上 下
33 / 361
2章

闇の魔女の逃亡生活

しおりを挟む
天には月が昇り、淡い光が暗い夜道を照らしている。
街道から外れた道とは呼べないほどデコボコしている地面を転ばないように気を付けながら私とクオンは走って移動していた。
私たちは別に障害物競走をしている訳ではない、追手から逃げているのだ。

追手というのは暗殺者だの闇の組織の人間だのという特別な人間ではない。
いや、ある意味特別ではあるのかもしれないが、その人たちは自分たちの生活の為、危ない仕事でも引き受けるいわゆる何でも屋である。
彼らは、ダンジョンを攻略したり、討伐依頼の魔物を倒したりと危険な仕事をすることもあれば。
街の掃除や猫などの迷子のペットを探したりする依頼を受けたりもする・・・そんな彼らはこう呼ばれている『冒険者』と。

私が一番あこがれる職業であり、私の将来の夢でもある。
いつかは私も冒険者としてダンジョンにもぐったりするワクワクドキドキする冒険をしたいものだ。

さて、ではなぜ、私はそのあこがれの職業である冒険者の人たちに追われているのか・・・それは簡単な事だ、私が賞金のかかったお尋ね者だからである。


私の名前は、カモメ=トゥエリア。
今は訳あって『闇の魔女』等と呼ばれている。
私が賞金を懸けられた理由は、王殺しと英雄殺しである・・・もちろん、両方とも冤罪である。
こんなかわいい女の子がそんな恐ろしいこと出来るわけがない。
私のかわいい顔を見たら絶対、そんな悪者だなんて思わないはずだ。

え・・・?じゃあ、なんで追われているのかって?きっと追ってきている冒険者は目が悪いんだよ!

それに、英雄と呼ばれていた人は私のお父さんである。
昔、お父さんが所属していたパーティが邪竜を倒し、国を救ったことで救国の英雄と呼ばれるようになった。
まあ、お父さんだけじゃなくそのパーティに所属していた5人の人間が全員そう呼ばれているのだけど。


さて、そんなことを考えている場合ではない・・・後ろを追ってきている冒険者は4人。
かなりの手練れであるようで私とクオンが全力で走っているというのに引き離すことが出来ないでいる。
いっそ空を飛んで逃げようかとも思ったけど周りに何もないこの場所で空を飛んだりすればいい的である。
なので、とにかく遮蔽物のある場所までは走って逃げるしかない。


『カモメ、前からも来たわよ』


私の中に響くこの声の主の名はディータと言う。
ディータは闇の女神と呼ばれる存在で、光の女神の姉になるらしい。
1000年前、異世界の魔王との戦いで体を失ってしまった彼女は再び戻ってくるであろう魔王に対抗する為、自分の闇の魔法を操れる人間が現れるのを異次元の世界で待っていた。
そして、その人間というのが私だったのである。
4年前、私が闇の魔女と呼ばれることになった事件の時、私に力を与えてくれた。
そして、この4年間、私は闇の魔法を必死に練習してきたのだ。
そう・・・お父さんが死んだ後の時から、もう4年も経っているのだ・・・。


「かなりの手練れだね・・・少々荒っぽくいくしかないかな?」


星空のように深い青の髪を風に靡かせながら言うこの青年はクオン=ドースティンだ。
彼は私の相棒で、4年前から行動を共にしている。
4年前よりかなり背が伸びて、私より頭一つ半くらい背が高い。
私も結構伸びたと思うのになぁ・・・そう思う私の身長は女性の平均値である。
なぜかこれを言うとクオンは暖かい目で私の事を見るが平均値と言ったら平均値なのだ!
決した小さいなんてことはない!ないったらない!

彼の得意武器は剣でその腕前はすごいの一言だ。
4年前の子供の時ですら大人顔負けの剣技だったクオンだが、この4年で彼の剣技はさらに磨きをかけている。
そこらの冒険者では彼の足もとにも及ばないだろう。


「じゃあ、魔法で吹っ飛ばしちゃおう」


私は自分の周りに黒い魔力を漂わせる。
魔力と言うのは普通、薄い青色をしているのだが、私は闇の魔法を使えるようになった時に黒い魔力に変わってしまった。
別段普通の魔力と違いはない。ただ色が黒くなっただけである。


私は手の中で炎の魔法の中で一番威力の弱い魔法を作り出す。
それを、目の前に現れた冒険者に放った。


爆発炎弾フレイムエクリス!」


炎の玉が目の前の冒険者の胸のあたりまで飛んでいき炸裂した。


「ぐほぉ!!」


奇怪な声を上げ、冒険者が爆発で黒焦げになる。
勿論、加減はしているので殺してはいない。
彼らは普通の冒険者であって悪い人間と言うわけでもないので殺してしまうと後味が悪い。


「さすが魔女・・・恐ろしい魔力だ」


後ろを走っている冒険者の一人がそう言った。
いやいや、かなり手加減しているからね!


『カモメ、左前方に林が見えて来たわ。そこで巻きなさい』
「オッケー、クオン、あそこの林に逃げるよ!」
「了解!」


私とクオンは走るスピードをさらに上げ林の中に突っ込んだ。
木の量が多く、これならば冒険者達をうまく巻けると判断したのだ。


「ちょっとぉ!これじゃあ逃げられちゃうわよぉ!」
「うるせえ!どうしようもねえだろうが!」
「ちくしょう!奴ら何処に行きやがったぁ!」


私とクオンは後ろの冒険者たちが見えなくなったのを確認すると背の高い木の上へと逃れた。
さすがにこの暗い林の中では木の上にいる私たちに気づきはしないようだ。
しばらく木の上で息を潜め、冒険者たちの気配が完全に遠くに行ったことを確認すると私は大きなため息を一つついた。

今みたいに冒険者や国の兵士などに追われるのはこの四年では珍しいことではない・・・いやむしろ日常茶飯事だ。


最初私たちは、グランルーン王国から出れば追手の類は無くなるだろうと予想していた。
だが、王殺しであり英雄殺しの魔女の噂は瞬く間に他の国にも広がったのだ。
私たちはグランルーンの隣国であるボードという国にいたのだが、自分たちの国にいないと判断したグランルーンはボードにまでやってきて私たちを探し始めた。
ボードの国の人間も他国の人間が自分の国に入ってくるのを嫌い、私たちを探す協力をし始めたのだ。

それから私たちの逃亡生活は始まった。
冒険者やボードの兵士、それにグランルーンの兵士から逃げる為、さらに隣の国へと逃げる。
だが、その国でも私たちの手配書が回っているらしく、国総出で私たちを探していた。その国は昔お父さんたちが救ったことのある国だったらしくお父さんを殺したと言われている私を血眼になって探していた。
・・・・・・・・・・・・・あそこは本当に怖かった・・・見つかったら絶対に殺されてたと思う・・・怖かった・・・。
とはいえ、お父さんの為にあそこまで必死になってくれている国の人たちを傷つけることなど出来るわけもなく、その国からは一目散で逃げ出した。

次に着いたのはベラリッサ法国であるここは、光の女神を崇める宗教国だ。
宗教国と言うとお堅い感じがするけど、ここの国の法王メリアンナ様は女神の化身と言われるほどやさしい人と言う噂だった。
もしかしたら、私たちの事を理解してくれて匿ってくれるんじゃないかと思ったのだが・・・その考えは甘かった。
国の玄関に着いた瞬間私たちは捕まった。
弁解の余地もなく一瞬で捕まって牢屋に放り込まれたのだ。

話も聞いてもらえず、しかもここまで色々な人間に追いかけられて心身ともに追い込まれていた私のストレスは爆発する。
牢屋のある城ごと魔法で吹っ飛ばして逃げ出したのだ・・・そして、私の罪状は増えるのであった・・・しかも今回は冤罪ではない・・・あうち。
怒りが爆発して後先考えず、魔法をぶっ放してしまったのである・・・それも合成魔法をだ・・・。
お陰でものの見事に城は吹っ飛んだ。
まあ、法王様のいる城ではなく、ベラリッサの国境沿いにある小さな城ではあるのだが、ベラリッサの人間を怒らせるには十分だった・・・私はなりふり構わず逃げ出した。


ここまでくると、もう人のいないところに住むしかない。
魔の森と呼ばれる森に入り、私とクオンは小さな家を作ってそこで暮らしていた。
ご飯は、猪や熊、後は魚と果物を取っていたので困らなかった。
洗濯なんかも近くの川で出来たので問題はなかった。
ちょっと強い魔物が出てくるくらいで快適に暮らせる場所であった、強い魔物も魔法の練習や鍛錬の相手にはちょうど良かったのだ。その為、私はあの場所が気に入っていた。

冒険もできないような場所ではあるが平穏そのものだったのだ、このままクオンとここでのんびり暮らすのも悪くないなぁなんて思っていたのだが料理の時に出る煙や、夜の灯りで魔の森に入ってきた冒険者たちに見つかってしまったのだ。

そして見つかったが最後、次の日には兵士と冒険者の団体さんに家は壊され、私たちは泣く泣く逃げ出した。


そんなこんなで逃亡生活を続けること4年・・・とうとう私たちは大陸の最果てへとやってきた。
ここは最果ての国と呼ばれる場所で、大陸の端っこに位置する国だ。
グランルーンとは一番遠い国でもある。
グランルーンも地図で言えば端っこではあるのだが、なんといっても領土が大きいのだ。
それに比べるとこの国は領土の小さい国になっている。グランルーンと比べると10分の1くらいだろうか。
この国の名は最果ての国ツァイン。ここでも追いかけられると・・・もう海の向こうに逃げるしかなくなるのだ・・・。

うう・・・きっとここでも追いかけられるんだろうなぁ・・・。

私は重い足取りでツァインへと入国した。
もちろん、関所などは通っていない・・・不法入国だ・・・そうするしかないんだもん。


こうして、私はここツァインへとやってきた。
ここで、様々な出来事が待っているとは知らずに・・・。
私は、王様殺しに英雄殺し、そして城破壊の冤罪を晴らすことができるだろうか! 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

【完結】陛下、花園のために私と離縁なさるのですね?

ファンタジー
ルスダン王国の王、ギルバートは今日も執務を妻である王妃に押し付け後宮へと足繁く通う。ご自慢の後宮には3人の側室がいてギルバートは美しくて愛らしい彼女たちにのめり込んでいった。 世継ぎとなる子供たちも生まれ、あとは彼女たちと後宮でのんびり過ごそう。だがある日うるさい妻は後宮を取り壊すと言い出した。ならばいっそ、お前がいなくなれば……。 ざまぁ必須、微ファンタジーです。

婚約者に犯されて身籠り、妹に陥れられて婚約破棄後に国外追放されました。“神人”であるお腹の子が復讐しますが、いいですね?

サイコちゃん
ファンタジー
公爵令嬢アリアは不義の子を身籠った事を切欠に、ヴント国を追放される。しかも、それが冤罪だったと判明した後も、加害者である第一王子イェールと妹ウィリアは不誠実な謝罪を繰り返し、果てはアリアを罵倒する。その行為が、ヴント国を破滅に導くとも知らずに―― ※昨年、別アカウントにて削除した『お腹の子「後になってから謝っても遅いよ?」』を手直しして再投稿したものです。

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...