上 下
167 / 361
6章

竜王アークミスラ

しおりを挟む
 「凄いですわね……」


 ――――――――――青い空、白い雲、そして広がる大草原。

 洞窟に一歩足を踏み入れるとそこには雄大な景色があった。



「ここがドラゴンたちの住む場所なのか」
「そんなにすごいの?」
「うん………大自然って感じだ」


 目の見えないカモメにクオンはその凄さを口で説明しようとするが、うまい言葉が出てこない。
 それほどに壮観な景色なのだ。


「ふんっ、人間に褒められても嬉しくはないがな」
「レガロールよ、もう少し素直になったらどうじゃ?」
「私は素直だ」
「……」
「黙って見つめるな」


 どこら辺が素直なんじゃ?と言いたいところであるが、そう言ったところで否定されるのが見えているので、ジト目で見つめることを選ぶラガナ。……思ったより効いているのか、とても嫌そうな顔をした。


「ところで、あそこに見えるのは街ですの?」
「ああ……」
「ドラゴンって街を作ったりするんですのね」


 当然の疑問である、魔物と言われているドラゴンがまさか街を作っているなんて思いもしなかったのだ。
 だが、そのサイズはドラゴンたちが住むだけあってとても大きい。人間が住むにしては大きすぎるといった具合であった。


「そうね、人間には魔物と言われているけど、それ程には変わらない生き物なのよ」
「そうなんですのね……ってアネルさんは知ってらしたんですの?」
「あ、え、えっと、そう、昔そんなことを聞いたことがあったような?」
「なんで疑問形なんですの?」
「おバカ…」


 ついつい、女神の知識で話をしてしまったアネルにディータがポコリと頭を叩く。


「私が話したのよ、女神である私は昔ドラゴンとも一緒に戦ったこともあるしね」
「ああ、そうなんですのね」


 ディータがフォローを入れると、エリンシアは納得したようだった。


「王の所に案内する……ついてこい」


 そう言うと、カモメ達の前を歩き出す、レガロール。
 そのレガロールの後をついていきながら、ドラゴンたちの街を見渡すエリンシアがひとつのことに気付く。


「なぜ、作りかけの建物がこんなにあるんですの?」
「言っただろう、前の住処は魔族に襲われたのだ。ここはまだ新しく作っている最中だ」
「いつ頃からここに引っ越したんですの?」
「二日前だ」
「ああ、そうなんですのね……って二日!?」



 エリンシアがビックリするのも無理はない。
 なにせ、竜達の街は作りかけの建物があるものの、見た目的には殆ど出来上がっているのだ。
 街の大きさもツァインとほとんど変わらないくらいの大きさである。
 それをたったの二日で…。


「我々は人間とは違う、怠惰に無駄な時間を過ごしたりはしない」
「ほぇー」
「カモメみたいに間抜けな顔をしているのじゃ」
「え!エリンシアが!?……くぅ……見たかった」
「し、してませんわよ!?」


 自分の顔が間抜けだと言われているにも関わらず、エリンシアの呆けた顔を見たがるカモメに、クオンは『そこは否定しようよ』とツッコミを入れるのであった。


「ここだ」


 そこには六角形の建物がひとつ建っていた。
 王のいる場所ということで、お城のようなものを期待していた一同であったが、意外な形に驚きを隠せない。


「レガロール様」
「王への話は通っているか?」
「はい、お会いになられるようです、円卓の間にいらっしゃいます」
「わかった」


 どうやら、先に飛んで帰ったドラゴンたちが、すでにカモメ達のことを話していたようだ。
 カモメ達はレガロールに導かれるまま、その建物の奥へと入っていった。

 そして、一際大きな扉の前に立つと、その扉が自ら開く。
 その扉を潜ると、レガロールは人間の姿からドラゴンの姿へと戻るのであった。


「アネル殿よ、よくいらした」


 円卓の机と椅子がある、その奥で、一際大きなドラゴンがディータ達を見てそう言う。


「久しぶりね、アークミスラ」


 アークミスラというのはドラゴンたちの王の名前のようだ。
 威厳たっぷりのアークミスラはドラゴンの顔でありながら優しそうな雰囲気を出していた。


「して、用と言うのは、そこの馬鹿息子の事ではあるまいな?」
「息子?ラガナさんは竜の王さんの息子でしたの?」
「……一応そうなのじゃ」


 これまた、ビックリである。
 ということは、ラガナはドラゴンたちの王子様というわけだ。


「余は唯の付き添いじゃ、それよりもじっさまに頼みがあるのじゃ」
「誰がじっさまじゃ!ワシはまだ若いわい!!」


 突然の咆哮に目の見えないカモメは驚き、クオンに抱き着く。
 クオンはその行動に顔を真っ赤にしながらもカモメの頭を撫でてあげていた。


「あらあら、役得ですわね」
「ち、ちがっ」


 揶揄うエリンシアに、さらに顔を赤くするクオンであった。


「アークミスラ、カモメに竜の秘宝というのを使わせてもらえないかしら?」
「なんじゃ、このぬいぐるみは?」
「誰がぬいぐるみよ!!ふざけたこと言うとぶん殴るわよ!」
「ぬ?……お主もしや?」
「久しぶりね……千年前の戦い依頼だけど、随分歳を取ったみたいね」


 どうやら、千年前の戦いの時に女神の姿だったディータと面識があるようだった。
 

「あの後、色々大変だったみたいね」
「闇の女神殿か……そうか、新たな希望が見つかったのだな?」
「ええ、とてもいい子が見つかったわ」
「そうか、それがドラゴンじゃないのは残念だが、あなたが戻ってこられたことは素直に嬉しいぞ」


 やはり、アークミスラも人間たちにはいい感情を持っていないようだった。
 いや、人間たちに襲われた当時から生きているアークミスラこそ、その怒りは一番大きいのかもしれない。


「という事は、その娘がここに来た理由というわけか……それにしても竜の秘宝の存在をどこで……いや、そこの馬鹿息子だろうな」
「ええ、ラガナから聞いたわ……今カモメは自分の魔力が大きくなりすぎて制御できないでいるの。なぜいきなり魔力がこんなにも膨れ上がったのか、それが知りたくてここに連れて来たわ」
「ふむ、他ならぬ、ディータ殿の頼みじゃ……許可をしよう」
「こちらについてまいれ」


 そう言うと、竜の姿から人間の姿に変わるアークミスラは椅子の裏にあった仕掛けを押す。
 すると、王座の後ろに通路が出来た。


「この奥だ」


 アークミスラはその通路の先へと歩いていくのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

大好きな母と縁を切りました。

むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。 領地争いで父が戦死。 それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。 けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。 毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。 けれどこの婚約はとても酷いものだった。 そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。 そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...