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4章

撃破

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「クァアアアアアア!!」


 グリフォンが咆哮を上げる。
 不思議なことに先ほどまでこの咆哮を聞いた途端、体が動かなくなったというのに、今はあの心の底から震えるような感情が出てこない。

 気は身体だけじゃなく、心も護るということなのだろうか?


 俺が怯んでいないことに気付いていないのか、グリフォンは真正面から風の槍を放つ。
 

強気射オーラストリングショット


 風の槍に俺は即座に気を纏わせた矢を放つ。
 矢は、一直線に突き進み、風の槍に的中すると風の槍と共に砕け散った。

 すごい、気で強化した矢はたった一本でグリフォンの風の槍と相殺できるほどの威力になるのか。


 グリフォンはその光景が予想外だったのか、驚き、その動きを鈍くする。
 俺はその隙を逃さず、再び、気を纏った矢をグリフォンの足目掛けて放つ。



「クァアアア!?」


 グリフォンが大きな悲鳴を上げると、その巨体を地面に倒れさせる。
 

「良い様だ」


 我ながらヒドイ言いようである、普段なら絶対こんなこと言わないのだけれど、気を開放して気が強くなっているのか思ったことをそのまま言葉にしてしまう。だが、気が強くなってしまうという言葉の通りなのか正しく、今俺から吹き上がるこの気はとても強かった。


強気射オーラストリングショット


 出来ることなら、リーナをあそこまで痛めつけたこの鳥を直接ぶん殴ってやりたいが、俺にはエリンシアさんのように武術の類はない。いくら体が強化されているとはいえ、グリフォン相手に素人の拳を振るっても逆に危険なだけだろう。


 ということで、俺は斃れたグリフォンの眉間に向かって再び、矢を放った。
 眉間に一撃を与えればグリフォンとて、倒れるだろう・・・だが、さすがにそう簡単にはいかないようだ。

 グリフォンは風の槍を放ち、先ほどとは逆に俺の矢を相殺する。
 風の槍と俺の矢がほぼ互角といういうのをグリフォンも先ほどの衝突で学んでいたのだ。

 魔物の癖に頭のいいやつめ・・・。


 そして、相殺するや否や、グリフォンは立ち上がり、こちらに向けて突進を始めた。
 しかもただの突進ではない、恐らく風の魔法で体全体を纏わせているようだ。


「くっ」


 俺は急いで、俺の後ろで倒れているリーナとヒスイを抱え上げ、グリフォンの突進を回避する。
 そして、離れた場所に避難させると、グリフォンの攻撃に巻き込まない位置まで離れた。


「さあ、狩りを始めようか!」


 俺は、恥ずかしげもなくそんなセリフを吐くと、矢を放ちグリフォンを牽制する。
 気を纏った矢とはいえ、これだけではグリフォンに致命的な一撃を与えられない・・・。
 いや、なんとか態勢を崩してその上、防がれないように眉間に当てることが出来れば致命打になるかもしれないが・・・先ほどの様子から言うとなかなかに厳しいだろう。


「なら、工夫をすればいい」


 俺は開放された気を矢の周りに螺旋状に練り上げる。
 そして、矢を放つ瞬間、練り上げた気を爆発させ矢を回転させる。もちろん、矢の強化も忘れずに。

 すると、先ほどまでの矢よりさらに速い矢がグリフォンへと向かう。
 グリフォンは矢のスピードに対処しきれず肩口を射貫かれた。


「クァアアアア!!!!!」
「ちっ、外したか・・・頭を狙ったんだけどな」


 気で強化し、さらに高速の回転を付けた矢は思ったよりもコントロールが難しかった。
 だが、それなら当たるまで何本も撃てばいい。


「さあ・・・クライマックスだ」


 俺は一体どうしちゃたんだろう?・・・段々と性格が変わっていっているような?
 まあ、今はそれどころではない。ちょっとカッコつけてしまうようになるだけで別人格が現れているというわけでもないのだ、それでグリフォンが倒せるなら問題ない。・・・多分。


高速回転気矢スパイラルオーラショット!」


 気を取り直して、再び回転を加えた矢をグリフォンに向けて放つ。
 ちゃんと、新しく考えた技にも名前を付けて・・・ネーミングセンスは言わないで・・・。
 俺は、グリフォンの右足を射貫く。


「クァアアアア!!」


 グリフォンは回避することも出来ず、その一撃を受け、再び地面に倒れこんだ。
 しかし、狙いが上手くいかない・・・またも頭を狙ったつもりだったのだが


「仕方ない、間近でぶっ放してやる」


 そう言うと、俺はグリフォンに向かって走り出す。
 グリフォンもその意図に気付いたのか風の槍を放ちこちらをけん制してくるが、その風の槍を俺は矢で撃ち落とし、その進撃を止めない。


「止めだ」


 俺はグリフォンの頭上に飛び上がり、高速回転気矢スパイラルオーラショットを頭目掛けて放った。

 距離が近いこともあり、今度はまっすぐ頭に向かって飛んでいく。
 だが、グリフォンは危険を感じたのか身体全身を風の魔法で纏い、翼で頭をガードした。
 俺の気とグリフォンの魔法がぶつかり合った衝撃で爆発を起こす。


「おっと」

 
 俺はその風にあおられながらも難なく着地をした。
 そして、爆発の煙が晴れると、中からボロボロの状態のグリフォンが姿を現したのだ。
 俺の矢は途中で阻まれてしまったが、その時に起きた爆発でグリフォンは大ダメージを受けてしまったようだ。

 
「勝負はついたな」


 俺は、止めを刺そうと、グリフォンに向けて弓を構える・・・が。

 
「クァアアア!・・・クァアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 グリフォンが叫ぶと、巨大な魔力を体から吹き上がらせる。
 何をするつもりだ!?
 風の槍で俺に攻撃を?しかし、この状態なら避けられる、たとえ今までで一番の威力だったとしても躱してしまえば問題は無い。


「悪あがきか?」


 余裕の表情でグリフォンを見やると、グリフォンは口元を吊り上げた。
 まるでこちらを嘲笑うかのように・・・・あの笑い。
 その笑いを見た瞬間俺は先ほどの事を思い出す、そう、奴があの笑いをした後何をしたのか。

 俺は慌てて、全速力でリーナの元へと走り出した。
 それと同時に、今まで一番の、恐らくすべての魔力を込めたのであろう風の槍がリーナとヒスイの方向へと放たれたのだ。・・・・・やっぱり。


「クソ鳥がああああ!!」


 勝てないと悟ったグリフォンはリーナ達だけでも道連れにしようとしているのか・・・くそ、質が悪い!
 だが、気のお陰で身体能力が上がっている俺は、難なくリーナ達の元に風の槍が届く前に駆け寄ることができた。そして・・・


高速回転気矢スパイラルオーラショット!!」


 今できる一番の威力の矢を風の槍に向けて放ったのだが、本当に全魔力を込めたのだろう、目の前に迫ってくる風の槍は俺の高速回転気矢スパイラルオーラショットを呑み込み、なおもこちらに向かってきた。


「くそっ!」


 矢に纏わせた気ではあの風の槍・・・いや、あの大きさではもう槍とは呼べない。仮に風の大砲とでも呼ぼうか、風の大砲は俺の矢では止めることが出来なかった。

 

「ならっ!」


 矢に纏わせた気で足りないのなら、俺の体の周りに開放されている気をすべて使って抑えてやる!
 俺は風の大砲にその身を投げ込むと、自らの気を自分の周りで爆発させた。


「クア!?」


 目標手前で大爆発を起こした自分の魔法に驚きの声を上げるグリフォン。
そして、その爆発の中から俺は姿を現した・・・生きている・・・が、すべての気を使いグリフォンの全ての魔力を込めた一撃を受け止めたが・・・そのおかげで、俺は全身をボロボロにし、もう一歩も動けないほどのダメージを受けていた。


「くそっ」


 俺はその場に倒れると、自分の不甲斐なさに悪態をつく。
 そして、グリフォンはまるで計算通りとでも言うように勝ち誇った顔をしていた。
 恐らくグリフォンはリーナ達を狙えば、俺が避けずに体を張ってその攻撃を受け止めるだろうと予想していたのだろう、だからこそ、全魔力を込めた一撃をすでに倒れていたリーナ達に放ったのだ・・・悪知恵の働く鳥だ。

 だけど・・・もう、指一本動かすことが出来ない・・・リーナ達も未だに気絶したままだった。

 くそっ・・・あと少しなのに!


 そして、のっそりと動き出したのはグリフォンであった、その身もボロボロにして魔力もすべて使い果たしているが、まだ、動けるのである。
 ゆっくりと、一歩一歩、グリフォンがこちらに近づいてくる・・・そして。
 俺の目の前までくると、グリフォンは動きを止めた・・・。

「え?」
「私を忘れてもらっては困るな?」

 その声に、グリフォンの方を見るとグリフォンの頭に剣を刺し、ニヤリと笑うソフィーナさんの姿があった。グリフォンにかなりやばいやられ方をしたと思ったのだが、割と平気そうに倒れるグリフォンから飛び降りるソフィーナさん・・・さすがの打たれ強さだ。


「助かりました」
「いや、コハクこそ、凄まじい力だったな。気を習得したのか」
「ええ、なんとか・・・ただ、おかげで指一本動かせませんけど」


 そう、先ほどの爆発のダメージももちろんあるのだが、気を使い切った為か、体が全く動かないのである体の感覚がなくなるほどのヒドイ筋肉痛になったときのようだった。


「だが、グリフォンを倒せたのはコハクのお陰だ礼を言う」
「いえ、皆が頑張ったからこその勝利です」
「ふっ、そうだな」


 笑いあう俺とソフィーナさんの横でグリフォンが静かに魔石へと姿を変えるのだった。
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