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7章

魔王との戦い⑭

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「あらら、これは厄介ですねぇ……その力、以前光の女神と同化する前の人間が使っていた力と同じですよね?」


 リーンがカモメを見て、いかにも面倒くさそうな顔をする。


「そうだよ、気の力……あなたには効くんでしょ『魔』さん?」
「あら、どこまで知っているんです?」
「過去を見させてもらったよ……慈愛の女神を乗っ取った事、アネルさんの気の力で弱った事、再びリーンを乗っ取ったこと……」
「あらぁ、でもそこまでですよね?」
「……どういうこと?」


 にやにやといやらしい笑いを浮かべリーンがカモメを挑発するように言う。


「だって、あなたのお仲間さんが私の事、気づいていなかったみたいですし?」
「意味が分からないんだけど?」
「カモメ、そいつは僕らと会った事があるみたいなんだ、魔法で姿を変えて、僕らの所に来ていたらしい」


 クオンがカモメに説明をする。
 クオンの話を聞いて、カモメは眼を丸くする。


「……一体誰に?」
「それは教えられないです♪……これからもその姿を使わせていただくつもりですから」
「悪いけど、貴方にこれからなんてないよ……ここで倒させてもらう!」
「あらら、怖いですねぇ……でも、それは無理だと思いますよ?」
「……私じゃ勝てないって言うの……ってわきゃっ!?」


 カモメがリーンに言葉を投げかけていると、不意に、横から銀色の魔弾が飛んできた。
 それをギリギリのところで転がり避けたカモメは魔弾の飛んできた方に視線をやる。


「……なっ!?」
「アンタ、一体何をやって……っ!」


 そこに立っていたのは魔王であった。
 だが、その魔王の瞳には何も映っていない……まるで虚ろのようにどことも知れぬ空を見ているのだ。


「まさか……」
「魔女ちゃん、間に合わなかったみたいね♪」



 そう、ギリギリのところで間に合ったと思われたカモメであったが、魔王の洗脳は完了していしまっていた。
 つまり、魔王はすでにリーンの言いなりの僕ということである。


「くっ……」


 再び、魔王の魔弾がカモメを襲う、カモメはそれをバトーネで弾きながら距離を取る。


「さあ、私は帰らせてもらうわね?」


 そう言う、リーンの傍らにはクリスタルに閉じ込められたレナが宙を浮いていた。


「レナ!!」
「いつの間に……」
「レナを返しなさい!!」
「いーやーでーすー♪」
「このっ……くっ!?」



 レナを救う為、リーンの元へ走ろうとするディータであったが、その行動を魔王の魔弾によって止められる。


「邪魔をしないで、三流魔王!」
「なら、私が!」


 続いてカモメがリーンに飛び掛かろうとするが、それをも魔王が魔弾で制止してしまった。


「……くっ」
「操られていても魔王さんですわね……」
「あはは!さっすが私の魔王ちゃん♪……あら?」



 声高らかに大笑いをするリーンがその笑いを止める。
 そこには魔王に斬りかかる一人の男の姿があった。


「カモメ、魔王は僕が引き受ける、だから、レナさんを……アネルさんを頼んだ!」
「さっすがクオン、私の相棒だね!任された!」


 クオンの連撃が魔王の手を塞ぐ。
 魔王はクオンの素早い攻撃を防ぐので精一杯であった。


「さあ、今度こそ逃がさないよ!」
「ねえ、魔女ちゃん?」
「……何?」


 魔王の邪魔がなくなったというのに、リーンはまるで悪いことを思いついたという表情でにんまりと笑う、その不気味な笑みにカモメは背中にゾクリと冷たい何かが走った。


「あの子、貴方の相棒なんだ?」
「そうだよ……クオンが魔王を抑えると言ったら絶対に抑えるんだから!」
「ふーん、あの子……大事?」
「……何が言いたいの?」


 クオンが大事か?
 当然大事である、大事な相棒で、大事な家族で……クオンがいないなんて考えられないくらいだ。
 …………それが一体どうしたというのだろう?


「ふふふ、言わなくても解るわ……そうね、光の女神だけじゃ、人質足りないと思っていたの……ちょうどいいわね」
「……え?」


 リーンの眼が怪しく光ると、目の前にいたはずのリーンが消える。
 そして……


「ぐあああああ!?」
「クオン!?」


 クオンの悲鳴が辺りに響き渡った。
 魔王と戦っていた筈のクオンが、リーンのに首を掴まれている。

 そして、その掴まれている首の部分から、レナを纏っているものと同じクリスタルがクオンを包み始めていた。


「クオンを離しなさい!」
「クオンさんまでクリスタルに閉じ込めるつもりですわね!?……させませんわ!」


 それを見た、ディータとエリンシアが即座に攻撃を放つが、その攻撃は魔王によって防がれる。


「邪魔をするなああ!」


 それを防いでいた魔王をカモメはバトーネで弾き飛ばし、クオンの元へ全力で駆ける。
 ……だが。


「ざ~んねん、遅かったですね♪」



 …………クオンはすでに紅いルビーのような色をしたクリスタルに閉じ込められてしまっていた。


「クオンを返せぇ!!」


 激情のままバトーネを振るうカモメ。


「わわっ、こわーい」


 笑いながらカモメの攻撃を躱すリーン。
 ……だが。


「クオンちゃんを返しなぁい!!」


 突如後ろに、現れた巨大な緑の物体。
 ―――――ーレディである。

 レディが、その剛腕を活かし、リーンの身体に抱き着き、羽交い絞めにする。


「………はあ?」


 その状況に先ほどまで心の底から楽しそうに笑っていたリーンから表情が消えた。


「汚らわしい身体で触らないで欲しいですねぇ」
「いやぁああん!?」


 突如、羽交い絞めにしていた筈のレディが壁に叩きつけられる。
 リーンが魔力の壁のようなものでレディを弾き返したのだ。


「レディ!」


 壁に叩きつけられたレディに向けてリーンが右手をかざした。


「異常種……醜いわね……殺してあげる」


 そう呟くと、リーンの魔法で放たれた極大の炎がレディに向けて放たれた。


「レディさん!避けてくださいまし!!」
「駄目、気を失ってる!?」


 エリンシアとディータが叫ぶ。
 だが、その声も虚しく、気を失ったレディに炎は襲い掛かった。


「いやああああああ!!」


 エリンシアの叫び声が響き渡る。
 だが、炎がその場の物をすべて焼き尽くす勢いで蠢き、消えた後、その光景を見て表情を変えたのはリーンの方であった。


「……あら?」
「あちち……」


 カモメがレディを庇うように両手を突き出し、立っていた。
 風の魔法で、リーンの炎を防いだのだ。


「やるわね、魔女ちゃん」
「さすがですわ、カモメさん!」


 エリンシアが歓喜の声を上げる……だが、風の魔法で防いだはずのカモメが片膝をついた。


「でも、完全には防げなかったみたいですねぇ♪」
「くう……」


 よく見ると、カモメの所々に火傷の跡が見えた。
 レディを護る為、急ぎ炎に飛び込んだのだろう。
 風の魔法を使って、レディを護るも、自分までも完璧には守れなかったのだ。


「ふふふ、まあいいです、それより、魔女ちゃん、闇の女神さん」
「……何よ?」
「この二人、大事ですよね?」
「当たり前でしょ!」
「だったら、取り返しに来てくださいね……私は謎の大陸で待ってますので」
「謎の大陸ですって?」


 この世界には謎の大陸と呼ばれる場所がある。
 噂では、千年前の戦いの時、女神が魔王を封じたとか、逆に魔王から人々を魔王から護るための場所を作った名残だとか言われているが、ディータに確認したところ、ディータもレナもそんなことはしていないそうだ。

 つまり、人々の噂通りの場所ではないということ……まさしく謎の大陸である。

 ならば、なぜその場所を調べないのかと言うと、結界が張ってあり、だれもその場所に侵入できないのだ。そして、その大陸がどれほど大きいのかも誰も分からない……そんな場所なのである。


「謎の大陸ですって……あの場所はどうやっても入れないのでしょう?」


 女神をやっていた頃のディータは自分たちの子供のような存在である人間を成長させ、見守ることに集中していた為、その大陸の事は気にも留めていなかった。だが、どうやら、アネルと同化したレナは多少調べたみたいなのだが、やはり、その大陸の事は何も分からず、侵入も出来なかったらしい。


「ふふ、入り方は自分で調べてくださいね……あ、もしかしたら『世界』なら知っているかもしれないですよ?」
「『世界』に聞けっていうの?」
「ええ、それとついでに伝えてあげてくださいな♪私はもう、脱出しましたよと……」
「どういう意味?」
「『世界』に言えば、解ります……それじゃ、頑張って魔王さんを倒して、謎の大陸に来てくださいね……じゃないと、この二人……『壊しちゃいますから』」


 
 それまで、楽し気な声を上げていたリーンが最後の一言だけ、まるで感情の無い声になる。
 その声に、カモメもディータも背筋を凍らせるのだった。

 そして、先ほどまでいたリーンとクリスタルに閉じ込められたクオンとレナの姿がその場から消える。


「待ってっ……待ってぇ!!」


 カモメは慌てて、その場から駆け出すも、すでにそこにクオンの姿はない。


「そんな……クオン!クオーーーーーーン!!!!」


 悲痛の叫びをあげ、虚空を見つめるカモメであった。
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