上 下
27 / 361
1章

エリンシアの戦い

しおりを挟む
魔鬼二匹と戦うエリンシアとラインハルト。
ラインハルトが負傷している為かなりの苦戦を強いられていた。


「情けないですわ・・・」


エリンシアは小さな声でぽつりと呟いた。
なぜそんなことを言ったかというとラインハルトはエリンシアを庇い背中に大きな傷を負ってしまっていて普段よりかなり動きが悪くなっている。
それなのに、自分は未だラインハルトに守られているのだ。
エリンシアの攻撃である魔導銃は魔鬼へ大したダメージを与えられないでいた。
怯ませたり、人間相手であれば軽く殴った程度のダメージは与えられているようであったがそれでは大して意味がなかった。
なぜなら、魔鬼は恐怖というものがないのか魔導銃の一撃を喰らってもお構いなしに突っ込んでくる。
そして、武術を齧っているエリンシアとはいえ、ラインハルトの鎧をも貫いた魔鬼の爪を相手に接近戦をするのは危険極まりなかった。

その為、ラインハルトは背中から赤い液体を流しながらも前へ出て魔鬼二体を相手にしている。
魔鬼はラインハルトの攻撃を警戒しているのかエリンシアに対しては構わず突っ込んでくるくせにラインハルトに対しては一定の距離を置いていた。
本能で危険だと判断しているのだろう。

その事実にエリンシアは自分の不甲斐なさを感じることになる。





「情けないですわ・・・」




カモメが戻ってくれば治癒の魔法でラインハルトを治してもらえる。
その間をエリンシアとクオンで時間を稼げば問題なく魔鬼を倒せるだろう。
だが、ヘインズは言っていた、カモメ達が追って行った盗賊は今目の前にいる魔鬼より素体として優秀だと。
つまり、この二体より強い可能性がある。
確かに、カモメ達がその魔鬼に負けていないかという心配もある。
だけどもし彼女たちが戻ってきたのであればそれは今目の前にいる魔鬼よりも強い魔鬼を倒してきたという事だ。
あの二人なら倒せるんじゃないか?エリンシアはそう思う。
カモメもクオンも自分と同い年とは思えないほど強い。
だが、普通であれば今目の前にいる魔鬼より強い魔鬼となれば恐らく勝てないであろう。
それでもカモメ達なら勝ってしまうのではないか?そう思える何かをカモメ達は持っている気がするのだ・・・エリンシア自身それが何か説明は出来なかったが。

そして、エリンシアが初めて尊敬でき一緒にいたいと思える相手だった。
強く優しく、そしてそれを驕らない自分が目指した冒険者としての目標に見えたのだ。
自分が冒険者になったときは彼らのパーティに入れてもらおうと思うほどに。


でも、ここでラインハルトに守られたままカモメ達が帰ってきたとき私は自信をもって彼女たちのパーティに入れて欲しいと頼めるだろうか。
・・・頼めるわけがない。
彼女たちの仲間になりたいのであって重荷や足手まといなどごめんこうむるのだ。


「それなら、魔鬼の一匹でも倒しておかないといけませんわね・・・」


そう、これは唯の意地だ。
意味もないし、勝てるとは限らない、もしかしたらこの意地のせいで無駄死にするかもしれない。
それでも、やらなきゃならない・・・いや、やりたいのだ。


「ここで戦わなければ冒険者なんて名乗れませんわ!」


エリンシアは駆けた。
ラインハルトから見て左の魔鬼へ、元は兄貴と呼ばれていた体の大きい方である。
見ていた限り、こちらの魔鬼の方が強い。
だから、あえてその魔鬼を選んだ。
エリンシアはラインハルトの横を抜け、魔鬼へと飛び掛かった。


「エリンシア君!?」


ラインハルトの驚きの声が聞こえる。


「ラインハルトさん、右側の魔鬼は任せますわ!怪我をさせた張本人が言うのも烏滸がましいですが、魔鬼一匹相手なら行けますわよね!」
「なっ!?」


やめるんだエリンシア君とラインハルトが叫んでいるがやめるわけがない。
エリンシアは魔鬼に拳を振るう。
本来であれば拳は魔導銃が使えなくなった時の為の護身用の武術である。
明らかに自分より強い相手に進んで使うものではない・・・が、遠距離から魔導銃を撃っているだけではこの魔鬼は倒せない。
なら、至近距離で当てていくまでだ、それもただ撃つだけでは駄目だ。
格闘技で相手の体制を崩しながら敵の急所や目など確実にダメージを与える場所に撃たなければ。

エリンシアの拳や蹴りが魔鬼の重心を崩す、そしてその隙に右目を撃ち抜いた。


「ギャギャ!!」


魔鬼が悲鳴を上げる。
だが、撃たれた右目を気にするのも少しの間だけ、すぐにエリンシアに向かって腕を振ってきた。


「あの爪をまともに喰らうわけにはいきません・・・わ!」


ギリギリのところでひらりと躱すエリンシア。
だが、かなり高級であろう服の袖が斬り裂かれた。


「お気に入りの服でしたのに!」


振りぬいた腕の懐へと入り込み掌底を魔鬼の腹部へと当てる。
体の構造は人間と同じなのか、一瞬、息を詰まらせる魔鬼。
その魔鬼の足を払い転ばせた。

エリンシアはその魔鬼向かって、魔導銃を浴びせた。


「これならどうすかですわ!」


顔面に何発も魔導銃を喰らった魔鬼であったが紫の血が流れて歯もいくつか欠けていたが、倒すには程遠いダメージであった。


「ギャギャ!」


魔鬼は飛び起き再びエリンシアへと腕を振るう。


「きゃっ!」


今度の攻撃は躱しきれず、左腕を引掻かれてしまう。
エリンシアの左の腕の白い綺麗な服を赤い血が染めていった。


「そう簡単にはいきませんわね」
「エリンシア君、もういいさがるんだ!!」
「お断りしますわ!」
「なっ!?」


心配をしてくれるラインハルトには申し訳ないがエリンシアは退く気がない。
いや、それどころかどんどんと今の状況が楽しくなっているのである。
ピンチになるほど高揚する特殊な人間がいるらしいが、もしかしたら自分はそのタイプなのかもしれない等と考えていた。


(ワタクシは冒険者に向いてますわね)


ポジティブここに極まれりである。
だが、不思議といい気分であった。


「とはいえ、これ以上長引かせるわけにはいきませんわね」


自分の腕から流れる血を見ながらそう長くは戦えないだろうと思った。
気力が十分でも血を流し過ぎれば動けなくなる。
少し引搔かれただけだと言うのにこれだけの傷になるのだからやはり魔鬼は侮れない。


「行きますわよ!」


エリンシアは再び魔鬼へと向かう。
魔鬼が腕を振るうが今度は避けずさらに踏み込んだ。
今度は左肩に魔鬼の爪が食い込むが気にしない。
先ほど私の魔導銃をくらいながらも意にかえさず向かってきたお返しだと言わんばかりに自分のダメージを気にせず突っ込んだ。
そして大きく開けた魔鬼の口に魔導銃を突っ込む。


「ワタクシの最大の技、お口の中で耐えられますかしら?」


そう言ってフルブラスターを全力でぶちかました。

内側からとんでいもない威力の技が暴れた魔鬼は無残にも粉々に吹き飛んだのであった。


「ワタクシの勝ちですわ!」


間近に撃ったフルバスターの余波で綺麗な服がボロボロになっていたがエリンシアは満足そうな顔で勝ち誇ったのである。
その光景を大人の二人が引きつった顔をして見ていたのであった。


「とんでもない子だな・・・」


ラインハルトは引きつった顔をエリンシアから魔鬼へと戻す。
もし自分が軽々と一方の魔鬼を倒してしまえばもう一方が逃げるかもしれない、その場合この傷では追いつけないだろう。
もしくはやけになったもう一匹がエリンシアへ向かう危険がある。
そう思い今までは攻撃に移れず、様子を見ながら戦っていた。だが今はその護るべき対象であったエリンシアがもう一匹の魔鬼を倒している。
ならば、自分は残った魔鬼を倒すだけである。



「怪我で満足に動けないが・・・問題はないな」



そう言うと一閃、光の軌跡が見えたかと思うと魔鬼の右腕がごっそりと斬られていた。


「ギャ・・・?」


魔鬼が何が起きたのか分からないと言う顔をしている。
そして、さらにもう一閃・・・次は左腕が無くなっていた。


「怪我をしているのでな・・・あまり動きたくないのだ・・・横着な倒し方で済まない」


そう言うとさらに3つの光の軌跡が魔鬼へ飛んだ。
魔鬼の体は首と体と足に斬り裂かれ絶命した。


「とんでもないですわね・・・」


今度はエリンシアが引きつった顔でラインハルトを見るのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...