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3章

被害者

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「ここが、被害者の一人目の家?」
「うん、ベンディエットさんって言う人の家らしい」
「そっか、それじゃ・・・ごめんくださーい!」


私は、一人目の被害者の家である一軒家に訪れていた。
先ずは、その人の家族に会って、意識不明になったときの被害者の足取りや状況を聞こうとしているのだ。


「はい・・・え?魔女様?」


私が家の外から声を掛けると女性が玄関を開けて出てきてくれた。
どうやら、私の事を知っているらしく、驚いた表情で私の顔を見てきた。


「魔女様がどうしてウチに?」
「あ、えっとね、意識不明事件の調査の依頼を受けてよかったら被害者の事を聞かせてもらえないかなと思って来たんだけど・・・」
「いきなりすみません、避ければベンディエットさんが意識不明になった日の事を聞かせてもらえないでしょうか」


説明下手の私の代わりに改めてクオンが尋ねてくれる。
どうやら出てきた女性はベンディエットさんの奥さんらしい、彼女は警戒もなく私たちを家に入れてくれた。
街の復興を手伝ったからなのか、最近は住民の人たちが私に対してあまり警戒をしていない気がする。



「その人がベンディエットさん?」
「はい・・・意識を無くして一週間になります」


一週間か・・・一番最初の被害者というだけのことはあって結構な日にちが過ぎている。
私はベンディエットさんに近づき治癒魔法を掛けてみた。
もしかしたら、頭とかを打って意識不明になっているだけかも知れないし・・・いや、それも十分家族にとっては大ごとではあるけど。

だが、治癒魔法を掛けても一向に変化は無かった。


「見たところ外傷もないみたいですね」
「ただ、眠っているだけのようにも見えますわね」


そう、ベンディエットさんは規則正しい寝息を立てている、傍から見ればただ眠っているだけに見えるだろう。


『どういうこと・・・?』
「ん、どうしたの?」


私の頭の中でディータが疑問の声を上げた。
何か気付いたのかな?


『この男・・・魂が無くなっているわ』
「え、魂が無い?」
「魂?どういうことですのカモメさん」
「あ、ううん、私じゃなくてディータが・・・」
『この男の体に魂が無くなっているのよ』


ディータが言うにはベンディエットさんの体は魂の抜けている状態らしい。

魂が抜けても人って生きられるのか聞いてみると、どうやら体自体の生命活動は続くらしいのだが、魂が無い状態だとただ呼吸するだけの人形と変わらないらしい。
果たしてそれを生きていると言っていいのかは疑問である。


「た、魂が無いって・・・夫はどうなるんでしょう・・・」
「えっと・・・」
『魂を戻せば元には戻るわ・・・ただ・・・』


ディータが言うには魂を戻せば問題なベンディエットさんは回復するらしい。
でも、その魂が無事な状態でいればの話である・・・。
なぜ、彼がこんな状態になっているのかわからないが、何かしらの理由で彼の魂はこの体から無くなってしまったのだ。
もし、それがどこかに捕らわれている状態であれば戻せる可能性もあるかもしれない。
以前のディータのようにどこか異次元に魂だけ隔離されていたり、もしくは何か別の物の中に入れられ保存されていれば残っている可能性があるのだという。

でも、もし何かの魔物に魂を砕かれてしまったり、何かの拍子で肉体から魂が抜けだし世界に不要なものとして浄化されてしまっていたら元には戻らないとのことだ。


「そ、そんな・・・魔女様・・・お願いします、夫を・・・夫を助けてください」


うぅ・・・ディータの言うとおりであればベンディットさんを助けられる可能性は低い・・・。
ここで能天気に助けるなんて言ってあげることは私には出来ない・・・でも・・・。


「ごめん、絶対に助けるって言えない・・・」
「そんな!夫を見捨てるっていうんですか!お願いです!助けて・・・助けてください!!」


奥さんは取り乱して私の肩を掴んで必死にお願いしてくる。
指にはかなりの力が入っていて私の肩に食い込んできた。


「やれるだけのことはやるよ・・・だから、意識不明になった日のベンディエットさんの様子を教えてもらってもいい?」
「はい・・・」


奥さんは泣きながら、その日の事を教えてくれた。
ベンディエットさんはその日、街の片づけを手伝っていたらしい。
一週間前というとちょうど街の復興が終わりに近づき、片付けなどをしていたころだ、それを手伝っていたのだろう。

ただ、ベンディエットさん事態は普段と変わりがなく特に悩んでいたなんてことも無く、不審な人間に付きまとわれていたということもないらしい。
・・・と、なるとその日に何かがあったのか。


「ありがとう、それじゃ私たちは調査を続けるから何かわかったら知らせるよ・・・」
「はい・・・あ、あの!」
「ん?」
「先程は申し訳ありません・・・取り乱してしまって・・・魔女様は何も悪くないのに・・・」
「ううん、大切な人を助けたいって気持ちは私も解るもん・・・」
「魔女様・・・」
「全力は尽くすよ・・・」
「ありがとうございます」


そう、大切な人を守りたいって気持ちは私たちもよくわかる・・・原因を絶対突き止めないと。


その後、他の七人目までの被害者の家を回ってみたものの、どの被害者も最初のベンディエットさんと同じで特に変わった様子もなく意識不明の状態になったそうだ。
そして、最後の一人である、八人目の被害者は冒険者だったようだ。


「ここにその冒険者のパーティが泊ってるんだよね」
「みたいだね、冒険者のパーティは四人、そのうちの一人が意識不明らしい」


その冒険者パーティはランクFの冒険者が三人に、リーダーであるランクEの冒険者が一人という構成らしい。
そして、意識不明になったのはそのランクEのリーダーだということだった。


私達は宿屋に入ると、女将さんに事情を説明し、その冒険者達の部屋を教えてもらう。
冒険者は二つ部屋をとっており、女性と男性で分かれていたらしい、そして被害者であるリーダーは女性だということで私たちは女性の方の部屋を訪れた。

ノックをすると中から女性の声が返ってくる、よかった、出掛けてはいなかったらしい。
冒険者ということでもしかしたら留守の可能性もあるかもと思ったのだがそんなことはなかったようだ。
よく考えてみれば意識不明の仲間を一人残しては行かないか。


「誰?」


扉は開かず声だけが返ってくる。
その声には緊張と警戒の色が出ていた。


「えっと、冒険者ギルドから依頼を受けて意識不明事件を調査してるんだけど、話を聞かせてもらってもいいかな?」
「ギルドが?」
「うん、アイナから今朝、依頼されて」


私がアイナの名前を出すと、部屋の扉が開いた。
アイナの名前を知っているってことは少なくともギルドの関係者の可能性が高いと思ってくれると思ってそうしたのだ。
私って頭いい~♪


・・・だが、後から聞いた話によると中にいた冒険者の女性は私の声が女性だったこと、喋り方が子供っぽかったから少し警戒が緩んだらしい。
子供っぽくないもん・・・。
後、クオン曰く、受付嬢であるアイナの名前は結構知っている人が多いので意味がないらしい・・・ぐすん。



「・・・って、あれ?魔女様!?」
「あ、うん」
「魔女様が事件の依頼を?」
「うん、意識不明事件の依頼を受けたよ」
「わああ!ありがとうございます!私たちだけじゃどうしようもなくて!」


彼女はランクF冒険者のリンダというらしい、彼女は意識不明になったリーダーのパーティに所属していて、彼女のパーティの他の人たちと独自に調査をしていたのだとか。
リーダーはシンシアという名前らしい、ベッドに横になり規則正しく呼吸をしている彼女は獣人なのか頭には狼のような耳が生えていた。
そのシンシアが意識不明になったのは昨日、午前中に薬草採取の依頼を受けて、その依頼を達成後、各々が自由行動をしている時に意識不明となったしい。


「その依頼の時、何か変わったことは?」
「いえ、特には・・・」


クオンがその日の状況を色々と聞いてくれている。
冒険者ならば一般人とは違いなにか違和感みたいなものを感じている可能性がある。
だが、今のところはやはり特に変わったことはなかったらしい。
シンシアという人もいつも通りで、なにか思いつめていたりとかも無かったとか・・・。


「・・・・あ」
「何か思い当たることが?」
「いえ、関係あるかわからないんですけどあの依頼の時にリーダーが変なことを言ってたなーって」
「変な事?」
「依頼は南の森の入り口部分に生えている薬草の採取だったんですけど、その時、リーダーがおかしなことを言ってたんです」
「おかしなこと?」
「はい、森の中に人形を抱えた少女がいた・・・とか」


人形を抱えた少女・・・?森の中に?
ここ、ツァインの南には森がある。とはいえ、それほど大きな森ではなく小さな森だ。
そこにはポーションなどの作成に使える薬草が生えている為、低ランクの冒険者はそこでの薬草採取の依頼を良く受けるのだとか。
とはいえ、それでも魔物に会う可能性はある、そんなとこに少女が?


「それは確かにおかしな話だね」
「その時は、リーダーの見間違えだと思って笑ってたんだけど・・・もしかして」
「その少女が何か知っているかも・・・ですわね」


森の中の少女か・・・うーん。
確かに本当だったらおかしい話だけど、その少女が人の魂をとるなんてことあるのかな?


『無いとは言い切れないわよ?魔物が少女の姿に化けていたのかもしれないじゃない』


なるほど・・・確かにその可能性もあるか・・・あれ、そう言えば。


「そういえば、コハクたちも薬草の採取に行くって言ってなかった?」
「そういえば言っておりましたわね」
「なら、帰ってきたら話を聞いてみよっか?もしかしたらその少女を見てるかも知れないし」
「だね、それにもし見ていたら次のターゲットになっているかもしれない」
「ですわね」


私達はリンダに情報提供のお礼を言って、宿屋を後にした。
そしてそのまま、ギルドへと戻るのであった。
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