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1章

闇の力

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《クオンside》

カモメの様子がおかしい。
黒い魔力のようなものが彼女の周りに漂っている。
通常の魔力であれば青い光を放っている筈である。
黒い魔力・・・確か、ヴィクトールさんがカモメの母親が死んだときに様子がおかしくなった時も黒い魔力を放っていたと言っていた。
その時は確か、闇の魔法とかいうのをカモメが使ったと言う事だったけど・・・。
そしてその時のカモメはいつもと違う感じがしたとか・・・今回もそうなるのか?
もしそうなったら、カモメがどんな行動をとるのか分からない・・・。
ヴィクトールさんにカモメを頼むと言われたがいざその時になってみるとどうしていいのか分からないものである。

とにかく、カモメが心配だ・・・。


僕がカモメに気を取られていると、目の前の怪物が拳を振り下ろしてきた。
僕はそれを後ろに飛びのきながら躱す。


「くっ・・・お前なんかに構ってる場合じゃないってのに」


怪物はこちらの事などお構いなしだ、まあ、当然と言えば当然である。
だが、この怪物をどうにかする方法もない・・・ズキリと折れた右腕が痛む。
どうにかするどころか、いつまで生きていられるか・・・。

左腕で剣を構え、敵を見据えると、カモメの様子がさらに変わった。

カモメの周りを漂っていた黒い魔力が勢いを上げあふれ出す。
そして、カモメを中心に収束すると、そこには先ほどまで膝を地面につけて心ここにあらずといった様子であったカモメが戦意に満ちた表情で立っていた。
そして、あきらかにいつものカモメと違う姿をしていたのである。


《メインside》



私の意識が戻ると魔鬼と戦っていたクオンが驚いた表情でこちらを見ていた。
魔鬼はこちらを見ず、クオンへ向けて突進を始めている。


「クオン!」


私は魔鬼から視線を逸らしこちらを見ているクオンに注意を促す。
クオンは敵の攻撃に気づいたのか魔鬼の攻撃を紙一重で躱すと、再び心配そうな表情でこちらを見ていた。
一体どうしたのだろう?


「カ、カモメ・・・だよね?」
「うん、あたりまえじゃん。どうしたのクオン?」


クオンが信じられないものを見ると言った表情でこちらを見ている。
どうしたんだろう?と私は自分の体を見てみるが特に変わった様子はない。
いや、一つあった、そっか私から出ている魔力が黒くなっているのだ。
確かにこれは驚く、私もちょっと驚いた。


「黒い魔力?」
『闇の女神の加護を受けた証かしらね、私も黒い魔力を放っていたわ。とは言っても色が違うだけで普通の魔力と変わらないわよ』
「そうなんだ」


どうやらこの黒い魔力はディータの力を貰ったおかげらしい。
この黒い魔力に意味があるのかは分からないが、まあ、色が変わっただけで普通の魔力と変わらなそうだ。
くう・・・普通の魔力よりすごいんじゃ!とか期待したのに・・・。

っと、それよりも今は魔鬼をどうにかしないと・・・。
私は魔鬼に近寄り、構える。


「カモメ!」
「大丈夫だよクオン!」


私は笑顔でクオンに言った。
闇の魔法、闇の女神の加護で使えるようになったこの魔法。
まだ、使ったことはないけどそれでもこの魔法の威力がすごいことはわかる。
これなら、目の前の魔鬼を倒せるはずだ。

私から黒い魔力が膨れ上がる。


闇の刃オプスラミナ!!』


私の手から放たれた闇の刃が風を斬り裂きながら魔鬼へと向かって行く。
魔鬼はその刃を横へ飛び躱すが闇の刃は一度、魔鬼の横を通り過ぎるも反転し、再び魔鬼へと向かって行った。


『闇の刃はカモメの意思のまま動くわ。避けるのは不可能よ』
「ほえ~」


私が感嘆しているとその間に闇の刃は魔鬼の右腕を切り落とした。


「グォガアアアアアアアアアア!」


魔鬼が悲鳴を上げる。
先ほどまでどんな魔法も効かなかった相手なのにこうも簡単にダメージを与えられるなんて・・・それも大ダメージだ。


「すごい・・・」


私の後ろにいるクオンが折れた右腕を抑えながら驚愕した。


「よぉし、もういっちょ」
『何を言ってるの?』
「え、だってまだ魔鬼は生きてるし」
「魔鬼?」


後ろで私たちの会話を聞いていたクオンが疑問符をつける。
あ、そっか、私は魔鬼の事を簡単にディータに聞いているけど、クオンはまだ何も知らないんだっけ?


「私もまだディータからちゃんと聞いてないから、後で一緒に聞こう」
「ディータ?」
『あ、私の声、あの子には聞こえてないわよ』
「・・・え?」


あれもしかして、クオンには私がずっと独り言を言ってるように見えてた!?
ちょっと、それじゃ私、頭がおかしくなったようにみえちゃうよ!?
ちらっと振り返るとクオンが心配そうな顔で私の事を見ていた。
そんな目で私を見ないで~~!!

とにかく、魔鬼を倒しちゃおう!それからクオンの腕を治療して説明もしないと!
頭がおかしい子と思われちゃうよ!

私が魔鬼に向き直りあらためて闇の刃の魔法を唱えようとすると先ほど放った闇の刃が魔鬼の右腕を斬り裂いた後、再び反転をして右足を斬り裂いていた。


「あ、あれ?」
『闇の刃は防がれでもしない限り敵を斬り裂くわ、闇の刃に襲われた敵は肉片に変わるまでその身を切り刻まれる恐怖を味わうことになるわね』
「と、とんでもなくえげつないよぉ・・・たはは」


闇の魔法ってものすごく怖いんじゃ・・・これからこの魔法を使うのがちょっと怖くなってきた・・・。
・・・いやいや、魔法は使いようだよね、きっと闇の魔法だって他にもいいところが・・・。

私がそう考えている間に魔鬼は肉片へと姿を変えていた。



「あれ・・・魔石にはならないんだね」
『魔鬼は元が人間だから魔石にはならないわ』
「あ・・・」


そっか、魔物みたいな姿だったから戦っている時は気にしなかったけど私は人間を粉みじんに斬り裂いたのだ。
そう思うと闇の魔法の怖さがさらに解った。


『力は使う人間次第で良いことにも悪いことにも使えるわ・・・カモメなら悪いことには使わないと信じてるわよ』
「うん・・・」


自分は怖い力を手に入れてしまった・・・だけど、闇の魔法に限らず力とはそういうものなのだ。
良くお父さんが言っている、力を使うためにはまず心鍛えろと。
弱い心の人間が強い力を使うと悲劇しか生まない。
だから、力と共に心を鍛えろって・・・。

心を鍛えるって良くわからなかったけど、きっとこの怖いって気持ちを忘れちゃいけないんだってことなんだと思う。
私は自分の手を見ながら今の気持ちを忘れないようにと心に誓った。


「カモメ・・・ぐっ」


私の後ろにいたクオンが右腕を抑えながら声を漏らす。
いけない、クオンは腕を折られてたんだ。


「ごめん、すぐに治すよ!」


私はクオンに近寄ると治癒魔法をクオンの腕にかけた。
治癒を掛ける私の顔をクオンはマジマジと見つめる。


「どうしたのクオン?」


そういえば、さっきも私の事を心配そうに見ていた。
さっきはてっきり私の黒い魔力に驚いているのだろうと思ったが、どうもそうじゃなさそうだ。


「カモメ・・・その・・・髪と眼が・・・」


髪と眼?
私の髪と眼がどうしたんだろう?
そう思って私は髪の毛を指でつまみ視界に入るところまで引っ張ってくる。


「・・・え?・・・あれ!?」


私の髪の毛は栗色をしている・・・ハズなのだが、今私の指の中にある髪の毛は黒い色をしていた。
それも本当に純粋な黒である。
ってさっきクオンは髪と眼がと言っていた・・・ということは・・・。


「もしかして、眼も黒くなってる?」
「うん・・・」
「ええええええ!?」


ちょっ、なんで!?
もしかしてこれも闇の女神の力の影響??


「ディータ、これって・・・」
『そうみたい・・・ごめんなさい、私の力の影響だと思うわ』
「おおう・・・」


やっぱりそうらしい。
闇の女神の力を貰うと髪と眼も闇の色になると・・・。
私はクオンを見て聞いてみた。


「えっと・・・変・・・かな?」
「え、いや、そんなことはないけど・・・」
「ほんと?」
「うん、ちょっと大人っぽくなった感じがするよ」
「えへへ~、ならいっか♪」
「か、軽いね」


まあ、確かに長年栗色の髪だったのでちょっと残念な気もするけど、大人っぽく見えるのなら黒もありだと思う!



「それよりディータって?それにさっきの魔法は?」


そうだった、クオンに説明をしないと・・・。
私はクオンにとりあえず、私の意識の中で聞いた話を説明した。
ディータが闇の女神と言われる存在でさっきの魔法は闇の魔法と言われることを。


「闇の魔法・・・ヴィクトールさんが言っていた魔法だね」
「お父さんが?」
「あ、いや、なんでもないよ、それよりあの魔法すごい威力だったけどカモメに危険はないの?」
「あ、どうなんだろ・・・ディータ?」
「どうなんだろってそれを確認もせずに使ったのかい!?」


クオンが驚く。
いやぁ、確かにそこらへん全然気にしてなかったね・・・あはは。


「えっと、ほら、あの魔法無かったら死んでたかもしれないし?」
「確かにそれはそうだけど・・・」
『あの魔法を使うことでカモメの身体に危険はないわよ、多少魔力は多く使うと思うけれど』
「あ、そうなんだ・・・」


そういえば、確かに一回しか闇の魔法使っていない割には魔力の消費が大きい。
とは言っても合成魔法より少し多いくらいの消費量だ。
あ、そういえば闇の魔法を合成魔法に使ったらどうなるのかな?よりすごい威力になりそうだけど・・・。


『カモメ、先に言っておくけど合成魔法に闇の魔法を使っては駄目よ』
「・・・え?どうして?」
『まだカモメは闇の魔法を使いこなせているわけではないわ、それに体もまだ成長しきっていない。そんな状態で合成魔法に使えばあなたの体が壊れるかもしれないわ』
「え、でも私の身体には影響ないって」
『闇の魔法を使う分にはね、でも私は合成魔法を使えなかったからどうなるか予想がつかないのよ。だからもっと使いこなして体も大人になってからにした方がいいわ』
「なるほど・・・うん、わかった」
「どうしたの?」


あっと、そうだ、ディータの声が聞こえないってことすぐ忘れちゃうよ。
私の声しか聞こえていないクオンには何のことか分からないよね。


「えっとね、ディータが闇の魔法を合成魔法に使うのはもっと成長してからにしろって」
「そうなんだ・・・確かに強力すぎる分、危険があるかもしれないしね」
「うん」
「ところで闇の女神はなぜカモメに力を授けたんだ?」
「えっと・・・」


そういえば、まだそこら辺の詳しい話を聞いていなかったよ。


「ディータ?」
『その話は長くなるから後にしましょう、今は早く髭親父たちの所に帰った方がいいわ、あのヘインズとかいう魔族もいるでしょうし』
「そうだった・・・クオン、話はあとでいいかな?とりあえずお父さんたちの所に戻ろう。みんなが心配だよ」
「そうだね」


クオンの腕の治療はすでに終わっている。
今はとにかく早く戻ってみんなの無事を確認しないと。
それに闇の魔法があればヘインズにだってダメージを与えられるはずだ。


「カモメ・・・ありがとう」
「え?」


立ち上がるとクオンは私にお礼を言ってきた。
あ、腕の事かな?


「あはは、お礼なんていらないよー、相棒が怪我をしてるのを治すくらい当然だよ♪」
「腕の事もだけど、僕が後先も考えず盗賊の後を追ったせいで君を危険にさらしちゃったし・・・ヴィクトールさんとも離れることに・・・」
「仕方ないよ、家族の仇が目の前にいたんだから、自分を抑えるなんてできないと思うよ~」
「・・・ありがとう・・・・カモメ、これからは僕は君を護る、仲間として相棒として、今の僕は君の役に立てるほど強いとは言えないけどこれからもっと強くなるから・・・」
「何言ってるの、クオンは十分強いよ」
「これからも、一緒にいていいかな?」
「当然でしょ!これからもよろしくね♪」


クオンはもう一度私にありがとうと言うと笑顔で行こうと言ってくれた。


『甘いわねぇ、こんなヘタレ坊やなんかいなくても私が護ってあげるわよ』
「ちょ、ディータ!?」
「どうしたの?」
「う、ううん、なんでもない!」


ディータって女神の割には口が悪いなぁ・・・。
私達は急いで元の廃墟へと戻る為走り出すのだった。
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