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3章

待ち時間

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変身の指輪を作成は明日までかかるということで、私たちはその間、ベインスの所で待たせてもらうことになった。

特にやることも無いので私は洞窟の外に出て自己鍛錬をしている。
バトーネを振り回していると余分なことを考えずに済むのだ。

何もしないでいるとどうしてもグランルーンの事を考えてしまう。
グランルーンには指名手配をされ追われる立場にされてしまったのだが、それは大臣とか一部の人間がやったことである。
王都のギルドの人やラインハルトさん、それにエリンシアの家族や従業員のクレイさんやマーニャさんは関係ない。
・・・・無事だといいけど。



でもなんで帝国はグランルーンに戦争を仕掛けたのだろう・・・。
軍事国家とはいえグランルーンとの仲は悪いわけじゃなかったのに・・・あの大臣がなにかやらかしたとか?

うーん、考えてもわからないや。
考えるのをやめる為に体を動かしていたというのに気づくとまた考えてしまっている。
やっぱり、グランルーンが滅んだことは私にとってもショックな事だったのだろう。



「カモメー、何してるニャ!」
「あ、ミャア」


私に声を掛けてきたのはレディやラガナ達の仲間でケットシーの異常種であるミャアである。
ミャアは長い尻尾をフリフリと振りながら、こちらに歩いてきた。



「暇ならミャアを遊ぶニャ!」



黒と茶の猫で言うキジトラの見た目をしているミャアは私の近くに来ると人懐っこい笑顔をしてそう言ってきた。



「ん?いいけど・・・何をするの?」
「組み手でもするかニャ?ラガナとは良くしてるニャー・・・後は狩りとかあやとりかニャ?」



なるほど、ラガナは戦うのが好きな戦闘狂である。
いつもはミャアが相手をしていたのか・・・・ってことは残りの二つは?


「狩りとあやとり?」
「そうニャ!レディとはよく狩りをしてるニャ。じいとはあやとりニャ!」


レディが狩りなんてちょっと意外だ。コロは・・・うん、あやとりする姿を想像したが意外と似合ってる。
見た目はともかく、性格はとても優しく大人しい子なのだ。


「へー、レディとは狩りをしてるんだ?じゃあ、狩りでもする?」
「いいニャよ!それじゃ男を探すニャ!」
「・・・・・・へ?」
「それじゃ、行くニャよ!」
「ちょっ、ちょっとまって!!」
「ニャ?」


男って・・・狩りって猪とか熊とかそう言うのじゃなくて男狩り・・・なの・・・?
レディ!何をやってるのさ!


「ミャア、男狩りはやっちゃ駄目」
「ニャ?なんでニャ?」
「駄目ったら駄目なの!」
「そうなのかニャ・・・解ったのニャ!じゃあ、違うのにするニャ!」
「そういえば、ミャアはなんでラガナ達と一緒にいるの?」
「ニャ?・・・・ニャ~、面白いからニャ!」


特に理由はないのか・・・。
まあ、ミャアは悩みとかなさそうだしなぁ・・・などと心の中で酷いことを思う私・・・自分が色々考えちゃってるから人の事も聞きたくなっているのかな・・・いけないいけない。


「それじゃ、一緒に鍛錬する?」
「いいニャよ!」
「あ、ミャアってどんな戦い方するの?」


鍛錬に誘っておきながら私はミャアの戦い方を知らなかった。
見たところ武器とか持ってなさそうだけど素手なのかな?


「ミャアはそこら辺にある物で戦うニャ!」
「そこら辺にある物?」
「うニャ!例えば・・・今日はそこの岩にするニャ!」
「・・・・・はい?」


祝ってそこにある大きな岩?あれをどう使うんだろう??

私が疑問に思っているとミャアはおもむろに岩に近づき、両手で抱えると軽々と自分の四倍はあるであろう大岩を持ち上げるのだった。



「ふえ!?」
「それじゃ行くニャよー」
「ちょ、まっ」


ミャアはその大岩を担ぎながら私の方へと向かってくる。
そのスピードはとても大岩を持っているとは思えない速さだ・・・って、いや、ちょっと待って!?
そんなので攻撃されたら私ぺちゃんこだよ!?


「とうニャ!」
「きゃああああああああ!?」


私は迫りくる大岩(ミャオ)から唯々逃げ続けるのであった。
ミャアはとっても力持ち・・・私、覚えた・・・絶対もう一緒に鍛錬とかしない。










ミャアとの地獄の鍛錬が終わり(唯々、逃げ続けていただけだが)私は未だ洞窟の外にいた。
外は陽が落ちはじめ夕方となっている。
オレンジ色の光が山々に掛かり、綺麗な景色である・・・クオンも観たら喜びそうだな。


私が黄昏ていると、後ろから自身のなさそうな弱々しい声が聞こえてきた。


「カ、カモメさん・・・」
「ん、コロ?」


これだけ一緒にいるとコロの姿も見慣れてくる。よく見るとGではなくコオロギなのかもと思えるくらいには慣れてきた。
コロは私の隣に座ると、下を向いて黙ってしまう。


「どうしたの?」
「うう・・・・」


どうしたのだろう、何かあったのかな?


「コロ?」
「あう・・・」


私が名前を呼ぶとコロは恥ずかしがっているのか顔を赤くして俯いてしまう。


「もしかして、名前呼ばれるの嫌?」


よく考えてみると、ラガナやミャアはコロの事をじいと呼ぶ。
最初はおじいさんとかを想像していたけど実際のコロはむしろ子供っぽい・・・やっぱりGっぽいからじいなんだよね?


「そ、そんなことないです!」
「そ、そう?」


コロは珍しく大きな声を出すと否定をしてきた。


「な、名前を呼んでくれるのはレディさんとカモメさんくらいなので・・・・その・・・嬉しいです」
「そっか」


そういえば、ディータは名前を呼ばないどころか近寄ろうともしないもんね・・・よっぽど苦手なのか・・・。


「その・・・」
「ん?」


コロは何かを言おうと私の方を見るが、私と目が合うと、再び俯いてしまう。


「どしたの?」
「あう・・・」


私、怖がられてたりするのかな?
私の顔を見るなり何も言わなくなってしまうコロ。


「私、何かしちゃった?私の事、怖い?」
「え、いえ、違います!」


よかった、どうやら怖がれているとかそう言う事じゃないみたいだ。


「その・・・カモメさんは僕の事を気持ち悪がったりしないですし・・・」
「ん?」


ああ・・・そっか、コロとまともに話しているのってラガナやミャオ、レディを除くと私くらいなのか。
クオンやエリンシアならきっと同じように接すると思うけど、二人とはほとんどあってないしね。
王様は分からないけど、ソフィーナさんは明らかに距離をとっていたし・・・森で話してた時。


この見た目だと、そうなっちゃうよね・・・私も最初は驚いた。
でも、お父さんと一緒に旅をしている時は虫の魔物とかも結構見ていたし、今はそれほど怖くはない。
コロが優しく、気の弱い子だと知っているからでもあるが。

コロはクリケットバグという魔物の異常種である。
クリケットバグというのはコオロギの魔物だったはずだ、なんでこんな姿になっちゃったのか。
だが、コオロギだというのは本当なのかコロの声はとても聞き心地が良い。優しく透き通った声である。



「その・・・それで・・・」
「うん?」
「よかったら、僕とも友達になってください!!」
「ふぇ?」
「レディに聞いたらカモメさんは魔物のレディとも友達になっているって・・・」
「うん、そうだよ」
「うう・・・僕なんか嫌かもしれないですけど・・・」
「あはは、そんなことないよ。私でよければ友達になろうよ」
「わあああ!ありがとうございますぅ!」


私と友達になれたことが余程嬉しかったのか、コロは嬉しそうに飛び跳ねる。


「嬉しいですぅ」
「こちらこそ、嬉しいよ。よろしくね♪」
「はい!」


コロは先ほどまではおっかなびっくり喋っている感じだったのだが、友達になれからか元気に楽しそうに喋り始める。
そして、コロは歌が得意らしく、私に歌って見せてくれた。

その歌声はまるで森の中で水のせせらぎを聞いているかのように澄んだとても安らぐ歌声だった。
なるほど・・・確かにこの子はコオロギの魔物だ・・・。
コロの歌声は静寂のなかに響き渡る鈴の音のようにしっかり私に届いたのであった。 
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