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5章

これから

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 「あいたっ!」


 カモメのおでこが鈍い音を上げ、白い壁と衝突する。
 その衝撃にカモメはおでこをさすりながら蹲り、情けない声を上げていた。


 「ふぇ~、痛いよ~」
 「カ、カモメ大丈夫!?」


 大きな音を聞きつけて、部屋の外にいたクオンが慌てて扉を開けて入ってくる。


 「たはは、トイレに行こうと思ったんだけど眼が見えないって難しいねぇ」
 「もうっ、連れて行くから僕を呼びなって」
 「いやだって、トイレだもん……」


 顔を少し赤らめてカモメが言うと、クオンも慌てながら顔を赤らめる。


 (相棒よぉ、それはちぃーっと変態すぎやしないかい?)
 「いや、連れて行くだけだよ!?」
 「クオンのえっち」
 「違うって!?」


 カモメは頬を赤らめながら顔をそむける、その行動にクオンは慌てながら両手を振って否定していた。
 その慌てるクオンを横目でみてカモメは下をちょっと出して笑っている。
 それに気づいたクオンは自分が揶揄われていたことに気付き、怒る。


 「カモメ!」
 「あはは、ごめんごめん、冗談だよ~☆」
 「もうっ」
 「はいはい、むっつり野郎は置いておいて、トイレなら私が手を引いてあげるわよ」


 クオンの後ろからフワフワと浮いたぬいぐるみみたいな物体がそう言いながら現れる。


 「誰がむっつりだ!」


 自分の後ろに現れた、その愛らしい姿をしたディータにクオンは文句を言うが、ディータは「本当かしら~」と言いながらさらにクオンを揶揄うのだった。


 「それより、はい、手を引いてあげるからいきましょう、カモメ」
 「はーい♪」


 明るく答えるカモメにクオンは少し表情を歪める。
 カモメは視力を失っていた。
 ディータとアネルの予想では急激な魔力の消費に体が付いていけず、その反動で視力を失っているのだろうという事であった。

 起きたばかりのカモメに、ディータが魔法は使えるかと聞いたが、カモメは簡単な灯りをつける魔法すら使うことが出来なかったのだ。


 「うーん、目が見えないって不便だねぇ」
 「そうね……」


 カモメの手を引きながら、いつも通り明るく振舞っているカモメに表情を歪めるディータ。
 カモメは視力を失っているというのに、いつも通りに明るい。
 だが、普通の人達であればその違和感に気付かないかもしれないが、仲間であり、付き合いの長いディータやクオン、エリンシアには、カモメが周りに気を使い、明るく振舞っていることが手に取るようにわかるのであった。


 「おまたせー」
 「はいはい、それじゃ、部屋に戻るわよ」
 「はーい」


 トイレを済ませると、再び、カモメの手を引き部屋へと戻る。
 

 「カモメ、少しは魔力が戻っているかしら?」
 「どうだろ?ちょっと使ってみるね、 火灯トーチ


 炎の明かりをつける魔法を使うカモメだが、開いた掌には何も生まれなかった。


 「駄目みたい」
 「みたいね、あの闇と光の魔法の反動で貴方の体内の魔力がしっちゃかめっちゃかになってしまっているようね」


 そう言われて、カモメは自分の体の中の魔力を感じるように集中をしてみると、確かに自分の中にある魔力が普段であれば流れる水のように精錬された動き体を巡っているのだが、今はまるで反乱を起こした川のように荒れ狂っていた。


 「うん、正直自分の身体じゃないみたいに魔力が制御できないよ」
 「そう……時間が経てば治るかもしれないけれど……」
 「でも、あんまりのんびりはしていられないよ、まだ帝国は他の国を支配したままなんでしょ?」
 「ええ……」


 そう、グランルーンを解放したとはいえ、まだ魔族との戦いは終わっていないのだ、現在はメリアンナ法王が指揮を執り、奮戦しているが、それもいつまでもつかわからない、カモメと言う武器を失った人間たちはベラリッサという盾を使って護っているが、護るだけではいずれはじり貧になり敗けてしまうのだ。


 「でも、今の貴方じゃ戦うのは無理よ」
 「うん……ごめん、ディータちょっと寝るね」
 「わかったわ……外にいるから何かあったら呼びなさい」
 「うん」


 ディータが扉の外に出ると、部屋の中からは押し殺したような声が聞こえてくる。
 外に聞こえまいと、ベッドの中で声を押し殺しカモメが泣いているのだ。
 当たり前である、闇の魔女等と呼ばれているが、カモメはまだ16歳の女の子なのだ。
 突然、視力を奪われ、自慢の魔法も使えなくなってしまったのだ、不安でないはずがない。


 部屋の外では小さな鳴き声をクオンとエリンシア、そして今扉から出てきたディータが聞き、悲しみとも怒りともつかない表情をしていた。


 「くそっ、僕にもっと力があれば……」
 「最後はいつもカモメさんに頼ってしまってましたわ……情けないですわ」

 
 自分たちの不甲斐なさに腹を立てる二人をディータはその小さな手でそっと撫でる。


 「二人とも、カモメの事をお願い」
 「どこかにいくのか?」
 「ええ、アネルならカモメを治す方法を知っているかもしれないからちょっと聞いてくるわ」
 「そう……なんですの?確かにあの方はカモメさんのお父さんと同じパーティにいた方ですけれど」


 アネルは普段、剣を使って戦っている、魔力の事に詳しいとは思えない二人が疑問に思うのも無理はない。だが、ディータにはある確信があった。カモメが例の闇と光の魔法を合成している時、彼女は言ったのだ、「『私』は『姉様』にそうやって守られてきた」……と。
 ディータの事を姉様と呼ぶ人物はこの世界に一人だけである。そして、その人物であれば治療にかけてはスペシャリストなのだ。

 なぜなら、その人物は『光の女神』と呼ばれる女神様なのだから。


 「魔法で治せるとしたらあの子だけよ……」
 「え?」
 「いいえ、色々なところを旅してきているアネルならもしかしたら何かカモメを治す手掛かりをもっているかもしれないわ」
 「なるほど」


 確かにと二人は納得をした。
 ディータは『いってくるわね』と二人に笑顔で言うと、空中を飛びながらその場を去るのであった。
 そして、その表情は二人に向けた笑顔から真剣な……いや、少し不安を持っているようなそんな表情であった。
 
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