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3章

傍若無人

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「あれが・・・化け物ね」
「そうだ、アイツにアタシらは何度も生気を吸い取られてるんだ」


口だけが付いた球体の物体は近くで祈りを捧げている女性へと近づいていった。



「い、いや・・・神様お助けください・・・」
「や、やめろ!」
「いやあああああ!」



球体が口を開くと大きく息を吸い込み続けているように女性から何かを吸い上げていた。

なるほど・・・ああやって、人間の魂を食べているのね。

球体はほんの10秒ほど女性から魂を吸い上げると吸い上げるのを止める。


「ああやって、毎日少しずつ、生気を吸っているんだ」
「生気ではないわね・・・あれは魂そのものよ」
「魂?」
「ええ、あなた達は気付いていないかもしれないけど、今のあなた達は生身の体ではないわ。魂がその記憶を再現して肉体があるように感じているだけなのよ」
「ど、どういうことだ?」
「貴方、冒険者のシンシアよね?」
「どうしてアタシの名前を?」


不思議そうにするシンシアに事情を説明する。
冒険者である彼女は最近起きている意識不明事件の事を知っていたらしく、すぐに事情を呑み込んだ。


「そうか・・・アタシもあの事件に・・・そういえば、酒場の前の路地で小さな子に話しかけられた・・・そうだ、あの子は森の中でも・・・」


ブツブツと独り言を言い始めたシンシア。
だが、球体が次の標的に向かって移動し始めたのを見た私は、独り言をいうシンシアを置いて歩き出した。


「何をするつもりだ?」
「魂は時間を置けば回復するわ、でも、何度も何度も吸われ続けていればそのうち回復が追い付かなくなり魂の密度が足りず、消滅する」
「な!?」


歩き出した私に気付いたシンシアが私を追いかけてきて尋ねたので答えた。
人間の魂は逞しいもので多少、何かの理由で損失したりしても肉体と同じように治癒していくのだ。
だが、あくまで多少の話である、少しずつとはいえ連続で何度も吸われればいずれ回復が追い付かなくなりその魂は消滅してしまう。
そして・・・。


「あそこで動けなくなっている人間は最初の犠牲者よ、何度も魂を吸われたのでしょうね、そろそろ限界だわ」
「そんな、じゃあ、これ以上吸われたら・・・」
「死ぬわね・・・でも、死なせるわけにはいかないのよ」


カモメが必死に助けを求めるあの人間の妻に心を痛めていた。
出来れば助けてあげたい、そう思っているのがカモメの中にいる私にはひしひしと伝わっていたのだ。


「底の丸いの・・・随分と好き放題やっているわね」


私が、声を掛けると耳もないだろうに球体は私の言葉に反応する。
そして、ターゲットを私に変えたのかこちらに向かってきた。


「なっ、こっちに!?」


シンシアが引け越しになる、まあ、魂を吸われる感覚なんていいものではないでしょうしね。

球体は私に近づくと口を大きく開け、先ほど女性の魂を吸った時と同じように、私から魂を吸おうとした・・・・・が。


「調子に乗っていると・・・殴るわよ!!」


そう、忠告しながら私は球体を蹴り上げた。


「うぇ?」


後ろでシンシアが間抜けな声を上げる。
球体は思いっきり蹴り上げられ、天井にぶつかったのか鈍い音を上げた後、落下してきた。
暗闇でよくわからないが天井があったらしい。


「低級悪魔の分際で私の魂を食べようなんて身の程知らずね」
「今、蹴って・・・アタシが攻撃したときはビクともしなかったのに・・・なんで!?」


球体もそう思ったのか再び浮かび上がると私から距離を取る。


「私の魂を他の人間と一緒にしないで欲しいわね、格が違うのよ」
「ど、どういうこと?」
「あんな低級悪魔に食べられるほど耄碌してないわ」


そう、今私が蹴り飛ばした相手は悪魔だそれも低級の。
悪魔というのは契約によって呼び出される異界の生物だと言われている。
以前、カモメが戦った魔人と呼び出し方は似ているが、魔人程、大規模な儀式は必要なく、召喚者の魔力を引き換えに呼び出されるらしい。

まあ、魔族が呼び出したにしては大したことのない悪魔のようだ。


「ちぇすとおおおお!!」


私の拳が再び悪魔に炸裂する。
球体は再び、ふっとび、今度は壁でもあるのかまたも激突し地面に転がった。


「さて・・・あれが本体なのかそれとも別に本体があるのか・・・まあ、消滅するまで殴ればわかるわね」
「な、なんでアンタの攻撃はアイツにダメージを与えられるんだ?」
「気合よ」
「き、気合って・・・そんなめちゃくちゃな」


滅茶苦茶なと言われても、そうとしか言いようがないのよね。
ただ単に女神である私の魂は人間どころか悪魔よりも強い、それだけの事なのだ。
だから、殴りたいから殴る・・・という事なのであって、大した理由があるわけではない。

私はそう言いながらも地面に転がった球体を思いっきり踏みつけた。
すると、球体はもう限界だったのか粉々に砕けるのだった。


「す、すげぇ・・・」
「さて・・・これでここから出られるのかしらね?」
「姐さんめっちゃかっこいいぜ!」
「誰が姐さんよ・・・」


なぜか、すごいテンションの上がっているシンシアにマジ尊敬っす!舎弟にして欲しいっす!とか言われる・・・舎弟とかいらないわよ。


「それより、出口を・・・」


探すわよ、と言おうとしたのだが、どうやら向こうからお迎えをしてくれたらしい。
私の周りに突如現れた黒い何かが私の周りを囲うと次の瞬間には今の今まで隣にいてうるさかったシンシアの姿が無くなっていた。
周りが暗闇しかないのでわかりにくいが、どうやら別の場所に連れてこられたらしい。
なぜなら、私の目の前にさっきの球体の20倍くらいはあるだろう球体が大きな口を開けていたのだ。


「殴りがいがありそうね」


どうやら、先程の小さな球体は分身体か何かだったようで今目の前にいる悪魔は低級悪魔とは言えない魔力量を持っていた。

悪魔は先ほどの小さな球体と同じようにその大きな口を開け、私の魂を食べようとする。
なので私も先ほどと同じように思いっきり蹴り飛ばしてやった。


まるで、ゴム毬が弾むような音を立てながら暗闇を跳ね回る悪魔。


「あら、よく跳ねるボールね」


四方を跳ね回り勢いがやっと、勢いが止まった悪魔に私は歩いて近づく。
すると、球体の悪魔に一つの目が開き、思いっきり涙を流していた。

目があったのね・・・。
私はそう思うと今度はその開いた目を思いっきりぶんなぐってやった。


「なんか、つぶらな瞳がむかついたわ」


開いた目はまるで少女のような目をしており、うるうると涙を流す姿が異様に腹がたった。
ああいうの、殴りたくなるわよね。


球体は再び起き上がると、左右上下と体全体を振り、まるで「ごめんなさい許してください」と命乞いをしているような動作をする。


「悪いけど、ずっと体が無くて鬱憤が溜まってたのよね・・・」


私は、手の関節を鳴らしながらにこやかな笑みを浮かべて悪魔に言った。
その言葉を聞いた、悪魔は黒い体を青くするのであった。

私は、今までカモメがピンチの時に何もできなかった悔しさや、怒り・・・そして、カモメを可愛がれず泣いた悲しみをすべて悪魔にぶつけるのだった。


 
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