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6章

覚醒?

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「ぎゃああああ!」
「痛い!痛い!!」


 ドラゴンたちの悲鳴が聞こえる。
 ベラモルトは目の見えないカモメを揶揄うかのようにカモメを無視し、ドラゴンたちに攻撃を続けていた。


「私が相手だっていってるでしょ!ドラゴンたちに手を出さないで!!」
「ヒヒヒヒ!ちゃぁ~んと相手をしてあげてるじゃねぇか、おめぇが避けるからドラゴンたちに当たっちまうだけだぜ?」
「嘘つきなさい!私は一歩も動いてないじゃない!」
「目が見ないからわからないだけじゃねぇのか?俺の攻撃はお前に躱されてるぜぇ!」



 そう言いながら、カモメのいる方とは反対の方向にいたドラゴンに攻撃をするベラモルト。


「ヒヒヒ、ほぉら、また避けたぁ!」
「こんのぉ!!」


 カモメは闇雲にバトーネを振るうが、ベラモルトに当たることはない。
 その光景を楽しんでいるかのようにベラモルトは楽しそうに笑い続けるのだった。


「ベラモルト!とっととドラゴンを殺しちまいな!そして、早くこっちを手伝うんだよ!」



 クオンと戦っているマゼンダがクオンの猛攻をなんとか防ぎつつもベラモルトに声を掛ける。
 その声には一切の余裕が無いのか必死さが溢れていた。
 だが、それでもクオンをベラモルトの元へ行かせまいとクオンを牽制し続ける。
 その為クオンは、カモメの元へと行きたい気持ちでいっぱいながらも、その焦りも加わり、マゼンダを倒せずにいた。


「カモメ!無理をしないで!」
「出来ないよ!」


 カモメは再び闇雲にバトーネを振るうが、そこには誰もいない。
 このまま、戦い続けてもベラモルトが飽きた瞬間に殺されるのが落ちである。
 クオンは焦っていた。
 このままでは、カモメを失いかねない、なんとかしてこのマゼンダを倒し、カモメの元へ急ぐか、いっそ、カモメを連れてこの場から逃げるか……。

 いや、後者はあり得ない、もしそうすれば、カモメは僕じゃなく足を引っ張った自分を許さないだろう。一生、後悔し続ける筈だ……それでは命だけを救っても意味がない……どうする……。
 かといってマゼンダのタフさはかなりのものだ、防御力もだが、その防御力を上回った攻撃を何度も繰り返しているというのに、未だに弱る気配がない。
 このままでは、何れ最悪の未来が訪れる……何か方法はないのか!

 クオンはこの状況を打破できる方法を模索するもなかなか浮かび上がらなかった。


「こんのおおおお!!!」
「何!?……ちっ」


 カモメの闇雲の振った一撃が、ベラモルトの顔に掠る。
 笑い声を頼りに振った一撃であったが奇跡的に当たることが出来た。


「そこか!!」
「ふんっ」
「がふっ!」


 ベラモルトの居場所を見つけたカモメが、バトーネを強く握り渾身の一撃を振り下ろすも、ベラモルトのヤクザキックがお腹に炸裂し、後ろに吹き飛ばされてしまう。


「ちっ、飽きたぜ……そろそろ、死んでもらおうかねぇ」
「げほっ、げほっ」


 お腹に強烈な一撃を受けたカモメはその場に蹲り、咳き込む。
 そのカモメに手をかざし、針のように変形させ串刺しにしようとするが……何かを思いついたのかベラモルトはその手を止めた。


「おい、人間の坊主!」


 ベラモルトはマゼンダと戦いを繰り広げているクオンに向かって語り掛ける。


「ここにいるドラゴンを殺すことに手を貸すなら、お前とこの女を助けてやってもいいぜ?ヒヒヒヒ!」
「……なんだと?」
「それが嫌だって言うんなら仕方ねぇ……この女……今殺すぜ?」
「……くっ」


 ベラモルトは針のようになった手をカモメの喉元まで伸ばし、いやらしい笑いを浮かべながらクオンを見る。その顔はさも楽しそうに笑っていた。


「さあ、どうするよ、人間の坊主……相棒を見捨てるかい?」
「やめろっ!」


 マゼンダとの戦いを中断してクオンは剣を下ろす。


「お、ドラゴンを殺すのを手伝うのかい?ヒヒヒヒ!」
「駄目、クオン……」
「ドラゴンは殺せない……」
「あん?じゃあ、この娘が死ぬぜ?」
「代わりに僕を殺せ!それで、カモメとドラゴンを見逃してくれないか?」
「あん?………ぶっ、ヒャ~ッハッハッハ!!何?自分が死ぬから他を見逃せって言うのか?どんな自己犠牲だよ!!そんなもん、お前が死んだ時点で全員の死が決まるじゃねぇか!俺がそんな約束守ると思ってるのか?」


 腹を抱えて笑うベラモルト。
 だが、そのベラモルトの言う通りである、この場で唯一、魔族と戦えるクオンが死んでしまえば、誰も魔族を止めることが出来なくなる。クオンが殺されたのならば、その後魔族がこの約束を守る必要は無くなるのだ、すでにクオンと言う脅威がなくなるのだからやりたい放題である。


「そうだよ!クオン!私はいいからドラゴンを護って!!」
「あん?つーかよぉ?嬢ちゃんはなんでそんなにドラゴンを護りてぇんだ?人間のお前たちはドラゴンを魔物と同じ扱いをしてたろ?死んだってかまわないんじゃないか?」
「ふざけないで!ドラゴンは私の家族だよ!!」


 そう言うと、その言葉を発した本人であるカモメ自身が一番の驚きを見せた。
 少し前まで、ドラゴンの事を魔物だと思っていたのは確かだ、なのに、なぜ今、私の口からドラゴンは家族だなどと言う言葉が出たのだろう……そう思うカモメに、ふと竜の秘宝で見たリーンの過去が思い浮かぶ。


「リーンの……お祖母ちゃんの過去を見たから?私の中のお祖母ちゃんの血がそう思わせてるの?」


 そう、カモメの中には4分の1ではあるが慈愛の女神であるリーンの血が流れている。
 そして、リーンにとってドラゴンは自分の創造した生き物だ……つまり、子供のようなものである。
 ディータやレナが人間に同じ感情を持つように、リーンもまた『魔』に侵されるまでは同じようにドラゴンたちを想い続けていた。
 その気持ちが、カモメの中にも受け継がれていたのだろう。


「そっか……だから、私はドラゴンを見捨てられないんだ……」
「あん?何をブツブツ言ってやがる?」
「絶対にドラゴンを見捨てないって言ったのよ!!電爆撃ライトニングブラスト!!」


 カモメは両手を前に突き出し、電撃を召喚する魔法を使おうとするが、掌からは何もでない。


「ヒ、ヒヒヒヒ!なんだいそりゃ?魔法使いごっこでも始めたのか??」


 その姿に嗤う、ベラモルト。
 それも仕方ないだろう……魔法が出なければ、変なポーズをとっているだけの状態なのだ。
 だが、カモメは諦めない。


電爆撃ライトニングブラスト爆発炎弾フレイムエクリス風弾ウィンディローア!」
「ヒヒヒヒ!恐怖でおかしくなったか??」


 カモメが何度も魔法を使おうとするが、魔法は発動する気配も見せない。
 やはり、魔力が乱れているようで、掌に魔力が集中することはなかった。


「おっと、一発魔法が出たようだぜ?ドーン、ドラゴンに命中~~~ヒヒヒヒ!!」
「ぎゃああああ」


 まるで揶揄うようにそう言うと、手を変形させカモメの視線の先にいたドラゴンを串刺しにした。


「なっ、やめなさい!」
「俺は何もしてないぜぇ?お前の魔法が当たってるだけだぜ、もう一発でた~~♪」
「痛い!痛い痛い痛い!!!ぎゃあああああああ」


 今度は無数に増えた細い針上の手を体中に刺されたドラゴンが悲鳴を上げると、その針の先がそれぞれ別の曲がり、体中を串刺しにする。


「やめて……やめなさい……」


 声のトーンが落ちたカモメを見て、再び愉快そうに笑うベラモルト。


「おいおい、泣いちゃう?泣いちゃうのかい?」


 カモメを煽る、ベラモルトだが、クオンはカモメの様子がおかしいことに気付いた。
 カモメの周りから黒い魔力のようなものが少しずつあふれ出していたのだ。


「あれは、魔力かい?ベラモルト気を付けるんだよ!」


 クオンと再び戦い始めていたマゼンダも、『ソレ』に気付いたのか、ベラモルトに注意を促す。


「あん?何を注意しろってんだ?」
「気付かないのかい!その娘魔力を放ち始めているよ!!」
「あん?ハハハハ!本当だ、少しだけ魔力がでるようになったじゃないか嬢ちゃん、ヒヒヒヒ、ドラゴンを殺すと魔力が戻るのかい?なら、もっと殺してやるよ!」
「ぎゃあああああああああああ!!」


 再び、ドラゴンに攻撃をするベラモルト。
 クオンはその光景を見て不安を覚えていた。
 カモメの魔力は確かに黒い魔力だ……だが、今はなっている魔力はいつものカモメの魔力とは違うような気がするのだ。いつものカモメの魔力はその色とは逆に暖かさを感じる魔力であった……だが、今のカモメの放つ魔力は冷たく、恐怖すら覚えるのだ。


「止めなさいって言っているでしょう!!」
「何!?ぐおおおおおおおお!?」


 カモメの身体から、黒い魔力が吹き出す、その凄まじい魔力にベラモルトは吹き飛ばされた。
 そして、カモメが立ち上がる……赤黒い魔力纏いながら……。

 通常であれば魔力が戻ったと喜ぶところであるが……カモメの異常な状態にクオンは絶句する。
 カモメの放つ魔力だけではない、カモメの開いた瞳の色も赤黒く変色していたのだ。
 そして、その眼にはカモメには似つかわしくない憎悪と怒りの感情が籠っていた。
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