2 / 19
2、教育係
しおりを挟む
「あんな大国に婿入りって……一体何をすればいいんだろう。」
誰もいない部屋で1人言る。
スワニ帝国には、まだユノの母が生きていた頃に一度行ったことがある。ユノのスワニ帝国旅行の思い出はそれなりに楽しいものだったが、スワニ帝国出身と思われた母だけは体調を崩して参加出来なかった。
まさかスワニ帝国に婿入りするとは。
現実感が全く沸いてこない。
と、いうよりも、こんな、おおよそ王子様らしくない、小汚ない痩せっぽっちが相手になってしまったスワニ帝国の貴族のご令嬢様が不憫でならない。……、自分を見た瞬間逃げ出してしまうのではないか、とユノは考えた。
でも、自分ではどうすることもできない。
日々生きていくだけでいっぱいいっぱいだからだ。
ため息と共に吐き出された言葉は、ベッドとチェストくらいしかない質素な部屋に吸い込まれていった。
母が亡くなるといつの間にか母の遺品であるきらびやかな物が部屋から次々に無くなっていったのだ。
「とりあえず……食べるものを用意しよう。」
もう夕方になる。昨日ロイが届けてくれた肉やパンがまだあるし、畑の野菜を使って定番のスープを作ることにした。
畑で作業していると、珍しく足音が近づいてくる。辺りが静かなので話し声まで聞こえてきた。
「ユノ……様の離宮はこちらでしたが……まさかこのような有り様とは……。」
「ジャス様、このような場所に足を運んでいただくのは申し訳ないです。」
「えぇ、今からでも客室に参りませんか?」
ジャス様、とは一体誰のことか。
このような場所……、か……。
ユノは騒がしい一団に視線を向けた。
「まぁっ! ユノ様っ、そのような格好でそのような場所に……!!」
「お早く! こちらへお越し下さい!」
「スワニ帝国よりお越し下さいましたジャス様を紹介いたしますのでっ!」
メイド達の焦りようが手に取るように分かる。
まさか王子と言われているユノが小汚ない格好で畑仕事をしているとは思いもしなかったのだろう。
「ほぅ。これはこれは。 初めまして。 ユノ殿下。 私は隣国のスワニ帝国からやって参りました、教育係のジャスでございます。」
ユノの濁った緑の瞳は驚愕に見開かれた。
ジャスと名乗った人物は、美しくサラサラの少し長めの黒髪に、丸渕のメガネが掛けた切れ長の濃い青色の瞳を持つ美丈夫だったのだ。シェールズ国の文官のような格好をしているが、剣を持っても様になりそうだ。痩せて小汚ないユノが近くに行くことすら憚られる、そんな男だった。
ジャスはただ微笑んでいた。
先程から教育係教育係と言われているジャスだが、こんな王宮の端っこにやってきていったいどうしたというのか。
ユノは訳がわからなかった。
ユノの国である、シェールズ国は、15歳になるとそれなりの貴族は貴族が集う学園へ通う。
だが、ユノはばっちりスルーされ、19歳になってしまった。母が生きている頃はそれなりに教育も施されていたが、今では畑の師匠である庭師のグリエドがたまに差し入れてくれる本を読むことくらいしかしていない。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
お気に入り登録やしおり、ありがとうございます!!
誰もいない部屋で1人言る。
スワニ帝国には、まだユノの母が生きていた頃に一度行ったことがある。ユノのスワニ帝国旅行の思い出はそれなりに楽しいものだったが、スワニ帝国出身と思われた母だけは体調を崩して参加出来なかった。
まさかスワニ帝国に婿入りするとは。
現実感が全く沸いてこない。
と、いうよりも、こんな、おおよそ王子様らしくない、小汚ない痩せっぽっちが相手になってしまったスワニ帝国の貴族のご令嬢様が不憫でならない。……、自分を見た瞬間逃げ出してしまうのではないか、とユノは考えた。
でも、自分ではどうすることもできない。
日々生きていくだけでいっぱいいっぱいだからだ。
ため息と共に吐き出された言葉は、ベッドとチェストくらいしかない質素な部屋に吸い込まれていった。
母が亡くなるといつの間にか母の遺品であるきらびやかな物が部屋から次々に無くなっていったのだ。
「とりあえず……食べるものを用意しよう。」
もう夕方になる。昨日ロイが届けてくれた肉やパンがまだあるし、畑の野菜を使って定番のスープを作ることにした。
畑で作業していると、珍しく足音が近づいてくる。辺りが静かなので話し声まで聞こえてきた。
「ユノ……様の離宮はこちらでしたが……まさかこのような有り様とは……。」
「ジャス様、このような場所に足を運んでいただくのは申し訳ないです。」
「えぇ、今からでも客室に参りませんか?」
ジャス様、とは一体誰のことか。
このような場所……、か……。
ユノは騒がしい一団に視線を向けた。
「まぁっ! ユノ様っ、そのような格好でそのような場所に……!!」
「お早く! こちらへお越し下さい!」
「スワニ帝国よりお越し下さいましたジャス様を紹介いたしますのでっ!」
メイド達の焦りようが手に取るように分かる。
まさか王子と言われているユノが小汚ない格好で畑仕事をしているとは思いもしなかったのだろう。
「ほぅ。これはこれは。 初めまして。 ユノ殿下。 私は隣国のスワニ帝国からやって参りました、教育係のジャスでございます。」
ユノの濁った緑の瞳は驚愕に見開かれた。
ジャスと名乗った人物は、美しくサラサラの少し長めの黒髪に、丸渕のメガネが掛けた切れ長の濃い青色の瞳を持つ美丈夫だったのだ。シェールズ国の文官のような格好をしているが、剣を持っても様になりそうだ。痩せて小汚ないユノが近くに行くことすら憚られる、そんな男だった。
ジャスはただ微笑んでいた。
先程から教育係教育係と言われているジャスだが、こんな王宮の端っこにやってきていったいどうしたというのか。
ユノは訳がわからなかった。
ユノの国である、シェールズ国は、15歳になるとそれなりの貴族は貴族が集う学園へ通う。
だが、ユノはばっちりスルーされ、19歳になってしまった。母が生きている頃はそれなりに教育も施されていたが、今では畑の師匠である庭師のグリエドがたまに差し入れてくれる本を読むことくらいしかしていない。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
お気に入り登録やしおり、ありがとうございます!!
34
お気に入りに追加
128
あなたにおすすめの小説
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
幸せな復讐
志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。
明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。
だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。
でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。
君に捨てられた僕の恋の行方は……
それぞれの新生活を意識して書きました。
よろしくお願いします。
fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。
こじらせΩのふつうの婚活
深山恐竜
BL
宮間裕貴はΩとして生まれたが、Ωとしての生き方を受け入れられずにいた。
彼はヒートがないのをいいことに、ふつうのβと同じように大学へ行き、就職もした。
しかし、ある日ヒートがやってきてしまい、ふつうの生活がままならなくなってしまう。
裕貴は平穏な生活を取り戻すために婚活を始めるのだが、こじらせてる彼はなかなかうまくいかなくて…。
[完結]堕とされた亡国の皇子は剣を抱く
小葉石
BL
今は亡きガザインバーグの名を継ぐ最後の亡国の皇子スロウルは実の父に幼き頃より冷遇されて育つ。
10歳を過ぎた辺りからは荒くれた男達が集まる討伐部隊に強引に入れられてしまう。
妖精姫との名高い母親の美貌を受け継ぎ、幼い頃は美少女と言われても遜色ないスロウルに容赦ない手が伸びて行く…
アクサードと出会い、思いが通じるまでを書いていきます。
※亡国の皇子は華と剣を愛でる、
のサイドストーリーになりますが、この話だけでも楽しめるようにしますので良かったらお読みください。
際どいシーンは*をつけてます。
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
完結・虐げられオメガ妃なので敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる