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1章

3話

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 なぜ、商人のジェイス殿がここに?


「おや?昨日ぶりですね。アウラさん」
「その節は助かりましたわ。おかげで街に入ることができました」


 周りの人間たちがざわめく。


「お役に立てて光栄です。ところで、受付の方がいませんがどういうことでしょう?」
「申し訳ありませんわ。ワタクシのせいですの」


 アウラ殿が頭を下げる。
 アウラ殿のせいではござらん。周りの者が腰抜けなだけでござる。


「ふむ、では中に入ってしまいましょうか」
「え?」


 何を思ったのかジェイス殿はアウラ殿の手を引っ張り、ギルドの奥へと侵入する。
 ギルドの奥に逃げていた受付員たちが驚愕し、アウラ殿から距離を取る。


「躾がなってませんね」


 それに構わずどころか、溜息を吐きながらさらに奥へ進み二階へ上がった。
 二階の奥の扉の前に着くと、ジェイス殿は扉をノックする。


「兄上、起きてますか?」


 どうやら、ギルドの中にジェイス度の兄上殿がいるようでござる。
 だから、ギルドの中にずかずかと侵入できたのか。
 いや、兄弟がいたとしても駄目でござらんか?

 ノックをしても返事は無く。
 業を煮やしたのか扉を力強く開いたジェイス殿は部屋の主の許可なく部屋に侵入した。


「兄上、また居眠りですか。起きてください」


 机の上に突っ伏していびきを書いていた男性の頭を叩く。


「んあ、なんだお前か。ギルドに何の用だ?」
「何の用だではありませんよ、兄上が二日酔いの薬を持って来いと言ったんじゃないですか」
「ああ、そういやそうだったな」
「仕事もせずに飲んでばかり、そんなだから受付員の躾がなってないんですよ」


 ジェイス殿は腕を組み兄上殿に小言を言い始めたでござる。
 なるほど、何故商人のジェイス殿が冒険者ギルドに来ているのかと思えば御兄弟に用でござったのか。
 しかし、だからと言って勝手にギルドの中に入っていいでござるか?


「躾?ウチの受付はかなり評判がいいはずだが?」
「どこがですか、仕事をさぼり彼女がギルドに登録できないではないですか」
「サボる?アイツらが?・・・なるほど、登録したいってのはそっちの嬢ちゃんか?」
「そうですよ、あなたがサボってばかりだから他のギルド員も真似をし始めたのではないですか?」
「おいおい、無茶言ってやるなよ。普通は俺たちと違って黒い体毛のハーフに近づいたりしねぇんだから」


 ジェイス殿の御兄弟は大きくため息を吐きながら頭を振った。
 それほどまでに黒い体毛のハーフというのは忌み嫌われているのでござるか?一体なぜ?


「黒い体毛のハーフは女神に嫌われている。そのせいで運の数値が極端に低いんだ。運の数値の高い人間でもない限りソイツと関わると不幸になるってのは通説だぜ?」
「はあ?私は彼女と一緒に居ても何も起きてませんよ」
「お前も俺も運の数値は高いだろうが、まあ、とはいえそれがギルド登録できない理由にはならねぇからな。ちょっと待ってな」


 そう言うと、御兄弟殿は部屋を出ていく。


「申し訳ありませんアウラ殿。我が兄が不出来なせいで嫌な思いをさせてしまって」
「い、いえ。むしろ親切にしていただいて申し訳ありませんわ」
(アウラ殿、なぜジェイス殿がここまで親切にされるのか聞いておいた方がいいでござる)


 先ほどの話を聞いたところ、半獣と忌み嫌われる理由は運の数値が低いことが一番の原因のようでござるな。
 確かに、アウラ殿の運の数値もマイナスという異常な数値でござる。
 これが女神のせいであるとするなら一体女神は何を考えてこんなことをするのでござろうか?
 それに、このジェイス殿もアウラ殿にここまで親切にする理由はないでござる。
 物語であればご都合主義と笑い飛ばすところでござるがな。
 ただでさえ、運のないアウラ殿がこれほどまで運の良いと言える状況は怪しむべきでござろう。


「なぜ、ジェイス様はワタクシにここまでよくしてくださるのでしょう?」
「ん?ああ、そうですね。胡散臭いと思われても仕方ありません」
「い、いえ、ワタクシはそんな風には」


 胡散臭いと思っているのは拙者でござる。
 アウラ殿以外と喋れないというのは不便でござるな。
 おや?なぜアウラ殿とは喋れるのでござろう?装備者だからでござろうか?


「私は商人ですから、金の匂いのする方とには恩を売っておこうと思っただけですよ」
「???」


 金の匂い?
 つい昨日まで無一文だったアウラ殿がでござろうか。
 確かに元は貴族の令嬢と言っておられたが。
 貴族と見られているのでござろうか?


「ワタクシ、貴族ではございませんわ。その…」


 アウラ殿もそう思ったのだろう。
 自分の生い立ちを話始める。
 それを聞いていたジェイス殿はそれでも笑顔を崩さない。


「もちろん、貴族とは思っておりませんよ。貴族は冒険者ギルドになってきませんから」
「では、なぜでしょう?」
「なぜって貴方は昨日、門の前で立ち往生されてましたよね?それはつまりこの街の人間ではないという事。つまりお一人でこの街まで歩いてきたという事ではなりませんか」


 なるほど、そう言えば昨日はジェイス殿は一人ではなかった。
 護衛と思われる冒険者の方々と一緒にいた。
 そう、森を通るならそれが普通なのだ。つまり…。


「あの森を一人で通れる力を持った方です。恩を売っておいて損は無いと思いました」
「そ、そうですの」


 戦闘力のほとんどは拙者の力でござるからな、少し騙している様な気になってしまったのかアウラ殿の反応は微妙であった。しかし、この男なかなか頭が切れるでござるな。昨日のあの短時間でそこまで考えていたとは。


「ほう、あの森を一人で渡ったってのかそいつは有望じゃねぇか」


 ジェイス殿の兄上殿が戻ってきて、開口一番に楽しそうにそう言った。
 彼の後ろにはメガネの女性が一人ついてきている。


「悪かったな嬢ちゃん。コイツがお前の登録をしてくれるから一緒に行ってくれ」
「他の受付が失礼いたしました」


 メガネの女性が頭を下げてくれる。


「それではギルドマスター、仕事はちゃんとしてくださいね」
「お、おう」


 なんと、ジェイス殿の兄上はギルドマスターでござったか。
 そしてメガネの女性はアウラ殿を促すと、再び、ギルドの一階受付へと移動するのであった。
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