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5話
11 *
しおりを挟む「ま、って、っあ、おっきく、しないでっ、ああっ」
「可愛い、千寿、千寿」
峰谷は切羽詰まった表情で、俺の名前を呼ぶ。優しく、甘い声が、俺の鼓膜に響いて、快感が倍増する。
「あっ、もう、だめぇ、っ、きもち、よく、なっちゃう」
「気持ちよくなったら、駄目なの?」
「っ、だって、おかしっ……セックスも、キスもっ、はじめて、なのに、気持ちよくなっちゃうの、あっ」
「いいよ、気持ちよくなって。全部俺に見せて、千寿」
優しく微笑んでくれる峰谷に、俺は全てを委ねる。縋るように峰谷に抱き着き、大きく開いていた足を、峰谷の腰に回した。お互いの体温が近づき、より身体が熱くなる。峰谷の腰の動きはさらに早くなり、ぐちゅぐちゅとローションが掻き混ぜられる音と、たんたんと肌が当たる音が部屋に響く。
「千寿、もう俺限界」
「みね、やっ、おれも、イキたいっ」
「一番奥に、出してあげる、から」
熱い吐息混じりの峰谷の声に、俺は腹の奥がずくんと疼く。ゴムをしているのに、中出しを期待してしまい、俺はごくりと唾を飲みこんだ。
「おく、ほしっ、みね、やぁ、あっ、出して」
「あんまり、煽んないで」
「あっ、きもちいっ、イく、イくっ、あっ、あ」
「千寿、イキたい?」
「おねがいっ、イキたい、イかせ、てぇっ」
「いいよ、……イけ」
昂った俺の身体に、峰谷の声が染み入る。それは命令として、頭のてっぺんから足の先まで一瞬で駆け巡った。
「っ、……あ、イく、イ、っ、あ、ひああああっ……」
待ちわびた言葉に、全身が悦んだ。メスイキの強烈な快感に襲われ、視界が一気に瞬く。俺自身は勢いよく精液を放ち、解放感すら感じた。じんじんと疼く乳首が、余韻の快感を引き上げる。
「千寿、奥に……っ……」
峰谷は最後に腰を叩き落とし、がつんと奥を穿った。恍惚とした表情で熱い息を吐くと、びくびくと性器を震わせる。ゴムの中に射精し、俺は腹の中に熱さを感じた。精液を出しきるように、ぐっぐっと腰を押しつけられる。マーキングのような行為に、俺は嬉しささえ覚えた。
二人分の荒い息だけが、部屋を満たす。俺は余韻に浸り終えると、身体がぐったりと重たいことに気づく。初めてのセックスも、初めてのキスも、想像以上に気持ちよく、激しかったのだから、仕方ない。急速に眠気が襲いかかる中、目の前の峰谷を見つめた。峰谷は額の汗を拭った後、俺の視線に気づく。
「川元」
「なに……?」
瞼を懸命に開けようとするが、身体は眠りを欲している。
「俺、川元のこと、好きなままでいい?」
さっきは、今後俺とは関わらないと言っていた気がする。激しいセックスのせいで、その記憶ははるか昔のような気がした。
「川元のこと、本気で口説いてもいい?」
峰谷の視線の熱さに、俺はふるりと身体を震わせた。峰谷なら、俺なんかより、もっといい相手が見つかるだろう。俺にこだわる理由がわからない。
「みねや」
俺は伝えたいことがたくさんあったのに、声に出たのはこれだけだった。身体は動かず、さっきまで熱く蕩けていた思考は一気に静かになる。瞼が勝手に閉じていき、俺は睡魔に負けてしまった。
「川元、おやすみ」
峰谷の優しい声に導かれ、俺は意識を手放した。
月曜日、俺はいつも通り大学にいた。授業があるため休むわけにはいかない。いまだに身体の節々に違和感があって、本調子ではないが、日常生活には問題ない程度まで回復した。
峰谷とセックスをした翌日、目が覚めるとベッドには俺一人だった。一瞬夢だったのではないかと思ったが、身体の痛みや後孔の違和感が、昨晩のセックスを嫌でも思い出させた。身体は綺麗になっており、下着だけ身に着けた状態だった。ベッドでごろごろと寝転び、記憶を反芻する。恥ずかしい記憶と強烈な快感を思い出し、一人で悶えた。次に峰谷と会ったとき、どんな顔をすればいいのだろう。考えてもわかるはずがなく、ゆっくりとベッドから這い出した。
部屋のテーブルにはメモが置いてあり、このままチェックアウトすればいいこと、チェックアウトは十時であることが、峰谷の丁寧な筆跡で書いてあった。ベッド脇のデジタル時計は『9:40』を表示しており、俺は慌てて荷物をまとめて、重い身体で部屋を飛び出したのだった。
「はぁ……」
俺はため息をついた。峰谷に会うことを想定するが、どう考えても気まずい。俺のことを諦めるとも、口説くとも言っていた気がする。おぼろげな記憶を辿っていると、急に肩を叩かれた。俺が振り向くと、そこには一人の男性が立っていた。
「おはよう、川元」
突如目の前に現れたイケメンに、俺は心当たりがなく、首を捻る。
綺麗な顎のライン、スッと通った鼻筋、切れ長の眼に、肌はきめ細かく白い。俺よりも身長が高く、足は長い。スラックスに、眩しい白のシャツが、清潔感を感じさせる。いつもつるんでいる連中やテニスサークルのメンバーを思い出すが、当てはまる人物がいない。俺が悩んでいるなか、周囲はイケメンの登場にざわつく。
「えっと、ごめん……」
誰だかわからず、ギブアップしようとしたら、イケメンが俺に近づいてきた。そして、俺の耳元で囁く。
「千寿」
「っ、……」
その低い声は心地よく、俺の脳内に響き渡った。その声の持ち主が、わからないわけがない。
「は……?え……、峰谷……?」
目の前のイケメンは嬉しそうに笑った。確かに髪型や服装は違うが、相貌はよく観察すると峰谷に間違いない。
「俺、頑張ろうと思って」
「え?」
「川元に、俺のこと好きになってもらえるように、頑張るから」
「は……?」
「だから、覚悟しておいてね、千寿」
もう一度耳元で囁かれ、俺の身体はずくんと反応、どっと鼓動が跳ねる。
これからどうなるのだろう。俺の心配をよそに、峰谷はにこにことほほ笑んでいた。
終
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