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1章

出会い

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深い森の中で私は肩のところまでの栗色の髪をなびかせ、真剣な面持ちで走っていた。
後ろに二つの気配を感じ取りチラリと少し振り返る。インプと呼ばれる赤ん坊くらいの大きさで低級悪魔のような姿をしたモンスターが蝙蝠のような羽を羽ばたかせ宙を飛びながら迫っている。
インプというのはランクEの魔物である。

《モンスターランク》
魔物はその強さを分かりやすく示すためランクで分けられている。
ランクはF~SSランクまであり、最低ランクであるFの魔物は子供が遭遇すると危険ではあるが大人であれば一般人でもなんとかなるくらいの危険度だ。もちろん、単体で不意打ちとかされなければである。
しかし、Eランクの魔物は大人でも危険である、ただし、冒険者や兵士、騎士と呼ばれる己を鍛えた人たちには弱い魔物でもある。戦闘経験のない人ならともかく、戦闘経験の豊富な者たちにはむしろ良い獲物でもあるのだ。
ちなみに、Sランクの魔物は単体で万の軍隊を相手にできるほどの強さがあり、SSランクに至ってはその存在だけで国が亡びるとまで言われている。まあ、Sは滅多に遭遇するなんてことはないしSSランクは伝説上の生き物だ。


後ろのインプは私の肩あたりまで蝙蝠のような羽をはばたかせ浮かんでいた。
インプが手に持っている短剣を振りかぶり投げつけてくる、投げた速度はそれほど速いわけではないし唯一の武器を投げてしまうあたりさすがEランクというところだ。
私はそれを難なく躱し、「チャンス♪」と方向を変え丸腰となったインプへ迫った。腰のベルトにつけていた30センチほどの筒を手に取る。筒に魔力を込めるとジャキンと音を立て4倍ほどの長さの棒へと伸びた。
私の武器はこの棒である。棒といえどもかなりの強度で出来た武器であり魔法棒マジックバトーネといわれる魔導具で私のお気に入りだ。

丸腰のインプを間合いに入れバトーネを振り、インプを薙ぎ払う。
「ぐぇ・・・」という声を上げ、インプは近くの木へと叩きつけられ絶命した。
絶命したインプは淡い光を上げながら小石程度の大きさの石へと変わる。
『ルーン』と言われる魔石である。このルーンは魔導具の製作などに使われる為、冒険者ギルドやお店で買い取ってもらえる。冒険者たちはこのルーンを集めそれをお金に換え生活をしているのだ。


「やったね♪」
「気を抜くなカモメ」


カモメというのは私の名前だ。私はもう一匹のインプの存在を思い出し、気を引き締める。
インプは仲間をやられ気遅れをしていた。それはそうだろう、12歳の少女がEランクモンスターである仲間を一撃で倒したのだ。インプは逃げるべきか迷っていた。だが迷っているその隙に私は次の行動に移る。
足元にあった小石をインプの顔めがけて蹴った。
いきなり飛んできた小石に驚きインプは手を顔の前に出しガードする。
手が視界を遮り、インプは私の姿を見失う。その隙にインプとの間合いを詰めたのだ。


「ほお・・・」


遠くで、木にもたれ掛かりながら見ている私と同じ栗色の髪をした中年の男性が声を漏らす。
私のお父さんのヴィクトール=トゥエリアだ。彼は自慢の髭を撫でながら満足そうな顔をしていた。


「てやああああああ!」


バトーネでインプの腹を薙ぎ、後ろによろけた所に頭への追撃を放った。
二匹目のインプは声もなくルーンへと姿を変えた。


「わっほーい♪」
「ふむ、よくやった」
「へへーん、すごいでしょお父さん」
「ああ、様になってきたじゃないか、石を蹴り相手の視界を塞いだのは見事だったぞ」


お父さんはパチパチと手を叩きながら近づいてきた。


「これなら、冒険者として登録しても問題ないよね?」
「いいだろう、王都のギルドで登録するとしよう」


冒険者というのは冒険者ギルドで登録された者たちのことで、様々な依頼をこなす所謂、何でも屋だ。
しかし、ダンジョン等で一攫千金なども狙えるためこの世界にはそれなりに冒険者がいる。
とはいっても、冒険者もピンキリだ。ものすごく強く真面目な冒険者もいれば弱くてやる気のないのもいる。
冒険者になると冒険者カードと呼ばれる魔導具を渡され、そのカードがあれば何処のギルドでも冒険者として扱ってくれるのだ。すでにわたしの実力はそこら辺の不真面目な冒険者より遥かに上だった。
冒険者として一人前と言われるのはEランクモンスターを単体で撃破できるかどうかである。
私は先ほど倒したインプのようにEランクやその上のDランクであれば複数いようと問題なく倒せる。
それどころか、Cランクの魔物であっても単体なら倒すことができるだろう。


「だが、冒険者になったからと言って無茶は禁物だ。依頼を受けるのもしばらくは俺と一緒だ。いいな?」
「分かってるって♪」


たとえ保護者同伴だろうと冒険者になれるのはうれしい。
冒険者には夢とロマンが詰まっているのだ。


「では、王都に帰るとしようか」
「了解!さあ、レッツゴーだよ、お父さん!」


私たちは王都へ帰るため森を歩いている。
まだ昼間だというのに森の中は薄暗い、モンスターでも出てこないかな?ルーンを売って小銭稼ぎしたいね。
だが、そう思っている時はでないものだ。・・・残念。


「早く王都以外の街にも行ってみたいな」
「いつも言っているがお前が一人前の冒険者になったらな」
「むぅ・・・実力だけなら一人前だと思うんだけどなぁ・・・」
「力はあってもお前はまだ子供だ、もう少し大きくなるまでは我慢しなさい」
「ぶぅ」


この世界には大国が3つ、そして小さな国が数多く、さらに1つの謎の大陸がある。

大きな国の一つはグランルーン王国、賢王と呼ばれるセイグラム=グランルーンが治める国だ。
自然の豊かな国で多種族が暮らす平和な国である。私たちが居るのもこのグランルーン王国だ。

二つ目はベラリッサ法国、ベラリッサ教会と呼ばれる光の女神を奉った宗教が治める宗教国である。
宗教国とはいえ他宗教のものや無宗教の者は入れないというわけではなく、割と開放的な国だ。冒険者への依頼なども結構ある。国を治めるのはメリアンナ法王と呼ばれる女性で、女神の化身などとも言われている人だ。

三つ目はヴァルネッサ帝国で軍事国家とも呼ばれる国だ。
この国は種族差別がひどく、亜人は奴隷にされたり人間としての権利がない。
亜人というのは普通の人間とは少し姿が異なる者たちの事だ。有名なのはエルフやドワーフ、ホビットなどであろうか。その他にも獣人とよばるものなどがいる。人間の中にはこの亜人、特に獣人をルーンにならないだけで魔物と変わらないと主張する者たちが結構いるのだ。もちろん、私とお父さんはそういう偏見はない。人間も亜人も変わらないと思う。だが、ヴァルネッサ帝国の人々はその殆どが亜人を嫌う。その為、亜人の人たちにとっては近寄りたくない国である。そして、国王は強い者がとにかく好きで年に一回は武術大会なども開かれるのだ。武術大会は惹かれるけど私はこの国があまり好きではない。亜人だって心を持った人なのだ、私達と何が違うというのだろう。


そして、最後に謎の大陸だ。謎の大陸と言うのはすべてが本当に謎なのである。なぜなら、その大陸の周りには結界が張られていて誰一人入ることができないのだ。この結界は昔、光の女神と魔王の戦いと呼ばれる「古の戦い」が起きたとき、女神が弱きものを守るために張った結界だとか魔王を封じ込めるために張ったものだとか様々な言い伝えがあるが、どれが本当なのかわからないのである。


「帰ったらまずギルドに行こう!」
「いや、登録は明日だ。」
「なんで!?」
「帰るころの時間はちょうどギルドが混むころだからな、明日の昼にでも行こう。」
「ちぇー、早く冒険者になりたいのにー」
「冒険者になったところですぐ何かが変わるわけでもない、焦る必要などあるまい」
「はーい・・・」


私達は薄暗い森の中を進む。
その時、遠くの方から何かがぶつかり合うような音がした。


「あれ?お父さん今の聞こえた?」
「ああ、向こうで誰かが戦っているようだな」
「もしかしたらピンチかもしれないね、様子を見に行こう!」
「うむ、行ってみよ・・・う?」


お父さんが話し終わる前に私はすでに走り出していた。


「置いて行かれると父は寂しいぞ・・・」


何か聞こえた気がしたが・・・まあ、いっか。

私がその場に着いた時にはすでに戦いは終わっていた。
私と同じ歳くらいの少年が剣をもって佇んでいた。剣からは緑とも黒とも言えぬ液体が滴っていた。恐らく下に転がっている魔物の血だろう。少年の足元にはダイアーウルフと言われるモンスターが7匹横たわっている。
ダイアーウルフというのは灰色の毛をした犬のような魔物で鋭い牙と爪を持ち動きの素早いモンスターだ。
ランクはDでそれなりに強いモンスターである。


「だ、大丈夫?」


少年の左腕はダイアーウルフにやられたのかかなりの血が流れていた。だが、少年はそれを気にしている様子はない、かなりの重症だと思うのだけど・・・。私の声に反応しこちらを見た。その目はなぜか、とても悲しそうに見えた。少年は魔物を倒したにも関わらず、喜んでいるようにも安堵しているようにも見えなかったのだ・・・。


「だれ・・・?」


少年はジロリと私を見る。
深い悲しみと怒りを合わせたような鋭い目をしていた。
私はその少年の目に少し退る。


「その歳でダイアーウルフを複数倒すとはやるじゃないか、少年」


私の後ろからお父さんが歩いてきた。


「・・・・・」


少年は黙っていた。すでに私を見ておらず視線はお父さんへと移っていた。なぜか、この子を見ていると不安になる。なぜだろう。「・・ふう」と少年はため息をつき表情がやわらいだ。その表情の変化に私は驚く。
やわらいだ少年の表情は先程までとは違いとても優しそうだった。


「すみません、少し、嫌なことを思い出してたので・・・」


少年は私を睨んだことを謝罪し、「この辺りは危険ですよ」と言うと、森の奥へ歩きそうとした。


「ま、待って!怪我してるじゃない!」
「大丈夫、これくらい」
「大丈夫じゃない、血がいっぱいだよ!」
「問題な・・・」


問題ない、そう言おうとして彼はその場に倒れた。当然だよ、すごい出血だったし・・・。最初の殺気立った目といい、その後の優しい表情といい、怪我しているのに意地を張ろうとしたり、謎の多い少年だ。


「この子、なんだったの?」
「さあな、だが、あの歳でダイアーウルフを複数、倒す強さといい普通ではないな」
「うん・・・っと、とりあえず、治療しないと!」


私は少年に駆け寄り治癒魔法をかけるのだった。私は棒術だけではなく魔法にも長けている。
得意なのは攻撃魔法で治癒魔法はそれほど得意ではないがそれでも普通の人よりは上手く使える。
元々魔力が普通の人よりかなり高いためである。まあ、治すより物を壊す方が得意なんだけどね・・・。

少年に魔法をかけている光と少年に切り裂かれたダイアーウルフが絶命したのかルーンへと変わる光、傍から見ればその光景はかなり幻想的なものだっただろう・・・。
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