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2章
街の人の依頼
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「さあ、気を取り直してダンジョンにでも行ってみる?」
晴れて冒険者となった私は早速、早速冒険者らしいことがしたくてウズウズしている。
とりあえず、手近なダンジョンを攻略して奥の宝物を手に入れないとね。
ダンジョンの最下層には宝箱が置かれている。
誰が何のために置いたのかわからないが中には人間では作れないような魔導具や魔剣・・・そして、中には聖武具と呼ばれる魔族にすらダメージを与える武器が眠っていることがあるのだ。
誰が何のためになんていう難しいことは私には分かるわけがないので考えるのはやめておこう。
ディータに聞いても知らないと言われてしまった。
ダンジョンや魔物はディータ達がこの世界に来る前からあったらしい。
ディータ達も最初からこの世界にいたわけではないようだ。
そして、ディータ達が命を与えたのは人族と呼ばれる人間や亜人、そして動物などらしい。
それも、元となる種を作っただけで進化は女神の手を離れて行われるらしく、ディータ達女神でも人族や動物を操ることは出来ないということだ。
ディータ曰く、女神も万能ではないらしい。
「あ、あの・・・」
「ん?」
私がダンジョンに行きたくてウズウズしていると猫の獣人の受付嬢がオズオズと手を上げた。
どうしたんだろう?
「まだ、何かあった?」
「い、いえ、その・・・魔女様にはとても申し訳ないのですが、依頼の方を頼みたいのです」
「依頼?・・・うわっ」
受付嬢であるアイナが指を指したのでその方向を見てみると、恐らく依頼を貼っておく掲示板なのだろうがその掲示板が見えなくなるくらいの紙がベタベタと貼られていた。
あれ、全部依頼なの?
「その、ウェアウルフの一件で冒険者の方々もそちらに行かれてしまったので依頼がどんどんと溜まってしまいまして・・・」
「あー」
なるほど、確かにウェアウルフが襲撃してくるかもしれないのに依頼をしている訳にはいかないよね。
依頼している間に国が滅びたなんて笑い話にもならないよ。
「クオン、エリンシア、いいかな?」
「僕は構わないよ」
「ワタクシも問題ありませんわ」
クオンとエリンシアが承諾するとアイナが目を輝かし尻尾をブンブンと振った。
アイナ・・・猫の獣人だよね・・・犬みたい。
「ありがとうございます!それでは、あの中から好きなのを持ってきてください。」
「好きなのって・・・」
ごちゃっと貼られた掲示板をあそこから自分に合ったのを探すのは面倒だなと思ってしまう。
「適当でいい?」
「簡単そうな仕事なら手分けしてやったほうがいいんじゃありません?」
「そうだね、手早く終わらせてしまおう」
確かにその方がいいかな、数を減らせばダンジョンとかにだって行けるしね。
まあ、依頼をこなすのも冒険者の醍醐味ではあるのでちょっとワクワクとしていたりもするのだけど。
「それじゃ、私はこれにしよう」
掲示板に近づき適当に近くの依頼を取る。
見出しには「宝物採掘」と書かれている。
お、これはアタリじゃない?宝物を探すなんて冒険者にぴったりの依頼だよ。
そう思い、私はその依頼書を持ってアイナの所まで来た。
「それじゃ、これお願い」
「はい、ありがとうござ・・・えっと、こちらで本当によろしいのですか?」
「うん、いーよ♪」
「わ、わかりました、では、こちらは魔女様にお願いいたします」
アイナは依頼書にハンコを押して私に返してくれる。
これで正式に依頼を受注したことになるのだ。
そういえば、詳細まだ読んでなかったね、アイナの反応から強い敵が出てくるような場所に行くのかな?
わくわくとしながら私は視線を詳細の場所に移動する。
「どんな依頼を受けましたの・・・ふむふむ、あら・・・・ま、まあ、カモメさん頑張ってくださいまし」
私を応援するエリンシア。
私は詳細の部分を確認して固まっている。
いつもなら、こんな私を見てエリンシアは揶揄ってくるのだが、余程気の毒に思えたのかな・・・優しく応援してくれた。
・・・・・・・・宝物採掘・・・確かに宝物採掘だ。
詳細にはこう書かれていた。
溝に落ちた僕の宝物を探してください!・・・と。
そうだ・・・この依頼・・・溝攫いだ・・・・・・しくしく。
ツァインでの冒険者としての初依頼・・・それがまさか溝攫いとは・・・ちゃんと詳細を見ればよかったよ。
しかし、受けてしまった以上、キャンセルなどすれば私の冒険者としての名に傷がつく。
やってやろうじゃないか!溝だろうが地面だろうが全部掘り返して見つけてやる!
「はあ、じゃあ、私は行ってくるよ・・・二人も頑張って」
「うん、気を付けてね」
「大丈夫だよ、いくら何でも溝攫いで怪我したりなんてしないって」
「そうだね、でも、なかなか見つからないからって地面ごと壊しちゃ駄目だよ?」
「うぐっ」
くう・・・見透かされてて悔しい。
とはいえ、そんなことしたら街の人に怖がれちゃうもんね・・・ちゃんとやるよぅ。
「ワタクシはこの一日ウェイトレスをやってみますわ」
「商会の娘がウェイトレスって・・・」
「やってみたかったんですの♪」
「あ、そう・・・」
お金持ちの考えは変わってるなぁ・・・ウェイトレスってお客さんの相手とか大変そうなのに・・・。
まあ、本人がやる気なのでいっか。
「クオンは?」
「迷子のペットを探す依頼をやろうかな」
おお、それは昔もやったね。
クオンが見事猫を捕まえてたよ。
「それじゃ、みんな頑張ろう!」
「「おー!」」
私達は各々、ギルドを出て、依頼人の元へと向かった。
「闇の魔女が溝攫いねぇ・・・」
「全然噂と違いますね・・・普通の女の子って感じでした」
「ああ、だが実力は本物だったぜ?」
「ガートンさんはウェアウルフの時に見ていたんでしたね・・・私は見ていなかったので半信半疑でしたが・・・あの方たちの事、好きになれそうです」
「ツァイン1の受付嬢のアイナちゃんに気に入られるなんてあいつらもツイてるねぇ」
ガートンと呼ばれた気さくに声を掛けてきた冒険者とアイナが私たちの後姿を見ながら話していた。
この時、私は周りの冒険者が私たちを受け入れてくれたことでこの街の人たち全員が私たちを受け入れてくれたと思っていたがそうではないことをこの後理解した。
私達が戦っているところを見た、冒険者の人たち・・・いや、その場で戦っていた人たちはあの時の自分たちの状況がどれほど絶望的な状況でそれを救った私たちが本当に英雄のように見えたのだろう。
だからこそ、すぐに受け入れてくれたのだが、街の人たちは違う。
絶望的な状況は、ほとんど門の外で起きていたのでいかに自分たちが危機に瀕していたのかは完全には理解していない。
何も感じていないと言うわけではないが冒険者や兵士達ほど実感はしていないのだ。
危機を救った私たちに感謝はしているが私の闇の魔女の噂を塗り替えるほどではなかった。
現に、私が受けた依頼主の男の子の母親は私から子供を護るようにずっと子供を抱きかかえている。
他の国の時のように私を見た瞬間逃げ出すようなことをしないだけマシではあるのだが、私の胸はチクリと痛んだ。
・・・ううん、そんなこと言っていては駄目だ。
ディータも言っていたじゃないか、私の今後の行動次第だ。
冒険者は行動力が大事!よーし!
「えっと、エルト君だったっけ?宝物をなくしたのはここの溝でいいの?」
「うん、そーだよ」
「よーし、お姉ちゃんが見つけてあげるから待っててね」
「ありがとー!」
そう言って、私は溝の中に入る。
といってもそのまま入ると、せっかくもらった服が使えなくなるので風の魔法で体の周りに風を発生させ簡単な防御魔法を作る。
これで、溝の汚水に触れなくて済む。
「宝物はどんな形なのかな?」
「大きなビー玉だよー」
「オッケー♪」
ビー玉かこの中から探すのは大変そうだ。
溝の水は殆ど流れていないのでビー玉を攫って行ってはいないだろう。
溝の底も泥なのかなんなのかわからない物が貯まっているのでビー玉はこの中に埋もれている可能性が高い。
なので私は下にたまっている泥のようなものを手ですくいながらその中にビー玉が無いか確認していくのだった。
「ねーねー、お姉ちゃんってまじょなの?」
「こ、こら!」
エルト君のお母さんが慌ててエルト君の口をふさぐ。
「う、うん、そう言われてるね」
「ふぇも、ふぇんふぇんこわくないよー?」
「え、エルト!!」
口を塞いでいるのに何を言っているか分かってしまう為さらに慌てるお母さん。
「あはは、おねーちゃんは冒険者でもあるからねー。冒険者は怖くないでしょ?」
「顔がこわいぼーけんしゃいっぱいるよー」
今度は慌てて口を塞ごうとしないお母さん。
そういえば、ギルドで気さくに声を掛けてくれた冒険者は厳つい顔をしていたね。
「あちゃー、そういえばそうだね」
「でも、まじょのおねーちゃんこわくないよー」
「あはは、ありがと♪よーし、魔女のお姉ちゃん頑張ってエルト君の宝物探すからね♪」
「うん!」
お母さんはまだびくびくしていたが、私が子供に害を与えないと少しは信用してくれたのかちょっとだけ、本当にちょっとだけだが微笑んだ。
「ありがとー、ドブのまじょのおねーちゃん!」
「溝の魔女じゃないよ!?」
そんな汚い魔女はお断りだよ!と抗議しようとしたら足をとられてコケてしまう。
ものの見事に溝の中にダイビングした・・・風の魔法使っててよかった。
ふと、右手に堅いものの感触があった。
溝から顔を出して確認してみると・・・
「あー、僕のビー玉!!」
右手の中にはキラキラと光るビー玉が入っていた。
ラッキーなことに転んだ拍子に見つけたらしい。
「はい、もう無くさないようにね」
「うん、ありがとードブのおねーちゃん!」
「魔女も抜けちゃったよ!?」
それはもうただの溝臭いお姉ちゃんである・・・しくしく。
「あの、すみません」
「あ、ううん、気にしないで」
お母さんがビクビクしながらも謝ってきてくれた。
あはは、こんなことで怒ったりしないよう、だからそんなにビクビクしないで・・・帰りながら後ろにいる私を警戒しながら帰らないで・・・魔法を撃ったりしないから!
やっぱりそうそう簡単に闇の魔女としての噂を拭うことは出来ないらしい。
エリンシアは指名手配されてないから大丈夫だろうけど、クオンは大丈夫かな?
魔女の使い魔として指名手配をされているので扱いは私と一緒だろうし。
案の定、クオンの方も怖がれていたらしい。
でもちゃんと依頼はこなしたらしく、最後はお礼を言ってくれたそうだ。
少しずつ少しずつだけど私たちのイメージを回復させていこうね。
この後も、私たちはギルドにたまっている依頼を何個もこなしていった。
そのほとんどが普通の街の人の依頼だったのでビックリした。
このツァインのギルドは結構、こういう依頼が多いらしい。
冒険者達も街の人の手助けを出来ることが嬉しいのか進んで受けていた。
王様のおかげなのかこの国人達は暖かい。
こんないい国があったんだね・・・私も頑張らなきゃと私は気合を入れ直したのである。
しかし、溝攫いをしてきた私が臭いにおいを発していなかったことに疑問を持ったアイナに私が魔法で防いだのでというと、アイナは溝攫い系の依頼を私にばかり持ってくるようになった。
皆、臭いのは嫌だよねやっぱり・・・。
お陰でしばらくの間、街の人から溝の魔女と呼ばれるようになったのだ・・・しくしく。
晴れて冒険者となった私は早速、早速冒険者らしいことがしたくてウズウズしている。
とりあえず、手近なダンジョンを攻略して奥の宝物を手に入れないとね。
ダンジョンの最下層には宝箱が置かれている。
誰が何のために置いたのかわからないが中には人間では作れないような魔導具や魔剣・・・そして、中には聖武具と呼ばれる魔族にすらダメージを与える武器が眠っていることがあるのだ。
誰が何のためになんていう難しいことは私には分かるわけがないので考えるのはやめておこう。
ディータに聞いても知らないと言われてしまった。
ダンジョンや魔物はディータ達がこの世界に来る前からあったらしい。
ディータ達も最初からこの世界にいたわけではないようだ。
そして、ディータ達が命を与えたのは人族と呼ばれる人間や亜人、そして動物などらしい。
それも、元となる種を作っただけで進化は女神の手を離れて行われるらしく、ディータ達女神でも人族や動物を操ることは出来ないということだ。
ディータ曰く、女神も万能ではないらしい。
「あ、あの・・・」
「ん?」
私がダンジョンに行きたくてウズウズしていると猫の獣人の受付嬢がオズオズと手を上げた。
どうしたんだろう?
「まだ、何かあった?」
「い、いえ、その・・・魔女様にはとても申し訳ないのですが、依頼の方を頼みたいのです」
「依頼?・・・うわっ」
受付嬢であるアイナが指を指したのでその方向を見てみると、恐らく依頼を貼っておく掲示板なのだろうがその掲示板が見えなくなるくらいの紙がベタベタと貼られていた。
あれ、全部依頼なの?
「その、ウェアウルフの一件で冒険者の方々もそちらに行かれてしまったので依頼がどんどんと溜まってしまいまして・・・」
「あー」
なるほど、確かにウェアウルフが襲撃してくるかもしれないのに依頼をしている訳にはいかないよね。
依頼している間に国が滅びたなんて笑い話にもならないよ。
「クオン、エリンシア、いいかな?」
「僕は構わないよ」
「ワタクシも問題ありませんわ」
クオンとエリンシアが承諾するとアイナが目を輝かし尻尾をブンブンと振った。
アイナ・・・猫の獣人だよね・・・犬みたい。
「ありがとうございます!それでは、あの中から好きなのを持ってきてください。」
「好きなのって・・・」
ごちゃっと貼られた掲示板をあそこから自分に合ったのを探すのは面倒だなと思ってしまう。
「適当でいい?」
「簡単そうな仕事なら手分けしてやったほうがいいんじゃありません?」
「そうだね、手早く終わらせてしまおう」
確かにその方がいいかな、数を減らせばダンジョンとかにだって行けるしね。
まあ、依頼をこなすのも冒険者の醍醐味ではあるのでちょっとワクワクとしていたりもするのだけど。
「それじゃ、私はこれにしよう」
掲示板に近づき適当に近くの依頼を取る。
見出しには「宝物採掘」と書かれている。
お、これはアタリじゃない?宝物を探すなんて冒険者にぴったりの依頼だよ。
そう思い、私はその依頼書を持ってアイナの所まで来た。
「それじゃ、これお願い」
「はい、ありがとうござ・・・えっと、こちらで本当によろしいのですか?」
「うん、いーよ♪」
「わ、わかりました、では、こちらは魔女様にお願いいたします」
アイナは依頼書にハンコを押して私に返してくれる。
これで正式に依頼を受注したことになるのだ。
そういえば、詳細まだ読んでなかったね、アイナの反応から強い敵が出てくるような場所に行くのかな?
わくわくとしながら私は視線を詳細の場所に移動する。
「どんな依頼を受けましたの・・・ふむふむ、あら・・・・ま、まあ、カモメさん頑張ってくださいまし」
私を応援するエリンシア。
私は詳細の部分を確認して固まっている。
いつもなら、こんな私を見てエリンシアは揶揄ってくるのだが、余程気の毒に思えたのかな・・・優しく応援してくれた。
・・・・・・・・宝物採掘・・・確かに宝物採掘だ。
詳細にはこう書かれていた。
溝に落ちた僕の宝物を探してください!・・・と。
そうだ・・・この依頼・・・溝攫いだ・・・・・・しくしく。
ツァインでの冒険者としての初依頼・・・それがまさか溝攫いとは・・・ちゃんと詳細を見ればよかったよ。
しかし、受けてしまった以上、キャンセルなどすれば私の冒険者としての名に傷がつく。
やってやろうじゃないか!溝だろうが地面だろうが全部掘り返して見つけてやる!
「はあ、じゃあ、私は行ってくるよ・・・二人も頑張って」
「うん、気を付けてね」
「大丈夫だよ、いくら何でも溝攫いで怪我したりなんてしないって」
「そうだね、でも、なかなか見つからないからって地面ごと壊しちゃ駄目だよ?」
「うぐっ」
くう・・・見透かされてて悔しい。
とはいえ、そんなことしたら街の人に怖がれちゃうもんね・・・ちゃんとやるよぅ。
「ワタクシはこの一日ウェイトレスをやってみますわ」
「商会の娘がウェイトレスって・・・」
「やってみたかったんですの♪」
「あ、そう・・・」
お金持ちの考えは変わってるなぁ・・・ウェイトレスってお客さんの相手とか大変そうなのに・・・。
まあ、本人がやる気なのでいっか。
「クオンは?」
「迷子のペットを探す依頼をやろうかな」
おお、それは昔もやったね。
クオンが見事猫を捕まえてたよ。
「それじゃ、みんな頑張ろう!」
「「おー!」」
私達は各々、ギルドを出て、依頼人の元へと向かった。
「闇の魔女が溝攫いねぇ・・・」
「全然噂と違いますね・・・普通の女の子って感じでした」
「ああ、だが実力は本物だったぜ?」
「ガートンさんはウェアウルフの時に見ていたんでしたね・・・私は見ていなかったので半信半疑でしたが・・・あの方たちの事、好きになれそうです」
「ツァイン1の受付嬢のアイナちゃんに気に入られるなんてあいつらもツイてるねぇ」
ガートンと呼ばれた気さくに声を掛けてきた冒険者とアイナが私たちの後姿を見ながら話していた。
この時、私は周りの冒険者が私たちを受け入れてくれたことでこの街の人たち全員が私たちを受け入れてくれたと思っていたがそうではないことをこの後理解した。
私達が戦っているところを見た、冒険者の人たち・・・いや、その場で戦っていた人たちはあの時の自分たちの状況がどれほど絶望的な状況でそれを救った私たちが本当に英雄のように見えたのだろう。
だからこそ、すぐに受け入れてくれたのだが、街の人たちは違う。
絶望的な状況は、ほとんど門の外で起きていたのでいかに自分たちが危機に瀕していたのかは完全には理解していない。
何も感じていないと言うわけではないが冒険者や兵士達ほど実感はしていないのだ。
危機を救った私たちに感謝はしているが私の闇の魔女の噂を塗り替えるほどではなかった。
現に、私が受けた依頼主の男の子の母親は私から子供を護るようにずっと子供を抱きかかえている。
他の国の時のように私を見た瞬間逃げ出すようなことをしないだけマシではあるのだが、私の胸はチクリと痛んだ。
・・・ううん、そんなこと言っていては駄目だ。
ディータも言っていたじゃないか、私の今後の行動次第だ。
冒険者は行動力が大事!よーし!
「えっと、エルト君だったっけ?宝物をなくしたのはここの溝でいいの?」
「うん、そーだよ」
「よーし、お姉ちゃんが見つけてあげるから待っててね」
「ありがとー!」
そう言って、私は溝の中に入る。
といってもそのまま入ると、せっかくもらった服が使えなくなるので風の魔法で体の周りに風を発生させ簡単な防御魔法を作る。
これで、溝の汚水に触れなくて済む。
「宝物はどんな形なのかな?」
「大きなビー玉だよー」
「オッケー♪」
ビー玉かこの中から探すのは大変そうだ。
溝の水は殆ど流れていないのでビー玉を攫って行ってはいないだろう。
溝の底も泥なのかなんなのかわからない物が貯まっているのでビー玉はこの中に埋もれている可能性が高い。
なので私は下にたまっている泥のようなものを手ですくいながらその中にビー玉が無いか確認していくのだった。
「ねーねー、お姉ちゃんってまじょなの?」
「こ、こら!」
エルト君のお母さんが慌ててエルト君の口をふさぐ。
「う、うん、そう言われてるね」
「ふぇも、ふぇんふぇんこわくないよー?」
「え、エルト!!」
口を塞いでいるのに何を言っているか分かってしまう為さらに慌てるお母さん。
「あはは、おねーちゃんは冒険者でもあるからねー。冒険者は怖くないでしょ?」
「顔がこわいぼーけんしゃいっぱいるよー」
今度は慌てて口を塞ごうとしないお母さん。
そういえば、ギルドで気さくに声を掛けてくれた冒険者は厳つい顔をしていたね。
「あちゃー、そういえばそうだね」
「でも、まじょのおねーちゃんこわくないよー」
「あはは、ありがと♪よーし、魔女のお姉ちゃん頑張ってエルト君の宝物探すからね♪」
「うん!」
お母さんはまだびくびくしていたが、私が子供に害を与えないと少しは信用してくれたのかちょっとだけ、本当にちょっとだけだが微笑んだ。
「ありがとー、ドブのまじょのおねーちゃん!」
「溝の魔女じゃないよ!?」
そんな汚い魔女はお断りだよ!と抗議しようとしたら足をとられてコケてしまう。
ものの見事に溝の中にダイビングした・・・風の魔法使っててよかった。
ふと、右手に堅いものの感触があった。
溝から顔を出して確認してみると・・・
「あー、僕のビー玉!!」
右手の中にはキラキラと光るビー玉が入っていた。
ラッキーなことに転んだ拍子に見つけたらしい。
「はい、もう無くさないようにね」
「うん、ありがとードブのおねーちゃん!」
「魔女も抜けちゃったよ!?」
それはもうただの溝臭いお姉ちゃんである・・・しくしく。
「あの、すみません」
「あ、ううん、気にしないで」
お母さんがビクビクしながらも謝ってきてくれた。
あはは、こんなことで怒ったりしないよう、だからそんなにビクビクしないで・・・帰りながら後ろにいる私を警戒しながら帰らないで・・・魔法を撃ったりしないから!
やっぱりそうそう簡単に闇の魔女としての噂を拭うことは出来ないらしい。
エリンシアは指名手配されてないから大丈夫だろうけど、クオンは大丈夫かな?
魔女の使い魔として指名手配をされているので扱いは私と一緒だろうし。
案の定、クオンの方も怖がれていたらしい。
でもちゃんと依頼はこなしたらしく、最後はお礼を言ってくれたそうだ。
少しずつ少しずつだけど私たちのイメージを回復させていこうね。
この後も、私たちはギルドにたまっている依頼を何個もこなしていった。
そのほとんどが普通の街の人の依頼だったのでビックリした。
このツァインのギルドは結構、こういう依頼が多いらしい。
冒険者達も街の人の手助けを出来ることが嬉しいのか進んで受けていた。
王様のおかげなのかこの国人達は暖かい。
こんないい国があったんだね・・・私も頑張らなきゃと私は気合を入れ直したのである。
しかし、溝攫いをしてきた私が臭いにおいを発していなかったことに疑問を持ったアイナに私が魔法で防いだのでというと、アイナは溝攫い系の依頼を私にばかり持ってくるようになった。
皆、臭いのは嫌だよねやっぱり・・・。
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