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5章

エリンシアの覚醒

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「何をしてますですのおおおおおおおお!!!!」


 エリンシアが吠える。
 大気を震わせるほどのエリンシアの怒りがこの地下部屋に響き渡る。
 ディータはそのエリンシアの怒りに焦る、普段から感情豊かなエリンシアではあるが、その心は純粋かつ優しさに溢れており、これほど負の感情を表に出すことはない。
 もしかしたら、怒りに飲まれて無謀な攻撃をして命を落としてしまんじゃないだろうか……。
 そう思い、エリンシアに声を掛けようとするが、エリンシアが吠えた次の瞬間、エリンシアの様子の変わりようにこれまた驚いた。


「………お父様」


 先ほどまでの激しい怒りが一瞬にして消え、まるで水の中にでもいるのかと思う程の静寂が訪れる。
 ディータは今度はあまりの激しい感情にエリンシアの心が壊れてしまったのでは!?と思い慌ててエリンシアの元に飛んでいこうとするがこれまた新たなエリンシアの変化に驚き止まってしまった。

 エリンシアの周りに光のオーラのようなものが現れる。


「あれって……光纏躰リヒトコール?」


 光纏躰リヒトコールエリンシアが光の魔法で体を強化するときに使う魔法である。
 だが、その魔法もいつもと様子が違う、いつもであれば同じ体を纏っている状態であってもまるで吹き出すオーラという感じで現れているのだが、今の光纏躰リヒトコールはまるで体の周りを水の膜が覆っているかの如く静かに現れているのだ。

 一体なにがどうなってるのだろう、エリンシアは大丈夫なのか?
 そう思い、今度こそエリンシアの近くに飛んでいったディータはエリンシアの表情を見て驚く。


 先ほどまでの激しい怒りの色は見えず、まるで何の感情も無いかのように唯々、大魔鬼を見ているようにみえる。だが、目の奥には激しい怒りが炎のごとく暴れており、周りに纏っている光纏躰リヒトコールもまるで暴れるのを抑えているかのような状態であった、一つスイッチが入るとこの光纏躰リヒトコール爆発するんじゃないだろうか?

 エリンシアは壊れたわけでも、怒りに飲まれたわけでもなかった、逆にその激しい怒りを深く飲み込み、敵を見据えているのだ。


「エリンシア、アイツの弱点は頭らしいわよ」
「ええ……ですが、頭だけではおさまりませんわ……跡形もなく消して差し上げます」
「えっと……」


 普段から過激なことを言うエリンシアではあるが、今回のは冗談ではないのだろう、目が真剣そのものである。


「ディータさん、アイツはワタクシにやらせてくださいませ」
「え、でも……」
「お願いしますわ」
「わかったわ……」


 拒否は許さないというほどの眼力にディータは思わず肯定してしまう。
 だが、ディータが気圧されてしまう程、今のエリンシアには迫力があったのだ。

 ありがとうございますわ、というとエリンシアはゆっくり歩きながら大魔鬼の方へ近づく。
 大魔鬼もエリンシアの父親を食べた後、しばらく消化でもしていたのか動かなかったが、エリンシアを見て近づき始める。

 大魔鬼の方が腕の長さが長いため、少し離れたところから攻撃に移る。
 右腕を振りかぶり、エリンシアに向けて放った。


「エリンシア!?」


 こともあろうにエリンシアは避ける気配がない。
 大魔鬼の攻撃の威力は解っている筈だというのに、いくら光纏躰リヒトコールで体を強化しているとはいえ、あの攻撃を喰らったら大ダメージを受けてしまうはずだ。

 避けなさい!とディータが叫ぶその前に、エリンシアは左に向かって全力魔弾フルブラスターを放った。その威力はいつもの全力魔弾フルブラスターより強く、そして早い。
 全力魔弾フルブラスターを受け、大魔鬼の右腕は跡形もなく吹き飛んだ。


「グ…ガ…?」

 攻撃を仕掛けたはずの右腕が無くなったことに戸惑う大魔鬼、だが、その腕もすぐさま回復し、新しい腕が生えてくる。

 それにしても、光纏躰リヒトコールを使いながら全力魔弾フルブラスターを放つエリンシアの姿は初めて見る。確か光纏躰リヒトコールは身体能力を強化する魔法の筈だ、その為、格闘戦をするときに使うイメージだ、同じ魔力を消費する魔弾を使った戦いの時には、無駄に魔力を使ってしまうだけの筈……敵のスピードが速い時などなら使うのかもしれないが、今の敵は普段のエリンシアでも十分対応できるほど遅い。


「もしかして、あの光のオーラ、光纏躰リヒトコールじゃない?」


 明らかに威力の上がった全力魔弾フルブラスターといい、あのエリンシアの迫力といい、唯の光纏躰リヒトコールではないのかもしれない。父親の死を目の前にしてその怒りを元に新たな力に目覚めたというのだろうか?
 そう考える、ディータだったが、闇の女神でもあるディータの知識にも光纏躰リヒトコール以上の光の強化魔法を聞いたことも無い。ましてや魔力が上がるようなものがあるとは思えないのだが。

 エリンシアの魔導銃の威力は基本エリンシアの魔力に依存する。その為、大量の魔力を込めた全力魔弾フルブラスターが最大魔力となるのだが、その全力魔弾フルブラスターの威力が上がったという事はエリンシアの魔力が上がったという事なのだ。つまり、あの光のオーラはエリンシアの魔力をも強化している筈。


「私も知らない力……という事かしら……」


 エリンシアは何度か向かってくる大魔鬼の腕をその都度、魔導銃を放ち吹き飛ばす、だが、何度吹き飛ばそうとも大魔鬼の腕は新しく生えてきた。
 しかし、そんなことに慌てもしないエリンシアはやはりゆっくりと歩きながら大魔鬼に近づいていく。
 エリンシアの魔力であれだけの全力魔弾フルブラスターを撃てば、そろそろ魔力が切れてしまうのではと思うディータだったが、エリンシアはまるで気にしていないかのように悠然とそして、怒りを秘めた瞳を大魔鬼に向けながら歩いていた。


「足元がお留守ですわよ」


 まるで独り言のようにポソリとそう言うと、エリンシアは大魔鬼の左足を吹き飛ばす。
 左足を失い、バランスを崩して膝をついた大魔鬼だが、膝を付いたその瞬間には無くなった左足が再生していた。


「まだ、頭が高いですわね」


 もう一度、ポソリというと、今度は右足を吹き飛ばし、大魔鬼は地面に倒れ込みそうになる。
 それを、両手を地面に着くことで回避し、そしてまた、次の瞬間には再生をしていた。


「あら、頭の足りないあなたにはお似合いの格好になりましたわね……ですが、まだですわ」


 そう言うと、今度は起き上がろうとしている大魔鬼の地面に着いた両腕と両足の付け根の部分である股間を同時に消し飛ばしたのだ。


 すると、支えを失った大魔鬼は地面に上半身をべったりと着けるように倒れ込んだ。
 だが、そんな状態になりながらもやはり次の瞬間には再生をする大魔鬼である。普通に考えればこれだけの再生能力を持つ、大魔鬼を倒す手段なんて無いように思われるが、アレクセイの言った、頭を狙えという言葉がある。そして……。


「丁度いいところに頭が来ましたわね」


 そう、地面に上半身を突ける状態になった大魔鬼の頭はちょうどエリンシアの銃の目の前に来ていた。


「ワタクシ……本気で怒ってますの!あなただけは許せませんわ!!!!!!」


 エリンシアの怒りが再び爆発する。そしてその怒りに答えるかの様にエリンシアを纏っていた光のオーラが激しく噴き出した。そして、エリンシアの放った一撃は大魔鬼の頭だけではく、地面に倒れ一直線上になった大きな体を纏めて消し炭にするのであった。


「な……なんて威力なの……」


 エリンシアの放った一撃は、もしかしたらカモメの黒炎滅撃フレアザード並みの威力があるのではなかろうかとディータは驚きの声を上げる。だが、ディータが驚いたのはそれだけではない。

 魔鬼を閉じ込めていただけあってこの地下部屋は恐ろしいほど頑丈に出来ていた、エリンシアの魔弾やディータの魔法、そしてあの大魔鬼が暴れても殆ど傷一つつかなかったのだが……今のエリンシアの一撃で床のみならず壁までも大きな穴をあけたのだ……その結果はもちろん……。



 城の西側は一瞬にして崩れ去るのだった。
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