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1章

勝利

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「クオン待って!!」

クオンは赤髪の盗賊の事しか見えていないのかどんどん廃墟の奥へと走っていく。
私は慌ててクオンの後を追いかけた。
クオン達が廃墟の崩れた壁から外に出るのが見えた。


「クオンっ!」


私はクオンの名を呼ぶがクオンには聞こえていないのか止まる気配がない。
盗賊の逃げ足は速く、私は二人を追いかけるのがやっとだった。
このままだと見失っちゃうかもとと思い始めたとき、私の後ろから獣の唸り声のような声と同時に私に襲い掛かる二つの気配を感じ慌てて私は横に飛びのいた。

私を襲ったのは妖魔であった、恐らく駆けだした私たちをすぐに追ってきたのだろう。
妖魔は普段は人間と同じ二足歩行で歩いているが、全力で走るときは獣のように四足歩行になるらしい。
そのスピードは速く、長い距離を走るのであれば私に追いつくのは難しくなかった。



「邪魔をしないでっ!」



すでにクオン達の姿は視界から見えなくなっている。
ただでさえ、廃墟の外の森の中に出てしまったのに見失うなんて・・・。

妖魔は咆哮を上げ二匹同時に私に向かってきた。

私はバトーネを構えると襲ってきた二匹のうち一匹の方へと突進する。
バトーネに魔力を込め思いっきり妖魔めがけて振り下ろした。

私のバトーネは込める魔力に比例して威力を増す。
今、振り下ろしたバトーネには邪魔をされた苛立ちがプラスされかなりの魔力を込めていた。
その為、バトーネを頭に喰らった妖魔は、頭から深々と地面に突き刺さっていた。

そして、私の方向に向き直り突進してくるもう一匹の妖魔へと魔法を放つ。



電爆撃ライトニングブラスト!」


私の左手から電撃が妖魔へと向かって放たれる。
その電撃に触れた妖魔が悲鳴と共に黒焦げとなった。


瞬く間に倒した、妖魔にはすでに目もくれず私はクオン達が走っていった方向に再び走り出した。
走り出した私の後ろで妖魔たちは淡い光を放ちながら魔石へと姿を変えていた。










私は見失ったクオンを必死に探す。
復讐の相手を見つけたクオンは周りが見えなくなっていた。
普段のクオンであれば恐らくあんな盗賊に負けることはないだろう、でも、今のクオンは余裕がない。
クオンの戦い方はスピードや剣技で相手を翻弄する戦い方だ。それには相手を観察し、相手の動きを予測しながら不意をつかなくてはいけない。
でも余裕のない今のクオンではその戦い方は出来ないだろう、ただがむしゃらに突っ込んでいってしまって返り討ちに会う可能性もある。
そんなことさせるわけには行かない。

私は焦りながらも森の中を走った。


少し走ると耳に鉄と鉄がぶつかり合う音が聞こえてくる。
見つけたっ。
私は音のする方向へと全力で走り出した。




「父さんの代わりに僕がお前を殺す!!」



私がその場に着いた時、クオンの怒りの声が響いていた。
クオンのあんな声、初めて聴いたよ。


突進するクオンの攻撃を、盗賊は難なく受け止め腹に蹴りを返す。



「ぐっ」



クオンが声を漏らす。
やはり、思っていた通りいつもの戦い方が出来ていない。
赤髪の盗賊は戦いなれているのかそこそこは強そうである。
だが、持っているシミターはただ、振っているだけで技なんて呼べるものでない。
普段のクオンであればすぐに勝負がつくような相手なのだ。
それなのに押されているのはクオンがただ一直線に相手に向かって行って剣を振りかぶり振り下ろすしかしていないからだ。
それもいつものスピードもない。
クオンは私と同じ12歳だ、世間一般では子供の部類に入る。
その為、力はそこまで強くはない。
だから、実力で劣る相手といえ、大人の盗賊は純粋な力比べであればクオンを圧倒出来るだろう。
そして、今はその力比べになってしまっているのだ。

もし、相手が強かったのであれば私が来る前にクオンはやられてしまっていたかもしれない。
相手の盗賊が雑魚でよかったよ・・・。



「クオン!!」
「・・・!っ・・・・・・カモメ」
「ちっ、またガキが来やがった・・・拳の鬼が来る前に逃げねぇといけねぇってのに!」
「カモメっ、手を出さないで!こいつは・・・僕が殺す!」


クオンが私に向かって言う。
私はそんなクオンの言葉を聞いて笑顔で走り出す。


「カモメっ!」


クオンは私が自分の言葉を無視して盗賊に向かって行くと思ったのだろう。
少し怒りの感情を込めた声で私の名前を呼んだ。
・・・・・・でも、違う。

私は思いっきり飛んで目標目掛けて突っ込む。



「ちぇすとおおおおおお!!!」


私の気合の声と同時に私の万力を込めた右足が決まった!
・・・クオンの顔面へと。



「きょばっ!?」


クオンは変な声をあげながら思いっきり転がっていった。



「なっ、なにをするんだ!!」


クオンは顔を抑えながら起き上がり、再び私に怒りの声を上げる。
そんなクオンに私は腕を組みながら睨み返した。
クオンは私が怒っているのが分かったのが「う・・・」と声を詰まらせる。



「クオンこそ、何をしてるのさ!」
「何をって、家族の仇をとろうとしてたんだよ!」
「・・・どこが?」


私は呆れたようにクオンに言った。
まったく、未だに冷静さを取り戻していないようだ。


「私にはただ死にたがってるようにしか見えなかったよ」
「なっ、そんなわけない!」
「ふーん、だったらなんであんな雑魚に手こずってるの?」
「な、なんだとぉお!?」


私の言葉に赤髪の盗賊は声を上げる。
が、私はそれを無視して話を続けた。


「クオンが一人で戦いたいって言うなら私は邪魔をしないよ、でも、それでクオンが死ぬようなことになるのは嫌」
「・・・・・」
「やるなら、ちゃんと家族の仇をとってよ」


そう言って私はクオンを抱きしめた。


「なっ、きゃ、キャモメ?!」


私の名前はカモメです・・・。
真っ赤になりながら慌てふためくクオン。
まだ、冷静にはなれていないようだ。


「ちっ、ガキどもがいちゃつきやがって!!なめんじゃねぇぞ!」


・・・・いちゃついてないよ!?
盗賊が、しびれを切らしたのかこちらへと突進してきた。
今の間に逃げようとしたら魔法でも放って足止めしようと思っていたがまさか自分から向かってくるとは・・・。
さっき雑魚って言われたのを気にしているのかな?

私がそう思っていると、いつの間にか体から力が抜けていたクオンがゆっくり立ち上がった。



「・・・クオン?」
「もう大丈夫・・・ごめん、カモメ」
「まったく、しょーがない相棒だよ」
「面目ない」


クオンは申し訳なさそうな笑顔でそう言った。
どうやら、冷静さは戻ったようだ。
うん、きっとこれなら大丈夫!・・・たぶん!



突進してくる盗賊の前に立ち、剣を構えるクオンが、ぽつりとつぶやく。


「はあ、なんで真正面から受け止めてたんだろう・・・」


そう言うと、クオンは盗賊が振り下ろした剣を自分の剣で受け流し、その勢いを利用しながら回転し盗賊の背後へと回り込み斬りつけた。



「ぎゃああああ!」


盗賊は背中に走った痛みと、今目の前にいたはずのクオンが自分の背後に回っていた驚きとで動揺する。
そして、自分の不利を悟ったのか背中を見せて逃走し始めた。
・・・いやいや、それはいくらなんでも逃げれるわけないよ。


クオンは走り出した、盗賊の前に回り込み盗賊の足を斬りつけた。
盗賊が逃げる雰囲気を出した瞬間すでに行動に移っていたクオンはすごいと思う。
その為、一瞬で盗賊の逃げようとした先に回り込めたのだ。



「ここまで・・・ですね」


クオンは盗賊の喉に剣の切っ先を向ける。


「ま、待ってくれぇ!頼む殺さないでくれぇ!!俺には妻も子もいるんだ!!」



・・・何を勝手な。クオンの家族を奪っておいて自分に家族がいるから殺すななんて。ふざけている。
私が不快に思っていると、クオンも不愉快だったのか苛立った声で言う。


「ふざけるなっ、他人の家族を奪っておいて何を言うんだ!」
「し、仕方なかったんだ・・・子供を食べさせるためには金が要る・・・だが、片目の俺を雇ってくれるところなんてねぇ・・・誰かから奪うしかなかったんだよぉ」


隻眼だと仕事を貰えない・・・そういうものなのだろうか。
確かに、ハンディキャップがあると雇ってもらいにくくなるのかもしれない。
子供の私にはよくわからないがそう言う事もあるのかと思った。



「・・・・・わかりました。ですがラインハルトさんに引き渡して罰は受けてもらいます」
「あ、ありがてぇ、感謝するぜ!」



クオンは剣を降ろし、後ろを向いた。
その行動に私は疑問を持つ、なんで後ろを向くの?
引き渡すなら縛ったりしないといけないのに。
そう思っていると、盗賊が動いた。


「馬鹿が!!俺に家族なんていねぇよ!!ギャハハハ!」


後ろを向いたクオンに盗賊が下品な笑いをあげながら手から放していなかったシミターを振り上げた。
あぶないっ・・・と思った瞬間、盗賊の前にいたクオンが体を向き直し剣を横薙いだ。



「・・・・でしょうね、だからわざと背中を見せたんです」
「ぐっ・・・くそ・・・」


盗賊は胴を裂かれ、その場に倒れた。
その赤髪の盗賊をクオンは冷ややかな目で一瞥し、軽く嘆息した。


「父さん、母さん、リリア・・・」


そう呟き、空を見上げたクオンの眼からは一筋の涙が頬を伝って降りていった。





「クオン・・・」
「カモメ・・・ありがとう」
「お礼を言われるようなことしてないよ・・・相棒として当然のことをしただけだよ♪」



クオンは袖で目の下を吹きながら頷き、そしてもう一度、笑顔でありがとうと言ってくれた。



「それより・・・はい、お疲れ様」


私はそう言いながら手を上にあげる。
クオンは私の意図を理解し、同じく手を上にあげ、ハイタッチを交わした。


「それじゃあ、お父さんたちの所にもどろう」
「だね」


私達は笑顔を交わし、廃墟の方を向いた。
私達の後ろでは黒い何かが蠢いていたのだが私たちはまだそれに気づいてはいなかった。
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