上 下
150 / 213
異世界編-神の遊戯

しおりを挟む
 ・


 ・


 ・



 「他人の魔力を喰らう……」

 「自分の寿命を犠牲にその喰らった魔力を蓄える……」


 小さな盤を挟み偽装神《わたし》と彼《セシル》が会話している。


 実にこのゲームのチャンプを気取るような胡坐をかいてすわる右ひざだけをくずし、右ひざが自分のかおあたりにくるように立て右腕をそこに添えている。

 しかし、勝敗はすでに12勝0敗……
 その勝ち星の全部《おおく》を私が奪っている。


 「僕の魔力は……僕の寿命全部と引き換えに、神域……そんな領域に達すると言われている……そして、この国にはそんな魔力を奪い取る神器がある……」

 「そして、この国はね……そんな僕の魔力と、フィーリアちゃんの救世主《そんざい》を使って、この国を支配したいのさ」

 そんなセシルの言葉を他所に次々と盤に配置されたコマを私は容赦なく弾き飛ばしていく。


 「あ……フィーリアちゃん、一手だけ待ってくれないかな……」

 そう、セシルは勝手に私が弾いたコマを元に戻し、私のコマを元のマスに戻す。


 「こんな場合はさ……フィーリアちゃんの言う、幸福と不幸……僕たちはどちらにあたって……僕にはどんな努力ができるのかな」

 そして、セシルは別のコマを動かす。
 そんな、コマひとつの一手で何も変わらない。

 再び弾き飛ばされたコマを黙って見ている……


 「別に私が言いたいのは……」

 「努力しない人間が幸福になれないことを嘆くなという話……いくら不幸自慢したところで……だれもそいつのことを幸福《たすけたり》などしない……


 私はセシルの持つコマの王将を弾き飛ばし言う。

 セシルは黙って盤をひっくり返すと、
 コマの一つ一つを丁寧に元に戻す。
 律儀に私のコマも配置していく。


 「じゃぁさ……そんな誰かが不幸な人間を守りたいって思うことはあるのかな?」

 こんな牢獄のような場所で……ずっと一人……
 不幸を助けを叫んだ彼は……卑怯だったのか……

 「その人を……助けたいというモノ好きが現れたら……」

 「それは……どんな時……?」

 「誰かを好きになったり……愛したり?」

 そんな言葉にゆっくりと向けた彼の顔は寂しそうに笑い……


 「どれも……僕にはわからない、感情《ことば》だな」

 


 ・


 ・


 ・


 「神か……案外……つまらんものなんだな……」

 キリングが黒い魔力を身にまとい一時的にその神域の中でかすかな自由を手にする。


 「おや……神とはもっと圧倒的な力を持っているべきでしたか?」

 そんなキリングにフィーリアは頭だけを後ろに向ける。


 「いいや……人間なんかよりずっと人間みたいだと言っている」

 「そうですか、そうですね……所詮は神代理《にんげん》ですから……」

 ただ、それを名乗るだけの魔力と役割を与えられただけ……


 「魔力消失《デスペル》……」

 フィーリアがキリングに手をかざすと、その抵抗《まりょく》が消滅する。


 「く……」

 再び、その重力化に抵抗できずに膝をつく。


 ルーセウスが俺の前にサーベルを突き出す。
 その一撃を自由の利く右手だけを突き出し、張った結界で防ぐ。


 「世界は表裏一体……誰かの受け売りだけどさ……世界には幸福な人間が居てそれに比例するだけ不幸を語る人間が居る……そういうことだろ」

 「……表裏一体……そうですね……随分とそんな言葉も不幸《ひきょう》に解釈するのですね……」

 冷たいフィーリアの瞳が俺を見下ろす。


 「例えば……不幸な人間はどんな人間を幸福と呼ぶのでしょう……お金や名声を得た人間でしょうか……さて、そんな不幸な人間が見ている幸福な人間はどんな犠牲を得てそんな幸福を得たのでしょうか?」

 「世界は表裏一体……であるのなら、そんな彼らは、そんな不幸に甘んじた何かを捨ててそこに居るんじゃないですか?何かしらの苦痛《ぎせい》を受け入れてそこに居るのではないでしょうか?」

 冷たく、フィーリアは俺を見下ろして……


 「幸福と不幸……それが表裏一体で成りえるのなら……幸福《ふこう》と不幸《こうふく》へと成りえるのではないでしょうか……所詮、善悪も幸福も不幸も……全て個々の都合に過ぎないのです」

 「それが……神代理《わたし》としての答えです」

 「所詮、誰かの犠牲の元にそんな神代理《わたし》を名乗っている愚かな人間の答えです……」


 静かに、俺に一歩歩み寄る。

 多分……その気になれば、決着はついている。


 彼女にとってそんな俺達《コマ》を弾くことなど簡単で……

 そんな呆気ない勝利に呆れるように、見飽きたように……

 盤をひっくり返しては、振り出しに戻す。


 そんな俺達《だれか》が、その遊戯《ゲーム》に勝利することを望むように……

 かつての誰かとのゲームに、自分が一敗することを望むように……


 そして、そんな隣で……勇者《そのな》に恥じぬように、再びその身体をその気力だけで奮い立たせる。

 それは無駄な努力なのかもしれない……

 それでも……


 ・

 ・

 ・


 初めてその姿を見たのは……

 交流戦の一回戦……


 時間凍結……そんな特殊な力を持つ能力者が居て……
 でも、そんな能力に……脅威も興味も無い。

 その瞳は、アストリアがやたらと評価する人間を見る。


 特に目立った様子も無く……

 そんな時間凍結に成すすべなく苦戦を強いている。


 それでも、諦めずに試行錯誤している男に……

 時間凍結……もちろんその能力中は誰もが停止化にある。

 それでも、私の能力《ひとみ》はそんな白黒の世界を……
 時間凍結能力者だけが見ることを許される世界を見ている。

 諦めずに抵抗する……思考している……
 そして、そんな己の成果を放棄し、そんな仲間《だれか》にそんな手柄を簡単に譲る男の姿を見る。

 そこで、評価をした訳ではない……ただ、今まで感じた事ない興味が……彼《レス》に覚えた。


 そして、誰もが見なかった、望まなかった……生徒会長《スコール》に勝利をして……そんな冷酷に徹していた男の迷いを消し去って……


 女《クリア》の力を引き出して……やはり自分が目立つ事無く……
 その男は……そんな結果にだけ満足するように笑う姿は私《だれ》よりも英雄に見えた……


 勇者《その》……立場を守るために……
 捨てた不幸《なにか》は……

 そんな……女を……彼の笑顔をただ……欲した……

 そんな……捨てたはずの醜い自分はそこにあった。


 ・

 ・

 ・


 「そんな……私の我侭《ほしいもの》……それを手に入れることは醜いか……」

 ライトはフィーリアにそう問う。

 「その傲慢は……私にとって努力には成りえないのか……」

 「だったら……それが、神《あなた》に抗う……私の努力《りゆう》だ」

 そう、ライトが魔力の剣をフィーリアへと向ける。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。 タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。 ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。 本編完結済み。 外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました

遥 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。 追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。 やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。

処理中です...