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3章
不憫な魔物
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私はカモメ達と別れ森の東側を探索していた。
「困ったわね・・・」
カモメ達と手分けして探すことにしたのは良かったのだがよく考えてみれば私とカモメはレディ以外の魔物の姿を知らない。
探すにしても他の魔物と見分けがつかないんじゃないか?
レディは解るとして、じいと言われていた魔物は・・・じいというくらいだから老人なのだろうか・・・魔物の老人って・・・白髪だったりするのかしら?
もう一人はミャアだったかしらね・・・名前からして猫の魔物?・・・猫の魔物って何がいたかしら?
とはいえ、この南の森にも他の魔物もいる、見分けがつくかしら・・・?
私が困りながら探していると、突如目の前に大きな木が飛び上がった。
「うぇあ!?な、なに!?」
女神にあるまじき悲鳴を上げながら私は木が飛び上がった方向を見る。
「根性あるのみにゃあああああ!!」
「・・・・・絶対あれだ」
そこには複数のゴブリンを相手にするしゃべる猫の魔物がいた。
あろうことか、猫の魔物は大きな木をブンブンと振り回してゴブリンを追いかけまわしていたのである。
「あの木、あの魔物の三倍は大きいわよね・・・」
恐らく、ラガナの仲間であろう猫の魔物はとんでもない怪力の持ち主のようである・・・正直近寄りたくない。
だって、木で殴られ原型をとどめていないゴブリンがそこら中に転がっている。
完全に絶命したのかその他にも魔石がごろごろと転がっていたのだ。
とはいえ、このまま見ないふりして帰るわけにもいかないので私はゴブリンを一心不乱になぎ倒している猫の魔物から少し離れたところに降り立ち、地面に落ちている魔石を回収するのである。
後で、たーべよっと。
地面に落ちている魔物の魔石を拾い喜ぶ姿は、もう女神とは言えないかもしれない。
「お掃除完了ニャー!」
「あれってケットシーかしら?」
ケットシーというのは幸運の魔物と呼ばれる魔物である。
戦闘能力は低く、余り好戦的ではない魔物である。ただし、その数が絶対的に少なく生きている間に見ることが出来る冒険者があまりいないことから見ると幸運を呼ぶなどと言われるようになった。
実際はランクEのただの魔物なのだが・・・。
「ものすごい好戦的なケットシーね・・・」
木を片手にゴブリンをなぎ倒すその姿は戦闘力が低いとは言えない。
「レディ並みに出鱈目な魔物ね・・・」
「ニャ?」
私が独り言をつぶやくと猫の魔物がこちらに気付く。
「おミャー今、レディって言ったかにゃ?」
「ええ、あなたレディの知り合いかしら?」
「そうニャ!レディは友達にゃ~♪」
「そう、ならラガナとも友達なのかしら?」
「おお、ラガナも友達ニャよ、おミャー、よく知ってるニャね」
「そのラガナと一緒にあなた達を探しに来たのよ」
「探す?なんでニャ?」
・・・・・そういえば、なんで探してるんだっけ?
あ、そうそう・・。
「ここは初心者の冒険者がよく来る森よ、こんなところであなたやレディみたいな異常種がうろうろしていると騒ぎになってしまうのよ」
「おー、そうなのかニャ?でもミャアは人間に酷いことはしないニャよ?」
「あら、そうなの?でも、それは人間には分からないでしょう?」
「そうなのかニャ?」
「そうなのよ」
「にゃはは、そうなのニャ~」
・・・調子狂うわね。
「ところで、なんでゴブリンを狩っていたのかしら?」
異常種とはいえ、魔物であるミャアがゴブリンを狩るというのは妙な光景であったので私は尋ねてみる。
レディも確か心が芽生えたころ魔物に襲われるようになったと言っていたことがある。
この子ももしかしたら魔物に襲われたりするのかもしれない。
きっと、辛いこともあったのかもしれないわね。
「暇つぶしニャ♪」
「・・・・あ、そう」
ミャアは長い尻尾を振りながら楽しそうに答えた。
思ったより、どうでもいいような答えであった・・・・というか、ゴブリンに同情してしまいそうである。
「と、とりあえず、森の入り口で待ち合わせしているから行くわよ。」
「わかったニャー」
ふう、とりあえずすんなり行ってくれそうでよかったわ。
こんなに物分かりのいい魔物がいるとはね・・・レディやラガナといいこのミャアという子といい、私が生きていた頃とこの世界も大分変ってきているわね。
「ところでおミャー」
「ん、なにかしら?」
「すっごく美味しそうニャ、舐めてもいいかニャ?」
「・・・・・・はい?」
私が答える前にミャアは我慢できないとでも言うかのように襲い掛かってきた。
そして、私は頭の部分をミャアの口の中にすっぽりと覆われてしまう。
「ニャ~♪やっぱり美味しいニャ~♪」
「もがっ!もがが!!」
口の中でなめまわすなぁあああああああ!!!!
「煮干しみたいでとってもいい味だニャ!おミャー最高ニャ!」
「もががーーー!!」
ちっとも嬉しくないわよーーー!!!!!
私は森の入り口着くまでずっとミャアの口の中から放してもらえなかった・・・ミャアの口の中でぐったりしている私を見てカモメが助け出してくれるまで・・・。
この猫・・・いずれシバく!!
=========================================
「大丈夫?ディータ」
「・・・うん」
ディータは全身をミャアのよだれでぐっしょりと濡らしながら腰掛に丁度よさそうな岩の上に寝転がっている。
森の入り口に戻ってくるまでずっとミャアという魔物に舐められ続けていたらしく立ち上がる元気もないようだ。
「後は、じいとか言う魔物だけだよね」
「そうね・・・ラガナが見つけてきてくれるのを期待しましょう・・・私はもう動きたくないわ」
心底疲れたという感じでディータは言う。
私は「たはは」と苦笑いしながらさすがにこの場にディータを置いて探しに行く気にはならなかったので同意する。
「んもぅ、ミャアちゃん。ディータちゃんを舐めちゃだめよぉん」
「なんでニャ?すごく美味しいニャよ」
「ダーメ、約束よぉん。じゃないともうご飯作ってあげないわよぉん」
「うにゃ!?レディのご飯が食べられないのは嫌ニャ!?」
「じゃあ、約束よぉん」
「わかったニャ・・・」
レディが二度とディータを舐めないようにミャアを説得してくれた。
というか、料理できるんだレディ・・・すごい。
「助かるわ・・・」
「ごめんなさいねぇん、ディータちゃん」
「あなたが謝ることではないわ・・・それより、久しぶりね」
「そうねぇん、と言ってもこうやって話すのは初めてよねぇん」
「あら、そうだったわね。なら、初めましてかしら?」
「うふふ、改めてよろしくねぇん♪」
「ええ、よろしく」
そっか、以前は私の中にいて私が通訳してたもんね。
こうやってちゃんと話すのは初めてなんだよね。
「うにゃ?」
「ミャアだっけ、どうしたの?」
「ラガナとじいが来たニャ」
ミャアは耳をピクピクさせながらそう言う。
ケットシーという魔物は耳がいいのだろうか?私には何も聞こえない。
「じいって人は何の魔物なの?」
レディはオークの異常種でオークレディとでもいうべき魔物である。
オーク自体には性別が無くすべての個体が男性の容姿をしているのだが異常種として生まれたレディは女性で生まれてきた。
ミャアという子はケットシーの異常種らしい。
ケットシーというのは猫と見た目は変わらないのだが、その身長は120cm程あり、二本の足で立つことのできる魔物だ。
ただ、その細さから腕力はない、その代わり魔力がそれなりに高く魔法を扱うというのだが、このミャアはけた外れの腕力を持っていて魔力は全くないらしい。
まさに異常種である。
「じいはじいニャね」
「そうねぇん」
二人してラガナと同じことを言う。
レディならもっと詳しく説明してくれるかと思ったのだがそんなにお爺さんっぽいのかな?
「あ、来たニャ」
ミャアは上空を指さして言う。
私とディータとレディはミャアの指を指した方向を見ると確かにラガナが翼を広げながらこちらに向かってきていた。
ラガナの後ろに隠れてよくは見えないが、確かにもう一人空を飛んできている。
じいという魔物は空を飛べるようだ。
「待たせたのじゃー」
ラガナがこちらに手を振りながら降りてきた。
もう一人は人見知りなのかラガナの後ろに隠れている。
じいという名前からてっきり威厳のありそうなお爺さんっぽい人が来るのかと思ったけどそんなことはないのかな?
「後ろにいるのがじいさん?」
「そうなのじゃ、ホラ挨拶するじゃ!」
「は・・・はい」
返事をするとラガナの後ろに隠れていた魔物が恐る恐る出てくる。
「初めまして・・・コロです」
コロと名乗った魔物は人見知りなのだろう自信なさげに小さな声でそう言った。
ただ・・・私はすでにそんなことはどうでもよくなっていた・・・私はその子を見た瞬間意識が飛びそうになる。
なぜなら・・・・。
「ゴキブリイイイイイイイイイイ!?!!」
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
目の前にいる魔物の容姿はまるで料理場の宿敵、お家の仇敵ともいえる黒い光るナンチャラのような姿をしていたのだ。
しかも、その姿の魔物が二足歩行で歩いているではないか・・・あれは・・・悪魔だ!
あ、ちなみに絹をも裂くような声で悲鳴を上げたのは私ではなくディータだ。
そして、岩の上に突っ伏していたはずのディータは全速力でどこかへ逃げて行ってしまった。
ディータゴキブリ苦手なんだ・・・。
「ぐすっ」
私とディータの反応を見て半泣きになっているコロという魔物。
「泣くでない、人間がそなたの見た目が苦手なのは分かっていたことじゃ」
「でも・・・僕ゴキブリじゃないですぅ・・・うわぁあああああん」
今度は半泣きではなく本気で泣き出してしまった。
その姿を見ているとちょっと悪いことをしたなぁと思うけどどうしようもない・・・だって、あれ「じい」じゃなくて「G」だよ!
・・・て、あれ?
「名前はコロっていうの?」
「うう・・・そうですぅ」
「そうなのじゃ、そなたら酷いではないか、こやつはとてもいい魔物なのじゃぞ」
「そ、そうかもしれないけど・・・でも、なんでじいって呼ばれてるの?」
「見た目がGだからじゃ!」
「僕はクリケットバグですぅうう」
いや、ラガナ・・・あんたも十分酷いからね?
クリケットバグっていうと確かコオロギの魔物だったね、見た目は黒いけどあんなゴキブリみたいな見た目じゃないはずなんだけど・・・。
いや、だからこそ異常種か・・・何もあんな形にならなくてもいいのに・・・ちょっとコロが可愛そうに思えてきたよ。
「そっか、よろしくねコロ」
「わああ、よろしくお願いしますぅうう」
私がよろしくと言ったのが嬉しかったのかパアっと表情が明るくなるとこちらに来ようとする。
「で、でも!それ以上はこっちに来ないで!」
「あううううううううう」
わ、分かってるんだよ・・・悪い子じゃないってでも・・・でもっ、その見た目で近くに来られるのは無理なの!ごめんね!ホントごめんね!だから泣かないで!!
私は、とてつもない罪悪感を覚えながらもコロに近づいてあげることは出来なかった・・・ほんと、ごめんなさい。
「うむ、さすが魔女じゃ、さしもの余も喜ばした後に地獄に落とすような真似は出来んかったがのう」
やりたくてやったんじゃないよ!!
っていうか、コロがとっても不憫である・・・。
さて、どうしよう、とりあえずラガナの仲間を集めたは良いけど、この後どうするか考えていなかった。
どこかに隠れて住んでもらうのがいいんだけど・・・。
私がそう思っていると向こうの方から誰かが歩いてくる。
「あれは誰ニャ?」
ミャアも気づいたのはこちらに向かってくる人影を見てそう言った。
「アネルさん?」
こちらに歩いてきているのはソフィーナが姉のように慕う女性で、お父さんの昔の仲間でもあるアネルさんであった。
アネルさんは先ほど全速力で逃げたディータを両手で抱えながらこちらに歩いてきている。
ディータはアネルさんの胸の中でガタガタと震えながらこちらを見ようとしていない、よっぽどGが駄目らしい。
「カモメちゃん、そちらの方たちがラガナちゃんの仲間なのかしら?」
「うん、そうだよ」
「そう、実はね、フィルディナンドちゃんがその人たちに会うっていっているの」
「王様が?」
大丈夫なのかな?レディは王様を襲ったりはしないけど他の三人がどういう行動にでるかは私も解らないんだけど・・・。
「さすがに、ラガナちゃん達ほどの魔物を野放しには出来ないみたいなのよ、だから、一度会ってどうするか決めたいらしいの」
「じゃが、レディたちは街に入れてもらえんぞ?」
まあ、さすがに見た目魔物のレディたちを待ちに入れるわけにはいかないだろう。
たとえ、レディが人を襲わなかったとしても街の人たちが怖がっちゃうからね。
「そうね、だからフィルディナンドちゃんたちを連れて来たわ」
「え・・・?」
王様がこんなところにしかも異常種が複数いると分かっているところに来ちゃっていいものなの?
「だ、大丈夫なの?」
「問題ない、アネル殿の傍なら城より何倍も安全だからな」
私が心配するとちょうど王様とソフィーナ、それにクオンとエリンシアがやってきた。
確かにこのメンツなら城で兵士に守られているより安全かもしれない。
「して・・・その者たちが異常種の集団、白竜ファミリーというわけだな」
「そうなのじゃ!」
王様の問いに答えたのはなぜか誇らしげに胸を張るラガナであった。
はあ・・・王様がどういう判断するかわからないって言うのにお気楽な・・・。
「困ったわね・・・」
カモメ達と手分けして探すことにしたのは良かったのだがよく考えてみれば私とカモメはレディ以外の魔物の姿を知らない。
探すにしても他の魔物と見分けがつかないんじゃないか?
レディは解るとして、じいと言われていた魔物は・・・じいというくらいだから老人なのだろうか・・・魔物の老人って・・・白髪だったりするのかしら?
もう一人はミャアだったかしらね・・・名前からして猫の魔物?・・・猫の魔物って何がいたかしら?
とはいえ、この南の森にも他の魔物もいる、見分けがつくかしら・・・?
私が困りながら探していると、突如目の前に大きな木が飛び上がった。
「うぇあ!?な、なに!?」
女神にあるまじき悲鳴を上げながら私は木が飛び上がった方向を見る。
「根性あるのみにゃあああああ!!」
「・・・・・絶対あれだ」
そこには複数のゴブリンを相手にするしゃべる猫の魔物がいた。
あろうことか、猫の魔物は大きな木をブンブンと振り回してゴブリンを追いかけまわしていたのである。
「あの木、あの魔物の三倍は大きいわよね・・・」
恐らく、ラガナの仲間であろう猫の魔物はとんでもない怪力の持ち主のようである・・・正直近寄りたくない。
だって、木で殴られ原型をとどめていないゴブリンがそこら中に転がっている。
完全に絶命したのかその他にも魔石がごろごろと転がっていたのだ。
とはいえ、このまま見ないふりして帰るわけにもいかないので私はゴブリンを一心不乱になぎ倒している猫の魔物から少し離れたところに降り立ち、地面に落ちている魔石を回収するのである。
後で、たーべよっと。
地面に落ちている魔物の魔石を拾い喜ぶ姿は、もう女神とは言えないかもしれない。
「お掃除完了ニャー!」
「あれってケットシーかしら?」
ケットシーというのは幸運の魔物と呼ばれる魔物である。
戦闘能力は低く、余り好戦的ではない魔物である。ただし、その数が絶対的に少なく生きている間に見ることが出来る冒険者があまりいないことから見ると幸運を呼ぶなどと言われるようになった。
実際はランクEのただの魔物なのだが・・・。
「ものすごい好戦的なケットシーね・・・」
木を片手にゴブリンをなぎ倒すその姿は戦闘力が低いとは言えない。
「レディ並みに出鱈目な魔物ね・・・」
「ニャ?」
私が独り言をつぶやくと猫の魔物がこちらに気付く。
「おミャー今、レディって言ったかにゃ?」
「ええ、あなたレディの知り合いかしら?」
「そうニャ!レディは友達にゃ~♪」
「そう、ならラガナとも友達なのかしら?」
「おお、ラガナも友達ニャよ、おミャー、よく知ってるニャね」
「そのラガナと一緒にあなた達を探しに来たのよ」
「探す?なんでニャ?」
・・・・・そういえば、なんで探してるんだっけ?
あ、そうそう・・。
「ここは初心者の冒険者がよく来る森よ、こんなところであなたやレディみたいな異常種がうろうろしていると騒ぎになってしまうのよ」
「おー、そうなのかニャ?でもミャアは人間に酷いことはしないニャよ?」
「あら、そうなの?でも、それは人間には分からないでしょう?」
「そうなのかニャ?」
「そうなのよ」
「にゃはは、そうなのニャ~」
・・・調子狂うわね。
「ところで、なんでゴブリンを狩っていたのかしら?」
異常種とはいえ、魔物であるミャアがゴブリンを狩るというのは妙な光景であったので私は尋ねてみる。
レディも確か心が芽生えたころ魔物に襲われるようになったと言っていたことがある。
この子ももしかしたら魔物に襲われたりするのかもしれない。
きっと、辛いこともあったのかもしれないわね。
「暇つぶしニャ♪」
「・・・・あ、そう」
ミャアは長い尻尾を振りながら楽しそうに答えた。
思ったより、どうでもいいような答えであった・・・・というか、ゴブリンに同情してしまいそうである。
「と、とりあえず、森の入り口で待ち合わせしているから行くわよ。」
「わかったニャー」
ふう、とりあえずすんなり行ってくれそうでよかったわ。
こんなに物分かりのいい魔物がいるとはね・・・レディやラガナといいこのミャアという子といい、私が生きていた頃とこの世界も大分変ってきているわね。
「ところでおミャー」
「ん、なにかしら?」
「すっごく美味しそうニャ、舐めてもいいかニャ?」
「・・・・・・はい?」
私が答える前にミャアは我慢できないとでも言うかのように襲い掛かってきた。
そして、私は頭の部分をミャアの口の中にすっぽりと覆われてしまう。
「ニャ~♪やっぱり美味しいニャ~♪」
「もがっ!もがが!!」
口の中でなめまわすなぁあああああああ!!!!
「煮干しみたいでとってもいい味だニャ!おミャー最高ニャ!」
「もががーーー!!」
ちっとも嬉しくないわよーーー!!!!!
私は森の入り口着くまでずっとミャアの口の中から放してもらえなかった・・・ミャアの口の中でぐったりしている私を見てカモメが助け出してくれるまで・・・。
この猫・・・いずれシバく!!
=========================================
「大丈夫?ディータ」
「・・・うん」
ディータは全身をミャアのよだれでぐっしょりと濡らしながら腰掛に丁度よさそうな岩の上に寝転がっている。
森の入り口に戻ってくるまでずっとミャアという魔物に舐められ続けていたらしく立ち上がる元気もないようだ。
「後は、じいとか言う魔物だけだよね」
「そうね・・・ラガナが見つけてきてくれるのを期待しましょう・・・私はもう動きたくないわ」
心底疲れたという感じでディータは言う。
私は「たはは」と苦笑いしながらさすがにこの場にディータを置いて探しに行く気にはならなかったので同意する。
「んもぅ、ミャアちゃん。ディータちゃんを舐めちゃだめよぉん」
「なんでニャ?すごく美味しいニャよ」
「ダーメ、約束よぉん。じゃないともうご飯作ってあげないわよぉん」
「うにゃ!?レディのご飯が食べられないのは嫌ニャ!?」
「じゃあ、約束よぉん」
「わかったニャ・・・」
レディが二度とディータを舐めないようにミャアを説得してくれた。
というか、料理できるんだレディ・・・すごい。
「助かるわ・・・」
「ごめんなさいねぇん、ディータちゃん」
「あなたが謝ることではないわ・・・それより、久しぶりね」
「そうねぇん、と言ってもこうやって話すのは初めてよねぇん」
「あら、そうだったわね。なら、初めましてかしら?」
「うふふ、改めてよろしくねぇん♪」
「ええ、よろしく」
そっか、以前は私の中にいて私が通訳してたもんね。
こうやってちゃんと話すのは初めてなんだよね。
「うにゃ?」
「ミャアだっけ、どうしたの?」
「ラガナとじいが来たニャ」
ミャアは耳をピクピクさせながらそう言う。
ケットシーという魔物は耳がいいのだろうか?私には何も聞こえない。
「じいって人は何の魔物なの?」
レディはオークの異常種でオークレディとでもいうべき魔物である。
オーク自体には性別が無くすべての個体が男性の容姿をしているのだが異常種として生まれたレディは女性で生まれてきた。
ミャアという子はケットシーの異常種らしい。
ケットシーというのは猫と見た目は変わらないのだが、その身長は120cm程あり、二本の足で立つことのできる魔物だ。
ただ、その細さから腕力はない、その代わり魔力がそれなりに高く魔法を扱うというのだが、このミャアはけた外れの腕力を持っていて魔力は全くないらしい。
まさに異常種である。
「じいはじいニャね」
「そうねぇん」
二人してラガナと同じことを言う。
レディならもっと詳しく説明してくれるかと思ったのだがそんなにお爺さんっぽいのかな?
「あ、来たニャ」
ミャアは上空を指さして言う。
私とディータとレディはミャアの指を指した方向を見ると確かにラガナが翼を広げながらこちらに向かってきていた。
ラガナの後ろに隠れてよくは見えないが、確かにもう一人空を飛んできている。
じいという魔物は空を飛べるようだ。
「待たせたのじゃー」
ラガナがこちらに手を振りながら降りてきた。
もう一人は人見知りなのかラガナの後ろに隠れている。
じいという名前からてっきり威厳のありそうなお爺さんっぽい人が来るのかと思ったけどそんなことはないのかな?
「後ろにいるのがじいさん?」
「そうなのじゃ、ホラ挨拶するじゃ!」
「は・・・はい」
返事をするとラガナの後ろに隠れていた魔物が恐る恐る出てくる。
「初めまして・・・コロです」
コロと名乗った魔物は人見知りなのだろう自信なさげに小さな声でそう言った。
ただ・・・私はすでにそんなことはどうでもよくなっていた・・・私はその子を見た瞬間意識が飛びそうになる。
なぜなら・・・・。
「ゴキブリイイイイイイイイイイ!?!!」
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
目の前にいる魔物の容姿はまるで料理場の宿敵、お家の仇敵ともいえる黒い光るナンチャラのような姿をしていたのだ。
しかも、その姿の魔物が二足歩行で歩いているではないか・・・あれは・・・悪魔だ!
あ、ちなみに絹をも裂くような声で悲鳴を上げたのは私ではなくディータだ。
そして、岩の上に突っ伏していたはずのディータは全速力でどこかへ逃げて行ってしまった。
ディータゴキブリ苦手なんだ・・・。
「ぐすっ」
私とディータの反応を見て半泣きになっているコロという魔物。
「泣くでない、人間がそなたの見た目が苦手なのは分かっていたことじゃ」
「でも・・・僕ゴキブリじゃないですぅ・・・うわぁあああああん」
今度は半泣きではなく本気で泣き出してしまった。
その姿を見ているとちょっと悪いことをしたなぁと思うけどどうしようもない・・・だって、あれ「じい」じゃなくて「G」だよ!
・・・て、あれ?
「名前はコロっていうの?」
「うう・・・そうですぅ」
「そうなのじゃ、そなたら酷いではないか、こやつはとてもいい魔物なのじゃぞ」
「そ、そうかもしれないけど・・・でも、なんでじいって呼ばれてるの?」
「見た目がGだからじゃ!」
「僕はクリケットバグですぅうう」
いや、ラガナ・・・あんたも十分酷いからね?
クリケットバグっていうと確かコオロギの魔物だったね、見た目は黒いけどあんなゴキブリみたいな見た目じゃないはずなんだけど・・・。
いや、だからこそ異常種か・・・何もあんな形にならなくてもいいのに・・・ちょっとコロが可愛そうに思えてきたよ。
「そっか、よろしくねコロ」
「わああ、よろしくお願いしますぅうう」
私がよろしくと言ったのが嬉しかったのかパアっと表情が明るくなるとこちらに来ようとする。
「で、でも!それ以上はこっちに来ないで!」
「あううううううううう」
わ、分かってるんだよ・・・悪い子じゃないってでも・・・でもっ、その見た目で近くに来られるのは無理なの!ごめんね!ホントごめんね!だから泣かないで!!
私は、とてつもない罪悪感を覚えながらもコロに近づいてあげることは出来なかった・・・ほんと、ごめんなさい。
「うむ、さすが魔女じゃ、さしもの余も喜ばした後に地獄に落とすような真似は出来んかったがのう」
やりたくてやったんじゃないよ!!
っていうか、コロがとっても不憫である・・・。
さて、どうしよう、とりあえずラガナの仲間を集めたは良いけど、この後どうするか考えていなかった。
どこかに隠れて住んでもらうのがいいんだけど・・・。
私がそう思っていると向こうの方から誰かが歩いてくる。
「あれは誰ニャ?」
ミャアも気づいたのはこちらに向かってくる人影を見てそう言った。
「アネルさん?」
こちらに歩いてきているのはソフィーナが姉のように慕う女性で、お父さんの昔の仲間でもあるアネルさんであった。
アネルさんは先ほど全速力で逃げたディータを両手で抱えながらこちらに歩いてきている。
ディータはアネルさんの胸の中でガタガタと震えながらこちらを見ようとしていない、よっぽどGが駄目らしい。
「カモメちゃん、そちらの方たちがラガナちゃんの仲間なのかしら?」
「うん、そうだよ」
「そう、実はね、フィルディナンドちゃんがその人たちに会うっていっているの」
「王様が?」
大丈夫なのかな?レディは王様を襲ったりはしないけど他の三人がどういう行動にでるかは私も解らないんだけど・・・。
「さすがに、ラガナちゃん達ほどの魔物を野放しには出来ないみたいなのよ、だから、一度会ってどうするか決めたいらしいの」
「じゃが、レディたちは街に入れてもらえんぞ?」
まあ、さすがに見た目魔物のレディたちを待ちに入れるわけにはいかないだろう。
たとえ、レディが人を襲わなかったとしても街の人たちが怖がっちゃうからね。
「そうね、だからフィルディナンドちゃんたちを連れて来たわ」
「え・・・?」
王様がこんなところにしかも異常種が複数いると分かっているところに来ちゃっていいものなの?
「だ、大丈夫なの?」
「問題ない、アネル殿の傍なら城より何倍も安全だからな」
私が心配するとちょうど王様とソフィーナ、それにクオンとエリンシアがやってきた。
確かにこのメンツなら城で兵士に守られているより安全かもしれない。
「して・・・その者たちが異常種の集団、白竜ファミリーというわけだな」
「そうなのじゃ!」
王様の問いに答えたのはなぜか誇らしげに胸を張るラガナであった。
はあ・・・王様がどういう判断するかわからないって言うのにお気楽な・・・。
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15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。
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そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。
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