上 下
201 / 361
6章

カモメの全力

しおりを挟む
 ツァインの外れにある砦で帝国の兵士たちであった者たちが蠢く。
 ―――――――魔鬼。
 魔族が人間の死体を使い自分たちの使い魔として操る怪物である。
 その力は人間の力を遥かに超え、一体でもいれば人間の兵士10人分にはなるほどの強さを誇る。
 帝国の兵士であった者たちの数は十万以上……そのすべてが同時に魔鬼へと姿を変えたのだ。



「マズいですわね」
「うん、僕らはともかくこのままじゃ砦にいる兵士の人達が……」
「それだけじゃありません、もしここにいる魔鬼達が街へ辿り着いたら……」



 街の人の被害は甚大になるだろう……。


「皆!砦の中の人達を連れて出来るだけここから離れて!」
「え、でも、砦の外で魔鬼に捕まったら……」
「大丈夫、一匹もこの砦の向こうにはいかせないから!まだ動き始めてない今のうちに早く!」
「わ、わかりました、リーナ行くよ!」
「何か、考えがあるのねぇん」
「考えって程じゃないけど……うん、任せて!」
「解ったわぁん、ミャア、コロ行くわよぉん!」


 コハクとリーナ、そしてレディとミャア、コロが急いで砦の中へと向かい、中にいるソフィーナさんと兵士たちを砦の外へと誘導する。



「クオン達も早く!」
「皆が砦の外に逃げるまで、魔鬼を外に出さないようにしないといけないんだろ?」
「まだ、魔鬼は動き出しておりませんが、動き始めたらカモメさんだけでは手が足りないのではありません?」



 確かにとカモメは言葉を詰まらせる、もし、この数が同時に動き出したらカモメ一人では対処しきれない、もし、多くを取り逃がせば魔鬼達が何処に行きどんな被害を与えるか見当もつかないのだ。



「解った、私は上空から魔法を撃つから、魔鬼達を砦の近くから出さないようにお願い」


 そう言うと、カモメは上空へと飛び上がる。
 砦の方ではレディたちがソフィーナに知らせたのか、ツァインの兵士たちが砦の外へと移動を始めていた。
 このまま、魔鬼が動き出す前に兵士たちが砦から脱出出来ればよかったのだが、そうはいかないようだ。

 近くで人間のものとは思えない咆哮があがる。魔鬼達の眼が赤く光り、ゆっくりと動き始めたのだ。


「とりあえず、こっちに注意を引くんだ!」
「はいですわ!」
「エリンシア!根暗坊主!」
「ディータさん、丁度いいですわ!これからカモメさんがおデカイの撃ちます。それまで魔鬼がこの砦の近くから移動しないよう気を引いて欲しいんですの!」
「デカイのって……うわ、すごい魔力を溜めてるじゃない……」


 空を見上げると、カモメの周りには黒と白の魔力が溢れ出していた。
 それを見たディータはギョッとするが、すぐにそれしか方法が無いのだろうと理解し、行動に移る。


「ソフィーナ達がこの砦から離れるまで時間を稼げばいいのね」
「そう言う事ですわ!行きますわよ!」
「おう!」


 三人がそれぞれ、魔鬼へと攻撃を始める。
 出来るだけ派手に、出来るだけ魔鬼の注意を引けるようにと動き回り、その甲斐もあってか魔鬼達が逃げるツァインの兵士たちに向かう事は無かった。
 そして、ソフィーナ達が十分に離れると、カモメが大声で叫ぶ。


「三人とも!離れて!!」
「「「!!っ」」」


 カモメの声を聴き三人がその場を離れ始める、全力で。


(相棒、死にたくなければ全力だ!)
「解ってる!」


 クオンは目の前にいる魔鬼に目もくれず全速力でその場を離脱した。


「エリンシア、捕まりなさい!」
「ありがとうございますわ!」


 クオン程のスピードのない二人はディータの飛行の魔法でその場を離脱する。これまた全速力で。

 そして、三人が離れ始めたのを確認するとカモメは溢れ出していた魔力を掌へと集中させる。


「魔力が復活してから初めての全力……どれくらいの威力が出るか分からないけど……全力で撃たせてもらうよ!――――――光と闇よ!私に力を貸して!!」


 カモメの掌で光と闇の魔法が混ざり始める。
 以前の戦いで使った光と闇の合成魔法だ。
 以前はそれで視力を失ったが、魔力をコントロールできるようになった今のカモメならば完全に扱うことが出来る。


混沌消滅破カオスイレイザー!!!」


 カモメの掌から、特大の魔法が放たれる。
 それは一瞬で魔鬼を……砦を飲み込みそのすべてを消滅させた。
 クオン達はその魔法を見て、さらに逃げる足を速める……その顔を必死そのものであった。


 カモメの魔法が放たれたその後には何も残っていなかった、地面は抉れ、魔鬼は一匹たりとも残っていない………もちろん砦だって無くなっている。


「わ、我が国の砦が……」


 ソフィーナは遠く離れた場所から自分たちが先ほどまでいた砦が一瞬にして無くなる光景を見ていた。
 さしものレディやミャアもその威力には口を開け唖然としている。
 

(あ、あぶなっ……姐さん、加減てもんを知らねぇのかよ)
「カモメだからね……」


 何とかギリギリカモメの魔法の範囲から逃げ延びたクオンは肩で息を切らしながら乾いた笑いを上げていた。
 同じく上空へと逃げたエリンシアとディータも、その威力に笑うしかなかった。


「あ、あはは……とんでもない威力ね……」
「魔鬼の方々に同情いたしますわ……」


 帝国の人達は、兵士でもないのに操られ、殺され……醜い魔鬼の姿に変えられた。
 その上、一瞬で跡形もなく消滅させられたのだ同情の気持ちしかない。


「ふぃ~、大成功だね♪―――――ぶい!」


 Vサインを出しながら満足そうにしているカモメにクオンもエリンシアもディータも溜息を吐いた。
 確かに魔鬼を全滅させたのは良いが、国境の砦も跡形もなく消し飛んだのだ……フィルディナンド王の心労を心配する三人であった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...