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2章

ツァインの魔女

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私が着替えさせらてしばらくして、再びノックがした。



「魔女殿、お待たせしました。こちらへどうぞ」



ソフィーナが先導し歩いてくれるので私はその後を追いかけた。
ちなみに待っている間、エリンシアにはずっと揶揄われ、ディータはかわいいかわいいと連呼していた。
うう・・・。




「ソフィーナ、どこいくの?」
「先ずはクオン殿の所に」



あ、そういえば、クオンも服を渡されているはずだ。
わたしみたいにパーティにでも行くような恰好をさせられているのだろうか?
ちょっと見てみたいかも・・・。



私が妄想でドキドキしていると、クオンのいる部屋へと着いた。
ソフィーナは私の部屋に来た時と同じようにノックしクオンを外へと促す。
部屋の扉から一人の青年が出てくる。
その青年は青い綺麗な鎧を身に着け、まるで物語に出てくるような勇者のような恰好をしていた。
なんで、こんな人がクオンの部屋に?
私はまず綺麗な鎧に目が行き、視線を段々と上へと移動する。
そして、そこには見知った顔をがあった。
この勇者のような格好をした青年の首の上にクオンの顔が乗っているのである。
私は、最初何が何だか理解できなかった。
なぜ勇者の顔がクオンなのだろう?
そしてその勇者クオンは顔を丸でトマトのように真っ赤にしている。
私と目が合うとその赤はさらに濃くなった。



「クオン?」
「『ぶふっ!』」



エリンシアと私の中のディータが同時に吹き出した。



「あらあらあらあらあら!!」
『あははははは、まるでコスプレのようね!』



二人が面白そうに笑っている。
えっと、結構似合ってると思うんだけど・・・。



「うるさい、ロリコン女神!」
『なっ、誰がロリコンよ!私が愛しているのはカモメだけよ!!!』
「え!?クオン、ディータの声が聞こえたの!?」



今、私は何も言っていない。
普段であれば私がディータの言ったことを通訳するのだが、今回みたいにからかってるだけの時とかは出来るだけ言わないようにしている。
それなのに、クオンはディータの言葉に的確に反応した。
もしかして、クオンにもディータの声が聞こえるようになったの?



「聞こえないけど、絶対にからかってるのが分かるからね・・・」
「あ、なんだ・・・」



どうやら、そういうわけではなかったようだ。



「カモメは似合ってるね、お姫様みたいだ」



急にクオンが私の事を褒めてくる。
不意を突かれたため私は顔を真っ赤にして照れてしまう。



「クオンも・・・勇者みたいでかっこいいよ」
「!?」



照れながら言った、私の言葉にクオンが顔をまたも赤くする。



「あらあら、今日は暑いですわね・・・誰かさん達のせいで♪」
『ぶっころす』



揶揄ってくるエリンシアととても怖いことを言うディータ・・・ディータ、本当に女神なのか疑っちゃうよ?
しかし、私は一つ気になることがあった。



「ねえ、クオン・・・すごく気になることがあるんだけど」
「うん?」
「ロリコン女神のロリって私の事?」
「・・・・・・あ」
「後で処刑《おはなし》しよ♪」
「ご、ごめん!」



私が黒い魔力を出しながら威嚇すると冷や汗だらだらで逃げ腰になるクオン。
私はもう大人だもん!子供じゃないやい!!!
そんな中、エリンシアは大爆笑し、ディータは私を今すぐやりなさいと煽る。
そして、ソフィーナは完全に蚊帳の外になっていた。
蚊帳の外になってしょんぼりしているソフィーナに気づいた私たちが、慌てて駆け寄り、再び案内をしてもらう。



「ところで、どこにいくの?」



フワッフワのドレスの裾を踏みそうになりながらもなんとか歩く私がソフィーナに尋ねた。
ちなみに着慣れない鎧を着ているクオンもすごく動きにくそうだ。



「バルコニーです、そちらでお待ちですので」



誰が?と思ったがまあ、待っているとしたら王様だろう。
バルコニーで何をするのかな?こんな格好させられてるから仮装パーティでもやるのかと思ったよ。



「あちらです」



バルコニーへと続く扉を指し、ソフィーナが私たちに先に行けと言う。
なんか、外が騒がしい気がする、やっぱり仮装パーティ?
私達が外に出ると、バルコニーの下には大勢の人がいた。
うえ!?なになに!?



「来たか」
「王様?」



バルコニーに出るとそこには王様がいた。
それは想像していたのだけど、バルコニーの下の様子は想像外だ。
なんせ、まるでこの国の人が全部集まったんじゃないか?と思うくらい大勢いるのだ。
それもそのほとんどが一般人、恐らくこの国の国民だろうと言う人たちだった。
中には兵士や冒険者風の人もいるのだが、やっぱりほとんどが一般人である。



「な、なにが起こっているの?」



とりあえず、仮装パーティじゃないことだけは解った。
王様がバルコニーの端に立つ。
下の人たちは「あれが魔女?」「想像と違うね」「でも髪は黒い」「闇の魔女・・・」などと口々に言っている。
私が来る前に王様が何か言っていたのか、私が来ることを想像していたようだ。
だが、いつも私を見ると恐怖するのが普通なのに対し、今下にいる人たちは困惑しているように見える。



「先程も言った通り、彼女たちが我が国を救ってくれた闇の魔女殿だ、彼女達のお陰で国が滅びずに済んだのだ!見よ、魔女殿の見目麗しさを!ぶふっ!か、彼女がグランルーンの言う通りの魔女に見えるか!」


今、こっち向いて吹き出したよね・・・?
着せたの王様だからね!!


「隣に佇む、青年は魔女の使い等と言われているがあの精悍な顔つきはまるで物語で語られる勇者のようではないか!」


あ、それは私も思った!かっこいいよね~。
クオンは顔を真っ赤にしながら俯いている。その横でエリンシアが口元をヒクヒクとさせていた。


「この者達が果たしてグランルーンの言う通りのもの達だと思うか!私はそうは思わん!グランルーンは見誤ったのだ、何を隠そうこの魔女殿は英雄ヴィクトールの娘である!」


その言葉を聞きしたにいた人たちがざわついた。なぜ?


「皆も知っていよう、彼の英雄が何を成したものか、邪龍を倒したパーティーに所属し邪龍を倒した後も大陸各地で弱き者達を救って回っていたことを!」


おお・・・お父さんそんなことしてたんだ。いや、そーいえば、小さい頃は色んなトコ連れていってもらってたよーな?


「彼女はこの国を救った報酬に何を望んだと思う!金か?土地か?それともこの国か?・・・いいや、違う!彼女が望んだのはこの国で冒険者となること!冒険者としてこの国の者達を護り救う事を望んだ!」


一層、どよめく国民達。
まってまって、確かに冒険者になりたいって言ったし、結果的に依頼をこなしたりするから街の人の為にはなると思うけど、そんな風に言ったら・・・


下では「本当なの?」「まるで聖女様だ」「女神降臨!」「でも、魔女の罠ってことも」「かわいいはぁはぁ」等と言っている。・・・最後がおかしい気もするがそれは置いておいて・・・めっちゃ、恥ずかしい!
私もクオンと一緒に顔を真っ赤にして俯くことになる。
なぜって?疑ってる人も信じている人もどちらも私の事をじっと見てくるのだ。こんな大勢から注目されたことのない私は恥ずかしさで俯くしかできないのだ。


「まだ、信じられぬ者もいるだろう!だが、俺を信じろ!魔女殿を信じたそなたらの王の眼を信じろ!俺はこの国のため安易な選択はせん、本当に信じても良いと思ったのだこの小さな魔女と魔女の友達を!」


今、小さいって言った!小さいって!
私平均だもん!女の子の平均だもん!
私はそう訴えるため抗議の眼を王様に向けるが私の近くにいるエリンシアは私より身長も胸も一回り大きい為、抗議する姿が余計かわいく見えてしまった。


「以上だ!明日から魔女殿達には冒険者として働いてもらう。重ねて言うが彼女達は我が国を救った英雄だ!皆も頼るといい!」


そう言い残して王様はバルコニーから立ち去った。
うう・・・確かに悪い噂のままじゃ冒険者になれなかったかも知れないけどこの微妙な空気はどうなの?
下では国民が戸惑い声を未だにあげていた。

『後はあなたの行動しだいね』


ディータの言う通りなのだろう、頑張ろう、自分の力でこの国の人たちに認めて貰えるように!





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