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8章

諦めない

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「みゃあ!?」


 凶悪な虫の姿へと変貌したコロの足がミャアを貫こうと襲い掛かる。
 ミャアはそれはギリギリのところで何とか躱すが、コロの変貌ぶりに戸惑っていた。


「グ………ガァっ」


 巨大なその姿だけに相手のリーチは長い、その為、ミャアは必要以上に後退し、間合いを取る。


「コロ……」
「ミャア、助太刀するのじゃ!」
「駄目ニャ!!」


 状況を見て助太刀をしようとするラガナにミャアは強い言葉で制止をする。


「コロは……ミャアが助けるニャ……そう言う約束ニャ」
「ぐ……しかし……」
「大丈夫ニャ、姿が変わってちょっと驚いただけニャ……コロが苦しめられていることにはかわりないニャ……」
「………解ったのじゃ、ミャア、負けるななのじゃ!」
「当然ニャ!」


 ミャアが再びコロの懐に入り込もうと走りだす、変貌したコロはそのミャアを貫こうと前足二本を繰り出す……ミャアはその攻撃が当たるか当たらないかのギリギリのところで紙一重に躱し、走り続ける。
 そして、コロの懐まで入ると、コロのお腹の部分を思いっきり蹴った。


「……ニャッ!?」
「グ……ガアアアア!」


 しかし、ミャアの蹴りは完璧に決まったものの、コロはビクともしない……その巨体からの体重もあるのだろうが、それ以上に硬い……昆虫の見た目をしたその様相は見た目通り、甲殻な鎧となっているのだった。


「ニャニャ!?」


 自分の蹴りが効かないとは思わなかったのだろう、予想外の出来事にミャアは反応が遅れる、その隙を逃しはしないと、コロの前足がミャアに襲い掛かった。
 ミャアは、なんとか身をよじらせてそれを回避しようとするが、反応の遅れから、避けきれず、左肩を貫かれてしまった。



「ニャアアアアアアアアアアア!?」
「ミャア!!!」
「ぐっ………だ、大丈夫ニャ!!」


 その光景に思わず駆け寄ろうとするラガナをミャアは動く右腕で制止する。
 

「じゃ、じゃがっ!」


 ラガナが戸惑うのも無理はない、未だ左肩にはコロの前足が刺さっている状態だ。
 この状態ではミャアは動くことができない。
 そして、そのミャアを今一度貫こうと、コロの前足がさらにもう一本持ちあがる。


「ミャアは……負けない……負けないニャ!!」


 なんとか、自分に刺さった前足を折ろうとするミャア……だが、前足もやはり硬く、右腕一本では折ることが出来ない。
 そして、持ち上げられたもう一本の腕が、振り下ろされようとしたその時……耳に……いや、心に響く歌声が聞こえた。

 その瞬間、ミャアは先ほどまで折ることのできなかった前足を折り、その拘束から脱出する。
 そして、振り下ろされたもう一本の足も躱しきるのだった。


「これは……」
「コロの歌にゃ!」


 ラガナの驚きにミャアが答える。

 見ると、先ほどまで言葉にならない呻き声のような声しか発していなかったコロの頭が、生前のコロのような綺麗な歌声を紡いでいる。


「なんとか……頭だけ、制御出来ました……お待たせしましたミャアさん……一緒に、戦いましょう」
「コロ……任せろニャ!!」


 ヴィクトールのように全身を止めるとはいかなかったもののコロもまた、『魔』の創った身体に抵抗を示す。そして、コロの歌で強化されたミャアはまで水を得た魚……いや、魚を見つけた猫のように快活に俊敏に動く。
 
 そして、もちろん、その攻撃力も上がっていた……以前クーネル国でみせた二人の戦い方だ。
 ミャアの拳が次々と、コロの足を砕いていく。
 最後の一本を砕かれ、コロはその場に倒れるのであった。



「さすがミャアさんです……ありがとうございます」
「………コロ………助けられなくてごめんニャ……」
「何言ってるんですか、助けてくれたじゃないですか……ミャアさんは僕の最高の友達ですよ」
「コロ……」


 ミャアの眼から大きな雫が零れ落ちる。
 

「僕こそごめんなさい……嫌な思いさせてしまって……」
「謝ることないニャ……親友の頼みを聴くのは当然ニャ……」
「親友……はい、ありがとうございます」


 コロは笑顔でほほ笑むと、再び歌を奏でる……。
 再び、歌い出したコロを見て、ミャアは歯を食いしばる……それしか方法がない、これがコロを助ける唯一の方法でコロの望みだと解っているから、ミャアはもう逃げない。

 大粒の涙を流しながらも、ミャアは拳を振り上げ、コロの顔面を砕いた。
 すると、コロは黒い光の粒……色は違えどまるでモンスターが消滅するときのような粒子に変わりながらその場から完全に消滅した。




 そして、同じ時……もう一つの戦場でも同じように黒い粒子に変わり、消滅しようとしている者がいる。


「ヴィクトールさん……」
「泣くな、クオン、エリンシア……お前らの強さ見せてもらったぞ……」


 姿は鬼の形そのままであったが、その口から流れ出る言葉には優しいお父さんの温かさが戻っていた。


「カモメの事を頼む……あいつはすぐ無理をするからな……母親に……アスカによく似ている」
「はい」
「もちろんですわ」


 涙を舐めた瞳で力強くお父さんを見て返事をする二人。


「カモメに伝えてくれ……心を強く持てと……すべてを出しつくすまで諦めるなと……」
「解りました」
「二人の成長を嬉しく思うぞ……まるで我が子のように……な」


 そう言うと、お父さんは黒い粒子になり消えていく。
 本当の我が子である私の事を眼の端に捕らえながら……地面に倒れてしまっている自分の娘の姿を見ながらその娘に何も声を掛けてあげることも出来ず逝く自分に悔しさを覚えながらも消えゆくことを止めることは出来ない……そして、お父さんは完全に消滅した。








「バカナ……ニンゲンやマモノゴトキが!バカナアアアアアアアアアアアアアア!」


 自分の人形を中にいれた魂に抑え込まれたことが余程、気に入らなかったのか、『魔』はその怒りを乗せ叫ぶ。


「当然ね……カモメの仲間がアンタなんかの良いようにされるわけがないわ!」


 結界を維持し続けながらもディータが『魔』を挑発する。


「カモメ、いつまで寝ているつもり!」
「そうですわ……さっさとその犬コロを倒しちゃってくださいませ!」
「カモメ……お父さんからの伝言だ……『心を強く持て、すべてを出しつくすまで諦めるな』」


 お父さんからの伝言……そうだよね……今考えている魔法がアイツに効くかわからない……私の身体がそれに持つのかも分からない……でも、まだあきらめるには早いよね!


 私は立ち上がる……まだ……まだ、諦めない!
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