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4章

脅威

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 俺とヒスイは慎重に辺りを警戒しながら進む。
 ソフィーナさんとリーナも手伝ってくれていることもあって、今のところ罠に掛かることは無かった。

 だけど、余りのんびりもしていられない・・・クオンさんなら大丈夫だとは思うけど、絶対とは言い切れないのだから。


「・・・?」


 僕は目の前のまっすぐに続くダンジョンを歩いていると、違和感を感じ足を止める。


「ん、どうしたのだコハク?」
「兄様、なにかありました?」


 二人が僕に尋ねてくるが、何かと言われてすぐに答えられなかった。
 うーん・・・。


「解らないんだけど、何か目の前の道に違和感のようなものを感じたんだけど・・・なんだろう?」
「違和感ですか?・・・私には解りませんが・・・」
「うむ、別段変わった場所は見当たらんが・・・」


 皆で目を皿のようにして辺りを見回すが、これと言って罠のようなものは見つからない・・・気のせいかな?
 でも、目の前の通路を見ていると何か不安感のようなものを覚える。


「ヒスイ、お前も何も感じないか?」
「くぅ~ん」


 どうやら、ヒスイも何も感じていないらしく、困ったような顔をしていた。
 やっぱり俺の気のせいか?・・・でも、そう思っても不安感は無くならなかった。


「・・・よし」


 僕はおもむろに近くに落ちていた石を拾うと、目の前の通路に向けて投げる。

 すると、通路の奥の方の天井の一部が赤く光ると、先ほどまで何の変哲もない通路だったのだが、いきなり、周りの壁に丸い穴が無数に開いたと思うとその穴の中から槍が出現し、その空間を貫いた。


「・・・なっ!?」


 危なかった・・・あのまま進んでいたら串刺しになっていた。


「よくわかりましたね、兄様・・・」
「まぐれだと思うけど・・・気づけて良かったよ。」


 とはいえ、不安感は未だに無くなっていない、という事は何度も発動するトラップということだろう。


「先程、あの奥の所が小さく光っていたな」
「ええ、赤く光るのが見えました」


 そう、さっき石を投げた時に光った場所、あそこが恐らくセンサーのようになっているのだろう。
 つまり、あれを壊してしまえば、この罠は無力化、出来る筈である。


「狙ってみます」


 俺は弓を構えると先程、赤く光った場所に矢を放った。
 見た目はダンジョンの一部のように岩の見た目をしているが、僕の矢が的中するとガラスのような音を立ててその場所は砕ける。
 そして、それが砕けると不安感のようなものは消え去った。


「これで大丈夫だと思いますが、念の為に」


 俺は再び落ちている石を拾うと、目の前の通路に向けて投げる。
 今度は軽い音立てながら石が通路に弾むだけだった。


「大丈夫なようだな」
「兄様すごいです!」
「わんわん♪」

 
 ダンジョンで罠を見極めるには熟練の技と経験が必要と言われている。
 その為、罠を見極められる人間は重宝されると言うが、僕の今のはどちらかと言うと第六感に近いのだろう、今まで何度か死にかけるような恐怖に襲われることがあった、だからなのか死の恐怖のある場所に近づくと不安のようなものが襲い掛かってくるのだろう。
 簡単に言えば、トラウマのようなものなのかもしれない・・・だけど、これはむしろうまく使いこなせば役に立つのではないだろうか?
 恐怖センサー?とでも言えばいいだろうか?ちょっと情けないけど、皆の役に立つのならなんだって使って見せる・・・クオンさんのように皆を危険から守れるなら!

 俺はみんなに褒められて嬉しくなる心を引き締めながら奥に進んだ。



「なんとか、4階層の奥まで来れましたね・・・」
「ああ、だがやはり、道中クオン殿はいなかったな・・・」
「リーナの言う通り、5階層へ飛ばされてしまったのでしょう」
「うむ、無事だと良いのだが・・・」
「クオンさんならきっと無事ですよ・・・でも」


 そう、ここに来るまでにクオンさんに会えなかったという事は僕らは4階層のボスをクオンさん抜きで倒すことになる。
 予想では4階層のボスのランクはA、ソフィーナさんと協力すれば倒せない相手ではないと思うけど・・・正直、不安はあるというものだ。


「ああ、我らのみで戦うことになる、3階層のようにミスをしてもフォローしてくれる者はいない」
「気を引き締めて行きましょう」
「うむ」


 そう思うと緊張してくる・・・だが、ここで引き返すわけにも行かない、これから先どんな敵と戦うことになるかわからない、それなのに不安があるからと逃げ出すわけにはいかないんだ。


「行くぞ!」
「「はい!」」



 ソフィーナさんは思いっきり扉を開くと、勇ましい足取りで中へと入っていった。俺らもその後を追う。

 ボス部屋に入ると、そこは3階層と同じく大きな部屋になっていた。
 部屋の中を見回すが、敵の姿は見当たらない・・・そう思った時、俺とヒスイが同時に上から脅威を感じた。


「上です!!」
 

 俺が叫ぶと、皆が同時に上を見上げる、そこには鷲の頭を持ち、下半身は獅子のように雄々しい筋肉質な体を持っている魔物が空を羽ばたきながらこちらを見ている。


「グリフォン・・・だと?」


 グリフォン・・・確かランクはAである・・・Aであるが、その実力はSに近いものがあると言われている。
 通常のAランクですら、勝てるかどうかというのに、Sに近いAランク、表記するならA+の魔物に、クオンさん抜きで勝てるのだろうか・・・。
 こちらを冷徹な目で見つめるグリフォンに俺は恐怖を覚えた。
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