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決意
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昨日先生と病院の前でまた明日、と言ったときには鮮やかな夕焼けだったのに、今はもう真っ暗な闇に様変わりしてしまった。
病院の回りにはソーラーパネルのついた星形のイルミネーションがチカチカとランダムに光っている。
いつもはここだけクリスマスのようだと思うのに、今日は光っては儚くふっと消えてしまう光たちに不安を煽られた。
俺が入り口の植え込みのところから動かずにいると、痺れを切らせた和哉がさっさと先生の家のインターホンを鳴らして話しかけた。
「和哉です♪
帰る前にご挨拶に来ました♪」
静かに玄関の開く音がする。
「かずやくん………。
わざわざどうも」
先生は俺も来ていることに気づいていなかった。
和哉が一人で来たと思って警戒している。
それだけでも申し訳なくてたまらない。
「いえいえ。
別れ際はきっちりしておかないと。
ねえ、義兄さん」
和哉が俺の方を振り返った。
先生も俺に気づいて、こちらを凝視した。
「和哉が昨日、ここに来たみたいだね」
先生は俺から目を反らして俯くと、気まずそうに頷いた。
先生が伏し目がちになると睫毛が揺れて、先生の頬に影を落とした。
「今朝言ってくれればよかったのに…」
「タケル君に話すようなことは何もなかったので、心配させるだけかと思って」
「何もないって、あったよな?」
先生は無言のまま困惑している。
隠していた事を責めてる訳じゃない。
俺のせいだ。
俺の過去が全て元凶なんだ。
お互い好きなのに。
嫌いなところなんてひとつもないのに。
俺といると、先生は幸せを邪魔される。
「実家に行くことになった」
舌が重くて、思うように言葉が出てこない。
先生は俺の横に立てられたキャリーバッグに気づくと、どんどん険しい表情になっていった。
「タケルくん」
先生は俺の言葉を待っている。
和哉が小さい子に言い聞かせるような口調で先生に話しかけた。
「あのね、義兄さんはもうあなたとはサヨナラしないといけないんです」
先生は形の良い唇を真っ白になるほど噛みしめた。
けど、俺の顔を見て軽く頷くと、和哉のほうを向いて毅然と答えた。
「別れるつもりはありません」
約束したから。
信じるって。
ありがとう、先生。
だから、俺も誓った通り、
貴方を守るよ。
「先生。
俺たちやっぱりやめよう」
先生の大きな瞳が見開かれてさらに大きくなる。
そして今にも泣き出してしまうかと思うくらい悲しい顔になった。
「…このまま一緒にいたら、辛いことばかりになりそうなんだ」
本当に言いたいことはこんな事じゃない。
俺は先生の顔をこれ以上見ていられなくて、さっと背を向けてキャリーを引っ張った。
「タケルくん!」
先生に呼び止められて、思わず足が止まった。
「今度は、私が守る番です」
本当は、今すぐ抱きしめて謝りたい。
守るなんて言わせてごめん、って。
けど、これ以上先生は傷ついちゃいけない。
俺だって耐えられない。
振り返りたい衝動を必死に抑えて俺は歩き出した。
「アンタに守れるわけない。
義兄さんのそばには俺みたいな意地悪な人間がうようよいるからね」
和哉は先生に毒を吐くと、俺の横まで軽やかに跳ねてきた。
暗闇のなか、俺と和哉は無言で駅までの道を下っていった。
病院の回りにはソーラーパネルのついた星形のイルミネーションがチカチカとランダムに光っている。
いつもはここだけクリスマスのようだと思うのに、今日は光っては儚くふっと消えてしまう光たちに不安を煽られた。
俺が入り口の植え込みのところから動かずにいると、痺れを切らせた和哉がさっさと先生の家のインターホンを鳴らして話しかけた。
「和哉です♪
帰る前にご挨拶に来ました♪」
静かに玄関の開く音がする。
「かずやくん………。
わざわざどうも」
先生は俺も来ていることに気づいていなかった。
和哉が一人で来たと思って警戒している。
それだけでも申し訳なくてたまらない。
「いえいえ。
別れ際はきっちりしておかないと。
ねえ、義兄さん」
和哉が俺の方を振り返った。
先生も俺に気づいて、こちらを凝視した。
「和哉が昨日、ここに来たみたいだね」
先生は俺から目を反らして俯くと、気まずそうに頷いた。
先生が伏し目がちになると睫毛が揺れて、先生の頬に影を落とした。
「今朝言ってくれればよかったのに…」
「タケル君に話すようなことは何もなかったので、心配させるだけかと思って」
「何もないって、あったよな?」
先生は無言のまま困惑している。
隠していた事を責めてる訳じゃない。
俺のせいだ。
俺の過去が全て元凶なんだ。
お互い好きなのに。
嫌いなところなんてひとつもないのに。
俺といると、先生は幸せを邪魔される。
「実家に行くことになった」
舌が重くて、思うように言葉が出てこない。
先生は俺の横に立てられたキャリーバッグに気づくと、どんどん険しい表情になっていった。
「タケルくん」
先生は俺の言葉を待っている。
和哉が小さい子に言い聞かせるような口調で先生に話しかけた。
「あのね、義兄さんはもうあなたとはサヨナラしないといけないんです」
先生は形の良い唇を真っ白になるほど噛みしめた。
けど、俺の顔を見て軽く頷くと、和哉のほうを向いて毅然と答えた。
「別れるつもりはありません」
約束したから。
信じるって。
ありがとう、先生。
だから、俺も誓った通り、
貴方を守るよ。
「先生。
俺たちやっぱりやめよう」
先生の大きな瞳が見開かれてさらに大きくなる。
そして今にも泣き出してしまうかと思うくらい悲しい顔になった。
「…このまま一緒にいたら、辛いことばかりになりそうなんだ」
本当に言いたいことはこんな事じゃない。
俺は先生の顔をこれ以上見ていられなくて、さっと背を向けてキャリーを引っ張った。
「タケルくん!」
先生に呼び止められて、思わず足が止まった。
「今度は、私が守る番です」
本当は、今すぐ抱きしめて謝りたい。
守るなんて言わせてごめん、って。
けど、これ以上先生は傷ついちゃいけない。
俺だって耐えられない。
振り返りたい衝動を必死に抑えて俺は歩き出した。
「アンタに守れるわけない。
義兄さんのそばには俺みたいな意地悪な人間がうようよいるからね」
和哉は先生に毒を吐くと、俺の横まで軽やかに跳ねてきた。
暗闇のなか、俺と和哉は無言で駅までの道を下っていった。
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