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2章
ルー・ガルー
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クオンに砦の内側から壁を斬り裂いてもらい、中に侵入した私達。
さて、とりあえず、この集団のトップを探さないとだね。
こういう魔物の集団や盗賊の集団の場合、トップを倒してしまえば他は逃げていくんだけど・・・。
今回の場合、トップが手こずりそうなんだよねえ。
手こずっている間に囲まれるなんて展開もありそうだし、とりあえず、どんな相手なのか見てみてかな。
私とクオンは頷きあい、ゆっくり慎重に進んでいく。
エリンシアとソフィーナさんはその後をついてきた。
それほど大きな砦じゃないし、いるとしたら砦の中心かな?
そう思い、砦の中心へと足を向ける私達。
私たちは敵に見つかることも無く順調に進んでいった。
そして、砦の中心部に着くと、その場所にはウェアウルフが数体と、ライカンスロープが4体、さらに色が黒い人狼の魔物がいた。
「あれは?」
「ルー・ガルーという魔物ですわ」
私の問いにエリンシアが答えてくれる。
ルー・ガルーというのはライカンスロープのさらに上位種に位置する魔物である。
ランクはAで強靭な肉体を持ち、牙と爪で獲物を仕留めるのだ。
ランクA・・・。
「ランクAか・・・これなら問題はないかな?」
「だね」
『おかしいわね、あの程度の魔物に空間を曲げることなんてできないはずなのだけれど・・・。』
ディータは納得していないようだった。
クオンもエリンシアもまだ警戒をしているのか様子を見ている。
だが、それ以上の魔物が姿を見せることはなかった。
「どうする?これなら一気に奇襲をかけちゃってもいいんじゃない?」
「そうですわね、この程度の魔物であるのなら問題ありませんわ」
「ランクAの魔物が問題ないのですか・・・」
私とクオンはルー・ガルー程度の魔物であれば楽勝とまではいかなくても問題なく倒せるだろう。
エリンシアも同じようで余裕がある。
それに比べ、ソフィーナさんは相手がランクAと知ると少し緊張をしていた。
恐らく、ランクAの魔物と戦ったことが無いのだろう。
まあ、普通そうそう戦う機会はないよね、どちらかというとおかしいのは私を含めた他の三人である。
「とりあえず、奇襲をかけるってことでいいかな?」
「うん、そうしよう」
私たちが頷きあい、さあ、奇襲だ!と武器を構えた瞬間、ルー・ガルーが遠吠えを上げた。
なになに!?
すると、いつの間に周りを囲まれていたのか、数十匹のウェアウルフとライカンスロープに囲まれていたのである。
「え、え、なんで!?」
私たちが居ることがバレていたのか・・・でもどうして?
「バレていたみたいですわね・・・」
「静かに移動したのに!?」
どうしてこうなったの!?と私が言っていると、ソフィーナさんが口を開いた。
「あの・・・恐らくですが、ウェアウルフ系の魔物は狼系の魔物と同じく耳が良く、鼻もいいと言われています。なのでクオン殿が斬り裂いた時に崩れた壁の音や、我々の臭いでバレていたのではないかと?」
つまり、私たちは侵入した瞬間にバレていたということだ・・・。
「って、それ知ってたなら教えてよ!ソフィーナさん!」
「す、すみません」
なんてこった、いや、冒険者目指しといて魔物の特性知らない私達も悪いんだけどさ!
うう・・・サクっとボスを倒して終わらせようと思ってたのに・・・。
「しょーがないね、なら、全力で暴れちゃおう」
「ほどほどにね」
「派手におブチかましてあげますわ!」
『やっちゃいなさい!』
「・・・え?・・・え?」
ソフィーナさんがいるし、出来るだけ穏便にと思っていた私達だったが、こーなったら暴れまくるのみである。
・・・・・・・・・砦ごとぶっ壊しちゃおう♪
「いっくぞー、暴風轟炎!」
私の合成魔法が中心部にいる、ルー・ガルーたちに襲い掛かる。
炎を纏った風が次々に敵を斬り裂き燃やしていった。
ついでに近くにあった石で出来たおそらく寝たり休憩したりする為であろう場所も崩壊する。
「ひいっ」
隣にいたソフィーナさんがその威力悲鳴を上げる。
そして、私の魔法を合図に、クオンとエリンシアが走り出す。
私は、ソフィーナさんの近くでソフィーナを護りながら戦うことにした。
「・・・・くっ」
ソフィーナさんは悔しそうな顔をするが、この数相手だとソフィーナさんの実力では危ない。
なので、騎士団長であるソフィーナさんには悪いが護られてもらうしかないのだ。
「ルー・ガルーは貰いますわよ!」
エリンシアが、ランクAの魔物であるルー・ガルーへと突っ込んでいく。
「なっ、ランクAの魔物に一人で挑むというのですか!?」
「エリンシアなら大丈夫なんじゃない?」
4年前ですら魔鬼を一人で倒していたのだ、それから強くなっているであろうエリンシアならきっと大丈夫!・・・多分。
もし駄目そうでもきっとクオンが何とかしてくれるはずである。
そう思いながら私は、周りにやってくるウェアウルフやライカンスロープを魔法で燃やしていく。
んー、でもあのルー・ガルー・・・普通の魔物なんだよね・・・毎日100体とかツァインに襲わせることを考えたりできる魔物じゃなさそうなんだけど・・・うーん。
あのルー・ガルーが首謀者ってわけじゃなさそうなんだよねぇ・・・。
おっと、今はそれを考えてる場合じゃないね、今、私たちの周りにはライカンスロープが5体、ウェアウルフが15体に取り囲まれている。
「ま、魔女殿・・・」
「任せて♪」
この四年間私も、ただ逃げていたわけではない。
毎日、ディータに魔法の特訓を受けていた。
ディータは闇の女神で闇の魔法に長けているが、他の魔法に疎いわけではない。
他の魔法もとんでもないレベルで身に着けていたらしい。
そんなディータに魔法を教わったことによって私の魔法のレベルは飛躍的に上がっている。
たとえば・・・
「風よ・・・」
私は囲まれているウェアウルフ達がいる辺りに風を発生させる。
その風の流れを操作し、ウェアウルフたちの動きを鈍らせた・・・そして。
「変則合成魔法」
私のその風に炎の魔法を合成する。
そして、轟音と共に風の気流であった魔法が、炎渦巻く炎の気流へと変わった。
ウェアウルフたちは悲鳴を上げながら崩れ落ちた。周りの建物も崩壊していく。
このアレンジという魔法は昔は私の手元で二つの魔法を合わせ敵に向けて放っていた合成魔法であったのだが、今のこの魔法は最初に一つの魔法を発生させ、その後、一つ目の魔法に次の魔法を合成することで合成魔法となる技である。
最初ディータにこの方法を聞いた時、私は普通に合成魔法使うのと何が違うの?と思った。
だけど、実際に使ってみると便利だったのだ。
何が便利かというと、例えば今の魔法だと、風の魔法で相手の動きを止めた後に炎と混ぜる為、確実に足の止まった相手に攻撃できる。もし足止めを成功できなければ炎の魔法を合成しないことで魔力の節約もできるのだ。
さらにトリッキーな攻撃が出来る為、相手を惑わすこともできる。
本当に便利な技である。
「い、一瞬で敵を・・・これが魔女の力」
ソフィーナさんが呟くと頭の中でディータが『女神の力よ!』と反論した。
「そーれ、もういっちょー!」
私の次の魔法が少し離れた場所にいた敵を纏めて吹き飛ばす。
ついでに近くの建物も粉々にした。
「ソフィーナさん、私から離れないでね」
「は、はい!」
私が移動を始めるとソフィーナさんも必死についてくる。
わたしから離れれば一気に危険になるのだ・・・私の魔法で。
それが分かっているのかソフィーナさんは絶対離れるものかと必死な顔でついてきた。
・・・・・ソフィーナさんなら私の魔法喰らってもケロっとしてそうなんだけどなぁと言ったらさすがに無理ですと真剣な顔で言われた。
私が砦を破壊しながらウェアウルフたちを倒している時、エリンシアはルー・ガルーと対峙していた。
「カモメさん、派手にやっておりますわね」
エリンシアは楽しそうな顔をしながら爆発の起きる方向を見ていた。
そんなエリンシアにルー・ガルーは唸り声をあげる。
「あら、失礼いたしましたわ、4年前を思い出して少し楽しくなってしまったもので」
ルー・ガルーはひと鳴きしエリンシアへと突進する。
エリンシアは軽やかにダンスを踊るようにその攻撃を躱した。
「さすがはライカンスロープの上位種ですわね、当たったら痛そうですわ」
更なる突進をしかけるルー・ガルーをまるでダンスでも踊っているかのように軽やかに躱していくエリンシア。
ちなみに言うと、普通の人であればあの突進を喰らえば痛いでは済まない、全身の骨がやられるであろう。
だが、銃の腕前だけでなく格闘技をも修めているエリンシアなら痛いですむようだ。
きっと、なんらかの技で受け流したり、衝撃を後ろに流したりとか達人的な何かがあるのだろう。
ちなみに、私であれば近づく前にぶっとばす。
拳のオーガと呼ばれたお父さんなら正面から受け止めている。
・・・・・・あれ?魔女とか言われる私が一番、普通じゃない?
私の頭の中で忘れられていたクオンが抗議をしている気がするが気のせい気のせい。
「さて、ではそろそろワタクシも攻撃をさせてもらいますわ」
そう言うと、エリンシアはルー・ガルーの懐に滑り込む、そして敵のお腹に拳をめり込ませる。
次の瞬間、脇をすり抜け後頭部へ回し蹴りを決めた。
その衝撃で前へとよろける敵に後ろから飛び上がりながらかかと落としを決める。
・・・ランクAの魔物相手に魔導銃使わず圧倒してるよ。
そして、何よりすごいのはあれだけアクロバットに動きながらもスカートがめくれ上がらないことだ。
私は、戦闘中に見えちゃうのが嫌で、ズボンを履いている。
だが、エリンシアの服装は一見するとドレスにも見えるくらいヒラヒラした服装であった。
なので、あれで動き回って大丈夫なのかなと思ったんだけど、エリンシアは見事に着こなし戦っていた。
ちなみに私だって女の子だ、少しはオシャレしたいと思っている。でもお尋ねの者の私は街で買い物なんて出来なかったのでクオンに駄々をこねるだけだった。
そんな私にクオンはちょっとフワフワした布を私の服の腰辺りにつけてくれたのだ。なかなかおしゃれで気に入っていたのだが、次の日、起きた戦闘で見事にボロボロになり使えなくなった。
・・・・・・・私の魔法の余波で。
あれ以来、オシャレでクオンに我がままを言っていない・・・さすがに言えないのである・・・でもオシャレしたいよう。
劣勢になり、遠吠えを上げるルー・ガルー、恐らく仲間を呼び、数で攻めようとしたのだろう。
だが、仲間は一向に近づいてこない。
ううん、違う。ルー・ガルーの声に気づいて近づこうとするウェアウルフやライカンスロープはいる。
だけど、近づこうとした瞬間、その首は地面へと転がった。
凄まじいスピードでクオンが斬り裂いたのである。
クオンはエリンシアがルー・ガルーとの戦いに集中できるように周りの敵を次々に倒してた。とんでもないスピードで。
私は魔法を使ってまとめて吹き飛ばしているがクオンは剣一本で一体ずつ倒している筈なのに私と同じくらいの敵を葬っている・・・すごい。
「さあ、そろそろ終わりにさせていただきますわね」
ルー・ガルーはランクAの魔物である。どうやらランクAとは言ってもその中でも弱い部類に入るのだろう。
エリンシアは危なげもなく追いつめていた。
しかし、腐ってもランクAである、止めを刺そうと近づいたエリンシアに炎の魔法を口から放ち直撃させる。
恐らくこの場に私がいたら心配と驚きでエリンシアと叫んでいただろう、だがその心配も杞憂である。
「あら、魔法も使えますのね、油断しましたわ、ですがこのワタクシをその程度の魔法でどうにかしようなどと甘いですわよ!」
エリンシアはいつの間にか抜いていた魔導銃に魔力を込めそれで敵の魔法を防いでいたのだ。
そして、その銃をルー・ガルーへと向ける。
「炸裂弾」
彼女の銃に炎の魔力がこもる。
そして、銃口から発射された弾丸は敵の胸部に着弾すると名前の通り炸裂し、ルー・ガルーの体を吹き飛ばした。
「この4年で魔法の基礎を覚えましたの、おかげでこんなことも出来るようになりましたわ」
基礎魔法を魔導銃に込めることで色々な性質を持った魔弾を撃てるようになったらしい。
そうすることで、フルバスターだけでなく様々な属性を持った攻撃が出来るようになったので魔導銃も大分使いやすくなったようだ。
フルバスターを撃つと一気に魔力を持っていかれちゃうからね。
「おつかれ、エリンシア。すごいね」
クオンがエリンシアに近づき褒める。
先程の炸裂弾を見ていたのだろう。
「あら、そういうクオンさんもさらに強くなりましたわね・・・何匹倒しましたの?」
「50くらいじゃないかな?」
この短時間でクオンもすごい数の敵を倒している。
クオンもこの四年間でとんでもなく強くなっている。特にスピードに関しては人間やめてロケットとかつけてるんじゃない?と思う程だ。
「カモメさんも相変わらず派手ですわね」
近くにあった最後の建物が壊れ、その後ろから私とソフィーナさんが現れる。
「いやー暴れた暴れた♪」
「闇の魔女は破壊の魔女、闇の魔女は破壊の魔女」
後ろで私と一緒にいたソフィーナさんが怖いことを言っている、一体どうしたというのだろう?
とりあえず、ここのボスらしきルー・ガルーをエリンシアが倒したのでこれで終わりかな?大分あっけなかった気がするけど。
「なんか、あっけなかったね?」
私が言うとクオンもエリンシアもそう思っていたのか頷き返してくる。
『それに、敵の数が少ないわ、連日100体を送ってきた割に残っていたのが100体くらいしかいないというのもおかしいわよ』
ディータの言う通りだ、実は1000体くらいいるのを覚悟していたのだけど拍子抜けである。
とはいえ、この場にこれ以上敵のいる気配はない。
仕方なく帰ろうとした私達だったが、その時、無邪気な少年のような声が辺りに響いた。
「あはははは、おねーさんたちすごいね。僕の眷属を簡単にやっつけちゃうなんて」
「だれ!?」
私たちは辺りを見回すが誰もいない。
「ごめんね、声を飛ばしてるだけだから、探しても僕はそこにいないよ」
「姿も現さないなんて卑怯ですわよ!」
「ふふふ、慌てなくてもすぐに会えるよおねーさん」
「どういう意味ですの!」
「そこの小さな建物の中にある魔導具があるんだ、それを使って僕の所においでよ」
そこ、というのは最初ルー・ガルーがいた場所のすぐ後ろにある小さな建物の事だった。
クオンやエリンシアが戦っていた場所の近くであったため、私の魔法の影響も受けておらずいまだ健在である。
クオンが中に入り、小さな球体の魔導具を持ってくる。
「これかな?」
「そうそう、それだよ、希少な魔導具だから大切に扱ってね」
「これであなたの所に来いと?」
「その通り」
エリンシアが聞くと、満足そうに声の主は答える。
「さっきも言ったけど、その魔導具はとっても稀少なんだ、僕だって2個しか持ってなくてね、空間を渡ることが出来るんだよ」
『へえ・・・』
つまり、この魔導具から空間を渡ってウェアウルフたちはこちらに来ていたのだ。
ということは・・・
「この魔導具がないと空間渡れないんだ?」
「ああ、いくら僕でも無理だね」
「へ~」
『カモメ、やっちゃいなさい』
「オッケー♪」
私はクオンから魔導具を受け取り上へ放り投げる。
「なっ!何をしているんだ!壊れたらどうするんだよ!」
「何って壊すに決まってるじゃん♪」
「ば、ばか!それがどんだけ高級なものか!」
「しーらない♪電爆撃」
電撃が魔導具へと迸り、粉々に粉砕した。
「あああああああああああああ!!」
これで、向こうからもウェアウルフを送ってくることが出来なくなったはずだ。
わざわざ高級な魔導具を使ってきているということは声の主がいるのはかなり遠い場所なのだろう。
そして・・・。
「二つって言ってたけど、もう一つはあの洞窟の中だよね♪」
「ま、まさか・・・」
「うん、帰りに壊しとくね♪」
「やめろおおおおおおおおお!」
「やだ」
「・・・君の名前を教えてくれないかな?」
「カモメ=トゥエリア」
「カモメ・・・そうか、君が有名な闇の魔女か!君の顔は覚えたからね」
そうして、私たちは帰りがけに光の門になっていた魔導具を破壊し、ついでに洞窟も崩壊させておいた。
これで、さっきの声の主はここにちょっかい出せないはずである。
すくなくとも当分の間は。
帰り際に声の主は絶対に仕返ししてやると叫んでいたが、気にしない気にしない。
あのまま敵の本拠地に乗り込むなんてどんな危険があるかわからないからね、頭に血が上ってこっちに来てくれたところを撃退しちゃおう。
こうして、私たちはツァインへと帰るのであった。
さて、とりあえず、この集団のトップを探さないとだね。
こういう魔物の集団や盗賊の集団の場合、トップを倒してしまえば他は逃げていくんだけど・・・。
今回の場合、トップが手こずりそうなんだよねえ。
手こずっている間に囲まれるなんて展開もありそうだし、とりあえず、どんな相手なのか見てみてかな。
私とクオンは頷きあい、ゆっくり慎重に進んでいく。
エリンシアとソフィーナさんはその後をついてきた。
それほど大きな砦じゃないし、いるとしたら砦の中心かな?
そう思い、砦の中心へと足を向ける私達。
私たちは敵に見つかることも無く順調に進んでいった。
そして、砦の中心部に着くと、その場所にはウェアウルフが数体と、ライカンスロープが4体、さらに色が黒い人狼の魔物がいた。
「あれは?」
「ルー・ガルーという魔物ですわ」
私の問いにエリンシアが答えてくれる。
ルー・ガルーというのはライカンスロープのさらに上位種に位置する魔物である。
ランクはAで強靭な肉体を持ち、牙と爪で獲物を仕留めるのだ。
ランクA・・・。
「ランクAか・・・これなら問題はないかな?」
「だね」
『おかしいわね、あの程度の魔物に空間を曲げることなんてできないはずなのだけれど・・・。』
ディータは納得していないようだった。
クオンもエリンシアもまだ警戒をしているのか様子を見ている。
だが、それ以上の魔物が姿を見せることはなかった。
「どうする?これなら一気に奇襲をかけちゃってもいいんじゃない?」
「そうですわね、この程度の魔物であるのなら問題ありませんわ」
「ランクAの魔物が問題ないのですか・・・」
私とクオンはルー・ガルー程度の魔物であれば楽勝とまではいかなくても問題なく倒せるだろう。
エリンシアも同じようで余裕がある。
それに比べ、ソフィーナさんは相手がランクAと知ると少し緊張をしていた。
恐らく、ランクAの魔物と戦ったことが無いのだろう。
まあ、普通そうそう戦う機会はないよね、どちらかというとおかしいのは私を含めた他の三人である。
「とりあえず、奇襲をかけるってことでいいかな?」
「うん、そうしよう」
私たちが頷きあい、さあ、奇襲だ!と武器を構えた瞬間、ルー・ガルーが遠吠えを上げた。
なになに!?
すると、いつの間に周りを囲まれていたのか、数十匹のウェアウルフとライカンスロープに囲まれていたのである。
「え、え、なんで!?」
私たちが居ることがバレていたのか・・・でもどうして?
「バレていたみたいですわね・・・」
「静かに移動したのに!?」
どうしてこうなったの!?と私が言っていると、ソフィーナさんが口を開いた。
「あの・・・恐らくですが、ウェアウルフ系の魔物は狼系の魔物と同じく耳が良く、鼻もいいと言われています。なのでクオン殿が斬り裂いた時に崩れた壁の音や、我々の臭いでバレていたのではないかと?」
つまり、私たちは侵入した瞬間にバレていたということだ・・・。
「って、それ知ってたなら教えてよ!ソフィーナさん!」
「す、すみません」
なんてこった、いや、冒険者目指しといて魔物の特性知らない私達も悪いんだけどさ!
うう・・・サクっとボスを倒して終わらせようと思ってたのに・・・。
「しょーがないね、なら、全力で暴れちゃおう」
「ほどほどにね」
「派手におブチかましてあげますわ!」
『やっちゃいなさい!』
「・・・え?・・・え?」
ソフィーナさんがいるし、出来るだけ穏便にと思っていた私達だったが、こーなったら暴れまくるのみである。
・・・・・・・・・砦ごとぶっ壊しちゃおう♪
「いっくぞー、暴風轟炎!」
私の合成魔法が中心部にいる、ルー・ガルーたちに襲い掛かる。
炎を纏った風が次々に敵を斬り裂き燃やしていった。
ついでに近くにあった石で出来たおそらく寝たり休憩したりする為であろう場所も崩壊する。
「ひいっ」
隣にいたソフィーナさんがその威力悲鳴を上げる。
そして、私の魔法を合図に、クオンとエリンシアが走り出す。
私は、ソフィーナさんの近くでソフィーナを護りながら戦うことにした。
「・・・・くっ」
ソフィーナさんは悔しそうな顔をするが、この数相手だとソフィーナさんの実力では危ない。
なので、騎士団長であるソフィーナさんには悪いが護られてもらうしかないのだ。
「ルー・ガルーは貰いますわよ!」
エリンシアが、ランクAの魔物であるルー・ガルーへと突っ込んでいく。
「なっ、ランクAの魔物に一人で挑むというのですか!?」
「エリンシアなら大丈夫なんじゃない?」
4年前ですら魔鬼を一人で倒していたのだ、それから強くなっているであろうエリンシアならきっと大丈夫!・・・多分。
もし駄目そうでもきっとクオンが何とかしてくれるはずである。
そう思いながら私は、周りにやってくるウェアウルフやライカンスロープを魔法で燃やしていく。
んー、でもあのルー・ガルー・・・普通の魔物なんだよね・・・毎日100体とかツァインに襲わせることを考えたりできる魔物じゃなさそうなんだけど・・・うーん。
あのルー・ガルーが首謀者ってわけじゃなさそうなんだよねぇ・・・。
おっと、今はそれを考えてる場合じゃないね、今、私たちの周りにはライカンスロープが5体、ウェアウルフが15体に取り囲まれている。
「ま、魔女殿・・・」
「任せて♪」
この四年間私も、ただ逃げていたわけではない。
毎日、ディータに魔法の特訓を受けていた。
ディータは闇の女神で闇の魔法に長けているが、他の魔法に疎いわけではない。
他の魔法もとんでもないレベルで身に着けていたらしい。
そんなディータに魔法を教わったことによって私の魔法のレベルは飛躍的に上がっている。
たとえば・・・
「風よ・・・」
私は囲まれているウェアウルフ達がいる辺りに風を発生させる。
その風の流れを操作し、ウェアウルフたちの動きを鈍らせた・・・そして。
「変則合成魔法」
私のその風に炎の魔法を合成する。
そして、轟音と共に風の気流であった魔法が、炎渦巻く炎の気流へと変わった。
ウェアウルフたちは悲鳴を上げながら崩れ落ちた。周りの建物も崩壊していく。
このアレンジという魔法は昔は私の手元で二つの魔法を合わせ敵に向けて放っていた合成魔法であったのだが、今のこの魔法は最初に一つの魔法を発生させ、その後、一つ目の魔法に次の魔法を合成することで合成魔法となる技である。
最初ディータにこの方法を聞いた時、私は普通に合成魔法使うのと何が違うの?と思った。
だけど、実際に使ってみると便利だったのだ。
何が便利かというと、例えば今の魔法だと、風の魔法で相手の動きを止めた後に炎と混ぜる為、確実に足の止まった相手に攻撃できる。もし足止めを成功できなければ炎の魔法を合成しないことで魔力の節約もできるのだ。
さらにトリッキーな攻撃が出来る為、相手を惑わすこともできる。
本当に便利な技である。
「い、一瞬で敵を・・・これが魔女の力」
ソフィーナさんが呟くと頭の中でディータが『女神の力よ!』と反論した。
「そーれ、もういっちょー!」
私の次の魔法が少し離れた場所にいた敵を纏めて吹き飛ばす。
ついでに近くの建物も粉々にした。
「ソフィーナさん、私から離れないでね」
「は、はい!」
私が移動を始めるとソフィーナさんも必死についてくる。
わたしから離れれば一気に危険になるのだ・・・私の魔法で。
それが分かっているのかソフィーナさんは絶対離れるものかと必死な顔でついてきた。
・・・・・ソフィーナさんなら私の魔法喰らってもケロっとしてそうなんだけどなぁと言ったらさすがに無理ですと真剣な顔で言われた。
私が砦を破壊しながらウェアウルフたちを倒している時、エリンシアはルー・ガルーと対峙していた。
「カモメさん、派手にやっておりますわね」
エリンシアは楽しそうな顔をしながら爆発の起きる方向を見ていた。
そんなエリンシアにルー・ガルーは唸り声をあげる。
「あら、失礼いたしましたわ、4年前を思い出して少し楽しくなってしまったもので」
ルー・ガルーはひと鳴きしエリンシアへと突進する。
エリンシアは軽やかにダンスを踊るようにその攻撃を躱した。
「さすがはライカンスロープの上位種ですわね、当たったら痛そうですわ」
更なる突進をしかけるルー・ガルーをまるでダンスでも踊っているかのように軽やかに躱していくエリンシア。
ちなみに言うと、普通の人であればあの突進を喰らえば痛いでは済まない、全身の骨がやられるであろう。
だが、銃の腕前だけでなく格闘技をも修めているエリンシアなら痛いですむようだ。
きっと、なんらかの技で受け流したり、衝撃を後ろに流したりとか達人的な何かがあるのだろう。
ちなみに、私であれば近づく前にぶっとばす。
拳のオーガと呼ばれたお父さんなら正面から受け止めている。
・・・・・・あれ?魔女とか言われる私が一番、普通じゃない?
私の頭の中で忘れられていたクオンが抗議をしている気がするが気のせい気のせい。
「さて、ではそろそろワタクシも攻撃をさせてもらいますわ」
そう言うと、エリンシアはルー・ガルーの懐に滑り込む、そして敵のお腹に拳をめり込ませる。
次の瞬間、脇をすり抜け後頭部へ回し蹴りを決めた。
その衝撃で前へとよろける敵に後ろから飛び上がりながらかかと落としを決める。
・・・ランクAの魔物相手に魔導銃使わず圧倒してるよ。
そして、何よりすごいのはあれだけアクロバットに動きながらもスカートがめくれ上がらないことだ。
私は、戦闘中に見えちゃうのが嫌で、ズボンを履いている。
だが、エリンシアの服装は一見するとドレスにも見えるくらいヒラヒラした服装であった。
なので、あれで動き回って大丈夫なのかなと思ったんだけど、エリンシアは見事に着こなし戦っていた。
ちなみに私だって女の子だ、少しはオシャレしたいと思っている。でもお尋ねの者の私は街で買い物なんて出来なかったのでクオンに駄々をこねるだけだった。
そんな私にクオンはちょっとフワフワした布を私の服の腰辺りにつけてくれたのだ。なかなかおしゃれで気に入っていたのだが、次の日、起きた戦闘で見事にボロボロになり使えなくなった。
・・・・・・・私の魔法の余波で。
あれ以来、オシャレでクオンに我がままを言っていない・・・さすがに言えないのである・・・でもオシャレしたいよう。
劣勢になり、遠吠えを上げるルー・ガルー、恐らく仲間を呼び、数で攻めようとしたのだろう。
だが、仲間は一向に近づいてこない。
ううん、違う。ルー・ガルーの声に気づいて近づこうとするウェアウルフやライカンスロープはいる。
だけど、近づこうとした瞬間、その首は地面へと転がった。
凄まじいスピードでクオンが斬り裂いたのである。
クオンはエリンシアがルー・ガルーとの戦いに集中できるように周りの敵を次々に倒してた。とんでもないスピードで。
私は魔法を使ってまとめて吹き飛ばしているがクオンは剣一本で一体ずつ倒している筈なのに私と同じくらいの敵を葬っている・・・すごい。
「さあ、そろそろ終わりにさせていただきますわね」
ルー・ガルーはランクAの魔物である。どうやらランクAとは言ってもその中でも弱い部類に入るのだろう。
エリンシアは危なげもなく追いつめていた。
しかし、腐ってもランクAである、止めを刺そうと近づいたエリンシアに炎の魔法を口から放ち直撃させる。
恐らくこの場に私がいたら心配と驚きでエリンシアと叫んでいただろう、だがその心配も杞憂である。
「あら、魔法も使えますのね、油断しましたわ、ですがこのワタクシをその程度の魔法でどうにかしようなどと甘いですわよ!」
エリンシアはいつの間にか抜いていた魔導銃に魔力を込めそれで敵の魔法を防いでいたのだ。
そして、その銃をルー・ガルーへと向ける。
「炸裂弾」
彼女の銃に炎の魔力がこもる。
そして、銃口から発射された弾丸は敵の胸部に着弾すると名前の通り炸裂し、ルー・ガルーの体を吹き飛ばした。
「この4年で魔法の基礎を覚えましたの、おかげでこんなことも出来るようになりましたわ」
基礎魔法を魔導銃に込めることで色々な性質を持った魔弾を撃てるようになったらしい。
そうすることで、フルバスターだけでなく様々な属性を持った攻撃が出来るようになったので魔導銃も大分使いやすくなったようだ。
フルバスターを撃つと一気に魔力を持っていかれちゃうからね。
「おつかれ、エリンシア。すごいね」
クオンがエリンシアに近づき褒める。
先程の炸裂弾を見ていたのだろう。
「あら、そういうクオンさんもさらに強くなりましたわね・・・何匹倒しましたの?」
「50くらいじゃないかな?」
この短時間でクオンもすごい数の敵を倒している。
クオンもこの四年間でとんでもなく強くなっている。特にスピードに関しては人間やめてロケットとかつけてるんじゃない?と思う程だ。
「カモメさんも相変わらず派手ですわね」
近くにあった最後の建物が壊れ、その後ろから私とソフィーナさんが現れる。
「いやー暴れた暴れた♪」
「闇の魔女は破壊の魔女、闇の魔女は破壊の魔女」
後ろで私と一緒にいたソフィーナさんが怖いことを言っている、一体どうしたというのだろう?
とりあえず、ここのボスらしきルー・ガルーをエリンシアが倒したのでこれで終わりかな?大分あっけなかった気がするけど。
「なんか、あっけなかったね?」
私が言うとクオンもエリンシアもそう思っていたのか頷き返してくる。
『それに、敵の数が少ないわ、連日100体を送ってきた割に残っていたのが100体くらいしかいないというのもおかしいわよ』
ディータの言う通りだ、実は1000体くらいいるのを覚悟していたのだけど拍子抜けである。
とはいえ、この場にこれ以上敵のいる気配はない。
仕方なく帰ろうとした私達だったが、その時、無邪気な少年のような声が辺りに響いた。
「あはははは、おねーさんたちすごいね。僕の眷属を簡単にやっつけちゃうなんて」
「だれ!?」
私たちは辺りを見回すが誰もいない。
「ごめんね、声を飛ばしてるだけだから、探しても僕はそこにいないよ」
「姿も現さないなんて卑怯ですわよ!」
「ふふふ、慌てなくてもすぐに会えるよおねーさん」
「どういう意味ですの!」
「そこの小さな建物の中にある魔導具があるんだ、それを使って僕の所においでよ」
そこ、というのは最初ルー・ガルーがいた場所のすぐ後ろにある小さな建物の事だった。
クオンやエリンシアが戦っていた場所の近くであったため、私の魔法の影響も受けておらずいまだ健在である。
クオンが中に入り、小さな球体の魔導具を持ってくる。
「これかな?」
「そうそう、それだよ、希少な魔導具だから大切に扱ってね」
「これであなたの所に来いと?」
「その通り」
エリンシアが聞くと、満足そうに声の主は答える。
「さっきも言ったけど、その魔導具はとっても稀少なんだ、僕だって2個しか持ってなくてね、空間を渡ることが出来るんだよ」
『へえ・・・』
つまり、この魔導具から空間を渡ってウェアウルフたちはこちらに来ていたのだ。
ということは・・・
「この魔導具がないと空間渡れないんだ?」
「ああ、いくら僕でも無理だね」
「へ~」
『カモメ、やっちゃいなさい』
「オッケー♪」
私はクオンから魔導具を受け取り上へ放り投げる。
「なっ!何をしているんだ!壊れたらどうするんだよ!」
「何って壊すに決まってるじゃん♪」
「ば、ばか!それがどんだけ高級なものか!」
「しーらない♪電爆撃」
電撃が魔導具へと迸り、粉々に粉砕した。
「あああああああああああああ!!」
これで、向こうからもウェアウルフを送ってくることが出来なくなったはずだ。
わざわざ高級な魔導具を使ってきているということは声の主がいるのはかなり遠い場所なのだろう。
そして・・・。
「二つって言ってたけど、もう一つはあの洞窟の中だよね♪」
「ま、まさか・・・」
「うん、帰りに壊しとくね♪」
「やめろおおおおおおおおお!」
「やだ」
「・・・君の名前を教えてくれないかな?」
「カモメ=トゥエリア」
「カモメ・・・そうか、君が有名な闇の魔女か!君の顔は覚えたからね」
そうして、私たちは帰りがけに光の門になっていた魔導具を破壊し、ついでに洞窟も崩壊させておいた。
これで、さっきの声の主はここにちょっかい出せないはずである。
すくなくとも当分の間は。
帰り際に声の主は絶対に仕返ししてやると叫んでいたが、気にしない気にしない。
あのまま敵の本拠地に乗り込むなんてどんな危険があるかわからないからね、頭に血が上ってこっちに来てくれたところを撃退しちゃおう。
こうして、私たちはツァインへと帰るのであった。
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