上 下
196 / 361
6章

帰還

しおりを挟む
「……カモメ?」
「えへへ、ごめんね、迷惑かけて……」
「戻りましたのね!」
「うん、もう大丈夫。『魔』は抑え込めたよ」


 微笑みながらそう言うカモメに、エリンシアは安堵の表情で微笑み返し、ディータは当然という顔でよくやったと褒めた……そしてクオンは「おかえり」とカモメの頭を撫でるのであった。


「もう『魔』は出てくることはありませんの?」
「それは……わかんない。あっさりと消えちゃったし、まだ私の中にいるとは思うけど……また出てこようとするかは……」
「そうなんですのね……まあ、また出てきたらワタクシたちが何とか致しますわ♪」
「ううん、今度はもう出てこさせないよ」



 自信たっぷりの顔で言うカモメにディータは尋ねる。


「ディータ……だよね?元の姿に戻れたんだ?」
「ええ、そう言えば、貴方は過去を見た時に私を見ているんだったわね……アークミスラのお陰で戻ることが出来たわ……それより、気を操れるようになったのね?」
「うん、後、リーンから受け継いだ女神の魔力もね♪」
「なんですって?」
「見てて……」


 そう言うと、カモメは自分の周りに魔力を溢れ出させた。
 今まではディータの闇の魔法を使えるようになってから黒い魔力がカモメの周りには現れていたのだが、今は黒と白が混ざり合った……いや、光と闇の魔力とでもいうべき魔力がカモメの周りを漂っていた。
 その魔力を纏ったカモメの姿は幻想的で綺麗だと思わせる程であった。


「凄い……」
「なんか綺麗ですわね」
「これなら多分、光と闇の合成魔法も使いこなせると思う……それに、気も使えるようになったから戦力アップだよ♪」


 コハクのレベルでさえ、気を覚えた時には一気に力を増していた。
 カモメのレベルで気を覚えたらいったいどれほどの強さになるのだろうか?
 しかも、魔力も飛躍的に上がっている。合成魔法を使えない『魔』に操られたカモメでさえ、十二神将をいとも簡単に倒していたのだ……今のカモメの力は想像がつかないほどであろう。


「でも、ごめんね……その……皆に色々迷惑を掛けて……」
「はい?何言ってるのよ……迷惑なんかじゃないわ、そもそもあれはカモメじゃなくて『魔』だったんだし」
「そうですわ、お友達が困っているのですから助けるのは当然ですわよ♪それに、反対の立場でしたらカモメさんは謝れても困るんじゃありません?」
「う……確かに……」
「そうだね、僕だって君と出会った時は色々迷惑を掛けちゃったんだし、おあいこだよ」
「ありがとう……皆」


 涙を眼に溜めながらも笑顔でお礼を言うカモメを温かく迎え入れる3人であった。


「ふむ、まあ、無事でよかったのじゃ……それより、そろそろこの里を出て行った方がよさそうなのじゃ」


 一人、輪には入らず傍観していたラガナであったが、周りの反応を見ながらカモメ達に忠告をする。


「え、なぜ?」


 ラガナが周りを警戒している様子を見せていたので、カモメは周囲を確認するために周りを見渡した。


「え……ドラゴンたち?」


 見ると、警戒と不安、そして敵意と恐怖を持った目で周りのドラゴンたちがこちらを見ている。


「まあ、あの姿を見たら事情を知らないドラゴンたちは当然こういう反応をするわよね」
「そっか……そうだよね……それだけ酷いことを私はしてたんだし」
「でも、カモメは魔族以外に攻撃をしていない」
「それは貴方がカモメを抑えていたからでしょう?」
「……」


 そう、クオンがカモメを抑えていたからこそ竜達に被害は無かった。
 だが、クオンと戦っている間もカモメの口を使い、ドラゴンを滅ぼす、世界を殺すと言い続けていたのだ。ドラゴンたちが警戒するのは無理もない話である。


「急いでここから出たほうがよさそうね」
「ですわね、警戒しているうちに行かないと争いになりかねませんわ」
「じゃあ、せめてアークミスラさんにお礼を言って……」
「必要ないのじゃ、じっさまはもういないのじゃ」
「え……そんな……?」
「それはカモメのせいじゃないのじゃ、じっさまは魔族に殺された誇り高い姿だったのじゃ」
「ええ、だからとりあえずは逃げましょう」


 ディータの言葉に従い、すぐにこの場を離れ、通ってきた門を使い元のドラグ山脈へと移動するカモメたち……今回の戦いで一番の被害を受けたのは紛れもなくドラゴン達だろう。
 多くの同胞と、長であるアークミスラを失い、魔族に新たな隠れ里の場所も見つかってしまった。
 失ったものが多すぎるのだ……。


「さて、見送りはここまでじゃな」
「え?」
「余はしばらくここに残るのじゃ……さすがにレガロールだけでは心配だしのう」



 門を通り、ドラグ山脈へ戻ってきた所で、ラガナは足を止めそう言った。
 確かに、あれだけのものを失ったドラゴンたちは今再び魔族に襲われでもしたら一溜りも無い……確実に全滅してしまうだろう。ラガナが残るというのも分からないでもないのだが……。


「でも、ラガナは異常種でドラゴンたちの中では……」
「うむ、爪弾きものじゃ、じゃが、やはり余もドラゴンなのじゃ……同族が絶望に沈んでいるのを見て見ぬふりは出来ぬのじゃ……それに、このままではカモメに怒りの矛先が向く可能性もあるのじゃ」



 どういうこと?と思うカモメを余所に、ディータがラガナに賛同した。
 

「そうね、私たちが来たタイミングで魔族が襲撃、しかも『魔』に捕らわれたカモメは竜を滅ぼすとまで言ってしまっている……魔族を招き入れたのも私達だと思われる可能性があるわね」
「うむ、幸いレガロールはそうでないことを分かっているようだったしな、あ奴に協力して竜達を説得するつもりじゃ」


 もし、人間が魔族と共闘したなどと勘違いされてしまったら他の人間にまで矛先が向くかもしれない。
 それを防ぐためにラガナは自ら残ると言ってくれたのだ。
 一度、自分から出ていった場所で、きっと負い目などもあるのかもしれない、良い顔もされないだろう、でもそれでも、同胞のために、仲間の為に、友のために、ここに残ると言ったのだ。


「わかったよ、ありがとうラガナ」
「ふむ、礼などいらぬのじゃ、それより、今度はその新たな力で余と勝負をして欲しいのじゃ」
「あはは、相変わらず好きだね……うん、わかった、約束だよ」
「うむ、約束じゃ……それでは達者になのじゃ、レディたちのことは頼んだのじゃ」
「うん」


 そうして、ラガナを一人残し、カモメ達はツァインへと帰路に着くのであった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

大好きな母と縁を切りました。

むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。 領地争いで父が戦死。 それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。 けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。 毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。 けれどこの婚約はとても酷いものだった。 そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。 そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...