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3.これから先の話をしよう
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しおりを挟む新城さんが言い出したライブは、ライブハウスのスケジュールの関係で一ヶ月半後の八月半ばに決まった。
俺にとってそれはラッキーだった。あまりにも練習を怠けていた結果、もともと下手だったものが、より一層下手になっていた。一から技術を叩き直された。もちろん就活も並行する。大学が夏休みで、講義がないことが救いだった。
苦しくて嫌になりそうな時もあったが、音さんと新城さんとセッションすることの素晴らしさに勝るものはなかった。
音さんは、曲作りで忙しそうだった。コンペで採用された曲だけでなく、あと数曲提供することになったようだ。音さんと新城さんは防音室に篭ることが増えた。
そういうことで、俺と音さんは、晴れて恋人という関係にはなったが、恋人らしいことをする間もなく、あっという間に一ヶ月半が過ぎ去っていった。
「マジっすか、え、ハルタさんって、OTOで弾いてたんですか?」
「まぁ、うん」
桜川は「マジかー」と反応した。いつも通り、シンシティでのバイト中で、俺と桜川はフロアの清掃をしていた。今日はインディーズバンドのブッキングライブだった。先ほどライブが終わったところで、フロアにはまだ熱気の余韻が漂う。
「ええー早く言ってくださいよー。っていうか、明後日のライブも出るんですか?」
「うん、一応」
「一応って何ですか。もっと自信持って下さいよ」
「自慢するほどのことじゃないだろ」
「自慢するほどのことですって」
なぜか桜川が誇らしげなのが可笑しい。
「俺チケット取ってるから、ライブ行くんで」
「え、やめて欲しい」
「別にハルタさんを見に行くんじゃないんで」
「そこは、嘘でも、俺を見に行くって言えよ」
「そうでしたね」
桜川はけらけらと笑った。
「普通に楽しみですね、ハルタさんが演奏するの」
「プレッシャーかけないでくれよ」
ライブは明後日に迫っていた。場所はシンシティよりも規模が大きく、キャパ五百人程度だ。昨年OTOにいた時に何度かライブをしたことがある場所で、俺がOTOのライブを見た場所でもある。緊張を紛らわすために、普段通りにバイトをしているが、やはり内心それどころじゃない。
「応援してるんで、頑張ってください」
「いや、だから、プレッシャー」
「純粋な応援です!」
明るい笑顔の桜川に、悪気はなさそうだった。
「ありがとう、頑張るよ」
俺はそれだけ返して、大きくため息をついた。
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