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2章

友情

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私とエリンシアが再会を喜んでいる時。
クオンは作戦通り、数匹のウェアウルフを逃がし、その後を追っていた。
街に向かったライカンを私が追いかけた後、クオンは50近いウェアウルフと残ったライカンを剣一本で倒している。
その光景は魔物であるウェアウルフにも恐怖を与えたのだろう。
今、クオンの前を逃げているウェアウルフたちは生き残るために必死で逃げている。
それはそうだろう、追いつかれれば自分もあの剣で切り刻まれるのだから。

クオンはしばらく自分の姿が見えるように追いかけていた。
平原では身を潜めながら追いかけるのは無理があったためだ。
しかし、しばらく追いかけていると岩の多い岩石地帯のような場所に入ったため、クオンは徐々に距離をとり、姿を隠して後を追うことにシフトする。
そうすることで、ウェアウルフたちは逃げきれたと安心し、自分たちのアジトへと逃げかえるだろうと思っての事だ。
そして、その思惑は見事に成功する。

クオンがしばらく追っていると、ウェアウルフたちが洞窟に入っていった。
洞窟の前には見張りのウェアウルフが2体いる、確実になにかある洞窟であることがわかる。
クオンは少し迷う、2体の見張りの眼を盗み中に入ることはそれほど難しくないだろう。
ここで帰ればアジトの場所は解るが何者がウェアウルフを操ってツァインを襲っているのか解らない。
そこまで調べてから帰った方がいいんじゃないだろうか?

しかし、もし中にいるのがライカンより上の魔物、ランクAの魔物だったりすれば自分ひとりで行くのは危険である。
負けるとは限らないが取り逃がしてしまう可能性は高い。
ならば、カモメと一緒に来るべきだろうか、だが、二人でもやはり取り逃がしてしまう可能性がある。
現に先ほどライカンを一体取り逃がしそうになった。

なら、ソフィーアさんに来てもらうか?だが、彼女の実力は解らない。
ただ、危険に彼女を投げ込むだけになってしまうかもしれないのだ。


クオンは少し迷ったが、このまま帰ることにした。
最悪は兵士を連れてくることになるが、自分ひとりでこのまま入るよりはいいだろうと判断したのだ。







クオンがウェアウルフを追っている間、私はエリンシアと話をしていた。


「でも、なんでエリンシアがここに?」
「なんで・・・ですって?」


あれ、エリンシアのこめかみに青筋ができる・・・怒ってる?


「なんでも、おへったくれもありませんわ!」
「うひゃ!」


エリンシアが般若のような顔になり私はびっくりして変な声を出す。
あれ・・・地雷踏んだ?


「あなた、言いましたわよね!ワタクシが冒険者になったら一緒のパーティになろうって!」
「う、うん・・・でも、私もう冒険者じゃなくなっちゃったし・・・」


確かに私たちはあの時、そう約束した。
だが、そのあとすぐに私は闇の魔女として指名手配され、冒険者の資格も消されている。
昔、貰った冒険者カードも真っ白になっていたので確実だった。


「そんなもの関係ありませんわ!」


エリンシアがぴしゃりと言う。


「え?」
「冒険者だろうとなかろうと、一緒にいることに意味がありますのよ・・・ワタクシ、カモメさんに誘ってもらってとっても嬉しかったんですのに・・・家を出た後もお友達と一緒にいられるそれがどれだけ嬉しかったか・・・」
「エリンシア・・・」
「はっ!!い、今のは何でもありませんわ、忘れてくださいまし!とにかく、約束は守っていただきますわよ」


えへへ、忘れるわけないよ。うれしい、勝手にいなくなった私の事を未だに友達と思ってくれているなんて本当にうれしいよ。


「私の事、まだ友達って思ってくれてたんだね、嬉しいよ、エリンシア。」
「と、当然ですわ!ワタクシ、友達はあなた達しか・・・じゃなくて、ワタクシは友達想いですのよ!」
「あはは、ありがとうエリンシア♪」


昔のまま、私が闇の魔女と呼ばれてもエリンシアは全然気にしていなかった。
よかった、本当によかったよ。


「あ、でもグラシアール商会は大丈夫なの?」
「家は弟が継ぎますので問題ありませんわ、弟は優秀ですのでワタクシがいても邪魔になるだけですの」


そんなことはないと思うけど、従業員のクレイさんやマーニャさんにはすごい信頼されてたし・・・あ、でも弟さんからしたら嬉しくないのかな?自分より人気のある姉って・・・うーん。


「一応言っておきますが、弟との仲は悪くありませんわよ」
「あ、そうなんだ」
「弟を信頼しているから家を出たんですの、ワタクシのわがままですわよ」
「そっか、ならよかった♪」


もしかしたら商会的には全然良くないのかもしれないけど、私的には大歓迎である。


『よかったわね、カモメ』
「うん♪」


そう言ってくれたディータに私は元気よく頷く。


「あら、ディータさんですの?」
「そうだよ、よかったねって♪」
「ディータさんもまたよろしくお願いしますわね」
「よろしく、頼りにしているわ・・・だって」


エリンシアはそれを聞き満足そうに微笑んだ。
それじゃ、街に戻って仲間が増えたことを王様に報告・・・あれ?なんか忘れているような・・・。

そういえば、私、なんでここにいたんだっけ?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ。
私は慌てて、先ほどまでクオンと戦っていた方を向く。
そこにはすでに何も見えなかった、クオンの姿もウェアウルフたちの姿も・・・なんてこった。


「どうしたんですの?」
「実は・・・」


この国に来て起きたこと、ウェアウルフたちを数匹逃がして後を追うことをエリンシアに説明した。
エリンシアはなるほどと呟くと。


「ワタクシのせいで申し訳ありませんわ・・・」
「ううん、エリンシアが悪いわけじゃないよ!だって、エリンシアに会えて嬉しかったし」
「あ、ありがとうございますわ」


エリンシアが顔を真っ赤にする、かわいい。
しかし、どうしよう、先ほどまで戦っていた場所に戻ってきたが周りにはウェアウルフたちの物であろう魔石が転がっているだけであった・・・いっぱい。
これ、全部クオンが倒してくれたんだよね・・・ごめんねクオン。
クオンならこの相手に負けることはないだろうけど数が多い分、大変だっただろう。

でも、そのクオンの姿がここに無いってことはクオンは作戦通りウェアウルフを追いかけて行ってくれたんだ。


『とりあえず、根暗坊主に任せて私たちは街に戻りましょう』


そうするしかないねと私とエリンシアは街に戻ることにした。




街の前まで戻ると、ソフィーナさんが私たちの姿を見つけて走り寄ってくる。


「魔女殿、作戦はどうなりましたか?」
「えっと、多分、クオンが追って行ってくれてると思う・・・」
「多分・・・ですか?」


ソフィーナさんが頭に?を浮かべながら聞いてくる。
ソフィーナさん達の位置からは私達が何をやっていたかは見えていないようで、多くの影がなくなりウェアウルフたちを撃退したことは解ったようだが作戦が成功しているのかはわからなかった。
とりあえず、王様の所に行って報告をすることになる。

私たちはソフィーナさんの案内してもらった。


「ところで、そちらの方は?」
「あ、この子はエリンシア。私の友達で仲間なんだ」
「そうなのですか」


興味深そうにエリンシアを見るソフィーナさんにエリンシアは軽く会釈をした。
案内されて、私たちは門の待合室らしき場所に案内される、ここで待っていたんだ王様・・・。


「こんな場所にツァインの王様がいるんですの?」
「ええ、王は自ら戦われる方なので」


エリンシアも驚いているようだった。
やっぱり、ここの王様変だよね、普通城の中で報告だけを聞く気がするもん王様って。


「どんな方ですの?」
「私も昨日会ったばかりで詳しくは解らないけど、兵士の人や街の人に人気のあるみたいだったよ」
「そうなんですの、グランルーンの大臣とは真逆ですわね」


そういえば、グランルーンは今どんな風になっているんだろう。
今のエリンシアの言い方だともしかしたら、今は大臣が王様の代わりに国を仕切っているのだろうか・・・だとしたらどうなていることやら。
グランルーンの事も聞きたかったが今は、ツァインの王様に報告が先である。グランルーンの事は追々エリンシアに聞こう。


ソフィーナが待合室の扉をノックする。
すると中から、「入れ」という声が聞こえた。
扉を開けて私たちは入室する。


「魔女殿、ウェアウルフの撃退、礼を言う。して、うまく後を追うことは出来たか?」
「えっと、実は・・・」


私は王様にウェアウルフの中にライカンスロープがいたこと、逃がしたライカンを追った先で旧友であるエリンシアと再会したこと。
私たちが再会を喜んでいる間に、おそらくクオンが作戦を遂行していることを話した。


「ライカンスロープまで出てきたと・・・そうか、魔女殿がいてくれて助かった」
「ええ、今ライカンスロープにまでこられては門を護ることは叶わなかったでしょうから」


王様の言葉にソフィーナが頷く。
まあ、ほとんどクオンとエリンシアが倒してくれたんだけどね。


「では、クオン殿が戻ってくるまで待つしかないな」
「だね」
「ところで、エリンシア殿の実力はどれほどのものなのだ?」


王様はエリンシアの事を訪ねてくる。


「エリンシアはすっごく強いよ!」
「うむ、先程ライカンスロープも単独で倒したと言っていたので普通の冒険者のレベルではないだろうことは解るが魔女殿と比べるとどうなのだ?」
「そうですわね、今のカモメさんの実力は知りませんが少なくともワタクシよりはカモメさんの方が強いですわ」
「え、そんなことないよ!4年前だって一緒に戦っときすごいなぁって私思ったもん!」
「あら、嬉しいですわね。でもあなたのお父さんヴィクトールさんが死ぬ原因となった魔族との戦いのときにみせたあなたの強さは私以上でしたわよ」
「・・・・・・なに?」


エリンシアの言葉にフィルディナンドがピクリと眉を上げた。
あれは、ディータの闇の魔法があったからであって純粋な強さならエリンシアは私と同じくらいの強さだったはずだ。
魔鬼だって一人で倒していたし。
でも、そう思っているのは私だけであるとでもいうかのようにエリンシアはため息を吐いた。


「まあ、あれからワタクシも強くなった自信はありますわ、ですので足を引っ張るなんてことはありませんわよ」
「そうか・・・しかし、一つ聞いてもよいか?」


そう言って、王様は私を見た。


「え、私に?」
「うむ、今エリンシア殿が英雄ヴィクトールは魔女殿の父親だと言ったが?」
「あ、うん、お父さんの名前はヴィクトールですよ?」
「・・・・・・なんと」


私がそう言うと、ソフィーナさんも驚いたような声を上げた。


「では、そなたは実の父親を殺したのか?」
「・・・なんですって・・・訂正なさい。カモメさんはヴィクトールさんを殺してなどいませんわ」
「うわわっ、エリンシア待って!待って!」


エリンシアは今にでもフィルディナンド王を撃ってしまいそうなくらいの剣幕で睨む。


「待てるわけがありませんわ!ワタクシの友達を侮辱しないでくださいまし!」
「すまなかった・・・許してほしい」
「ううん、噂でそうなっちゃってるからしかたないですよ」


そうなのだ、私はグランルーンの王様と英雄ヴィクトール、つまりお父さんを殺したということで指名手配されている。
もちろん、どちらも私は殺してなどいない。
だが、グランルーンの大臣がそう思い込んで指名手配したのだ。


「ですが、だとしたらなぜそんな噂が?」


ソフィーナさんが至極まっとうな疑問を言う。
真面目な話の時は普通の人なんだこの人。


「グランルーンの王様が殺されたときにタイミング悪く黒髪になってしまったせいですわ」
「黒髪になった?元々、黒髪だったわけではないのか?」
「元は栗色のお父さんと同じ髪の色だったんだけど、ある魔法を使えるようになった時、髪と瞳の色がかわっちゃったんだ」
「そんなことがあるのですか・・・」


私はその時のことを説明した。
ディータと闇の魔法のことは隠したが後は大体あったことをそのまま話した。
一応、闇の魔法に魔族であるヘインズが過剰反応をしていたため、余り大っぴらに話さないようにしようとクオンとディータと一緒に決めたからである。


「カモメさんは王様もヴィクトールさんも殺してなどいませんわ、そんなこと出来る筈がないですのに・・・あの無能大臣のせいで濡れ衣を着せられたのですわ」
「しかし、グランルーンの大臣はなぜそんなことを?」
「わかりませんわ」
「考えられるのはその大臣がグランルーンの王を殺した真犯人そのものか、もしくは真犯人に誑かされたかだろうな」



そうだ、私が殺していないのだから王様を殺した真犯人がいるということである。
もし、大臣や大臣の近くに真犯人がいるのであれば、今グランルーンは王様を殺した人間が国を動かしている可能性もあるのか・・・大変だ。
とはいえ、グランルーンに近づくこともできない私にはどうしようもない。


「なるほどな・・・では、魔女殿は唯の被害者でしかないのだな」
「そんな辛い思いをされていたなんて・・・」


王様とソフィーナが私に同情をしてくれた。


「魔女殿、最後に確認だ。今の話、偽りはないな?」
「うん、本当だよ」


王様はまっすぐ私の眼をみて訪ねて来たので私もしっかりと眼を見て返した。


「なるほど、先ほどの非礼、今一度詫びよう」
「ううん、信じてくれて嬉しいです」
「エリンシア殿も済まなかった、そなたは友達想いなのだな」
「な、ななななななんのことですの!ワタクシは何も言っておりませんわよ!」


照れるエリンシアを見て笑いが起きる、その時、扉がノックされた。


「む、入れ」


王様が促すと、扉が開かれ一人の男の子が入ってくる。クオンである。


「クオン!」
「ただいま、カモメ。・・・お待たせしました」


クオンは私にあいさつした後、王様を見る。そして・・・。


「あれ?エリンシア?」
「お久しぶりですわ、クオンさん」
「久しぶり・・・って、なぜここにエリンシアが?」


驚いているクオンに私は説明をした。
クオンはここまで追ってきてくれたエリンシアに再び驚いていたが、再びエリンシアに会えたことに素直に喜んでいた。


「エリンシアがいてくれてよかった」
「どういうこと?」
「奴らのアジトを見つけた」


全員がクオンの話に耳を傾けた。
ウェアウルフたちのアジトは岩盤地帯を抜けた先にある洞穴のような場所にあるらしい。
洞窟の前には見張りが立っており、何者がウェアウルフを操っているのか分からなかったが油断は出来ないかもしれないということだ。


「では、直ちに向かいますの?」
「そうだね、明日になると恐らくまた襲撃を仕掛けてくるだろうから、今日のうちに行った方がいいと思う」
「うむ、そうしてもらえると助かる」
「私もついていきます」


ソフィーナさんが手を上げる。
ソフィーナさんの実力が分からないのでどうしたものかとクオンを見たが、その思惑を悟りフィルディナンド王が声を上げた。


「確かに魔女殿立ちと比べるとソフィーナは劣るだろうがそれでもこの国一の騎士だ。ライカンスロープの相手くらいは出来るだろう」


そうなのか、ソフィーナさんって騎士団長なだけあって腕もかなりのものらしい。
考えてみれば2日連続で100体ウェアウルフが襲ってきたのだ。それを退けているこの国の人たちはかなりの実力だろう。
その中に抜きんでた者がいてもおかしくはない。


「わかりました、では、4人で行かせてもらいます」
「いや、5人で頼む」
「もう一人は誰なの?」
「俺だ」
「はい!?」


フィルディナンド王までもが手を上げた。いやいや、王様に何かあったらどうするのさ!
私たちが来た時も危険な目にあってたじゃない!


「さすがに何があるかわからないところに王様を連れて行くわけにはいきません」
「むぅ・・・駄目か?」
「駄目です」


王様が子犬のようにしょんぼりしたところにソフィーナさんがぴしゃりと言う。
まあ、護り切れるとは限らないしねぇ。
王様にはここにいてもらおう。


「では、改めてこの4人で行ってきます」
「うむ、残念だが頼んだぞ」


残念なんだ・・・この王様やっぱり変。


「では、いきますわよ!」


エリンシアが言った。
なんかこの感じ4年前に戻った気がして嬉しくなってくる。
本当、エリンシアとまた会えてよかった♪ 
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