上 下
124 / 361
4章

ガルディアンヴォルフ

しおりを挟む
 まずい・・・このままだと・・・全滅だ・・・クオンさん。

 ――――――――――じゃないっ!
 いつまでクオンさんに頼っているつもりだ・・・俺はここに何をしに来た。
 魔族との戦いの時に、少しでもクオンさんやカモメさんの役に立ちたいから力を付ける為に来たんじゃないのか!

 負けそうになったらクオンさんを頼るんじゃ、いつまで経ってもレベルアップ出来ない。
 立て・・・立って戦うんだっ!


「ぐ・・・うおおおおお!」


 俺は力を振り絞って、節々が悲鳴を上げる体に喝を入れた。
 そのおかげか、なんとか立ち上がることに成功する。


「はあっ・・・はあっ・・・」


 さあ、どうする・・・立ち上がって終わりじゃ話にならない。
 何とかして、グリフォンを倒さないと・・・。

 幸い、ガーゴイルほどの防御力は無い、そのおかげで先程のリーナとの連携の攻撃で着いたグリフォンの傷(傷と呼べるか分からないほどのかすり傷だが)はグリフォン自身の放った風の弾と同じだけのダメージを与えているように見える。

 ということは、先ほどのリーナの魔法を防いだことも含めて、魔法防御が高いのか。
 なら、なんとしても物理で倒すしかない・・・しかし・・・。


強射ストリングショットであれじゃ・・・」


 そう、何を隠そう、先ほどリーナとの連携で放った強射ストリングショットは俺の技の中では最強の威力を誇るのだ。今のままじゃ駄目だ、なにか新しい攻撃を試さないと・・・。


 とはいえ、魔法を使えない俺にはクオンさんのように魔法で身体能力を上げたり、風の魔法で足元を爆発させてロケットみたいに飛んでいくなんて真似も出来ない。

 ほかに無いか?魔法みたいに自分の身体能力を上げる術は・・・。


「クァアアアアアア!!」


 グリフォンが大きな咆哮を上げる。
 見るとヒスイがグリフォン相手にその素早さを生かして奮闘していた。

 グリフォンの大ぶりの攻撃を躱しながら自分の爪を当てていくヒスイ・・・だが、ヒスイの攻撃は当たるもグリフォンには蚊に刺された程度のダメージしか与えることが出来ていない。

 いくら、コハク達と共に己の研鑽を積んできたヒスイとはいえ、元々がランクEの魔物である以上、ランクA―――その中でもA+とも言えるグリフォン相手では戦いにならないのだ。


 「グルルルル」


 ヒスイは自分の力不足を嘆いているのか悔しそうに低い唸り声を上げた。

 だが、それでもヒスイは諦めない、何度も何度も攻撃をする。
 自分の大好きな主人を護る為に、その主人の大切な仲間を護る為に、ヒスイは攻撃を繰り返した。

 その次の瞬間、ヒスイの体が光に包まれる。
 まるで、ヒスイの護りたいと言う気持ちに応えるかの様に眩いがとても暖かい、そして安心できる光がヒスイを包んだのだ。


「あれは・・・」


 そう、その光を俺は知っている。
 ヴァイスの森で、黄泉鴉に襲われたときにもホワイトウルフであるヒスイが放った光だ。
 そしてホワイトウルフであったヒスイはその光が収まるとホワイトファングに進化したのだ・・・つまり、今回もヒスイは進化する。


 暖かい光が消えると、そこには姿の変わったヒスイが悠然と立っていた。


「あれは・・・ガルディアンヴォルフ・・・」


 驚いた、ランクEであった、ヒスイが進化するのだ恐らくランクDになるだろうと予想していた。
 だが、ヒスイはそれを飛び越え、ランクBのガルディアンヴォルフへと進化したのだ。

 ガルディアンヴォルフ、狼系の魔物中では個体数が少なく、希少モンスターと呼ばれているモンスターでランクBではあるが伝説のモンスターと言われている。ガルディアンヴォルフは知性が高く、その爪と牙は鉄をも斬り裂くという。多少の魔法をも操り、その頭の良さから、普通の魔物ように戦うと痛い目を見ると言われている為、冒険者の中では出会ったら戦わず逃げろと言われているほどの強者である。

 ヒスイは今までよりさらに純白になった毛並みを輝かせ、悠然とグリフォンを睨みつけていた。


 その姿にグリフォンは危険を抱いたのか、先ほどまで余裕をなくしているようにも見える。
 姿を変えたヒスイがグリフォンに向かって走り出す、その速さはクオンさん並みの速さに見えた。

 実際はクオンさんの方が早いのだろうけど、ぶっちゃけ俺にはその姿を捕らえることが出来ないのでどっちも同じなのだ。

 ヒスイの姿が消えたと思うと、次の瞬間、グリフォンの悲鳴が聞こえる。
 ヒスイの爪がグリフォンの皮膚を抉ったのだ。


 初めて、ダメージらしいダメージを受けたグリフォンは怒りを覚えたのか、風の弾をヒスイに向けた乱発する。
 その風の弾を軽々と躱すヒスイの姿はどこか美しいと思ってしまった。

 

 「すごいな・・・」
 「ソフィーナさん・・・」

 
 いつの間にか起き上がりこちらに来ていたソフィーナさんがスピードでグリフォンを翻弄するヒスイの姿を見て感嘆の声を上げる。

 ヒスイは恐らく風の魔法で己の身体能力を上げているのだろう。
 風のないダンジョンなのにヒスイの白い毛が靡いているのように見えた。
 ヒスイは僕らを護りたいと思う気持ちで己を進化させた・・・すごい・・・俺も負けてはいられない。


「・・・・・あ」
「ん?どうしたコハク?」
「気持ち・・・気・・・そうだ」


 俺はヒスイの戦う姿とその心、護りたいと言う気持ちを見てあることを思い出した。
 ―――――――カモメさんと戦うラガナの姿である。


 そうだ、ラガナの使っていた気だ・・・たしか、気は魔法の使えないものが魔法を使う者との戦いに負けないように編み出されたものだと聞いたことがある。

 今の俺にぴったりじゃないか。
 俺は、その考えに心が躍った、ひたすら弓の腕を鍛えるかもしくは聖武具のような武器を手に入れるしかないのでは?と思っていたのだが、そうだ、気を使いこなすと言う術があった。


「ソフィーナさん、気ってどうやったら使えるんでしょう?」
「む・・・気か・・・」


 とはいえ、俺は気の使い方を知らない、いきなり使いたいと思ったから使えるようなものではないのだ。
だけど、もしかしたら、ソフィーナさんなら知っているかもと思い聞いてみた。


「気か・・・アネル殿に習ったことがあるのだが・・・」
「本当ですか!教えてください!」


 ソフィーナさんは気の使い方を知っているようだった。
 やった!これなら、成長する切っ掛けになるかも・・・そう思い心をさらに躍らせる俺。


「う、うむ、アネル殿言うには、こう・・・ガァーっとなった心の力を体中にズバーっと巡らせる・・・らしい」
「・・・・・・・・・・・・・え?」


 踊った俺の心は一瞬にして静かになってしまった・・・・。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

婚約者に犯されて身籠り、妹に陥れられて婚約破棄後に国外追放されました。“神人”であるお腹の子が復讐しますが、いいですね?

サイコちゃん
ファンタジー
公爵令嬢アリアは不義の子を身籠った事を切欠に、ヴント国を追放される。しかも、それが冤罪だったと判明した後も、加害者である第一王子イェールと妹ウィリアは不誠実な謝罪を繰り返し、果てはアリアを罵倒する。その行為が、ヴント国を破滅に導くとも知らずに―― ※昨年、別アカウントにて削除した『お腹の子「後になってから謝っても遅いよ?」』を手直しして再投稿したものです。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...