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6章

経緯

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 「なんてこと!すでに新しい女神がこの世界に来ていたなんて!」


 リーンは憎らしそうに魔王と対峙する黒髪の女性を見ている。
 

 (あれって……)


 カモメはその黒髪の女性を見ていると、不思議と心が安らぐ……目の前にこれ程、恐怖を与えてくるリーンという存在があるにもかかわらず、あの黒髪の女性はカモメを安心させるのだ。


「ふははは、闇の女神よ……なかなか楽しめるではないか!」
「こっちは詰まらない男のダンスを見て飽きてきたころよ」
「言ってくれる!」
(やっぱり、あれがディータだ!)


 カモメは初めて本来の姿のディータを見て、その美しさに心を躍らせていた。
 ディータってあんなに綺麗だったんだ、背が高いね!かっこいい!など、まるで今まで見てきたことを忘れてしまったかのようにディータの事を見て、心を荒ぶらせていた。

 ディータと魔王の戦は互角の勝負を見せながらもついに決着の時を見せる。
 結果は相打ちである、ディータの放った闇の魔法が魔王のお腹に大きな風穴を開けるがそれにカウンターで放った一撃がディータの胸を抉っていた。


「姉様!」


 倒れたディータに一人の女性が近づいてくる、あれが恐らくレナさんなのだろう。
 必死に回復魔法をディータに掛けるが、ディータの傷は治ることが無かった。


「あの三流魔王、嫌らしい呪いを掛けたみたい。治癒が効かないわ」


 どうやら、魔王の呪いで回復魔法をうけつけないらしい。
 そんな力もあの魔王にはあるのか、気を付けないとね。
 

「リーン様、ここは撤退を!」
「ちっ……そうですね、ここは退きましょう」


 忌々しいという目つきで女神たちを見るリーンであったが、旗色はこちらが悪いのを理解している為、渋々、撤退を了承する。


「……あの女神たちは殺しておかないと、今後も邪魔をされそうね、一匹は今回の戦いで死んだみたいだから……もう一匹。」



 魔王たちが異世界に撤退をしたため、それを追いかけて他の魔族も戻ろうとする、そんな中、リーンは足を止めた。


「いかがされた、リーン殿?」
「このままではこの世界の闇は我々の世界を飲み込んでしまいます」
「で、ですが……」
「ですから、私はここに残り闇の進行を食い止めて見せます」
「そんなことが出来るのですか!?」
「ええ、魔王様が復活なされるまでの時間稼ぎでしかありませんが……」


 リーンの言葉に周りの魔族たちは目を輝かせた。
 そう、魔族たちの世界は天変地異の前触れのように災害が起き、すでに生き物が住むには辛い場所となり始めている。
 そして、その原因がこの世界の闇だとリーンは魔王たちに入れ知恵をする。
 もちろん、これは嘘である……いや、その災害を起こしているのがリーン本人なのだから、嘘とは言えないのだろうか?だがリーンは祈りでその災害を和らげることが出来る者として魔族たちに信頼されていたのだ。そして、そのリーンがこの世界に残り、闇を食い止めると言ってくれたのだ。魔族たちはそれを信じ喜んでしまうだろう。



「解りました、魔王様にお伝えしておきます……リーン殿もお気を付けて」
「ええ」


 ニッコリと笑うその表情には以前の慈愛の女神の面影がある……が、その笑顔の裏側にはやはり狂鬼の顔が隠れていた。


「行ったわね……まずはあの光の女神とかいうのを殺しましょう」





 場面は移り変わり、今度は人間と竜が戦っている場面となった。
 だが、人間たちの様子がおかしい、目の前でドラゴンのブレスが迫っているというのに避ける気配も見せず、そのまま消し炭になる。それを見た他の人達もその光景に恐怖するでもなく、ただ闇雲にドラゴンたちに向かって行くのだ。


(様子が変……あ、あれって!?)


 戦いの中、倒れている女性と、それを護るようにしている竜が一人、そして人間の女性が一人周りを警戒していた。
 倒れている女性はレナである。
 そして、レナに近づいていくリーンはレナ達の話が耳に届く。



「へー、良いことを聞いたわね。そう、闇の女神も生きているのね」


 そう、偶々、ディータの事を話してしまっていたのだ。
 ディータはすでに死んでいると思っていたリーンであったが、ここで邪魔ものがまだ残っていることを知ってしまった。
 だが、今は目の前の光の女神を殺すことを優先している。今度は逃げられる前に止めを刺してしまおうという事だった――――――だが、あと一歩のところでアネルによって阻まれる。



(さすがアネルさん!……あれ、でもアネルさんって一体いくつなんだろう?)



 そう、これは過去の話で千年前の戦いから数日しか経っていない。つまりアネルは1000年以上生きていることになるのだ。アネルの身体にレナが入ったことを知らないカモメは「アネルさんってすごいおばあちゃん!?」などと、とんちんかんな事を思っている。


「くっ……何よ、今の……左腕が動かない?入れ物が故障したのかしらね……ちっ、まあいいわ、放っておいても光の女神は死ぬ……ここは一旦退きましょう」


 アネルの使った気というもので大きくダメージを受けたリーンはその場を離れた。
 そして、動かなくなった左腕を支えながら遠く離れた森まで移動したのだ。


「くっ……なに……これ……体の様子が……」


 そう口にするとリーンは眠るように意識を失った。
 だが、それも一時のことである、目を覚ましたリーンは左腕も動かせるようになっていた。
 ………だが、その様子は少しおかしい。

 茫然と自分の左腕を見たり、思い出したかのように空の星を見ていたりする。


(どうしちゃったんだろう?………え!?)


 カモメが不思議に思っていると、リーンの頬を伝う一筋の雫に気付く。
 ――――――リーンが泣いていた。
 予想外の事にカモメの思考か一瞬停止する。だが、次のリーンの言葉にカモメはさらに驚くことになった。



「私はなんてことを……私の愛しい竜達に酷いことを……異世界の関係のない者たちにも……『世界』は何も悪くないのに……なぜ、世界を憎んだりしたの?……わからない……自分が解らないよ」


 そこには悪女の姿は無く、自分の行動を公開する慈愛の女神の姿があったのだ。
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