかりでも手こずる相手……正直、自分の力を驕っていたかもしれない……私達は結界の中で魔族相手に1対1でも勝利を収めてきた。
 そんな私達ならば、邪鬼と呼ばれる存在にも勝てるだろうと思っていたのだ……だが……。

 果たして、あの邪鬼相手に仲間がいない状態で勝てるだろうか……それも、最後の口ぶりから、あの邪鬼はまだ全力じゃない可能性もある……。

 想像以上にヤバい相手かもしれないね。



「カモメ、依頼はまだ達成できていないけど、今日の所は戻ろう」
「うん、ミオンに伝えたほうがいいよね……それに……」
「犠牲になった方々の事を知らせた方がいいですわ……」
「冒険者プレートにはその者の名前も刻まれている……なるほど、これを持ち帰る者がいれば少なくとも死んだものが誰なのか分かるわけね……。」


 首の無くなった遺体からディータは冒険者プレートをとった。
 冒険者プレートは一つだけではない……赤く染まった地面にもう二つ、プレートが落ちていた……私たちが来る前に、恐らく首を飛ばされた冒険者の仲間が他に二人、あの邪鬼に食べられてしまったのだろう……。正直、彼らの仇を討つためにもこのまま森の中に進みたいくらいだが……魔物の大量発生、そして恐らくそれに邪鬼が関わっているとすれば、このまま進むのは危険である。

 とりあえずは、ギルドに戻り、この事を報告しよう……この森で何が起きているのか、邪鬼が何を考えているのか、私達には解らない……だが、ギルドのこの大陸の人達ならばもしかしたら何か分かるかもしれない……邪鬼の危険さは解った。



「それにしても、ヤバいのがいるわね……こっちの大陸にも」
「それもあの口ぶりから目的は人間を絶望させることらしいからね……厄介だよ」


 クオンの言う通りである、それはつまり、人間を獲物と見ているということだ………話し合いが通じるとは思えない……人々が食べ物を食べるような感覚で邪鬼は人間を襲うということだ……食欲と娯楽が同じものということである……そんな相手に戦うのを止めようなんて言っても聞いてくれるわけがないのだ。

 ただ、幸いなことに私たちの攻撃は邪鬼に通じた……戦えないわけではない。


「とにかく一回戻って対策を練ろう」
「ですわね」

 私達は来たばかりの森を出て、ラリアスの街へと戻るのであった。
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