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番外編2、皇帝の弟 ジャスウェル

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 その絵の人は、まるで月の妖精のような銀色に光輝く豊かな髪に、水色の大きな瞳、形の良い鼻、そして健康的で可愛らしいピンク色の唇をしていた。

 配色的に冷たいように思えるが、柔らかく微笑んでいるように見えて、見る人の心を捕らえる。

 少しだけある背景も、まるで月夜のように青白くぼんやりと描かれていて、まるでその人だけを照らしているようなのだ。


 4歳のジャスウェルが何故その人に惹かれてしまったのかは分からない。


 ただ、ジャスウェルは時の帝王や、帝王となった兄に「婚約者を据えないで」と懇願するほど、その絵の中の人に心を奪われてしまっていたのだった。





~~~◎~~~~~○~~~~~◎~~~





「ジャスウェル、母上に続いて厳しいことを言うようだが、絵のモデルとなったウーライ様はもう帝国にはいないし、その……言いにくいが、随分と歳も離れているし、生死も……分からないのだぞ?」

 歳が同じくらいの女の子や男の子にそういった意味で全く興味を示さないジャスウェルを心配した正妃が、絵のことをいろいろと調べたのだ。それはシグウェルにも共有された。

「そんなことは……、分かっているのです……。 頭では理解出来ているのですが……どうしても納得出来ないのです……。」

 不憫には思う。

 でも、これでは……。

 正直、こんな些末な問題に足元を掬われていては、優秀なジャスウェルが国のために働く事は不可能だろう。



 だから、宛がってしまいたい。



「ジャスウェル、こんなことを言いたくないが、夏はもう目前だ。 それまでに心を決めておきなさい。 ……こんな残酷なことしか言えなくて……許して欲しい……。」

 久々に撫でた、自分と同じ弟の黒い髪は、サラサラとしていた。

「兄上……。 はい……。 ちょっと頭を冷やして参ります。 」

「あぁ。」

 一瞬絶望の色を濃く見せたジャスウェルが心配になるが、兄としても皇帝としても、よくここまで引き伸ばせたと思う。



 ……悪いな、ジャスウェル……。



 肩を落として覇気もなく歩くジャスウェルの後ろ姿を見送ることしか出来なかった。














 13歳の母親そっくりなユノを見つけて、月明かりの下ジャスウェルが滂沱の涙を流しながら一方的な運命の出逢いをするまで、あと少し。

 兄である皇帝の無茶振りがセットで付いてくるのも、あと少し。



~おしまい~






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 今考えている番外編は以上になります。
 ここまでお付き合い下さり本当にありがとうございました!!



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