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8章

青髪の少女

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「くっ……」
「あらあら、他の皆さんが気になっているみたいですねぇ」


 そりゃあ、気にもなるよ……普通の敵であるならクオン達なら何万と敵がいようが大丈夫だろう。
 だけど、今回はそうじゃない……敵は操られているだけの兵士で、その上、ディータとレナは結界を張り続けるために身動きが取れないのだ。


「どうしたら……」


 リーンを逃がさない為に、私自身もディータ達の張った結界の中に入ってしまっている。
 ディータ達が結界を解かない限り私も外には出れないのだ。
 でももし、結界を解いたら最後、リーンはこの場からいなくなるだろう……そうなってしまったらリーンを見つけることは困難である。

 どうする……いや、どうするも何も、リーンを倒してみんなの洗脳を解くしかない。


闇の刃オプスラミナ!」
「おやおや、いくら何でもそんな攻撃では私は倒せませんよ?」


 闇の刃がリーンに向かって飛来するもリーンは軽々とその闇の刃を打ち払う。
 だったら、大技で……。


闇魔滅砲イビルスレイヤー!!」
「あははは、そんなの当たりません♪」


 一気に決めてやろうと大技を撃つが、私の攻撃は軽々と躱される。


「いいですよ……大分、焦っておりますねぇ♪」
「くっ……」


 どうしよう、どうしたら……。


「カモメ、焦るな!」


 クオンが剣の柄の部分を使いながら、兵士を気絶させ無力化すると、私に向かって声を掛けてきた。


「リーンは君を焦らせて、隙を作るつもりだ……こっちは大丈夫、だから、君はリーンを倒すことに集中するんだ」
「でも、その数じゃ……」


 何然と言う兵士がわらわらとクオンにたかり始めている。
 いくらクオンでもあの数を無力化しながら戦うのは……それにディータやレナに近づかれたら……。
 

「くっ」
「クオン!」


 クオンの腕が兵士に掴まれる。
 だが、腕をつかんだ兵士に当身をし気絶させなんとか逃れるも、クオンは完全に兵士に囲まれてしまった。


(どうするよ相棒……なんなら斬っちまうか?)
「駄目だよ……この人たちは操られているだけなんだから」
(でもよう……)
「それに、そんなことをしたらまたカモメを貶めようとするやつらが出てくる……絶対にそんなことはさせちゃ駄目だ」
(むう……)


 やっぱり、リーンを早く倒すしか……私が焦り、そう考えているとこの混沌と化した戦場に間抜けた声が響き渡る。



「ふええええええ~~、なんで攻撃してくるですかー!?」



 声の方を見ると、私と同じくらいだろうか、とても小柄な女の子が兵士の攻撃を上手く躱しながら逃げ回っていた。
 青髪の女の子で、私はその子の姿を見たことはない……一体誰だ?
 といっても、この兵士たちの中には冒険者などもいる為、もしかしたらどこかの冒険者の子なのだろうか?しかし……


「あの子……操られていない?」
「あらあら、どうやら、私の洗脳が効かなかった子がいたみたいねぇ、可哀想に」


 そうだ、洗脳されていないということはあの子も狙われるということである。


「そこの青髪、こっちにきなさい!!」
「ふええええ、いけませんよおおおお!」


 間抜けな声をあげながら、なんとか兵士の攻撃を躱しているも、思った方向へ移動は出来ないのか、ディータの呼びかけにそう答える青髪の女の子。


「レディ、私はいいからあの子を助けてあげて」
「わかったわん!」


 ディータの護りに専念していたレディが、その場を離れ、青髪の子の元へと行く。
 そうすることで、当然のごとくディータの元へと兵士たちが詰め寄ってきた。


「ディータちゃぁん!」
「大丈夫よ!そうでしょエリンシア!」
「お~っほっほっほ、当然ですわ!!」


 恐らくエリンシアも青髪の子の元へ行こうとしていたんだろう、先ほどまで反対側にいたエリンシアが、こちらに駆け付けていた。

 ディータに群がろうとしていた兵士をエリンシアの拳が悉く鎮める。
 うちのパーティの中で一番、格闘技に長けているのはエリンシアであろう。
 もちろんラガナもそうなのだが、ラガナは正確には私のパーティと言うわけではないしね。

 そのラガナと、エリンシアがディータとレナの護衛をする。



「大丈夫ぅん?」
「ぎやあああああああ、ばけものおおおお!?」
「ひどぅい!?」


 変身の指輪を付けて人間の姿に化けているとはいえ、見た目は恰幅の良いおばちゃんである。
 その顔も、なかなかにインパクトがあるのだ。
 いきなりそんな人物が目の前に現れたらまあ、確かに、そう言う反応をするかもしれない。
 しかしあの子……すごい余裕あるな……。

 一瞬、あの子もリーンの罠か……と思ったけど、優勢の今、何か罠を仕掛ける意味があるとは思えない。
 もし何かあったとしても仕掛けてくるタイミングではないだろう。
 恐らく本当に、洗脳されずに済んだ子がいたということなんだと思う。

 まあ、もし罠だったとしてもディータ達がそれを考えないわけないと思うし、大丈夫だろう。
 楽観主義ここに極まるである。



「うっふん!回収してきたわぁん」
「ナイスよ、レディ……それで、アンタ、なんで無事なの?」
「ふえええ、なんでって何がですかー!?」


 何がって、なんで洗脳されていないのかってことだと思うけど……私でもわかるのに……大丈夫かなこの子。


「アンタ意外がおかしくなっているのに、アンタがおかしくなっていないことに心当たりはないのかってきいてんのよ」
「ふえええ、皆おかしくなっているですか!?」
「見りゃわかるでしょう!」
「ううう……あ、きっとこれのお陰ですぅ」


 そう言いながら懐から小さな袋を取り出すと、中から青い粉のようなものをだした。


「……それは?」
「私が調合した、気付け薬です……混乱や麻痺なんかにも使える優れものなんですよぉ♪」
「そんなので?……本当かしら」
「きっとそうですよぉ、私は混乱とかしない為にいつもこの袋の口を開けているんです、だからきっとおかしくならなかったんですよ~」


 本当にあんなのが効くのだろうか?でも、もし本当なら……。


「アンタ、その薬どれくらいあるの?」
「ふえ?これだけですけど……」
「くっ……いくら何でも少ないわね、兵士たちを無力化できると思ったんだけど……」
「あ、無力化なら眠らせる粉とかもありますよー」
「………」
「あれ、どうしたんですか?」
「そう言うのがあるんなら、とっとと使いなさいよ!!!」
「ひゃ、ひゃいいいい!」


 ディータがおこるのも無理はない……さっき襲われてる時に使えばよかったのに……。


「それで、その眠らせる粉はいっぱいあるの?」
「はい、これだけあります」
「アンタ……今それどこから……」


 巨大な袋がいきなり目の前に出現する。
 少なくともあの小さな女の子が隠し持っておける大きさじゃないと思うんだけど……というより、あの女の子より大きいよね……あの袋。


「何処からって……マジックポーチからですけど?」
「マジックポーチ?」
「冒険者の必需品ですよー?」


 マジックポーチ?そんなのあるの?……お父さんはそんなの持ってなかったと思うけど……いや、今はそんなことを気にしている場合じゃない。


「……まあ、いいわ、ならその粉を使わせてもらうわよ!」
「わかりましたぁ!」


 コクコクと頷きながら青髪の女の子はその袋を差し出す。
 それをエリンシアが受け取ると、早速その粉を掴み、兵士へと振りかけた。
 
 すると、兵士は一瞬で眠りへといざなわれる。
 その即効性には驚きの一言であった。


「凄いですわね……」
「自分たちが吸わないように気を付けないとね」


 ディータの言う通りだ、自分たちまで寝てしまったら意味がない。
 あ、でももし寝たらあの気付けの方の粉を貰えばいいのか……。
 とはいえ、この粉のお陰でなんとかなるかも……あとはどうやって数万の兵士にこれを振りかけるか…だね。
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