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1章

妖魔と紅の牙

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その場所はそれほど離れた場所ではなかった。
空を飛んで数分したところで戦いの場を見つける。
上から見たところクオンはまだ無事のようだ。

クオンは後ろに倒れている一人の冒険者を護るように戦っていた。
クオンの周りにはほかに3人の冒険者が共に戦っている。
そして数十匹の妖魔がクオン達を囲うようにしていた。
多勢に無勢、まさにその言葉通りだ。


「エリンシア、戦える?」


エリンシアはさっきのレディとの戦いで魔力をほとんど使い切っている。


「魔導銃はあまり使えませんが、まだ体術がありますわ。レディには効きませんでしたが妖魔相手ならそれでも十分ですわ」
「わかった、でも無理はしないでね」
「もちろんですわ」


それを聞いて私はクオン達の元へ降下した。
私達が倒れている人の所へ着地すると、周りにいた冒険者たちがぎょっとする。
クオンは少し安堵の表情になっていた。


「大丈夫、クオン!」
「うん、助かったよカモメ・・・どうやら『紅の牙』みたいだ」
「みたいだね、私はこの人を治療するからもうちょっとだけ頑張って」
「了解!皆さん、この子たちは僕の仲間です。彼女の治療が終わるまでもうひと頑張りです!」
「ミレーネは助かるのか!?」
「大丈夫!これくらいならすぐ治るよ!」


ミレーネというのはこの倒れている人の事だろう。
冒険者パーティの中で一番年上に見える男性が私に問いかけてくる。


「頼む」


真剣な表情で頼んでくる男性に、私は頷く。


「エリンシアはここで近づいてくる妖魔の撃退をよろしく」
「了解ですわ!」


雇い主のはずのエリンシアに護衛を任して、私は治癒魔法を倒れている女性に掛ける
女性の傷はお腹の辺りを妖魔の爪にやられたのか抉られている。
このまま放っておけば1時間もしないで死んでしまっていただろう。
間に合ってよかった。

私の治癒魔法でまず傷を塞ぐ、傷が塞がったら今度は体力を回復させるための回復魔法を掛けた。
これで、とりあえずは大丈夫なはずだ。


「これでよし」
「あら、もう終わりましたの?」
「うん、これで大丈夫だよ」
「さすがですわね」
「エリンシアこそ・・・」


私達の周りには3個の魔石が落ちている。先ほどまではなかったのでエリンシアが倒したのだろう。
素手でDランクの魔物を倒したのだ・・・すごい。

妖魔はDランクの魔物だ、強さ的にはそこまで強いわけではないがそれでも素手で倒すには危険な相手である。
まあ、お父さんみたいな拳士なら話は別だけど・・・。

銃で戦うのが本来で、その銃が戦えない時の為に武術を習ったエリンシアがそれをできるのはすごいことだと思う。


「倒れてた女性の治癒は終わったよ!私も加勢するね!エリンシアはこの人の護衛をお願い」
「ええ、任せてくださいまし」
「うん、頼りにしてる!」


私の言葉にエリンシアは驚いた顔をした後に、少し顔を赤く染めながら微笑んだ。
実際エリンシアは本当に頼りになる、実力もそうだけど彼女の優しさや心の強さをレディとの戦いのときに見たからだ。
彼女が将来冒険者になるのなら是非、私たちのパーティに誘いたいものである。

さて、ミレーネさんの治療も終わったし、守りはエリンシアに任せておけば大丈夫だろう。
なら、クオンと協力して妖魔の相手をしないとね。

それに、妖魔の後ろの方で余裕そうにニヤついているあの盗賊も捕まえないと。
クオンの様子からすると仇の盗賊ではなさそうだけど、紅の牙は盗賊集団である。なら、他のメンバーとは別行動をしているのだろう。
あの盗賊からアジトの場所を吐かせればお父さんと一緒に乗り込めるというものだ。


クオンは他の冒険者と協力して妖魔と戦っていた。
複数のダイアーウルフを倒したのは伊達ではない、クオンは次々と妖魔を切り捨てていた。
いや、むしろあの強さでどうしてダイアーウルフから傷を受けたのか疑問なくらいである。
私はクオンの邪魔をしないように離れたところにいる妖魔を魔法で倒していく。
私とクオンの活躍で妖魔はその数をどんどんと減らしていた。


「な、なんなのこの子たち・・・」
「すげぇ・・・」
「Dランクの妖魔がこんなにあっさりと・・・」


正直言うと、私も驚いている。
クオンはダイアーウルフ複数を倒しているのを知っていたので年齢の割にかなり強いのは知っていたが、それでも今のクオンの戦いぶりを見ると感嘆の一言だ。

その剣技は隣で戦っている冒険者の人と比べて、明らかに上だ。隣の冒険者が妖魔を三人で一匹倒しているうちにクオンは3匹は倒している。
クオンの剣技はとにかく速い、私の目で追いかけるのがやっとだ。

彼がどれだけ自分を鍛えたのかあの戦いぶりを見ても分かるというものだ、あの歳で、あれだけの剣術を身に着けるというのは並大抵の努力ではないはず。それだけ、家族仇をとりたいという事なのだろう。

それに、エリンシアもすごい。
彼女の得意の戦法は魔導銃を使った遠距離攻撃だろう、レディと戦っていた時に見せたフルブラスターという技の威力は私の魔法の合成魔法並みの威力だ。

あの技を喰らったらCランクの魔物でも大ダメージを受けるのは間違いない。
つまりは、Cランクの魔物ですら彼女はあの歳で単身戦うことが出来るのだ。
さらに、彼女は魔導銃が使えなくなったり懐に入られたときの為に武術も身に着けている、その武術もDランクの妖魔を軽々と倒せるほどなのだからすごい。


二人は私から見ても逸材だと思う。
お父さんと一緒に色々と旅をしたり、色々な戦いを見て来たけど、彼らの実力はすでに一流の冒険者並みなのだ。
私も負けてられない。


「クオン、下がって!大技行くよ!」
「っ!了解!」


クオンが大きく後ろに飛び退く。クオンを倒そうと集まっていた妖魔が都合よく固まっていたので私はそこに合成魔法を放つ。


暴風轟炎ヴィンドフラム!」


炎を纏った竜巻が妖魔たちを襲った。
凄まじい豪炎が渦巻き、すべてを塵と化す。炎の無くなった跡には妖魔たちは塵も残らず姿を消していた。


「な、なに・・今の・・・魔法なの?」
「何もんなんだよこのガキ共・・・」


護衛をしていた冒険者たちは唖然と跡形もなくなった妖魔たちが居た場所を見ていた。


「そういえば、私の攻撃魔法初めて見せるね、感想は?」
「さすが、僕の相棒って感じかな」
「あはは、クオンこそ、私の相棒だけはある剣技だよ」
「光栄だね」


私達は笑いあいながらお互いを改めて認め合った。なんかちょっとこそばゆいものだ。


さて、これで妖魔たちは全て片付けた、あとは今更になって慌てているあの間抜けな盗賊を捕まえるだけである。
私が炎の魔法を放とうとしたその時。

盗賊は笛のようなものを咥えた・・・しまった!


ピィイイイイイイイ!という甲高い音を笛は発する。
恐らくあれが『妖魔の呼び笛』なのだろう。
手駒がなくなったから新たに呼ぼうというのだ。とはいえ、妖魔が増えたところで私たちの敵ではない、だが、邪魔ではある。

妖魔が土の中から現れる・・・呼び笛で呼ぶと妖魔ってああやって現れるんだ・・・妖魔をおびき寄せるというよりは召喚するって感じなのかな?

そして、妖魔を壁にして盗賊は逃走を図ろうとする。・・・・やっぱり。
逃がさないよ、せっかくの情報をここで逃すわけにはいかない。


「クオン、盗賊を追って!道を作るから!」
「わかった!」
氷牙咆哮アイシクルルジート!」


私の放った氷を纏った螺旋風に触れた妖魔がその冷気で凍り付き、風圧で粉々に砕かれる。
螺旋風の通った場所がきれいに何もなくなり、そこをクオンが駆け抜けた。

盗賊は慌てて逃げ出そうとするが速さでクオンに勝てるわけもなく回り込まれる。
腰に付けた短剣を抜いた瞬間その短剣はクオンの剣に弾かれ離れた場所に落ちた。


「ぐっ・・・・」
「投降すればここで命を落とす事はありませんよ」


クオンは剣を盗賊の首元に突き付け降伏勧告をする。
盗賊は観念したの体から力を抜き項垂れた。

だが次の瞬間、背後から放たれた魔法がクオンを狙う。
クオンはそれに気づき躱そうとするが避けきれずに弾き飛ばされた。
クオンに放たれたのは風の魔法のようでクオンに当たった場所には風の刃で斬り裂かれたような無数の切り傷が残っていた。


「クオン!」


私はすぐにクオンに駆け寄り、治癒魔法を掛ける。


「くっ・・・」
「いやぁ、その方を捕らえられてしまうと私も少し困ってしまいますのでお邪魔させてもらいました」
「誰!」


私はクオンに治癒魔法を掛けながら声のした方へと視線を向ける。


「ヘインズの旦那!」


さっきまで項垂れていた盗賊が声を上げる・・・ヘインズ?ヘインズって確か。


「ぐっ・・・あなたは」


クオンが上半身を起こして声の主を見た。
男は中肉中背で髪の長い眼鏡をかけた男だった。
そう確か、クオンやギルドに情報を流したヘインズという男の特徴と被る。


「いやぁ、驚きましたよクオン君、あなたがここまで強いなんて」
「やっぱり、あなたも盗賊だったんですね」
「いえいえ、私はただの協力者ですよ、ちょっと特別な道具を盗賊の方々に差し上げた・・・ね」


特別な道具・・・それじゃあ、妖魔の呼び笛はこの人が盗賊にあげたって事?なんでそんなことを・・・。


「あなたには盗賊に殺される悲劇の少年になってもらうつもりだったのですが・・・見事に思惑を外されてしまいました」
「なっ・・・じゃあ、クオンに情報を流したのは!」
「ええ、家族を殺された彼が仇討ちに向かって返り討ちにあう・・・いいストーリーでしょう?」
「なんでそんなこと!」
「なんで?・・・・そうですねぇ・・・面白そうだったからですかね?」
「なっ!?」


面白そう?面白そうってだけでそんなことをするの!?


「まあ、もっとも、今の状況の方がより面白いのですがね」
「どういうこと?」
「だってそうじゃありませんか、優秀な子供たちが妖魔を操る盗賊を退治する・・・なかなか面白いストーリーだと思いませんか?」
「だったらなぜ、その邪魔をする!」


治癒が終わったクオンが剣を地面に刺し、それを支えにしながら怒りの形相でヘインズへと問いかけた。
そう、彼が邪魔をしなければ私達は盗賊を捕まえていたのだ。


「いえね、退治ならよかったんですが、彼が捕まると少々私も困ってしまうものでして」
「だ、旦那?」
「ですので、邪魔をさせてもらったんですよ」
「・・・・あぇ?」


笑顔のまま私たちと会話をするヘインズだが、彼の右腕が動いたかと思うと次の瞬間、盗賊の頭が地面に転がっていた。


「なっ!?」
「これで、あなた方は盗賊を退治したということになりますね・・・物語の第一部はこれで終わりです。あはははは」


実に楽しそうに笑うヘインズ、この人一体何を考えているの・・・訳が分からな過ぎて怖い。
私は笑うヘインズを見て背筋が凍った。


「ふざけないでくださいまし!あなた、一体何を考えてますの!」
「はて・・・なにをですか・・・ふぅむ、特に何も?・・・強いて言うのなら楽しいことをしているだけですね」
「楽しい・・・ですって」


盗賊に妖魔を操らせ人を襲わせ、略奪をさせて、その盗賊を意味もなく殺す・・・それのどこが楽しいの!?


「狂ってる・・・」


護衛をしていた冒険者の1人が呟く。


「おや、酷いですね・・・私はいたって正常ですよ?ただ自分の欲求に正直なだけです」
「何言ってんのさ!あんたはただの頭のおかしい変態だよ!!」
「・・・・・」


ヘインズの体に魔力が溢れる・・・まずい!


「避けて!!!」


私は咄嗟に叫ぶが・・・・間に合わなかった。
先ほどまでヘインズに噛みついていた男女の冒険者はヘインズの放った風の刃で縦に真っ二つに裂かれてた・・・ひどい。


「ひ、ひぃいいいい!」


残った一人の冒険者が腰を抜かす。
ヘインズはまるで興味の無いものを見るかのように何の感情もない目で二つに裂かれた冒険者たちを見ていた。


「まったく、物語の脇役にも慣れないエキストラの癖に偉そうなことを言うからですよ」
「あんた・・・いい加減にしなさいよ・・・」


私の怒りはすでに頂点まで登っている。


「なんでそんなことが出来るのよ!人を何だと思っているの!」
「ゴミでしょう?」
「なんですって・・・?」
「一体何を怒っているんです?」
「なっ、ふざけないで!」
「カモメ、この人にこれ以上言っても無駄だよ・・・」


クオンは私を制して剣を構える。


「ですわね、微力ながら私も助力いたしますわ」


エリンシアも魔導銃を構えた。魔導銃がエリンシアの魔力に反応し微かに光っている。少しは魔力が回復したらしい、とは言っても何発もは撃てないだろうけど・・・。


「そうだね・・・」


私も、魔法を使う準備を始めた。


「おや、私と戦うおつもりですか?やめておいた方がいいと思いますが」
「あなたみたいな悪い人放っておいたら、冒険者の名が廃るもんね」
「それに、盗賊のアジトもあなたなら知っているでしょう?捕まえて白状させて差し上げますわ!」
「仕方ありませんね・・・」
「行くよ!」
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