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3話
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しおりを挟む「千寿、最近彼女でもできた?」
森田が尋ねてきたのは、授業終わりだった。七月に入り、月末の前期試験が近いため、皆必死だった。過去問や出題傾向などをあらゆる経路と手段で手に入れなければならない。しかし、試験が終われば長い夏休みが待っている。一握りの勉強に余裕がある人たちは、早々に夏休みの計画を立てていた。俺は成績については可もなく不可もなく、再試験さえなければいいというスタンスだ。
「彼女?なんで?」
検討外れな質問に、俺は首を傾げた。
「最近楽しそうにしてるから。もしかしてって思って」
にやつく森田に、俺は考える素振りをするが、心当たりはないわけではない。犬飼の音声を聞き始めてから、性欲が発散できて、すこぶる体調がいい。すでに俺の生活を彩る一種の趣味だ。
「彼女はできてない」
「ふぅん」
「なんだよ」
「じゃあこの前の合コンの子とはどうなったんだよ」
先日、森田の主催で、女子大との合コンが開催された。三対三で、お洒落なカフェでの合コンだった。可愛いと思う女の子と連絡先を交換したが、俺はその時身体の開発にハマっており、結局メッセージのやり取りだけで終わってしまった。今冷静になれば、馬鹿なことをしたと思うが、それほど俺の中で犬飼の存在が大きく占めていた。
「あの子は、なんとなく合わなくて……」
「おいおい、贅沢言うなよ。レベル高かったじゃん。経験値高い奴は、すぐそういうこと言うよな」
「ごめんごめん」
経験値ゼロの俺は謝った。しかし、いくら犬飼にハマっているとは言え、女性とのお付き合いを諦めたわけではない。
「神様、森田様。またお願いします」
俺は森田に向けて両手を合わせた。森田はやれやれと大袈裟に身振りした後「テスト終わりに合コン開催してやるよ」と言った。俺は小さくガッツポーズをした。
怒涛の試験期間が終わった翌日、念願の合コンの日がやってきたが、残念ながら俺の調子は絶不調だった。原因は明らかで、試験期間は勉強に集中するために禁欲していたからだ。性欲が発散できず、身体の中で行き場のない熱が渦巻いてる。帰ったら久しぶりに自慰しようと頭の片隅で考えながら、森田に指定された居酒屋へと向かった。
お気に入りのTシャツを着ていたが、ふとした時に胸元が気になる。開発した乳首はぴんっと主張するため、薄着の時にはニップレスを貼っている。外から見てもわからないが、誰かに気づかれるのではないかとハラハラしていた。
居酒屋に着き、店員に森田の名前を告げると半個室に案内された。テーブルにはまだ相手側の女性陣の姿はなく、森田と二人の男性が座っていた。
「お疲れ、千寿」
俺も「お疲れ」と返し、あとの二人に視線を走らせる。眼鏡をかけた細身の男と、もう一人は峰谷だった。
「品野の友達の大松と、サークルの峰谷」
森田の紹介を聞きながら、品野という聞いたこのない名前に首を傾げたが、すぐにどうでもいいと諦める。眼鏡の大松の名前も明日には忘れているだろう。森田の交友関係は広い。
「川元です、よろしく」
二人に挨拶をすると、会釈で返された。二人ともあまり話さないタイプだと判断した。峰谷、俺、眼鏡、森田の順で座る。両隣を初対面に挟まれ、俺は手持ち無沙汰になったが、すぐに女性陣が到着し、合コンが開始された。
合コンは酒のせいか、森田の話術のせいか、大いに盛り上がった。眼鏡の大松が意外と話が上手く、スマートさも滲み出て、女性陣の感触は上々だった。
森田はいつも通り盛り上げ役に徹しつつ、巨乳の女性に狙いをつけているようだ。隙あらば連絡先を聞いている。
俺は目の前に座っている目がぱっちりとした女性が可愛いなと思いながら、冷酒を飲んでいた。普段はもっぱらビールやサワーだが、峰谷が飲んでいる冷酒が美味しそうだったため、同じものを注文した。
「すっきりして飲みやすいだろ」
峰谷はボソボソと俺に同意を求めたので、頷き返す。
初めて峰谷と近距離で話したが、暗そうというファーストインプレッションは変わらなかった。峰谷は端の席で黙々と酒を消費し、たまに「注文ある人?」と全員に声をかけ、注文係になっていた。女性とは積極的に話そうとはせず、会話に耳を傾けながらずっと酒と料理を消費している。そのせいで、完全に女性陣の興味からは外れてしまっていた。実質男三人と女性四人での合コンとなっている。かわいそうと思ったが、俺には関係ないことだ。
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