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1章
カモメ冒険者になる
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《クオンside》
カモメがクオンを逃がさない宣言してから数刻。部屋には星空のような髪を月明りで煌かせたクオンが窓の外を見ながら考え事をしていた。
考え事というのはもちろんこれからどうするかである。
カモメの提案に乗って冒険者になるというのも手である。
だけど、そうすれば自分の復讐にカモメ達を巻き込むことになる。ヴィクトールさんはエンブレム持ちの冒険者と言っていた。エンブレム持ちであれば盗賊にそうそう後れを取るなんてことはないだろう。
だけど、カモメは自分と同じくらいの歳の女の子だ・・・彼女が傷つくことになるのは避けたい・・・。
ならいっそ、復讐を諦めてカモメと冒険者をやるのもいいのでは?と頭の片隅で考えるがその瞬間、家族の殺された日の事が頭をよぎる・・・復讐を諦めることはできない。
カモメの母親を殺した魔物はヴィクトールさんが倒したと言っていた。
カモメはどんな気持ちだったんだろう。
きっと、カモメだって自分の母親を殺した魔物を許すことは出来なかったはずだ。
それとも、カモメは復讐なんて考えなかったのかな?あの明るい優しい女の子のことだ、もしかしたら?・・・いや、それはない。
もしそうなら、きっと僕の復讐を止めるはずだ・・・この二年間色んな人に言われた。「復讐は意味がない」「復讐しても虚しさだけが残る」「相手を殺せばその相手と同じだぞ」と・・・。
だけどそれは、大切な人間を目の前で殺されたことのない人間だから言えることだ・・・僕はそう思う。
復讐に意味なんてないだろう、成し遂げても家族は戻らないのだから虚しさだけしか残らないだろう、相手を殺せば僕も人殺しだ・・・そんなことは分かっているんだ・・・でも、復讐せずにはいられない。
あの時の母のぬくもり、妹の泣き叫ぶ声、父の背中・・・今でも鮮明に思い出せる・・・それを嘲笑う盗賊の顔も・・・僕の憎しみは消えないんだ・・・。
「・・・・・普通はやめろって言うよね」
そう、僕が当事者だからそう考えるのであって、第三者の人達は復讐をやめろと言ってくるのはあたりまえだ。
きっと僕も、家族を殺される経験が無い第三者だったなら止めているだろう。
でも彼女はこう言った「仲間の復讐は私の復讐だもん!協力して当たり前でしょ」と・・・。
復讐心を持ったことのある人間でなければそんなことは言わないだろう・・・まあ、もしかしたら余程の能天気な人間なら言うかもしれないが・・・。
母親を失っている彼女が能天気にそんなことを言うわけがない。
つまり彼女は僕の気持ちを理解したうえで一緒に復讐してくれるといったのだ・・・。
母親の話をした時、彼女は泣いていた。もしかしたら、母親の事を吹っ切れてはいないのではないだろうか・・・。
「・・・・あの子の泣いてる姿、あんまり見たくないな」
彼女の明るい笑顔はまるで太陽のようで暗く沈んだ僕の心を照らしてくれる。
そんな彼女が僕と同じ経験をしていた、こんな暗い闇の中にいるような思いをしていて、それなのにあれだけの笑顔を見せているのだ。
「・・・・・はあ」
・・・・などと、心の中で詩人のような事を呟いていたり、復讐をやめられないからとか彼女を傷つけるからとか言っている割にこの宿から出て行こうとしないのは、彼女に惹かれているから・・・だよね。
「・・・はあ」
改めて自分の心を確認し嘆息する。
そう、復讐をやめる気もなく、家族の仇を討ちたい心は変わらない・・・だけど、カモメと冒険者をやりたいという心が僕の中にあるのだ。
どうしたものかなと思う僕の頭にヴィクトールさんの「苦労するな少年」という言葉が響く。
「はは・・・本当・・・苦労しそうだ」
そう呟いて僕は気付く・・・そう思っているということは僕はすでにカモメと離れる気がないことを・・・・・・・どんだけ惚れやすいんだ僕は・・・。
「・・・・はあ」
今日何度目かわからないため息を吐いて窓の外の星空を見上げる・・・僕はどうするのかを決める。・・・・・・いや、すでに決まっていたのだろう。宿の庭で彼女の横顔に見惚れてしまった時から。
《メインside》
次の日、私はクオンが起きてくるのをクオンが寝ている部屋の扉の前で待っている。もちろん、クオンを逃がさないためだ。その為、私は目の下に隈を作っていた。私は元々朝には弱くはない。だが、昨日はクオンをどう説得(捕獲)してギルドに引きずって行くか考えていたためほとんど寝ていないのだ。
私は不気味な笑みを浮かべながらクオンが部屋から出てくるのを待っている。すると、部屋の扉がゆっくりと開き、これまた目の下に隈を作ったクオンが出てきた。部屋から出てきたクオンは扉の前で眠気のせいか睨むような目付きで座り込んでいる私を見てギョッとする。・・・失礼な。
「カ、カモメ?何をしているの?」
「クオンを待ってたんだよ」
「待っていると言うより見張っているって感じだけど・・・大丈夫、逃げたりしないよ」
「え、それって・・・」
「とりあえず朝食を食べよう」
クオンは私に微笑みながら促した。その雰囲気に私の期待は高まり嬉しくなる。足取り軽やかに私は食堂へと向かった。食堂へ着くとお父さんがすでに席について手招きをしていた。私とクオンはお父さんのいる席へと足を運ぶ。
「さて、クオン。どうするか決めたかな?目の下に大分悩んだ後があるが?」
「はい、決めました」
私はゴクリと喉をならす。
「冒険者になろうと思います。」
「やったああああ!!」
その言葉に私は両手をあげて喜んだ。
そんな私を見て微笑むクオン。
「お二人には迷惑をかけることになりますがよろしくお願いします。」
「そんなのお互い様だよ」
「うむ、仲間となった以上気兼ねなどすることはない。それにカモメの方が迷惑をかけそうだしな」
「む、そんなことないもん!」
「あはは」
「あー、クオンも何を笑ってるのさ!」
「ごめんごめん」
私たちはわいわいと話ながら朝食を片付けた。
ご飯を食べ終わった私たちは早速、ギルドに登録しに行く。ギルドに入ると昨日と同じカウンターにヴァネッサがいた。
「ヴィクトール様。申し訳ありません、盗賊の情報はまだ・・・」
「いや、今日は別件だ。」
「そうでしたか、どのようなご用件でしょう?」
「うむ、うちの娘とクオンを冒険者登録してほしくてな」
「この子達ですか?・・・ですが、大分、その・・・」
ヴァネッサが私たちを見て言いづらそうにしている。まあ、仕方がないね。私とクオンはどっから見ても子供である。ヴァネッサが戸惑うのも無理はない。
普通、冒険者になる人は15歳を過ぎた成人だ。この世界の成人は15歳からである。
15歳になるとお酒を飲むことができたり、ギャンブルなどもできるようになる。その為、ギルドには酒場が併設されていることが多い。
まあ、子供が冒険者になっても魔物との戦いで命を落とすのが目に見えているからね。
「安心してくれ、この子達は単身でランクDの魔物を撃破できる実力がある。」
「え!?」
お父さんの言葉に驚愕するヴァネッサ、何をそんなに驚いているんだろう?
小さい私はそんなことを思っていた。私はこの頃は知らなかったがランクDの魔物は冒険者でも一流と呼ばれる者でもなければ単身で戦うことなどできない相手なのだ。
駆け出しの冒険者はパーティを組んで一匹相手に戦うのがセオリーである。
それを私やクオンみたいな子供が出来ると言ったんだ驚きもするだろう。
「そ、そうですか。さすがは『拳のオーガ』のお子さんですね・・・わかりました、新規の冒険者カードをお持ちしますので少々お待ちください」
『拳のオーガ』それは私のお父さんの異名である。その名の通りうちのお父さんは拳で戦う戦闘スタイルだ。そしてお父さんの戦う姿は無茶苦茶である。
殴って殴って、敵が動かなくなるまで殴り続ける。その姿はどちらがモンスターなのか分からなくなるほどの光景だ。そしてその光景を見た冒険者が付けたのが『拳のオーガ』という異名である。
オーガのごとく拳で敵を叩きのめす、まさしくうちのお父さんに相応しい異名である。・・・異名は見た目や戦い方から付くことが多い、なら私は絶対かわいい異名になるだろう。絶対に。
ヴァネッサはお待ちくださいと言いカウンター奥の扉の中に入っていった。
「おいおい、ヴィクトールさんよお、いくら自分の娘が可愛いからって嘘ついちゃ駄目だろうよぉ?」
私たちがヴァネッサを見送ると筋肉粒々の男がいかにもチンピラですという話し方でお父さんに近づいてきた。
「む?確かに私の娘は可愛いが嘘などついてはいないぞ?」
お父さんが親バカな所を見せながらチンピラ風の男に答える。
「おいおい、それじゃあ、このガキが俺より強いって言うのか?ランクDの魔物なんてそれこそベテランでもなければタイマンで勝てるわけないだろう?」
「ふむ、うちの娘はそのベテラン並みの実力を持っているということだな親としても鼻が高い」
「ふざけんな!この筋肉を持つ俺にそこのチビガキが敵うわけないだろ!」
・・・・・チビガキ? ・・・・ほほう。
「戦いは筋肉だけでやるものではないぞ?力だけに頼るから未だにシンボルマークを貰えんのではないか?」
「なんだとぉ!」
シンボルマークというのは所属しているギルドに貢献をし、その功績を認められた者だけが貰えるもので、それを持っているとギルドや領主からの指名依頼などを依頼されることがある。
つまり、街やギルド認められた証なのだ。
うちのお父さんが持っている『エンブレム』というのはシンボルマークの更に上のものになる。
エンブレムは街やギルドだけではなく国に認められた証なのだ。エンブレム持ちは無条件で国の何処でも活動ができ、情報も受けとることが出来るのだ。
「だったら、試してみようじゃねぇか!そのガキがホントに俺より強いかどうかをよ!」
「・・・なんだと?」
「なんだ、できねえのか?やっぱり嘘だったんじゃねえか?今謝れば許してやるぜ?」
なんというテンプレなチンピラか。
見ていてこちらが恥ずかしくなるチンピラぶりである。
「良ければ、僕が相手をしましょうか?その・・・人を相手に戦うのはカモメにはキツそうですし・・・」
おお、さすが私の相棒!私の事を気遣ってくれてるよ・・・でもね。
「大丈夫だよ、クオン。ありがとう♪」
「でも、人が相手だよ?」
「問題ないよ、いいでしょお父さん」
「お前は言い出したら聞かんしな。手加減はしろよ」
「前向きに善処します」
「・・・おい」
お父さんと軽い漫才をしながら私は悠然と前に進む。
「だ、大丈夫なんですか?」
「あれくらいの相手なら問題あるまい」
「ですが、魔物と違って人と戦う時には躊躇いが生まれます。その隙を狙われて万が一怪我でもしたら・・・」
「大丈夫だ、君の相棒は君の想像以上に修羅場を経験している・・・父親としては情けないがな」
お父さんの悲しそうな表情を見てクオンは言葉に詰まった。そんなクオンをみながら優しく微笑むお父さんだったが表情を戻し、口を開く。
「だが、安心したぞ」
「え?」
「クオン、お前も人と戦った経験があるのだな」
「え、ええ」
人との戦いで躊躇いが生まれるなんて人と戦ったことがないとわからないもんね。
そして、躊躇いが生まれるということはその人がそれだけ優しいという事である。目の前にいるチンピラさんはきっと躊躇いなんて持ったことないんじゃないだろうか?
チンピラは私をどうボコボコにしてやろうかと考えているのだろう、口元を歪めながら私を侮るような目で見ている。
「冒険者は盗賊やならず者とも戦う、それに戦争になれば戦場に行くこともあるだろう。それなのに人とは戦えないと言うわけには行かないからな。」
「そう・・・ですね」
クオンとお父さんが話している間に私はチンピラと戦い始めていた。チンピラも流石に武器は抜かず拳を振りかぶって向かってくる。なので私もバトーネを使わずに相手をしていた。もちろん魔法も使っていない。
その為、戦いは純粋な実力勝負である。普通に考えれば体格差もあり、リーチの差もあるので向こうが有利なのだがチンピラは動きが単調で読みやすかった。
チンピラの拳をヒラリと躱し、脛を蹴っ飛ばす。弁慶の泣き所を蹴られたチンピラは足を抱えてピョンピョンととびはねる。
子供にあしらわれている事実が頭に来たのか、頭から湯気を出しながら体ごと突っ込んでくるチンピラを跳び箱のように躱す。勢いあまり近くにあった椅子に突っ込んでいくチンピラはとってもカッコ悪かった。
いいキミだ。
再び立ち上がったチンピラに回りがどよめく。それもその筈である。起き上がったチンピラの手には彼の武器であろう手斧が握られている。
その姿に私は驚愕する。だって彼ほど手斧の似合う人間はそうはいないであろう。斧を装備した彼はまさしく山賊にしか見えなかった。私はそんな彼の姿に吹き出してしまう。
「おじさん、冒険者じゃなくて山賊の方が似合ってるよ」
「ガ、ガキがなめやがってええ!」
そんな私の言葉に激昂し、チンピラ改め山賊の彼の目は殺気に満ちていた。
私はバトーネを抜く。くるくるとバトーネを頭の上で回した後、腰を落として構える。
「・・・・」
「なかなか、様になっているだろう?」
驚いた顔をしているクオンにお父さんが言う。
「はい・・・はは、さすが僕の相棒ですね」
「はっはっは、言うじゃないかクオン」
最初は人と戦えるのか心配していたクオンだったが、それが杞憂であることを知りすでに観戦モードになっている。
「だがなクオン、相棒はいいがアレと付き合う最低条件は父親の私より強いことだからな?」
「・・・・・え゛!?」
お父さんがニヤリと笑いながら何かをクオンに言っていた、山賊が雄たけびをあげこちらに突っ込んできたため聞き逃してしまったが、クオンの尋常じゃない驚きが気になった。
とはいえ、油断して怪我でもしたらお父さんに何言われるかわからないのでさっさと片付けてしまおう。
私は山賊の振りかぶった斧の柄の部分にバトーネを当てる。
私のバトーネは魔力を流すことで威力が上がる魔導具だ。
私はそのバトーネに少し魔力を流し、山賊の斧を弾き飛ばした。
そして山賊の鳩尾をバトーネで突く。山賊はその一撃で気を失い、その場に崩れ落ちた。
「ぶい!」
私はVサインをしながらクオンたちの方を見る。
そして、山賊が崩れ落ちると同時にヴァネッサが戻ってきたのだ。
「どうかされましたか?」
「いや、よくあることだ」
「・・・はあ、あまりギルド内での揉め事は遠慮してほしいのですが」
「相手に言ってくれ」
再度、ため息を吐くヴァネッサ。
こういうのはよくあることらしい。見た目怪物のお父さんがよくあるならまだ、見た目が子供の私とクオンならさらに遭遇する可能性があるのかも・・・面倒な。
カモメがクオンを逃がさない宣言してから数刻。部屋には星空のような髪を月明りで煌かせたクオンが窓の外を見ながら考え事をしていた。
考え事というのはもちろんこれからどうするかである。
カモメの提案に乗って冒険者になるというのも手である。
だけど、そうすれば自分の復讐にカモメ達を巻き込むことになる。ヴィクトールさんはエンブレム持ちの冒険者と言っていた。エンブレム持ちであれば盗賊にそうそう後れを取るなんてことはないだろう。
だけど、カモメは自分と同じくらいの歳の女の子だ・・・彼女が傷つくことになるのは避けたい・・・。
ならいっそ、復讐を諦めてカモメと冒険者をやるのもいいのでは?と頭の片隅で考えるがその瞬間、家族の殺された日の事が頭をよぎる・・・復讐を諦めることはできない。
カモメの母親を殺した魔物はヴィクトールさんが倒したと言っていた。
カモメはどんな気持ちだったんだろう。
きっと、カモメだって自分の母親を殺した魔物を許すことは出来なかったはずだ。
それとも、カモメは復讐なんて考えなかったのかな?あの明るい優しい女の子のことだ、もしかしたら?・・・いや、それはない。
もしそうなら、きっと僕の復讐を止めるはずだ・・・この二年間色んな人に言われた。「復讐は意味がない」「復讐しても虚しさだけが残る」「相手を殺せばその相手と同じだぞ」と・・・。
だけどそれは、大切な人間を目の前で殺されたことのない人間だから言えることだ・・・僕はそう思う。
復讐に意味なんてないだろう、成し遂げても家族は戻らないのだから虚しさだけしか残らないだろう、相手を殺せば僕も人殺しだ・・・そんなことは分かっているんだ・・・でも、復讐せずにはいられない。
あの時の母のぬくもり、妹の泣き叫ぶ声、父の背中・・・今でも鮮明に思い出せる・・・それを嘲笑う盗賊の顔も・・・僕の憎しみは消えないんだ・・・。
「・・・・・普通はやめろって言うよね」
そう、僕が当事者だからそう考えるのであって、第三者の人達は復讐をやめろと言ってくるのはあたりまえだ。
きっと僕も、家族を殺される経験が無い第三者だったなら止めているだろう。
でも彼女はこう言った「仲間の復讐は私の復讐だもん!協力して当たり前でしょ」と・・・。
復讐心を持ったことのある人間でなければそんなことは言わないだろう・・・まあ、もしかしたら余程の能天気な人間なら言うかもしれないが・・・。
母親を失っている彼女が能天気にそんなことを言うわけがない。
つまり彼女は僕の気持ちを理解したうえで一緒に復讐してくれるといったのだ・・・。
母親の話をした時、彼女は泣いていた。もしかしたら、母親の事を吹っ切れてはいないのではないだろうか・・・。
「・・・・あの子の泣いてる姿、あんまり見たくないな」
彼女の明るい笑顔はまるで太陽のようで暗く沈んだ僕の心を照らしてくれる。
そんな彼女が僕と同じ経験をしていた、こんな暗い闇の中にいるような思いをしていて、それなのにあれだけの笑顔を見せているのだ。
「・・・・・はあ」
・・・・などと、心の中で詩人のような事を呟いていたり、復讐をやめられないからとか彼女を傷つけるからとか言っている割にこの宿から出て行こうとしないのは、彼女に惹かれているから・・・だよね。
「・・・はあ」
改めて自分の心を確認し嘆息する。
そう、復讐をやめる気もなく、家族の仇を討ちたい心は変わらない・・・だけど、カモメと冒険者をやりたいという心が僕の中にあるのだ。
どうしたものかなと思う僕の頭にヴィクトールさんの「苦労するな少年」という言葉が響く。
「はは・・・本当・・・苦労しそうだ」
そう呟いて僕は気付く・・・そう思っているということは僕はすでにカモメと離れる気がないことを・・・・・・・どんだけ惚れやすいんだ僕は・・・。
「・・・・はあ」
今日何度目かわからないため息を吐いて窓の外の星空を見上げる・・・僕はどうするのかを決める。・・・・・・いや、すでに決まっていたのだろう。宿の庭で彼女の横顔に見惚れてしまった時から。
《メインside》
次の日、私はクオンが起きてくるのをクオンが寝ている部屋の扉の前で待っている。もちろん、クオンを逃がさないためだ。その為、私は目の下に隈を作っていた。私は元々朝には弱くはない。だが、昨日はクオンをどう説得(捕獲)してギルドに引きずって行くか考えていたためほとんど寝ていないのだ。
私は不気味な笑みを浮かべながらクオンが部屋から出てくるのを待っている。すると、部屋の扉がゆっくりと開き、これまた目の下に隈を作ったクオンが出てきた。部屋から出てきたクオンは扉の前で眠気のせいか睨むような目付きで座り込んでいる私を見てギョッとする。・・・失礼な。
「カ、カモメ?何をしているの?」
「クオンを待ってたんだよ」
「待っていると言うより見張っているって感じだけど・・・大丈夫、逃げたりしないよ」
「え、それって・・・」
「とりあえず朝食を食べよう」
クオンは私に微笑みながら促した。その雰囲気に私の期待は高まり嬉しくなる。足取り軽やかに私は食堂へと向かった。食堂へ着くとお父さんがすでに席について手招きをしていた。私とクオンはお父さんのいる席へと足を運ぶ。
「さて、クオン。どうするか決めたかな?目の下に大分悩んだ後があるが?」
「はい、決めました」
私はゴクリと喉をならす。
「冒険者になろうと思います。」
「やったああああ!!」
その言葉に私は両手をあげて喜んだ。
そんな私を見て微笑むクオン。
「お二人には迷惑をかけることになりますがよろしくお願いします。」
「そんなのお互い様だよ」
「うむ、仲間となった以上気兼ねなどすることはない。それにカモメの方が迷惑をかけそうだしな」
「む、そんなことないもん!」
「あはは」
「あー、クオンも何を笑ってるのさ!」
「ごめんごめん」
私たちはわいわいと話ながら朝食を片付けた。
ご飯を食べ終わった私たちは早速、ギルドに登録しに行く。ギルドに入ると昨日と同じカウンターにヴァネッサがいた。
「ヴィクトール様。申し訳ありません、盗賊の情報はまだ・・・」
「いや、今日は別件だ。」
「そうでしたか、どのようなご用件でしょう?」
「うむ、うちの娘とクオンを冒険者登録してほしくてな」
「この子達ですか?・・・ですが、大分、その・・・」
ヴァネッサが私たちを見て言いづらそうにしている。まあ、仕方がないね。私とクオンはどっから見ても子供である。ヴァネッサが戸惑うのも無理はない。
普通、冒険者になる人は15歳を過ぎた成人だ。この世界の成人は15歳からである。
15歳になるとお酒を飲むことができたり、ギャンブルなどもできるようになる。その為、ギルドには酒場が併設されていることが多い。
まあ、子供が冒険者になっても魔物との戦いで命を落とすのが目に見えているからね。
「安心してくれ、この子達は単身でランクDの魔物を撃破できる実力がある。」
「え!?」
お父さんの言葉に驚愕するヴァネッサ、何をそんなに驚いているんだろう?
小さい私はそんなことを思っていた。私はこの頃は知らなかったがランクDの魔物は冒険者でも一流と呼ばれる者でもなければ単身で戦うことなどできない相手なのだ。
駆け出しの冒険者はパーティを組んで一匹相手に戦うのがセオリーである。
それを私やクオンみたいな子供が出来ると言ったんだ驚きもするだろう。
「そ、そうですか。さすがは『拳のオーガ』のお子さんですね・・・わかりました、新規の冒険者カードをお持ちしますので少々お待ちください」
『拳のオーガ』それは私のお父さんの異名である。その名の通りうちのお父さんは拳で戦う戦闘スタイルだ。そしてお父さんの戦う姿は無茶苦茶である。
殴って殴って、敵が動かなくなるまで殴り続ける。その姿はどちらがモンスターなのか分からなくなるほどの光景だ。そしてその光景を見た冒険者が付けたのが『拳のオーガ』という異名である。
オーガのごとく拳で敵を叩きのめす、まさしくうちのお父さんに相応しい異名である。・・・異名は見た目や戦い方から付くことが多い、なら私は絶対かわいい異名になるだろう。絶対に。
ヴァネッサはお待ちくださいと言いカウンター奥の扉の中に入っていった。
「おいおい、ヴィクトールさんよお、いくら自分の娘が可愛いからって嘘ついちゃ駄目だろうよぉ?」
私たちがヴァネッサを見送ると筋肉粒々の男がいかにもチンピラですという話し方でお父さんに近づいてきた。
「む?確かに私の娘は可愛いが嘘などついてはいないぞ?」
お父さんが親バカな所を見せながらチンピラ風の男に答える。
「おいおい、それじゃあ、このガキが俺より強いって言うのか?ランクDの魔物なんてそれこそベテランでもなければタイマンで勝てるわけないだろう?」
「ふむ、うちの娘はそのベテラン並みの実力を持っているということだな親としても鼻が高い」
「ふざけんな!この筋肉を持つ俺にそこのチビガキが敵うわけないだろ!」
・・・・・チビガキ? ・・・・ほほう。
「戦いは筋肉だけでやるものではないぞ?力だけに頼るから未だにシンボルマークを貰えんのではないか?」
「なんだとぉ!」
シンボルマークというのは所属しているギルドに貢献をし、その功績を認められた者だけが貰えるもので、それを持っているとギルドや領主からの指名依頼などを依頼されることがある。
つまり、街やギルド認められた証なのだ。
うちのお父さんが持っている『エンブレム』というのはシンボルマークの更に上のものになる。
エンブレムは街やギルドだけではなく国に認められた証なのだ。エンブレム持ちは無条件で国の何処でも活動ができ、情報も受けとることが出来るのだ。
「だったら、試してみようじゃねぇか!そのガキがホントに俺より強いかどうかをよ!」
「・・・なんだと?」
「なんだ、できねえのか?やっぱり嘘だったんじゃねえか?今謝れば許してやるぜ?」
なんというテンプレなチンピラか。
見ていてこちらが恥ずかしくなるチンピラぶりである。
「良ければ、僕が相手をしましょうか?その・・・人を相手に戦うのはカモメにはキツそうですし・・・」
おお、さすが私の相棒!私の事を気遣ってくれてるよ・・・でもね。
「大丈夫だよ、クオン。ありがとう♪」
「でも、人が相手だよ?」
「問題ないよ、いいでしょお父さん」
「お前は言い出したら聞かんしな。手加減はしろよ」
「前向きに善処します」
「・・・おい」
お父さんと軽い漫才をしながら私は悠然と前に進む。
「だ、大丈夫なんですか?」
「あれくらいの相手なら問題あるまい」
「ですが、魔物と違って人と戦う時には躊躇いが生まれます。その隙を狙われて万が一怪我でもしたら・・・」
「大丈夫だ、君の相棒は君の想像以上に修羅場を経験している・・・父親としては情けないがな」
お父さんの悲しそうな表情を見てクオンは言葉に詰まった。そんなクオンをみながら優しく微笑むお父さんだったが表情を戻し、口を開く。
「だが、安心したぞ」
「え?」
「クオン、お前も人と戦った経験があるのだな」
「え、ええ」
人との戦いで躊躇いが生まれるなんて人と戦ったことがないとわからないもんね。
そして、躊躇いが生まれるということはその人がそれだけ優しいという事である。目の前にいるチンピラさんはきっと躊躇いなんて持ったことないんじゃないだろうか?
チンピラは私をどうボコボコにしてやろうかと考えているのだろう、口元を歪めながら私を侮るような目で見ている。
「冒険者は盗賊やならず者とも戦う、それに戦争になれば戦場に行くこともあるだろう。それなのに人とは戦えないと言うわけには行かないからな。」
「そう・・・ですね」
クオンとお父さんが話している間に私はチンピラと戦い始めていた。チンピラも流石に武器は抜かず拳を振りかぶって向かってくる。なので私もバトーネを使わずに相手をしていた。もちろん魔法も使っていない。
その為、戦いは純粋な実力勝負である。普通に考えれば体格差もあり、リーチの差もあるので向こうが有利なのだがチンピラは動きが単調で読みやすかった。
チンピラの拳をヒラリと躱し、脛を蹴っ飛ばす。弁慶の泣き所を蹴られたチンピラは足を抱えてピョンピョンととびはねる。
子供にあしらわれている事実が頭に来たのか、頭から湯気を出しながら体ごと突っ込んでくるチンピラを跳び箱のように躱す。勢いあまり近くにあった椅子に突っ込んでいくチンピラはとってもカッコ悪かった。
いいキミだ。
再び立ち上がったチンピラに回りがどよめく。それもその筈である。起き上がったチンピラの手には彼の武器であろう手斧が握られている。
その姿に私は驚愕する。だって彼ほど手斧の似合う人間はそうはいないであろう。斧を装備した彼はまさしく山賊にしか見えなかった。私はそんな彼の姿に吹き出してしまう。
「おじさん、冒険者じゃなくて山賊の方が似合ってるよ」
「ガ、ガキがなめやがってええ!」
そんな私の言葉に激昂し、チンピラ改め山賊の彼の目は殺気に満ちていた。
私はバトーネを抜く。くるくるとバトーネを頭の上で回した後、腰を落として構える。
「・・・・」
「なかなか、様になっているだろう?」
驚いた顔をしているクオンにお父さんが言う。
「はい・・・はは、さすが僕の相棒ですね」
「はっはっは、言うじゃないかクオン」
最初は人と戦えるのか心配していたクオンだったが、それが杞憂であることを知りすでに観戦モードになっている。
「だがなクオン、相棒はいいがアレと付き合う最低条件は父親の私より強いことだからな?」
「・・・・・え゛!?」
お父さんがニヤリと笑いながら何かをクオンに言っていた、山賊が雄たけびをあげこちらに突っ込んできたため聞き逃してしまったが、クオンの尋常じゃない驚きが気になった。
とはいえ、油断して怪我でもしたらお父さんに何言われるかわからないのでさっさと片付けてしまおう。
私は山賊の振りかぶった斧の柄の部分にバトーネを当てる。
私のバトーネは魔力を流すことで威力が上がる魔導具だ。
私はそのバトーネに少し魔力を流し、山賊の斧を弾き飛ばした。
そして山賊の鳩尾をバトーネで突く。山賊はその一撃で気を失い、その場に崩れ落ちた。
「ぶい!」
私はVサインをしながらクオンたちの方を見る。
そして、山賊が崩れ落ちると同時にヴァネッサが戻ってきたのだ。
「どうかされましたか?」
「いや、よくあることだ」
「・・・はあ、あまりギルド内での揉め事は遠慮してほしいのですが」
「相手に言ってくれ」
再度、ため息を吐くヴァネッサ。
こういうのはよくあることらしい。見た目怪物のお父さんがよくあるならまだ、見た目が子供の私とクオンならさらに遭遇する可能性があるのかも・・・面倒な。
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ざまぁ必須、微ファンタジーです。
婚約者に犯されて身籠り、妹に陥れられて婚約破棄後に国外追放されました。“神人”であるお腹の子が復讐しますが、いいですね?
サイコちゃん
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公爵令嬢アリアは不義の子を身籠った事を切欠に、ヴント国を追放される。しかも、それが冤罪だったと判明した後も、加害者である第一王子イェールと妹ウィリアは不誠実な謝罪を繰り返し、果てはアリアを罵倒する。その行為が、ヴント国を破滅に導くとも知らずに――
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◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
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