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5章

アネルとレナ

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 「誰を育てるんですか?」


 不意に聞こえた声にビクリと体を震わせるレナ。
 


 「誰?」
 「ご、ごめんなさい、いきなり話しかけてしまって……私、アネルっていいます!……きゃっ」


 一人の女性が木の陰から慌てながら現れ、そして慌てていたのか木の根に躓き転ぶ。


 「だ、大丈夫ですか?」
 「えへへ……大丈夫ですぅ……」


 思いっきり顔面から転んだため鼻を強打したのか、笑顔で笑うその女性の鼻からは赤い液体が流れていた。


 「はあ……大丈夫じゃないじゃないですか」
 「わわっ」


 レナはその女性に近づくと、治癒魔法を使い、回復をしてあげた・¥。


 「も、もったいないですよ!?女神さまの回復魔法を私なんかに!?」
 「魔力はすぐ回復するんだから何ももったいなくないです、それよりジッとしててください」
 「は、はいっ……」


 ジッとしていてと言われた女性は背筋をピンと伸ばし微動だにしなくなる、その行動にレナは何かおかしくなり、くすくすと笑ってしまった。



 「ふふふ、あなた面白いですね」
 「ふぇ!?あ、ありがとうございます?」


 決して誉め言葉ではないだろうにお礼を言ってくる女性をみてさらにおかしくなったのか、レナは声出して笑った。



 「貴方、名前はなんていうのですか?」
 「あ、アネルっていいます!」
 「アネルちゃんね、アネルちゃんは魔王がいなくなって嬉しい?」
 「も、勿論です!レナ様とディータ様には感謝してます!」
 「ありがとう」


 出来る限り、人間とは関わらないようにしようとしていたレナであったが、元々、自分たちの創った世界に生きる人間たちを大好きなのである、一度、心を許してしまったら止まらない。
 心の底では大事な子供のように思っている人間たちがどう思っているのか知りたくて仕方なかったのだ。


 その後、色々な話をした、レナとアネル。
 アネルは人間の王様の身の回りの世話をする仕事をしているらしい。
 戦うちからのない人間が、戦場にも出ていたことを知ってびっくりするレナ。
 だが、そんなレナに、アネルは自分から志願したんだといった。



 「どうして?アネルちゃんは怖くは無かったんですか?」
 「怖かったですよぉ……でも、王様たちだってそんな中、一生懸命戦って私達を護ってくれようとしてましたから……私も逃げたくなかったんです」


 人間はドラゴンや私達女神と比べると、かなり非力である。
 この頃の人間は強い魔法を使える人間も少なく、魔鬼を相手にするのも数人がかりでなければいけないほどであった。
 それなのに、人間はいつも前線で戦い続けていた。
 ドラゴンたちは弱いくせに前に出たがる傲慢な奴らだと言っていたが、レナとディータはその勇気こそ人間たちの強さだと信じていた。

 そして、それが間違いではなかったのだとアネルを見て確信するレナであった。



 「ふふふ、強いんですねアネルちゃんは」
 「つ、強くなんてないですよぅ!?」
 「アネル!どこへ行った!!」


 楽しく話していると遠くからアネルを呼ぶ声が聞こえる。


 「はわっ!王様です!ごめんなさいレナ様、私、お仕事に戻ります!」
 「分かりました、お仕事頑張ってくださいね」
 「はい!ありがとうございま……ぺぎゃっ」


 後ろを向きながら走った為、またも転ぶアネル。
 慌てて起き上がると照れ笑いをしながら再び、走り出した。
 その光景を微笑ましく見るレナは再び、星空を見上げる。


 「私達が護ったんですね……姉様」


 


 勝利を祝う宴も終わり、夜が明ける。
 人間たちは自分たちの国に戻る為、ドラグ山脈を後にすることになった。


 「女神殿、本当に我々の国には来てくださらないのですか?」
 「ええ、私は人ならざる者です、人間たちの国には行く事はできません、ですが、あなた達ならこれからも大丈夫です、優しさと勇気を忘れないでください」
 「ははっ、ありがとうございます。では、残念ですが我々はここで」
 「ええ、気を付けて」


 人間の王はそう言うと、共に生き残った人間を連れてドラグ山脈を下山し始めた。


 「人間の女神よ、これで、我々との契約も終わりだな」
 「そうですね、協力してくれてありがとうございます」
 「なに、魔王は我らにとっても脅威だ、それを退けることが出来たのだから、礼を言うのは我々の方であろう」


 今度はドラゴンの王がレナにお礼を言う。
 ドラゴンたちも共に戦い、女神や人間に心を許していた。
 魔物でありながら、心を持つ種族であるドラゴン。
 このドラゴンたちは昔からのこの世界に住む生き物で、レナやディータが創造したものではない。

 その為、最初こそ、レナやディータの事を信用してはいなかったが、その力とやさしさに次第に心を許すようになったのだ、そして、その女神たちが護ろうとしている、この世界と人間たちにも心を許し始めていた。


 「それじゃ、私は帰ります」
 「うむ、世話になった」
 「それはお互い様です……それじゃ……え?」


 ディータと共に過ごした住処に帰ろうと思ったレナの後ろに、殺気を持った、何かの気配が現れた。


 「光壁ライトシールド!」
 「グギャ!?」


 光の壁を使い、その殺気から身を護るレナ。
 襲ってきた何かは、地面に転がり、その姿を晒した。


 「ゴブリン?」
 「なぜ、この山にゴブリンなどが?」


 竜の王が疑問に思うのも当然である、ドラゴン程の強力な魔物が住むこのドラグ山脈はドラゴンたちを恐れて、弱い魔物は近づかない。
 その上、今はレナもいるし、人間たちも大勢いたのだ、そんな場所になぜ、ゴブリンが?
 いや、それどころか、レナを襲ってくるなど……そう思い考えるレナに竜の王が声を掛ける。


 「女神よ、そ奴だけではない!」
 「え?」


 その言葉に、周りを見ると、多くの魔物がこの一帯を囲んでいた。
 ――――魔物の大群である。


 「どういうこと?」
 「分からぬ……だが、我々を襲いに来たのは間違いあるまい」


 魔物が?
 ドラゴンのように知能のある魔物は少ない、その為、獣のように目の前の獲物を襲うだけで何かを狙って動くという事がほとんどない魔物なのだが、その魔物が、明らかに統率され、目の前にいる。


 「下山をした人間どもは無事なのだろうか……」
 「アネルちゃん……」


 少し前に下山をした人間たちも襲われているのではと不安に思うレナ達、そしてその不安は的中しているのであった。
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