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6章

ナックル

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 竜の住処に轟音が鳴り響く。
 それは、カモメ達が特訓に使っていた、竜達の居住スペースから少し離れたこの広場にも届いていた。


「始まったみたいだね……」
「大丈夫、エリンシア達なら魔族なんて返り討ちにするさ」
「うん……でも、歯がゆいよ……皆が戦っている時に何もできないなんて……」


 カモメは手を強く握り悔しそうな表情を浮かべた。
 そんなカモメたちの元に複数の足音が近づいてくる。


「早く避難をするんだ!女子供が優先だ!早くしろ!!」


 広場に複数のドラゴンたちが駆け込んできた。
 その数は数十体に上るであろう、だが、元々ドラゴンたちの為に作られたこの場所は巨体であるドラゴンたちが数十体来ようとも余裕で入る大きさであるのだが……ドラゴンたちの中には怪我をしたものなどが含まれているのか他のドラゴンに運ばれてくる者、担架のようなものに乗って運ばれるものなどがいた。


「クオン……」
「どうやら、戦闘能力の低いドラゴンがこの場所に避難してきたみたいだ」
「そうなんだ……怪我をしているドラゴンはいる?」
「うん、結構いるみたい」


 カモメの魔法が使えていれば怪我をしているドラゴンたちに治癒魔法を掛けることが出来たのだが、今のカモメは治癒魔法も使えないほど魔力が乱れているのだ。



「カモメ、気持ちは分かるけど、どうしようもないよ」
「……はあ、情けないなぁ」


 未だに『魔』の力を制御することが出来ていないカモメは深いため息を吐く。


「それに、ドラゴンの中にも回復魔法が使える人がいるみたいだ」


 クオンの言う通り、傷ついたドラゴンたちの元に近づき、癒しの魔法を使う者がいる。
 幸い、そのドラゴンの癒しの力は高いらしく、大けがを負っていたドラゴンたちから順番に回復をしていった。


「後は、エリンシア達が魔族を撃退してくれることを祈るだけさ」
「うん……」
「大丈夫、もし仮にここまで敵が来たとしても、僕がここにいる全員を護るよ」
「あは、クオン、ありがと♪」


 もしここで、カモメを護るよと言えば、きっとカモメは自分よりドラゴンを守って欲しいと言ったであろう。それが解っているクオンはカモメも含めこの場にいる全員を護ると言ってのけたのだ。


 轟音が鳴り響く中、この広場では束の間の一時が訪れていた。
 だが、その広場には一つの不穏な影がすでに入り込んでいたのだ。







「ちっ、てめぇら……やってくれるじゃねぇか!よくも俺様のセットを乱してくれたな!」


 ラガナに殴られ、エリンシアに聖滅全力魔弾を打ち込まれた魔族が、自分の頭を指して怒鳴る。
 そこには先ほどまでしっかりとセットされていたリーゼントのような頭が、まるでたわしのようにボサボサになっていた。


「あら、そちらの方が似合っておりましてよ?」
「ま、元々ダサいから、少しマシになってもダサいことにかわらないけどね」
「んだとぉ……上等だ……この十二神将が一人、ナックル様がテメェらの相手をしてやらぁ!」


 ナックルと名乗った魔族が両の拳を胸の前で勝ち合わせ血走った目でエリンシア達を睨む。


「あら、でしたらワタクシがあなたの相手をさせていただきますわ……いいですわね、ラガナさん?」
「うむ、別に構わんのじゃ」
「ああん、テメェ一人で俺の相手をするってのか?」
「当然ですわ、貴方みたいなお雑魚、ワタクシ一人で十分ですわよ!お~っほっほっほ!」
「ぶっ殺す!」


 怒りのままに突っ込んでくるナックルにエリンシアは拳を構える。


「何あれ……銃じゃなくて拳で戦う気なの?」
「そうみたい」
「馬鹿ね……人間が私達魔族と殴り合うなんて出来るわけないじゃない……ドラゴンならまだしも」


 遠巻きに見ている他の魔族たちがエリンシアを嘲笑う。
 だが、次の瞬間にはその考えが間違っていたことを自分の仲間が彼に宙を舞う姿と共に思い知るのだった。


光纏躰リヒトコール!」


 光がエリンシアの全身を纏い、そして、魔族以上のスピードで迫りくる魔族の顔面に拳を叩き込んだ。
 自分の突進する勢いと、強化されたエリンシアの拳の勢いを受け、ナックルは後頭部から地面に叩きつけられるもその威力は治まらず、そのままバウンドして空中を舞うのだった。


「何あれ……ほんとに人間なの?」
「異常……帝国の人間……あんなに強くない」


 魔族たちは帝国の兵士くらいしか人間を知らない。
 いつから、魔王が帝国を支配していたのかは分からないが、どうやらエリンシア達ほどの使い手は帝国にはいなかったようだ。


「追撃ですわ!聖滅弾セイクリッドブリッツ!!」


 エリンシアの放った光の弾が、ナックルに直撃する。


「くそっ……」
「ホント、タフですわねぇ……」


 直撃をするも、その直後にナックルは起き上がり、ダメージは受けているようであったが致命傷とはいかないようであった。


「ウシャシャシャ、コロスコロス!!」
「なっ、ベリット!邪魔するんじゃねぇ!!」


 ベリットと呼ばれた魔族の腕がエリンシアに向かって伸びる。
 エリンシアはその腕を避けるが、エリンシアの避けた方向に腕は曲がり追いかける。


「なっ!?」


 まさか伸びた腕があらぬ方向へ角度を変えてくるとは思わず、エリンシアは油断をした。
 迫りくる腕を避けることが出来ない体勢になってしまったエリンシア……だが、エリンシアに届く前にその腕はその進行を止めた。


「けったいな腕なのじゃ……魔族と言うのはおかしな奴が多いのじゃのう……」


 腕を止めたのはラガナである。
 伸びて進行してくる腕を、ラガナは片手で掴むとその腕を引っ張り、本体であるベリットをこちらに引き寄せる。


「人の戦いの邪魔をするものではないのじゃ!!」
「ギャっ!!」


 自分の近くまで引き寄せたベリットを開いている方の右腕で思いっきり殴りつけた。
 ベリットは奇声を上げながら地面へとめり込んだ。


「あいつ……厄介ね……」
「でも、アイツらだけ……あとは雑魚」
「確かに……それじゃあ、後は貴方に任せていいかしらん?」
「問題ない……アナタは……他のドラゴンを殺してきて」
「了解!」


 エリンシアがナックルに、ラガナがベリットと戦っている間に残りの二人の魔族のうち一人がこの場から離れていく、奥に逃げたドラゴンたちを殺しにむかったのだ。


「させないわよ!」


 それに気付いたディータが魔族を止めようとするが、その前に、もう一人の魔族が立ちふさがる。


「残りの雑魚は私が相手する……死んで」
「雑魚ですって……言ってくれるじゃない……」


 雑魚と言われてカチンときたのか、ディータの蟀谷らしき場所に青筋が浮かぶ。


「ディータ殿このままでは我らの同胞が……」
「アークミスラさま!私があ奴を追います!」
「駄目よ!あなたが行っても殺されるだけだわ!」
「なっ、だが、見殺しにしろというのか!!」
「大丈夫よ……向こうには生意気だけどそこそこ腕の立つ奴がいるから……」


 そう言うとディータは目の前の魔族に向き直った。


「十二神将……フラン」
「あら、私はディータよ……闇の女神と呼ばれているわ」
「……?……唯のぬいぐるみ」
「今は、そう見えるかもだけど!本当に闇の女神なのよ!!」


 ちっちゃな姿のディータは手足をバタバタとさせながら反論するが、その姿は女神の姿とは遠く離れていた。
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