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8章

新たな魔法?

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「ガアアアア!」


 鬼のような見た目になってしまったお父さんにはもう、理性も残っていないのか、目の前の敵をなぎ倒す為拳を振るう。
 クオンはそんなお父さんを見て、ショックから動きを鈍らせたのか、避けきれずクレイジュを使ってガードをするが、その威力に負け、大きく吹き飛ばされてしまった。


「クオンさん!」
「ガアアアア!」


 久遠を心配し、叫んだエリンシアに、突進する。


「くっ、光纏躰リヒトコール!」


 銃での迎撃は難しいと判断したのか、エリンシアは身体強化の魔法を使い拳を構える。
 銃の扱いだけではなく、格闘技も一流であるエリンシアだが、お父さんから放たれる右の拳をいなそうとするが、いなしきれず、その衝撃にバランスを崩す……そして、続けて放たれた左の拳をお腹に直撃されてしまった。


「がはっ!」


 身体強化をしているとはいえ、お父さんの拳だ……それも今は異形の姿に変異し、普段の一回り大きい体躯をしている。
 まともに喰らえば、一撃で勝負が決まるだろう……だが、身体強化のお陰でなんとか、起き上がることが出来る程度のダメージで済んでいるのか、エリンシアは、肩で息をしながらも立ち上がる。


「なんってっ、馬鹿力ですの!」


 立ち上がったエリンシアの向こう側では先ほどのお父さんの拳で吹き飛ばされたクオンが、こちらに歩いてきていた。


「今まで戦ってきたどんな敵より強い……さすがヴィクトールさんだ……でも」
「あんな姿のヴィクトールさんをこれ以上見ていたくありませんわ!」
「うん」


 まるで鬼のような姿へと変異してしまったお父さん、そこには言葉にならない叫び声を上げるだけのまさに悪鬼の如き姿しか残っていなかった。先ほどまでのあの優しい声すら……今はもう聞こえない。

 

 その光景を見て、私は怒りが頂点に達する………。


「私のお父さんと友達を玩具みたいに………なんでこんなひどいことをするのさ!!」
「タノシイカラ……」


 魔獣のように変貌した『魔』からはその一言だけ帰ってきた。
 心底、性根が腐っている……許せない……絶対に許せない……だけど……。



「はあああああああああああああ!!!」


 私は怒りに任せてバトーネを振るうが……その攻撃が届く前に『魔』の前足が私を払いのける。


「きゃっ!」


 『魔』にとっては軽く前足を払い、まるで蚊でも払ったのかという程度の行動だったのかもしれないが、私はその一撃で大きく吹き飛ばされ地面を転がり、結界へと叩き付けられた。


「………勝てない……」


 光と闇の合成魔法を使えばダメージを与えられるだろう……でも、相手もそんな簡単に喰らってはくれないだろう……もし外して結界を壊してしまえば最悪だ……そう思うと強い魔法は使えない……『魔』を逃がさない為に張った結界が逆に足枷になる……とはいえ、これしか方法がなかった……『魔』に逃げられないようにするためには…………くう、泣き言なんて言ってられない……なんとか、アイツにダメージを与えて動けないようにしないと……それにはバトーネでぶっ叩くのが一番である……あるが……リーチの差で懐に潜り込むことも出来ない……悔しい、お父さんとコロをあんなにも侮辱されて……私が『魔』を倒せば二人を解放できるはず……それなのに、助けてもあげられないなんて……。



 私は………なんて、情けないんだ……。


「カモメ!諦めないで立ちなさい!!」


 ディータの声が聞こえる………立って、どうしたらいいの?


「今の貴方がアイツにダメージを与える術がないのなら……新しく作っちゃいなさい!貴方はどんな時も諦めなかった、光と闇の魔法を合成した時も、初めて闇の魔法を使った時も、そして、人間に闇の魔女として追われている時も!だから、諦めないで……諦めなければきっと何か見つかるわ!」



 新しい……何か……光と闇の合成魔法は使うと結界を壊しちゃう……なら、結界を壊さないでどうにかする方法……バトーネを使った戦い方……新しい戦い方……魔法……そうか……っ。






「カモメさんの方もヤバいみたいですわね……」
「大丈夫さ、カモメはどんな相手でも負けたりしないよ……あの子は強いからね、力も心も」
「そうですわね……なら、そんな強いカモメさんにこれ以上ヴィクトールさんの悲しい姿を見せない為にも、ワタクシ達も頑張らないといけませんわね」
「そういうこと……っ」


 クオンが奔る、まるで閃光のようなスピードで一瞬にしてお父さんの懐へと潜り込んだ。
 お父さんはそのスピードに反応するも追いつけず、右腕を上げたころには完全に懐に入られ、クオンの一撃を躱すことが出来ない。



「ガアッ!」


 普通であれば今の一撃で胴が真っ二つに分かれているだろう……だが、鬼のような姿になったお父さんの皮膚はこれまた頑丈になっていたのか斬り裂かれ血を流すも、致命傷にはなっていないようだった。


「堅いですわね……でしたらこれはどうですの!聖滅全力魔弾セイクリッドフルバスター!!!」
「グ……ガアッ!!」


 クオンに気を取られエリンシアの動きを見逃したお父さんは死角から放たれたエリンシアの全力魔弾をまともに浴びる。
 その威力は魔族でさえも吹き飛ばすほどの威力なのだが、それをまともに喰らったお父さんの五体はまだ健在であった………だが、確実にダメージを与えてはいるようで、お父さんはその体をよろめかせる。


 追撃と言わんばかりにクオンが攻撃を仕掛ける……が、その攻撃はお父さんの振った腕により弾き返されてしまう。
 その威力に後ろに吹っ飛ばされたクオンが地面を転がりながらも体制を整え立ち上がる。


 そして、そのクオンに追撃をかけるお父さんをエリンシアが魔弾で牽制するが、その牽制を全く気にも留めないのか、体で受け止めながらもクオンへの追撃を止めない。


「ぐあ!」


 お父さんの蹴りがクオンを蹴り上げる。
 クオンはクレイジュを使ってなんとかガードするが、その威力に彼の身体は宙を舞う。
 そして、空中で動きを取れない状態のクオンに、お父さんの腕が炎を纏い襲い掛かってきた。


(…………やられるっ)


 絶体絶命だと思ったその攻撃にクオンは眼をつぶり、死を覚悟した。
 だが、そのクオンの命を刈り取るであろう一撃の衝撃が来ない……。
 クオンは一向に来ない、死の衝撃に身構えながら、別の衝撃に驚きを覚える。

 その衝撃は宙を舞っていた自分が地面に落ちる音である。
 運よく、お父さんの拳が外れたのだろうか?……だが、それなら空ぶった時の衝撃が来ても良いものである……自分の横を拳が空ぶった気配もない……一体何が?
 
 不思議に思いながらも眼を開けると、そこには拳を構えた状態で固まっている、鬼の姿をしたお父さんがいた。

 あの状態で止まっているということは……お父さんは拳を放たなかったということだ……でも、どうして?


「グ……グオン……ブジ……カ?」


 鬼が喋る……その声にはお父さんの優しい声が見え隠れしていた。


「ヴィクトールさん!」
「オレが……コノ体を……止メル……そのうちに……ヤレっ」


 鬼のような体の中でお父さんが戦っている……唯の入れ物に過ぎない人形をお父さんがその魂で制御しようとしているのだ。
 クオンのピンチをお父さんが救った……魂だけの存在で、『魔』の玩具の様にされていたが……さすがお父さん、『魔』の好きになんてさせないねっ!………最高だよ!



「あまり長くはモタン………クオン……エリンシア……やれ!」
「はいっ!クレイジュ!」
(おうよ、相棒全力で行くぜ!!)
「ワタクシも全力でいきますわよ!!」


 クオンの剣が光り輝く……クオンの剣には光の魔法を宿した力がある……その力を全開にしているのだろう。そしてエリンシアも……。


光祝福リヒトブレス!!」


 身体、魔力ともに強化することの出来る、エリンシアが作り出した魔法。
 その輝きを身に纏い、銃を構えた。


「はあああああああっ!」
聖滅全力魔弾セイクリッドフルバスターぁああああ!」


 クオンの光り輝く一閃が、動きを止めたお父さんの胴を斬り裂く、そして、そこにエリンシアの全力全開の魔弾がお父さんの身体を吹き飛ばした。

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