青天の霹靂

SHIZU

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抑えきれない想い

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それから数日が過ぎ、俺は朝早く起きて、新さんに稽古をつけてもらい、一緒に職場に出掛けるのがルーティンになっていた。
仕事はお店の掃除をしたり、新さんや他の人の身の周りの世話をしたり。
みんな良くしてくれる。
ふと新さんの部屋の前を通ると、襖が開いて顔を出した新さんが手招きをした。
「どうしたの?」
「さっきのお客さんから大福をいただいたんだ。一緒に食べないか?」
「いいの?」
「あぁ。さっきお杏さんに大福を持って行った時に、許可は取ったから」
「やった!」
俺は新さんの部屋で大福を頬張っていた。
「子供みたいだな。ゆっくり食べて。誰も取らないから…」
そう言って、俺の口元の粉を指で拭って笑った新さんの笑顔に、俺は自分の感情を抑えられなくなった。
お茶で一気に大福を流し込むと、気付いたら俺は新さんを押し倒し、着物の襟から手を入れて、鼓動に触れた。
そしてキスをしようとした時、
「渉。…やめてくれ」
新さんはそう言いながら、俺のことを押し離した。
「そらそうか。ごめんね、新さん。仕事戻るわ…」
「渉…」
襖を閉めたあと、俺はダッシュで物置に向かった。
あー!なんて馬鹿なことを!
そばにいるだけでって思ってたのに!
物置にあった箒の柄で、頭をポカポカ殴りながら、俺は自分のしたことを後悔していた。

仕事の帰り。
気まずい雰囲気が流れる。
結局、お互いに何も言葉を発しないまま、家に着いてしまった。
「夕飯の支度をするから、適当に時間を潰しておいて…」
最近はいつも2人で夕飯を作る流れになっていた。
それなのに…
新さんも気まずかったんだろうな。
「わかった。庭で練習しておく…」
俺は庭に出て無心で素振りを…なんて無理だよな。
ずっと考えてしまう。
そうだよ。
新さんの中では俺は弟なんだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
道で拾った俺にたまたま弟の面影があって、それで新さんは良くしてくれただけだ。
本当に好きな人は別にいて、その人は大人で、力もあって、男らしくて、ずっと新さんのそばにいた。
勝てるはずもない。
見込みすらない。
「ご飯、出来たよ」
「…ありがとう」
夕飯の時も終始無言だった。
食べ終わると、食器を片付けて…布団を敷いて…
することがなくなった俺たちは、この無言の気まずさに耐えきれなくなっていた。
「話、ちゃんとしないか?」
最初に口を開いたのは新さんだった。
縁側で座りながら話をした。
「そうだね。昼間はごめん。俺どうかしてたね!新さんには竜さんがいるのに、あんなことして迷惑だったよね」
「渉?」
「俺は弟みたいなもんなんだよね。たまたま道で助けた俺に林太郎さんの面影を見たんでしょ?だから良くしてくれただけなのに、俺、なんかどんどん気持ち止めらんなくなっちゃって、勝手にあんなこと…」
やべ。泣きそう。
俺は顔を見られたくなくて、振り向いて部屋に戻るため、立ちあがろうとした俺の腕を新さんが掴んだ。
「渉」
そう言って、引き留めようとした新さんの着物の裾を踏んで、俺はまた新さんに重なるように倒れ込んだ。
「あ、ごめん…」
すぐに立ち上がろうとした俺のことを、自分の方に引き寄せて抱きしめると
「大丈夫。渉の好きにしていい」
と呟いた。
意外な言葉に驚いたけど、新さんのあの色っぽい表情が、今は自分に向けられてると思うと、理性より本能が勝ってしまった。
キスをしながら、ゆっくりと着物を脱がしていく。
色白でマシュマロのような弾力と柔らかさ。
でも毎朝鍛錬を続けているだけあって、俺よりもしっかりとした腕と脚の筋肉。
俺ももう少し鍛えよ。
なんかずっと見てたいな。
しばらくじっと見ていると、
「どうした?」
とあのとろんとした瞳で、甘い声で、聞いてくる。
はぁ?殺す気かて。
「それ、ヤバい…」
「やば?なに?」
「死ぬほどかわいいってこと」
と言ってキスをすると、また新さんの吐息が漏れる。
そりゃ竜さんも離したくなくなるわけだ。
夢見てるのかな。幸せすぎて怖い。
でもこれが夢でも幻でも同情でも、たとえ1度だけの過ちだとしても、それでもいいから、新さんを抱きしめていたかった。
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