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1-3.眠れぬ夜に
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しおりを挟む翌日、王輝は午前中に雑誌のインタビューと撮影の仕事を終えた。あまりにもテキパキと仕事をするので、須川に心配されるほどだった。仕事を終え、マンションへ直帰する。汗を流すためにシャワーを浴び、セックスをするための準備も終えた。
今日は遼の部屋でセックスをする予定だったので、Tシャツとハーフパンツという服装で、遼の部屋へと移動した。
基本的な作りは同じだが、遼の部屋には物が多い。トレーニングマシーンや観葉植物、あとは家族やメンバーとの写真などが壁や棚に飾られている。観葉植物は遼自ら買ったものではなく、ファンにもらったものだ。グループのブログに観葉植物のことを書いたことがきっかけで、プレゼントとしてかなりの数の観葉植物が送られてきた事件があった。それ以来観葉植物のプレゼントは禁止となり、遼は捨てるのは申し訳ないという理由で、大小十個ほどの観葉植物を育てている。ちなみに残った観葉植物はスタッフに配られた。
王輝はリビングのソファに座り、テレビをつけた。勝手知ったるという感じだ。
時刻は十四時。ワイドショー、ドラマの再放送、ワイドショー、テレビショッピングと、王輝はリモコンでチャンネルを変えながら、どの番組もおもしろくないと判断して、テレビを消した。遼は十五時には帰ると言っていたので、あと一時間ある。王輝は両腕を上に伸ばして、大きなあくびをし、寝室に移動した。一時間という中途半端な時間に、疲れているので寝て待っていることを決めたのだ。
遼のベッドはセミダブルサイズで、王輝の部屋のベッドより小さい。部屋のスペースは余っているから、もっと大きなベッドにすればいいのにと王輝は常々思っている。遼からすれば、眠れれば十分だった。
王輝はベッドに倒れこみ、身体の力を抜く。カーテンの隙間からは青空が見えていて、明るい時間に寝ることに贅沢さを感じる。やわらかいベッドに包まれ、すぐに眠気が襲ってきた。遼の匂いがするようなシーツに安心感を覚え、王輝は意識を手放した。
遼は慌てて自分の部屋に飛びこんだ。腕時計を見ると十六時だ。
東京へ帰ってくるときに渋滞にはまってしまい、すっかり遅くなったのだ。王輝には到着予定時刻をメッセージで送っておいたが、返事はなかった。そのため遼は王輝を怒らせてしまったのではないかと、不安と申し訳なさを道中ずっと感じていた。
玄関に王輝のサンダルを見つけ、王輝が部屋にいるということにさらに慌てる。荷物を廊下に置き、リビングへと駆けこんだ。
「今ヶ瀬?」
リビングには誰もいない。王輝はだいたいリビングでテレビを見ていることが多い。静かなリビングを見渡した後、遼は寝室へと移動した。
寝室のドアを開けると、ベッドに王輝の姿を発見する。体調が悪いのかもしれないと、遼は一瞬嫌な想像をしてしまう。ベッドに駆け寄り、かがみこんで王輝の様子を伺うと、すーすーと寝息をたて心地よさそうに眠っていた。遼は安心して胸をなでおろし、王輝の顔をじっと見つめた。オフの日はセックスしていることが多いのだから、身体は休まる日はない。きっと疲れているだろう。しばらく寝かせておいてやろうと遼は静かに寝室から去った。
王輝は暑さで目が覚めた。部屋が暗く、目が慣れるまで少し時間がかかった。視界に見慣れないカーテンが見え、遼のベッドで寝たことを思い出した。王輝は起きようとするが、うまく身体が動かなかった。その理由は遼が後ろから王輝を抱きしめるように腕を回して眠っていたからだった。暑さの原因もそれだ。遼の筋肉がついた二の腕をぐっと押しやり、王輝は遼から逃げるように身体をよじった。
王輝は枕元に自分のスマホを見つけ、時間を確認する。19:46と表示された時刻が一瞬理解できずに固まってしまう。少し寝るつもりががっつりと眠ってしまったようだ。帰ってきたなら起こしてくれればいいのにと遼の寝顔を睨みつける。けれど遼はこういう奴だと王輝はわかっている。セフレ関係のくせに、優しさだけは充分すぎるほど与えてくれるのだ。
「佐季、起きろ」
王輝は眠っている遼に声をかける。遼は一瞬身じろぎ、目を開けた。焦点が定まらないように、ぼんやりと王輝を見つめる。
遼はあの後シャワーを浴び、仮眠のためにリビングのソファで眠っていた。しかしどうも寝心地が悪く、寝ぼけながらベッドに移動したのだった。
だんだん目が覚めてきた遼は身体を起こし、ベッド脇のローテーブルに置いてあるリモコンを操作して、明かりをつけた。二人はベッドの上に座り、向かい合う体勢になる。遼はスマホを持っている王輝に尋ねた。
「今何時?」
「夜の八時」
「え、そんなに寝てた?」
遼も王輝と同じように驚く。どうりでよく寝た感じがすると思った。
王輝はむすっとふくれ、不機嫌な表情で遼を見つめる。
「なんで起こしてくれなかったんだよ」
「気持ち良さそうに寝てたから、起こすの悪いと思って」
「起こしてくれてもよかったのに」
「うん、まぁ…。でも、疲れてるなら無理してセックスする必要ないよな?」
「セフレの意味ないだろ」
「俺はしなくても全然気にしないよ」
優しい表情の遼に、王輝は何も言い返せなかった。セックスするからこそセフレであって、セックスしない関係なんて望んでいないのに。しない選択を簡単に提示してくる遼に、王輝は心を揺さぶられる。
「どうしてもって言うなら、今からするか?」
遼は今度はする選択を提示した。遼の心配するような表情に、王輝は急速にセックスする気がなくなって、ベッドから立ちあがった。お情けでするセックスは絶対嫌だ。
「今日はもういい。寝てすっきりしたから」
半分は遼へのささやかな抵抗で、半分は本音だった。睡眠のおかげか、頭はすっきりしているし、身体も軽い気がする。セックスもいいが、睡眠は大事だと改めて王輝は感じた。セックスはまた今度すればいい。持て余した熱は自慰でもして発散しようと王輝は決めた。
遼は王輝を怒らせたことを察した。自然と謝罪の言葉が口から飛び出そうになるのを抑える。謝ればまた機嫌を損ねることはわかっていた。どうもうまくいかないと遼はため息がこぼした。
「お腹すいたけど、何か食べるものある?」
話題を変えるためだったが、王輝は普通に腹が空いていた。遼は「お土産の蕎麦がある」と答えた。
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