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5章

仇敵

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「わわっ!?」


 凄まじい衝撃と地鳴りがカモメを襲う。
 

「な、何今の…ってええ!?」


 衝撃の理由を探そうと城の窓から外を覗いてみると、城の西側がそこだけ地面が陥没でもしたのか、というように崩れ埋まっている。


「な、何があったの……?」


 崩れた城を見て半ば呆然としながらもあの辺りを担当している人物の顔を思い出す。


「エリンシア……だよね?」


 城の中庭の近くにある場所なので恐らくエリンシアだろうと予想をするカモメだが、普段周りに気を使いながら戦う事の出来る彼女が城を壊すほどの攻撃をするというのは異常事態ではなかろうか?それだけ強い敵が現れたのか?


「心配だよ……」


 友人を心配に思い、カモメは崩れた西側へ行こうと窓から身を乗り出す。だが、その時。


「なんじゃ、もうお帰りかな?」


 知った声、正直会いたくも無かった人物の声が聞こえる。


「ゴリアテ大臣……」


 そう、大臣のゴリアテである。
 ゴリアテはカモメ達に王殺しの濡れ衣を着せ、魔女として指名手配させた張本人である
 この男のせいで、カモメは国を追われることになり、人々から逃げる生活を余儀なくされた。


「闇の魔女……非道な魔女がまたワシの国に戻ってきたのか?」
「アンタの国じゃないでしょ……王子様だって生きているし、国民だっている」


 私の言葉を鼻で笑う大臣。


「王子など、所詮は操り人形よ、いずれ王と同じ運命を辿ってもらうつもりじゃ……その時は、またお主の名前を使わせてもらおうか」
「……なんですって?」


 薄々、いや、恐らくそうだろうと思ってはいた。
 私は王様を殺していない、だとしたら誰が王様を殺したのか?
 王様が死んで得するのは誰だろうと考えたが、そんなの今やりたい放題をしている大臣に決まっている。
 

「それと、ラインハルトにも共に死んでもらわんとなぁ……ワシの邪魔を散々してくれたしのう」

 ラインハルトさんも恐らく気付いていたのだろう、だからこの国に残ってずっと大臣を監視してくれていたに違いない。
 しかし、少し変じゃないか…?


「ずいぶん、落ち着いてるね……?」
「ん?何を慌てる必要があるのじゃ?」


 目の前に自分を恨んでいるであろう人間がいるのに、自分の身の危険の心配をしないの?
 そう思うカモメであったが、大臣の妙な余裕にもしかしたら伏兵がいるのではないかと辺りを警戒する。


「どうしたのじゃ?何を怯えておる?」
「私に勝てると思ってるの?」


 魔族や魔人と渡り合ってきたカモメ相手に普通の人間であるゴリアテが勝てるわけもない。
 その筈なのに、ゴリアテは余裕の表情である。


「思っておるよ、宮廷魔術師どのに頂いた、あの力があればのう」
「宮廷魔術師?」


 そういえば、以前もそんな人間がいた。
 王様の死んだ理由を話していた人物だ……フードを目深に被っていたので顔は覚えていないが。


「貰った力?」
「ええ、ええ、私がさし上げた力ですよ、カモメさん?」


 私はその声を聞いた途端、一瞬で血の気が引いた。
 鼓動が高鳴り、息が荒れ整わない……。


「その声……」
「おや、バレてしまいましたか、そう言えば、以前この姿でお会いしたときは声を変えてましたからねぇ、気づきませんでした?」


 以前あった時と同じ人食ったような喋り方……この男の声を忘れるわけがない……忘れられる訳がない!


「ヘインズ!!!」
「大正解です!さすがはカモメさんですねぇ、あなたがこれまで紡いできた物語は最高でした!」
「こいつ……」
「父親を魔族に殺され、闇の魔女として国を追われながらも健気に生きる少女、そして、父親が倒したと思った魔族に出会い……仇を取ることも出来ずその命を散らしてしまう……ああ!さいっこうのストーリーですよ!」



 フードを取り、露にさせたその顔は依然と一切変わっていない。
 姿かたちも喋り方も父親を殺した相手であるヘインズである。


「なんで……生きてるのよ……アンタ、お父さんに消滅させられたじゃない!」
「いやぁ、さすがは英雄ヴィクトールさん、私もびっくりしましたよ」
「答えなさい!」
「いえ、実はね、あの時倒された私は分身体だったのですよ、本体である私はこのお城でのんびりと紅茶を飲んでおりまして……あはははは、いや、遠見で見ていましたびっくりしてお茶を零してしまいました!」


 その言葉を聞いた瞬間、カモメは怒り任せにバトーネを振り、ヘインズへと突っ込んでいった。
 ヘインズはカモメの行動に気付くがその場から動こうともカモメの攻撃を防ごうともしない。
 カモメの攻撃がヘインズに当たると思ったその瞬間、何かにぶつかり、カモメのバトーネが動きを止める。


「嘘……」


 カモメの攻撃を止めたのは大臣の腕であった……特に何か堅いものを装備している訳ではない。
 ウェアウルフなどの魔物ですら、カモメの攻撃で軽々砕けるというのに、大臣の腕はそのバトーネを受け止めたのだ。


「どういうこと……」
「これがヘインズ殿に貰った力じゃよ」


 大臣はそう言うと、体が隆起を始める、ボコボコと音を立てながら大臣の姿は変形をしていった。
 身体は黒く染まり、目は赤色に変わる。


「これって……魔鬼……」
「さすがカモメさん物覚えがいいですねぇ、正解です」
「でも、魔鬼って死んだ人間じゃないとならないんじゃ……まさか!?」
「その通り、大臣さんはとっくの昔に私に殺されてたんですよ♪ずう~っと私の操り人形だったんです、あはははびっくりしました?」


 その言葉にカモメは奥歯を噛む。
 ということは、父親を殺したのもヘインズ、王様を殺したのもヘインズ、カモメに濡れ衣を着せたのもヘインズだ。


「全部、アンタのせいだったんだ!!」
「あはははは、いい顔ですねぇカモメさん!」
「許さない!」


 カモメは武器を構え、ヘインズとゴリアテと対峙した。
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