上 下
89 / 110
第三章 雪山ダンジョンでの闘い

第89話

しおりを挟む
「ぐあーーっ! この魔石、本当に重いんですけど、先輩っどうにかしてくださいよ!」

「…………ハァッ」

 しょうもないやつがあのギンヌンガとやらのでっかい魔石をなんとか運ぼうと している。

「そんなもん運べるの俺しかいないだろお前がどうこうできるか、どけ」

「さすが先輩、力だけは本当にスーパーヒーローですね。カッコイイですよヒューヒュー!」

「……力だけで悪かったな」

 ギンヌンガの魔石を俺が両手で抱える、俺自身よりもでかい魔石だこんな物を運んでダンジョン中をうろつくとかとんでもない話だな。

「また同じようにボアンゴ共が出てこないとも分からない、さっさとこの場を後にする方がいいだろう。田中、佐藤、そこにまだ積んでる鉱石だがそのまま放置するのか?」

「ああっそのつもりだ」

「なら俺たちはこのダンジョンで集めた魔石なりを探索者ギルドに持って行こうかと思ってるんだが…」

「それならこの中の一人が一緒に行って依頼の完了とそれに伴う報酬の受け渡しをさせてくれ」

「分かった」

 正直このダンジョンで得られた魔石の量から考えれば依頼の報酬なんて大した額じゃないから受け取る必要もないのだが。
 そこらへんはやはり社会人だからな、 メンツを潰すような真似はするべきじゃない。

「まあここは不人気ダンジョンだ、他の探索者が来る可能性なんてほぼゼロだし、こんだけの鉱石でも放置しておいてもそこまで問題もないだろ?」

「ハッハッハッそういう時は探索者に人気がないってのもある意味助かるな」

「…先輩、あのビルゲーターたちの魔石の分とボアンゴたちの魔石を合わせるととんでもない量の魔石なんですが、これも私たちが運ぶんですか?」

「当たり前だろ、こっちはこのデカブツ運ぶんだからお前らも少しは運べよな」

 今宮のやつが「そんな~」とぶーたれている、テントに戻ればあの鉱石を採取する時に使った籠があるんだ、それの中にでも入れて背負って運べばいいだろうが。

「今宮さん、歩さんが頑張っ てくれたお陰でこんなに大量の魔石が手に入ったんです。運搬くらい私たちが頑張りましょう」

「守咲さんは本当に真面目ですね~もうちょっと上手い感じに手を抜く方法を覚えた方がいいですよ? どうせ先輩ならあの馬鹿でかい魔石のついでに他の魔石やら鉱石やらを全部あの魔石に括り付けちゃっても運べるんするんですから~」

「聞こえてるからな、本当にお前は何でもかんでも俺に丸投げする変な思考回路を持ちやがって…」

「まあまあ、そこは可愛い後輩の為にという事でお願いしますよ」

「断る、今宮、今回の取り分はお前が一番少ないからな」

 今宮のアホがこの世の終わりみたいな顔をする。
 なんつう顔してるんだコイツは。
 ほぼ全て他人の働きで得られる予定の報酬だぞ、まるで悲劇のヒロインにでもなったような顔をしやがって。

「嘘でしょ……? そんな理不尽がまかり通って言い訳がないじゃないですか先輩!」

「やかましいわポンコツ、文句があるなら少しは働け!」

「落ち着いてください2人とも他の人を見てますから!」

 醜い言い争いをする俺たちを守咲が止めようと奮闘する。
 他の連中は俺たちの方なんて気にも止めてはいない、とりあえずあの鉱石の山をどうするかを元同僚たちは考えているようだ。

 ミルティのやつは……ん?

「おいミルティのやつはどこいったんだ?」

「あれっ確かにいつのまんか消えてますねミルティさん、まさかもうダンジョンの外に出てしまったんでしょうか?」

 その時、俺は気づいた。
 ダンジョンに広がる青空が歪んだのだ、 まさかと思って見ているとダンジョンという空間そのものが消えてなくなった。

「おいおいっまさかこれは…」

「はいっ間違いありません。この前、歩さんがダンジョンを消滅させた時と同じゃないですか?」

「ダンジョンを消滅? 先輩またなんか変なこともやらかしたんですか?」

 うるさい後で説明してやるからちょっと黙ってろ。

「守咲、てことはこれは…」

「はい、おそらくあのギンヌンガがという巨大イノシシを倒したことで歩さんは再びダンジョンを消滅させてしまったようです」

「……とんでもないことになったな」

 またやってしまったというわけか、だが問題はもう一つある。
 ダンジョンが消えたことで俺たちは潰れたパチンコ屋の中に現れたわけだ。

 周囲の景色を見た感じ間違いないだろう。
 そしてそこには俺たちが集めに集めたあの鉱石の山も出現していた。

「日影、これはどういうことなんだ……ダンジョンが消えるなんてことがあるのか?」

「そういうこともあるかもな、それよりもこの鉱石の山をなんとかしないと。このまま隠せると思うか?」

「いや無理だろう、さすがにこれを隠すのは……見つかると色々と騒動を起こしそうだな」

「多分な、だからこそ何とかしたいんだが…」

 俺と元同僚たちは鉱石の山を見上げながらどうしようかとしばし悩む。
 これ本当にどうしようかな。
 そしてミルティの姿はどこにもなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チートを貰えなかった落第勇者の帰還〜俺だけ能力引き継いで現代最強〜

あおぞら
ファンタジー
 主人公小野隼人は、高校一年の夏に同じクラスの人と異世界に勇者として召喚される。  勇者は召喚の際にチートな能力を貰えるはずが、隼人は、【身体強化】と【感知】と言うありふれた能力しか貰えなかったが、しぶとく生き残り、10年目にして遂に帰還。  しかし帰還すると1ヶ月しか経っていなかった。  更に他のクラスメイトは異世界の出来事など覚えていない。  自分しか能力を持っていないことに気付いた隼人は、この力は隠して生きていくことを誓うが、いつの間にかこの世界の裏側に巻き込まれていく。 これは異世界で落ちこぼれ勇者だった隼人が、元の世界の引き継いだ能力を使って降り掛かる厄介ごとを払い除ける物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

処理中です...