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8章

慈愛の女神

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氷柱弾アイシクルショット!……駄目かっ、なら!光弾ライトニングバレッド!!」



 氷の魔法は『魔』に直撃するも涼しい顔をされてしまう、ならば、後試していないのは光の魔法……これで駄目なら……っ!


「おっと」


 『魔』は私の光の弾丸を避ける……先ほどまでの魔法と違い、喰らわず『避けた』のだ。
 もしかして………。


光弾ライトニングバレッド!!」
「外れ~♪」


 『魔』はまたも光の弾丸を避ける……やっぱりそうだ。
 光の魔法は避ける……つまり、ダメージが通るんだ!それなら!


炸裂炎弾バーストフレイム!!」


 私は炎の魔法を『魔』に放つ、炎の魔法は『魔』にダメージを与えられない……いや、威力の高いものならダメージを与えられるのかもしれないが、増幅版の電爆撃ライトニングブラストでも駄目だったのだ、バーストフレイムも増幅したところでダメージを与えられないだろう、かと言って合成魔法で暴風轟炎ヴィンドフラムなんかを増幅して放てば下手をするとディータ達の結界をも壊してしまうかもしれない……合成魔法を唱えるならば、それなりに『魔』にダメージを与え逃げられないくらいにしないと駄目だ。


「この魔法で私にダメージを与えられると思ったんですか?」


 『魔』はまたもバーストフレイムを避けずにくらい呆れた表情をしている……が。


「……あら?」


 私の狙いはもちろんバーストフレイムでダメージを与えることではない、その爆発で砂を舞い上がらせ、その砂塵で視界を奪う事だ。そして……っ


「増幅版!光弾ライトニングバレッド!!」
「……なっ!?」


 私は『魔』の死角に回り込み、増幅させた光の弾を放った。
 今度はその光の弾を避けることが出来ず、直撃する。


「があっ!」


 あからさまに苦しそうな声を上げる。
 よし、やっぱり、光の魔法ならダメージを与えることが出来る!


「もういっぱつ!光弾ライトニングバレッド!」
「がああああっ!」


 『魔』のどてっぱらにもう一発、光の弾を打ち込むと、『魔』は膝をつきその場に倒れた。
 ………思った以上にダメージを喰らったのか……?
 増幅版とはいえ、ここまで効果があるとは思わなかった……嬉しい誤算だね!
 なら、一気にトドメだよ!


「増幅版!光弾ライトニングバレッド……連発だぁ!!!」


 私はそれほど光の魔法が得意ではない為、光弾ライトニングバレッド以上の光の魔法が使えない……ラピュリオンでも使えれば一気に倒せたのかもしれないが威力が低い分は数でカバーだっ!

 無数の光の弾が『魔』に襲い掛かる。
 『魔』は斃れたまま、その光の弾を避けることが出来ず、そのすべてを身体で受けてしまう。
 そして………



「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 凄まじい悲鳴を上げながら『魔』はその場に倒れ伏した。


「……やった?」


 『魔』は動かない……合成魔法を使うまでもなく『魔』を倒すことが出来たのだろうか?
 余りにもあっけない勝利に私は恐る恐る『魔』に近づいた……。

 ディータもレナもまだ油断はならないと判断したのか結界は解いていない。
 そうだ、ディータ達の結界を解かせるために芝居をしている可能性もある……なら、その可能性を無くす為にも跡形もなく消滅させないといけない。


「跡形もなく消し去るよ……」


 私は光と闇の合成魔法を発動させようとする……その瞬間。


「残念、引っ掛かりませんでしたか……影槍シャドウランス
「………がっ!?」
「カモメ!!!」


 倒れていた『魔』がいきなり腕を持ち上げこちらに向けると、影の槍が出現し、私のお腹を貫いた。
 咄嗟に反応することも出来ず、私は無防備にお腹を貫かれてしまう。


「ああああああああっ!?」


 激痛が走る……大量の赤い液体が私のお腹から体温と共に流れ出るのが解る。
 マズい……この傷は……マズい……。

 急いで治癒魔法を掛けるが、お腹に風穴が開き、血も大量に流れている為か、うまく治癒できない。
 ミスった……この傷じゃあ………



「カモメ!カモメ!!」


 ディータの叫ぶ声が聞こえる。
 参ったなぁ……力がどんどんと抜けていくよ……負けちゃ駄目なのに……『魔』を倒さないといけないのに……悔しいな……

 意識が徐々に無くなっていく……。


「あらあら、今ので終わりなんてあっけないですねぇ……ああ、そうそう、もちろん、あの程度の光の魔法なんて最初っから効いていませよ♪残念でした」


 ……ムカつく奴……わざわざ光の魔法だけ避けたのもダメージを喰らったように見せたのも演技だったわけだ……そんな単純な策にまんまと引っ掛かっちゃったよ……情けない。

 私は悔しさと情けなさで泣きたくなる……そして、意識が闇に飲まれそうになる……だが、その時。


光神裁ラ・ピュリオン!!!」
「なっ……ぎゃああああ!!」


 光の最高位の魔法、それもとんでもない威力の光神裁ラ・ピュリオンが『魔』を襲った……その光神裁ラ・ピュリオンを喰らった『魔』は地面を転げる………今度のは演技ではなさそうだ……やっぱり、魔法に対する防御力が高いというだけで魔法自体が効かないというわけではないみたい……って、今頃それが解っても……私はもうどうにもできないんだけどね……。

 そう、諦めかけていた私に温かい気が流れてくる……血が流れ体温が下がり、寒さに凍え始めていた私の身体はその温かさに元気を取り戻していっている。
 落ちかけていた私の意識は戻り、何が起きているのか確認しようと合わなくなっていた焦点を戻そうと躍起になる。

 そこには、一人の女性の姿が……うちのパーティで光神裁ラ・ピュリオンを使えるのはコロとレナだけだ……コロは女性ではない上に今は『魔』の人形に魂を入れられているだけの状態だ……と、なると残るはレナだけだ……確かにレナならあの光神裁ラ・ピュリオンを放ち私を回復させることも出来るが……そうなると、結界を解いてしまっていることになる……それはマズい。


「駄目だよ、レナ………結界を解いちゃ」


 私は、レナに結界を張り直すように言う。
 だって、このままじゃ『魔』が逃げちゃう……もし私が死なずに済んでもそれでは意味がない、もし、『魔』が逃げれば、『魔』はまた身を潜め、今度は私が寿命で死ぬまで隠れきるだろう……そうなれば、もう、『魔』を倒せる人がいなくなるかもしれないのだ。
 そう思い、私は焦るのだが、焦る私に帰ってきた声はレナのものではなかった。


「大丈夫ですよ、結界は解けていません」
「………え?」


 そこにいたのは憎き敵の顔……いや、違うのか……『魔』に操られていた慈愛の女神と呼ばれる存在だ……そう、リーンである。

 そのリーンが、『魔』に体を乗っ取られていた時では想像できないほど慈愛に満ちた優しい顔で私に治癒の魔法を掛けていた。


「今、治しますから動かないでくださいね」


 暖かい、とっても温かい光の魔法が私の体を包んでいく……私のお腹の傷はみるみるうちに塞がるのだった。
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