街コン!

SHIZU

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四知

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最後の街コンの日。
がんばろうなって、いつもみたいに聡と声を掛け合う。
それにしても昼から飲むってどうよ。
昼、夜の2部制になってて、昼からのしか予約が取れなかったって聡が言ってた。
僕は最後だし、積極的に女性に話しかけてみた。
「趣味はお酒以外になんかありますか?」
「お仕事は何されてますか?」
「休日は何をしていますか?」
「ペットは飼ってますか?」
「食べ物は何が好きですか?」
「スポーツは…」
「旅行に行くなら…」
色んな人に色んなことを聞いたのに、頭になんにも残ってない。
ふと聡を見ると、端っこの方で女の子とすでにいい感じになっていた。
いつもそうだな。
なんでかわからないもどかしさと、焦燥感で知らないうちにお酒が進む。
なんか足元がおぼつかない。こんなにお酒弱かったっけ?もう少しいけると思ってたのに。
倒れそうになった時、誰かが体を支えてくれた。
僕のことを抱えて椅子に座らせ、肩を貸してくれる。
誰だろ。落ち着く。


気がつくと僕は、パジャマ姿で自分の家のベッドにいた。
どうやってここまで帰ってきたか全く覚えてない。
こんなこと初めてだった。
時計を見るとまだ17時だ。まだ少しぼーっとする。
携帯で聡に電話しようとした時、バスルームから人が出てきた。
「聡?」
「あぁ。起きたのか?もう大丈夫か?」
「うん。運んでくれた?」
「おぅ。飯も食わずに、あんなに飲むからだ。新は何か食べないと、悪酔いするぞっていつも言ってるのに…」
「ごめん…」
「まぁ終わりの方だったから、運営の人にだけ話して、抜けさせてもらった」
「倒れた時、支えてくれたのも聡だった?」
「うん。見てたらふらふらしだしたからちょっと焦った。間に合って良かった…」
「ありがとう。迷惑かけてごめん。シャワー浴びたの?」
「うん。ごめん。汗だくだったから勝手に借りた」
「それは別にいいけど、服は着なよ。パンツ1枚で何してんの!」
「いや、パンツだけ無事だったんだよ。Tシャツとズボンは、俺の汗とお前のリバースしちゃったやつで大変だったから、今は浴室にぶら下がってる。流石にタンスを勝手に漁るのは気が引けたから、とりあえずこの状態でおさまった」
「本当ごめん!吐いちゃったんだな。記憶があんまないけど」
「帰って来た途端な。安心したんだろうな。えらいよ」
「マジでごめん。服は勝手に取ってもいいよ。サイズが合わないかもだけど…だから僕も着替えさせてくれた?」
「ん。お前の服も今、風呂場。浴室乾燥って便利な。一応予備洗いして、そのあと洗濯機で洗ったから安心しろ。ほとんど俺のシャツとトイレに吐いたし、軽く汚れたかもしれないとこは掃除したけど、まだ気になるとこあったら自分でやって?あぁ、あと体と顔はタオルで拭いたけど、元気になったならシャワー浴びてこいよ。そのあと行けそうなら飯行くか?家にあるもの使っていいなら、なんか作るけど?」
「食材、なんでも好きに使っていいよ。スーパー行けてないから大したものは無いけど」
「わかった。風呂場で寝るなよ?」
「大丈夫だよ!」
僕は風呂場にぶら下がっている服を、一度外に出してシャワーを浴び始めた。
なんでこんなに酔っ払ったんだろ。確かに今日は何も食べずに酒ばっか飲んでたなー。反省しよ。
何も食べてないこと、聡にバレてたし。
僕は風呂を出るとベッドの上に座った。頭を拭きながらキッチンに立つ聡の背中を見ていた。
「出たのか?ズボンだけ適当に借りたぞ」
「なんで上着ないのさ?」
「料理してると暑いだろ?家ではいつもこうだよ」
「ふーん。確かに暑いけどね」
「もう出来るよ」
と言ってしばらくすると、お粥といくつかのおかずが出てきた。
「ほら。風邪ひくと困るから、やっぱTシャツ着て」
と大きめのTシャツを聡に渡したのに、聡にはピッタリだった。
2人でうちでご飯は久しぶりだ。
「いただきます」
やっぱりうまいな。聡のご飯。
「お前と結婚する人は幸せだな。旦那が料理上手なんて、絶対嬉しいよな」
「そうかな」
「3回街コン行ったけど、恋人候補は見つかった?」
「どうかな。話してて楽しいとは思うけど、付き合うまでいくかは微妙なとこかも。お前は?今回積極的に話しかけてたじゃん?いい子いたの?」
「話しかけたけど、なんも覚えてない」
「それは酔っ払い過ぎだろ」
と聡が笑う。
「そういうんじゃなくて、なんでかずっともどかしさっていうか、焦燥感というか、罪悪感というか、モヤモヤというか、なんかずっと落ち着かなくて、気持ちが全くそういう方に向いてなかった感じ…」
「それはさ…出来たんじゃないか?本当に好きな人」
「え?」
「だから街コンも最後にしたかったんだろ?気持ちもついてこなかったのは、多分そういうことじゃないかな?」
と言って食事を終えた聡は立ち上がった。
「どこ行くの?」
「食べ終わったし、帰るよ。新、もう大丈夫だろ?服、洗って返す」
「もう大丈夫だけど、ちょっと待って!少し相談乗って欲しいんだ」
「何?」
「えっと、えっと…聡は男と付き合うってどう思う?」
僕は何を言ってんだ?聡だってそんなこといきなり聞かれたら困るだろ。どうしよう…
「ごめん、急に。友達が最近、男友達に告白されたって聞いたからさ。アドバイス求められだけど、僕もよくわからなくて…」
とありがちな誤魔化し方。
それを聞いて少し表情を変えて聡は言った。
「そのはどうしたいの?女の子しか好きになれないのか、それとも男でも好きになれるのか。そいつの気持ち次第だろ?」
「まぁ、そうだよな…」
「付き合ったとして、男同士と男女のカップルじゃ全く違う。相手が女なら出来ることも、相手が男だと出来ない。結婚も、子供を持つことも叶わない。世間体とか気にするなら、外で手を繋ぐこともままならない」
「確かにそうだね」
「それでも一緒にいたいのか?」
「たぶん…いや、わかんないけど…」
「ならもう、答えは出てるんじゃないか?そのは告白してきた相手が好きなんだと思う。ただ、新に相談したのは、お前がどう反応するか知りたかったんだろ。友達が知ったら、男と付き合うなんて考えられないと差別して自分を突っぱねるのかどうか。もしくは新のことが本当は好きで、お前に止めて欲しいと思ったのかもしれない」
「え?」
「というか新はどうなんだよ…」
「何が?」
「先週の土曜日、陶芸の後俺が飯誘ったら、お前は仕事があるって帰っただろ?でも俺見たんだ。服着替えて、お前が高岡さんと歩いてるとこ」
「あ…あれは汗かいたから着替えに帰っただけで…」
って僕は何を言ってるんだ。
「俺が言いたいのはそんなことじゃない。なんで俺に嘘ついて、高岡さんと会ったのかって話をしてる」
やっぱそういうことだよな。いつもと違う聡の話し方が、声が、息遣いが、表情が僕の呼吸を止める。
「嘘っていうか、それは…」
次の言葉が出てこない。
何を言ってもただの言い訳になる。
嘘をついたのは事実。
自分でもどうしてだかわからなかった。
「お前が好きなのは高岡さんなんだろ?良かったんじゃない?たぶん高岡さんもお前のこと好きだよ」
「なんで知って…」
と言いかけて俺は口を閉ざした。
告白されたことは話してない…
「さっきの話、自分のことだろ?」
「あ…」
もう我慢できなくなっていた。
堪えきれなくなって涙が流れる。
なんで泣いてるのかは自分でもわからない。
「嘘なんかつかなくても、好きな人が出来たって、素直にそう言えば良かったのに。俺は新が誰を好きでも、差別も軽蔑もしないよ」
「ちが…」
「じゃあ帰るわ。高岡さんによろしく。もうお前の世話係は今日で卒業だな」
と言って聡は部屋を出て行った。
苦しくて苦しくてただただ苦しい。
何がダメだった?
どこで間違えた?
なんでこんなに辛いんだ?
僕は大人になって初めて、声を出して泣いた。


朝、目が覚めて驚いた。
泣き疲れて眠るなんて、初めてだった。
聡に電話しなきゃ…でもなんて言う。
嘘ついてごめんなさい?告白された事黙っててごめん?
どれも違う。
悩んでも結局答えは出なかった。
昼を過ぎた頃電話が鳴った。蒼さんだった。
「もしもし?」
「おー!新?今どこ?」
「家です。どうしたんですか?」
「徳利とお猪口出来たから取りに来ないかと思って」
「あ!ごめんなさい。昨日行く予定だったのに。でも日曜日はお休みじゃあ?」
「お店は空いてるよ。俺のシフトが入ってないってだけで。でも今日は色々あって店にいるから、取りに来ないかなと思ってさ」
「じゃあ、今から伺ってもいいですか?」
「おぉ。待ってるわ」


店に着いて、僕は店内の商品を見ていた。新しい食器が増えている。
「よー!」
と奥から蒼さんが出て来た。
「すみませんでした。昨日は…」
「凄い顔だな。大丈夫だったか?酔い潰れたんだろ?」
「なんで知ってるんですか?」
「昨日自分のお皿取りに、聡が来たんだよ」
「聡が?」
「皿はせっかく新のとお揃いの模様付けたのに、離れ離れにしたら可哀想だなって言うと、じゃあ新にあげてくれって言ってたぞ。あと、陶芸も辞めるってさ」
「え?」
辞めるなんて聞いてない。
昨日のことが原因か?
俺が嘘ついたせいか?
いや、でも元々聡は好きでやってたわけじゃないからか。嫌々僕に付き合って始めただけだもんな。
今までそばにあったものが急に離れていく…
そのことに、どうしてこんなにも恐怖を感じるのか。
「だからこれ、渡しとく」
そう言って、聡のお皿と僕の徳利たちが入った紙袋をくれた。
「ありがとうございます」
「あ、せっかくだから見てほしいものがあるんだ」
と蒼さんは、今、僕に渡した紙袋の中から、聡のお皿を出し、くるんでいた新聞紙を剥がして裏を見せた。
“By”と小さく後ろに書いてある。というか彫ってある。
「何ですか?これ」
「何だろうな。たぶん聡からのメッセージ」
僕は他の2枚のお皿も、包まれていた新聞紙を剥がして裏を見た。1枚には“my”と書かれていて、もう1枚は“side”
と書いていた。
“By my side” “俺のそばに”ってなんだよ。
僕は皿を置いて店を出た。
早く会いたくて、蒼さんに自転車を借りた。
もっと早く気付くべきだった。
あいつの気持ちに。
いや、自分の気持ちにか…


聡の家に着いてインターホンを鳴らす。1回目は返事がなかった。
2回目を鳴らすとしばらくして、聡が返事をする。
「はい」
「新です」
「うん。知ってる」
あぁそうか。インターホンのモニター見ればわかるよな。
「あのさ、話できる?」
「…うん。開ける」
家に招き入れられ、俺はいつものソファのクッションのとこに座った。
聡はコーヒーを淹れている。
「あのさ…」
と僕が言うと、
「はい。コーヒー」
遮るように、聡はコーヒーをテーブルに置いて横に座った。
「ありがとう…」
しばらく沈黙が続く。
「話って?」
と聡が口を開いた。
「陶芸辞めるの?」
「なんで…?」
「さっき出来上がった徳利、取りに行った時に蒼さんに聞いた」
「あー。それでか」
「なんで相談してくれなかったの?そりゃあ聡は、嫌々始めた陶芸かもしれないし、昨日のことがあって僕と気まずくなっていたのもわかるけど。でも何も言わずに僕の前から消えようとするなんて酷いよ!10年も一緒にいたのに」
「10年も一緒だったからだよ。それに俺がいたら邪魔だろ?あそこには高岡さんも通ってるしな」
「そんなことないよ。それにそう思うなら、なんでお皿にあんなメッセージ残したの?」
「あれは…友達として…」
「嘘だ」
「嘘じゃない。ずっと友達としてそばにいられたらって、そう思って彫っただけ…」
僕から目を逸らして聡は言った。
「じゃあさ。目を見て言って。お前は友達だって。それ以上の気持ちは無いって。お前なんか好きじゃないって。言ってくれよ!」
「お前なんか好きじゃない…」
そう言った聡の目から涙がこぼれた。
僕は両手で聡の頬を包んで、親指でその涙を拭った。
「じゃあ何でそんな顔するの?」
「じゃあどうすればいいんだよ!」
と僕をそのままソファに押し倒して、馬乗りになった聡が言った。
「10年も友達で、というかお前はずっと俺を友達だと思ってて、でも俺はそう思えなくて、ずっと友達以上に思ってて、でもお前が同じ気持ちになることは絶対なくて、せめて新が結婚でもすれば、俺も新しい道に進めるかもって思ったのに、付き合った彼女とはすぐ別れるし、距離を作ろうと思っても、飲みに誘ってくるし、街コンで彼女見つけて、結婚までさせようって思ってたのに、結局好きになった相手が、急に現れた他の男だなんて、俺はどうすれば…」
ソファに押し倒されたままの僕の顔に、ぽたぽたと聡の涙が落ちる。
「嘘、ついてごめん。何でか自分でもわからなかったし、今でもはっきりとはわかんないけど、1番は総司に2人で会いたいって言われて、なんか悩み相談なのかと思ったんだ。聡はそんなこと言わないと思うけど、もし飯に行くって知ったときに、俺も!ってなったら困ると思った。他にも理由、あるような気がするけど、上手く言えないや」
「…」
「あの日びっくりなのがさ。朝、翼くんの店で翼くんに付き合おうって言われて、蒼さんにも好きだったって言われて、夜は総司にも告られて、一気にモテ期きた」
「…」
「翼くんに、恋人出来ないのは鈍いから、みたいなこと言われたよ。一緒にいる人が、好きですオーラを出してても、それに気付かなさすぎて、相手がもういいやーってなっちゃうんだって。そんなことないって言ったんだけど、10年も一緒にいる聡の気持ちにすら気づかないんじゃ、そう言われても仕方ないよな」
僕は聡の目を見て、体を起こしながら言った。
目の前に座る聡のことを抱きしめる。
少し驚いたのか、ぴくっと肩が動いた。
「男同士で付き合うのが、どういうことなのかっていうのはよくわからない。結婚とか子供とか、考えなくもない。だけど、相手が誰でも、付き合ってみなきゃわからないって、翼くんに言われたんだ。どんな関係でも、いつか別れがくるかもって怖くなる。でもそれを気にして迷ってたら、あっという間におっさんになってるってさ。そんでな、思ったんだよ。この先、もし誰かと一緒にお酒を飲んで、料理をして、旅行に行って、抱きしめて、一緒におっさんになるんなら、僕はお前とがいい…」
これが僕の出した答えだった。
聡は手を僕の背中に回して、抱き締めて言った。
「俺はお前のこと、好きでいていいのか?」
「うん。が来るまで一緒にいよう」
「そうだな」
は別れの時。
その日はどちらかの心変わりとかじゃなくて、おっさんよりずっと先の、人生の最期の日。僕は聡の手を握って、一緒にいてくれてありがとうって言って死ねたらいいな、なんて思ったんだ。



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