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2部 1章

魔女降臨

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 クオンがクレイジュを構える。
 その構えを見ただけでモルバはクオンの強さを理解したのか、先ほどまでの腕試しを楽しもうとしていた笑顔から真剣な顔つきへと変わった。


「行くぜ」
「はい」


 クオンが返事をすると、モルバは一気にクオンに駆け寄り肩に担いでいたロングソードを叩き付けるように振り下ろす。クオンはそれを横に一歩、まるで風で舞う羽のようにふわりと移動し、躱した。


「なっ!?」


 軽々と避けられたことに驚いたのか、それとも今のクオンの動きに驚いたのかモルバは声を上げる。


「これならどうだっ!!」


 叩き付けたロングソードを持ち上げ、今度は横にいるクオンを薙ぐ……だが。


「嘘だろ!?」


 薙いだその場所にはすでにクオンはいなかった……一瞬にして消えたクオンに驚くモルバ、そしてそんなモルバの後ろにクオンは出現する。
 出現すると言っても別に何か能力を使った訳ではない、単に疾いだけだ。

 クオンは強い、戦闘力だけで言えば、私のパーティの中で一番強いだろう。
 私やディータは恐らくクオンと対峙した時点で負けが決定する……唯一戦えるとしたらエリンシアだろうか、だが、あのクオンのスピードをいかして戦われたらエリンシアでも勝つのは難しいだろう……それにクレイジュもあるのだ。

 まあ、唯一勝つ、方法があるとしたら遠く離れたところからクオンのスピードでも避けられないくらい広範囲に吹っ飛ばすといった方法をとれば勝てるかもしれない。それほどまでにクオンは強いのだ……まあ、ディータはクオンの戦い方は地味だとか言うけれど……その分、頼りになるのである。


 魔族やSランク以上の魔物すらをも剣で倒すクオンである、一回の兵士であり門番であるモルバが勝てる相手ではない、いや戦いにすらならなかった。


 クオンはクレイジュをモルバの顔の横に突き出す。
 それを見てクオンが後ろにいることに気付いたモルバは降参をした。


「負けだ………なんてスピードだよ……全然見えなかった」
「凄いです……あんな動き今まで見たことありません」


 受付のミオンも驚いている。


「しかし、本当にお前の天啓スキルは『剣術』なのか?超スピードとかじゃなくて?」
「あ、はい」


 ああ、超スピードなんていう天啓スキルもあるんだ……確かにクオンにはそっちの方があってたかもね……まあ、どんなのがあるか分からない状態で超スピードだなんて言えないし、仕方ないよね。


「ってことは今のでも全力じゃないってことか……まいったね……有望株じゃねぇか、ミオンさんよ」
「はい、頼もしいですね……それじゃあ、他の方の天啓スキルも確認させていただきますね」


 どうやら、クオンの剣術のスキルは納得されたみたいだ、早いだけで納得されないかもと思ったが、強い人材が欲しいのかそこまでは気にしていないようだ……まあ、剣は使っていたしね。


「なら、次は私がやるわ」
「ディータさんですね……天啓スキルは闇の魔法……では、あの的に闇の魔法と言うのを放ってください」


 そう言って刺したのは50メートルくらい離れたところにある案山子のような的であった。


「いいけど……あれは壊して大丈夫なものなの?」


 見た感じ、そんなに高価なものではないだろう、隣に同じものが4つ……合計5個立っているし。
 でも、ギルドの所有するものを壊してしまったら怒られるかもしれないもんね、確認しておいた方がいい。


「問題ありません」
「そう、なら……闇の刃オプスラミナ!」


 ディータの掌から闇の刃が放たれる。
 闇の刃は案山子を切り刻む。


「うおお……」
「なんだ、あれ……」


 訓練場で訓練をしていた他の冒険者たちが驚きの声を上げた。
 どうやら、新人がスキルを試されていることに気付いたのか、いつの間にか野次馬のように見ている。

 闇の魔法は闇の女神であるディータの魔法である、つまり、こっちの大陸には闇の魔法は存在しないのだろう、野次馬の冒険者たちが物珍しそうに見ていた。


「あの強度の訓練人形をこうもあっさりと……」


 ミオンが驚いていた、壊しても問題ないと言っていたが壊されるとは思っていなかったのだろう……あの案山子、そう簡単に壊れる者じゃないのか……。

 だが、魔族すらも切り刻む闇の刃である、あれくらいの案山子なら簡単に細切れだよね。


「これで確認できたかしら?」
「は、はい」


 少し得意げな顔でディータが言う。
 周りの人たちが凄い凄いと騒めき立っているのが嬉しいのだろう、ディータって意外とチョロいよね。
 本人に言ったら怒るだろうけど………。


「で、では次はエリンシアさんの『魔導銃』を……」
「解りましたわ……では隣の案山子でいいんですのね?」
「はい、お願いしま……す!?」


 ミオンが言い終わるより早く、エリンシアは魔弾を放っていた。
 そして、その魔弾がヒットした案山子は………木っ端みじんに吹き飛んでいた。

 別段フルバスターを撃ったというわけではない……というか、撃った本人のエリンシアも驚いている……ミオン達が強度に自信があるみたいな事を言っていたから軽く撃って破壊しないように気を使ったのだろう……普段見ているエリンシアの魔弾より大分弱かったのだが……それでも案山子は木っ端みじんに吹き飛んだ……まあ、エリンシアの魔弾って子供の頃でも地面や岩を抉るくらいの威力があったからねぇ……。

 いくら強度の高い案山子とは言っても岩より硬いということはないのだろう………。


「か、かか確認いたしました」


 段々と、声が震え始めているミオン……や、ヤバいかな?
 私はもっと抑えた方が良い?……でも、私が天啓スキルっていったの合成魔法だよね……あんまり弱くって難しいんだけど……。


「で、では最後にカモメさん……『合成魔法』をお願いします」


 どうしよう……あの案山子が壊れないくらいの合成魔法……でもあれ、フレイムエクリスでも吹き飛びそうだよね……うーん、それなら変則合成魔法アレンジで水の弾を風で弾けさせる?……いや、それでも壊れちゃいそうだ……もしくは宴会芸みたいな変な魔法で誤魔化そうか……水を風の魔法でいろんな形にしたり氷の魔法で作った氷塊を炎の魔法と風の魔法でで溶かして調節して、氷像を創ったりとか……。



「カモメさん?」


 私がどうしようか悩んでいると、ミオンさんが心配した顔でこちらを見てくる。
 あ、私が悩んでいるので心配させてしまったみたいだ……うん、決めた宴会芸みたいなのでいこう、手や頭から水をだして風の魔法で広げて虹を作る……これだっ!


「あの嬢ちゃんどうしたんだ?」
「あれじゃね……あのすげえ団体の中で一人だけ大したことねーんだよ、きっと」


 …………あん?


「ああー、小っちゃいしな」
「あの子を守るための集団とか?」
「どっかのお嬢様が冒険者に憧れて、それを危惧した親が強い冒険者を護衛に着けているのかもよ?」


 …………小っちゃい?



「胸もねーし、ほんの子供なんだから仕方ねーんじゃね?」
「ああ、そうだな」


 うがああああああああああああああああああああ!!!!

 誰がチンチクリンの胸無し小娘だ!
 あったまきた!良いよ……見せてあげよーじゃない!


「カ、カモメ……」


 周りの声に不安に思ったのか、クオンが私を落ち着かせようとするが……時すでに遅し。


暴風轟炎ヴィンドフラムぅうううう!!!」


 炎の竜巻が残り三つの案山子をすべて消し炭へと変えた。
 先ほどまでカモメを小さい子と見ていた野次馬冒険者たちが……一瞬にして顔を青ざめる……。


「誰が……チビッ子胸無し娘だってぇ……」


 私の眼が野次馬の冒険者達へ向け、怪しく光る……。
 それを見た冒険者たちは恐怖した………口々に魔女だ、魔女が現れたと言っていた。
 モルバもミオンも口をあんぐりと開け、固まっている………私の仲間はというとクオンは頭を抱え、エリンシアはおバカちゃんと連呼していた……ディータはやっぱりカモメは最高ねと誇らしげにしていたが……ああああああ、やっちゃったあああああ!?

 …………こうして、この大陸でも私は『魔女』と呼ばれることになったのだった……もっと可愛い呼び方がよかったよぅ……。
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