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第二章:夏
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しおりを挟む夏の四季展が初日を迎えた。七月だと言うのに、三十度を超える日々が続く。
椿は四季展の会場である美術館から吉野原邸の離れへと帰ってきた。先ほどまで、美術館で蓉名義の作品を生けていた。静夏に車で送迎してもらったが、一瞬外に出るだけでも暑さで参ってしまった椿は、重い身体でベッドに倒れ込んだ。発情期も相まって、倦怠感がひどく、椿はしばらく動けなかった。
冷房のおかげで室内が涼しくなってきて、椿はようやく一息つくことができた。寝返りをうち、ベッドに仰向けになる。疲れて眠りたい気分と高揚している気分が胸の中で混ざりあって、鼓動はとっとっと速く跳ねていた。
目を瞑ると、先ほど生けた花が瞼の裏に浮かぶ。今回は紫陽花主軸にした作品を生けた。我ながらいい出来になったと椿は満足していた。
秀悟と過ごした一日は、椿にとって特別な出来事になっていた。あの日以来、花を生けるインスピレーションが湧いてきて、バイトで花束を作るのも、花を生ける練習をするのも、より楽しくなった。
今回の作品を秀悟はどんな顔で見るだろうか。あの日の秀悟の幸せそうな表情を思い返し、椿の頬は自然と緩んだ。と同時に、思い出すのは、情欲が滲む秀悟の視線だ。
『椿くん』
どくんと鼓動が高鳴り、椿は目を開けた。
記憶を振り払おうと頭を振った椿だが、それは叶わない。頬に触れた熱さがぶり返し、その熱がじわじわと全身に広がっていく。涼しく感じていたはずの部屋が、急に暑くなった。椿自身はゆるく勃ち上がっており、下着とズボンを持ち上げる。発情期のせいだと忌々しく思いながら、椿は起き上がり、ズボンと下着をずらして自身を取り出した。先走りで濡れそぼった自身をそっと握り、上下に扱く。
「あっ……っ、は……」
椿は熱い息を吐く。処理するためだとは言え、性器への刺激は純粋に気持ちよく、行為に没頭していく。先走りが絡み、にちゅにちゅと淫らな水音が寝室に響く。迫る射精感に、椿の手の動きが速くなる。竿を扱き、先端を指先で弄ると、息が上がる。びくんっと身体を震わせ、白濁を吐き出した。普段自慰をしないため、濃い精液が椿の手を汚す。
息を整えながら、快感の波が引くのを待っていた椿だが、身体の熱さは増すばかりだ。いつもなら一度達すればある程度落ち着くのに、と椿は自分の身体に戸惑う。それに、腹の中がじくじくと疼いて仕方ない。
無視できない身体の熱さに、椿は意を決し、足を大きく広げた。滅多に後ろを使わないため、恐る恐る後孔へと手を伸ばす。
会陰を伝って流れた先走りと精液で濡れた蕾に、ゆっくりと一本指を差し入れた。指は抵抗感なく入っていく。一本だと物足りず、すぐに二本に指を増やした。恐々と肉壁を探る。性行為の経験がない椿は、何をすれば気持ちいいのかを把握できていない。
「っあ……っ、なに……」
ふいに指先が前立腺を掠め、びくんっと腰が揺れて、椿は声を漏らした。強制的に快楽が生み出される感覚に、恐々としながらもう一度前立腺に触れる。
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